是非最後までお付き合い下さい。
暗い、暗い、暗い。誰か!ねぇお母さん!
少女は暗闇に向かって手を伸ばす。でも母はいない。少女の母親は彼女の目の前で惨殺された。その光景は数々の殺人現場に居合わせていたインタポールで活躍する者やFBIの一匹狼さえも目を伏せてしまいたくなる酷さだった。周りは彼女がショックで事件を忘れてしまうことを期待していたが少女は忘れることなく、成長した。年相応の笑顔はなく、自分を保つため睡眠時間以外は勉強か身体を鍛えることしかしなかった。そして成長するにつれ、ピアノ、絵画彫刻、ハイジャンプなどにも手を出し、才色兼備となった。
寂しいよ、助けて!早く早くそっちに行きたいよ…。
「…………。」
仁琴は額の汗を手で拭い、胸のあたりまでかかっていた布団を無造作に剥いだ。そしてそのまま、また目をつぶった。
ー悪夢は最近見なかったんだがな…。どうも月達といると調子が狂うな…。ー
仁琴は重たい身体をゆっくり起こし、久しぶりに寝たベッドのシーツを正した。
シャワールームに向かうと、服を着たまま頭の上からシャワーを浴びた。それでも仁琴のモヤモヤは消えることは無かった。
「クソっ………。」
シャワーを止めてそう呟いた仁琴の頬を一滴の水が流れる。それを誤魔化すようにまた仁琴はシャワーを浴びた…。
仁琴は濡らしてしまった服を部屋に干し、着替えて部屋を出た。そしてそのままホテル内の飲食施設に向かった。
「仁琴りん!こっちおいでよ!!」
隅にある机で月が手を振って仁琴を呼ぶ。
「仁琴…濡れて…ないか…?大丈夫か?」
席に着いた早々、お外モードの天晴が仁琴の髪の毛を触りながら言った。
「嗚呼。シャワーを浴びたからな。ドライヤーをするのがめんどくさくて放置してしまった。ほら、いつも天晴が乾かしてくれるから。」
そう言って仁琴は注文を聞きに来たウエイトレスと話し始めた。フランス語が悠長すぎたのかウエイトレスも驚いている。
「今日は東洋の鶯が日本に運ばれる日。私達は警備員に化けて日本に帰る。根回しは優がしっかりとしてくれているからな。」
優はハッキングしただけだよと笑いながら言っているが、警備情報をハッキングするのは凄い技術が必要だ。
「じゃあ朝食とったら僕は月と天晴と一緒に仁琴の部屋に行くよ。」
話が一段落したところで、ウエイトレスが4人分の朝食を運んできた。ウエイトレスは最後に仁琴の耳元で
『Tir d'argile』と呟いた。
仁琴は軽くニコッと笑ってそれに応えた。もちろん、月達は気付いていなかった。
「私は食べ終わったから先に戻る。」
仁琴はそそくさと食事を済ませ、ホテルのロビーにある喫煙所に向かった。仁琴が喫煙所に入ると、後ろからつけていた先程のウエイトレスも入ってきて、喫煙所の内側から鍵を閉めた。
「さぁ、少しお話しましょうか?」
ありがとうございました!