最近は本当に暑いですね…。暑くて溶けそうです(笑)
是非最後までお付き合い下さい!
「仁琴、紹介したい奴がいる。」
学校から帰ってきた途端、父が仁琴を呼んだ。せっかく天晴達を撒いて帰ってきたというのに休みのひとつもない自分の日常に内心、苦笑いをしながら父の声に了承の意を表す。
「はい。今すぐ伺います。」
仁琴は紹介したい人が信用出来る人なのか分からなかったため、仁琴(ver.school)である敬語キャラで声もワントーン高くして返事をした。スクールバッグを少し荒く机に置き、念の為、学校が特定されないように着物に着替えようかと思ったが、さすがにお客様を待たせる訳にはいかないので、すぐ着れるワンピースを着る。天晴曰く、今流行りのオフショルコーデでラベンダー色の生地に袖は7分丈でパフスリーブになっている。着物より断然動きやすく、涼しい。
仁琴は1度、姿見の前でくるっと周って確認したあと、急いで客間へと向かった。
「失礼致します。」
そう言って襖をあけると、「ここにおいで。」と優しい笑顔で上座に座る父が手でポンポンと隣の畳を叩きながら言ったので、素直に父の横に座り、やっと顔を上げて客人を見た。
「初めまして、仁琴さん。僕は警視庁交通課の神谷龍之介です。」
そう言って胡散臭い笑顔で笑う端整な顔立ちの若い警官を見て仁琴は表情を保った自分を褒めて欲しいくらいだ。彼はダークグレーの真新しいスーツに身を包み、茶色がかった髪で、長い前髪を耳にかけ、額を出しているからか、ベビーフェイスな印象を受けた。手は拳銃の扱いに慣れてるかのようなゴツゴツと男らしい手をしていて、ラテン系を思わせる茶系の瞳をしていて、容姿や雰囲気から本当に日本人なのかという疑問さえ抱いた。
─この男、どこかで見た気がするな。…─
「こんにちは、初めまして。私の名前、ご存知なんですね。」
仁琴はポーカーフェイスを心がけながら話しかけたが、返ってきたのは父の声だった。
「今日から神谷くんはうちに住むことになったから、よろしくな。彼は私も信頼を寄せる善良な警官の1人だよ。ちなみにこの間、新聞に大々的に掲載されていた放火魔にやられてしまったんだよ、彼のシェアハウスがね。」
爆弾発言をした父に続いて神谷が言う。
「僕は生憎のところ孤児院出だから頼る親戚もいないんだ。でも、放火魔を捕まえてくれた君のお父さんが僕を一期間預かると申し出て下さったんだよ。」
父が放火魔を捕まえたのを知らなかった仁琴は、父が普段なんの仕事をしているのか不思議でたまらなかった。
「なるほど。私は基本、離れにいますので関わることはないと思いますが、どうぞよろしくお願い致します。何かあれば使用人にお声かけ下さい。決して離れにはいらっしゃらぬようお願い致しますね。」
怪しい奴とは関わりたくないのと、どこか見覚えのあるような気がする奴に対して、仁琴の心の警鐘が鳴り響いている。しかし、父はそんな仁琴の心情を分かっているのかどうなのか、「ごめんな。うちの娘もついに反抗期みたいでな…。」などと言って悲しんでいた。
それから仁琴は逃げるように客間の隣の部屋に入り、神谷を思い出す。
─どこで見たんだ…?私が覚えていないということはただ街中ですれ違っただけなのか。それとも…………変装を…していた…とかか…?いや、それはないか。ない…よな?─
仁琴は苦戦していた。
─ん…でもあの声ってポーンに似てるよな…。もしや、ポーンなのか?!…って、アイツはコミュ障のはずじゃ…。でも演技の可能性もある。─
こうして結局、ポーン疑惑が浮上したところで仁琴は考えるのを中断せざる得なかった。
「仁琴、ご飯は今日も離れかい?」
父は私と食べたいのだろうが人と関わるのは面倒臭いため、首を横に振ろうとした…が、やめた。
なぜなら父の後ろに立っている神谷の左目が柱に隠れている姿が、いつも眼帯を身につけているポーンだったからだ。
どうしても確認したい。その一心で首を縦に振ったのだ。
「仁琴っち、酷いやん!置いて行かんといてや〜!」
神妙な足取りで離れに戻ると置いてきた天晴がすっかり寛いでいた。多分、仁琴が本邸に向かってすぐ帰ってきたのだろう。
「すまない…。」
仁琴がそう言うと、いつもと様子が違うと気づいたのか天晴が妙に落ち着いた声で言った。
「なぁ、仁琴っちはなんでそない1人で抱えこむんや?俺らがそない信用ならんか?さっき、客間に来てた神谷っちゅう男がなんかあるんか?」
えらく饒舌な天晴から論破ともとれるほど追い詰められ、仁琴は思わず黙った。そこまで天晴が鋭いとは思ってなかったからだ。
「天晴…。あの神谷には近づくな。えらく愛想のいい顔をしていたが、騙されるな・絆されるな・深入りさせるな。アイツは…まだ確信はないが、気をつけろ。」
そう言うと仁琴は天晴がいるのにも関わらず、ワンピースを脱いで下着姿のまま天晴の横に寝転んだ。
「ここまで気を許してるのはお前だけだがな。」
多分、なんで1人で抱え込むのかという問いの答えだろう。
私は十分あなたに気を許しているから、もう立ち入ってこないでください。
そう言われている気がしてならなかった。
「というかあの盗聴器はやはり天晴だったんだな。」
仁琴は隣に座る天晴の顔を下から眺めながら言った。
「せやで!客間だけねんけどやっぱり家の情勢は知ってたがええやろ?」
平然とした顔で答えた天晴に仁琴は笑った。
「フフッ、父も気づいてないようだよ。」
「え?まじか!なんでなん?すぐ気づきそうなんにな…。」
「父は昔から機械音痴で時代遅れらしいからな。」
そこで会話は終わり、仁琴は珍しいことに夕食まで寝ると言って布団を持ってきて、読書を始めた天晴の膝に頭を置いて眠った。
それがいやに懐かしい気持ちになったのは何故だろう…。
ありがとうございました!ε٩(๑>▽<)۶з