月明かりで出来たシルエット   作:有栖川アリス

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こんにちは!アリスです(❁´ω`❁)Alice


テストが終わりようやく投稿です!



是非最後までお付き合い下さい!


優と仁琴 闇を纏う烏

「優。」

優はビクッと1度肩を震わせて仁琴の方を振り返った。

「なんで…?」

すると仁琴はいつものポーカーフェイスで答える。

「鐘の音。」

「あ……そっか。」

優はどこかホットしたような表情で胸を撫で下ろした。

「本当は気づいて欲しかったんじゃないか?自分がどこで何をしているのか。そうじゃなければあんな分かりやすい鐘の音なんて電話中に入れないだろ?それとも私を甘く見ていたのかな?」

仁琴は少し右側の口角を上げて、どこか誇らしげに言った。

「ふふっ。流石!参りました!ぜーんぶ仁琴様の仰る通りでございます!!」

そう言って優は寝転んだ。それを真似てか仁琴まで寝転んだ。優はそれに驚いたのか大きく目を見開いていた。

「ここは優の思い出の場所か?」

仁琴は青く澄んだ空を見ながら問いかけた。優しい温かみのある声で。

「思い出…なんかじゃないよ。逆に悪夢の欠片かな。 」

優はいつもとは違う冷めたような、悲しげな声で返答した。

「悪夢の欠片……か。優は悪夢の欠片を拾いに来たのか?」

優は少し考えてから答えた。

「僕は意外と怖がりなんだ。だから拾いになんて来れない。ただ、悪夢の欠片を見に来ただけの見学者さ。」

「じゃあ私は侵入者だな。」

仁琴はそう言ってキラキラと眩しく輝いている太陽に両手を翳した。目は眩しそうに細め、太陽の光が仁琴にめいいっぱい降り注がれる。

「優、ここは優にとっては悪夢の欠片かもしれないが私にとっては幸せの場所だ。緑があって、近くには水色もあって、上には赤とも橙ともいえないような眩しく輝く光がある。闇の世界の私にとっては天国のような場所だ。優がどんな辛い悪夢を見たかなんて私には分からない。でも私はここが好きになった。そんな私の好きな場所を悪夢の欠片のありかなんて言うな。誰だって悪夢の欠片は持ってる。その大きさが違うだけであってな。優のことはまだほとんど知らない。だから少しずつ教えて欲しい。」

そう言って仁琴は目を閉じた。優はそんな仁琴を見て、ぽつりぽつりと話し始めた。

「この場所は僕と両親と姉が暮らしていたところなんだ。決して大きいとは言えないけど、可愛い家だった。でも僕が5歳の時、全身黒で染まった闇を纏う烏のような人たちがやって来て突然、両親と姉を撃った。僕は怖くて動けなかった。今でもなぜ奴らが撃ったのか分からない。理不尽な無差別殺人かも分からない。怖くて腰が抜けてしまって、あの時、あの人が助けてくれなかったら死んでたよ。」

優の口から紡がれたその言葉は仁琴の耳に届いたあと、風に揉まれて消えていく。仁琴は目を閉じたまま、優に聞いた。

「あの人……とは?」

「分からない。今でもその人が誰なのか分からないけど、凄いかっこよかった。仁琴みたいに運動神経が良くて、奴らを殺すことなく軽々と倒していった。仁琴みたいにといえば……あの人も忍者だったみたいだよ。なんか雲斎明星大陰翳馨水……みたいなことを呟いてたのを覚えてるから。僕は絶対に奴らの幹部を懲らしめたい。」

「ほー。昔から優は頭がよかったんだな。5歳で聞き取れるのは凄い。」

仁琴は目を開けて、少しだけ笑った。風に遊ばれていた仁琴の髪が風から解放され、落ち着いた。周りは静かで聞こえるのは鳥のさえずりだけ。

「私も探してるんだ。」

「何を?」

優は隣に寝ている仁琴の横顔に問う。

「闇を纏う烏をだよ。」

優は今まで以上に驚いた顔をした。驚きすぎて起き上がっていた。

「奴らの情報は優より持っていると思うぞ?例えば闇金で大儲けしていて大金持ちだとか、何億ともする宝石を持っていることとか、小さな古民家を襲って…殺して…楽しんで…いる……とか。」

そう、別に優の家でなくても良かった。どこの家でも良かった。誰かを殺して、面白がって。そんな奴らなのだ。

優の目には大粒の涙が溜まっており、拳は爪痕ができそうなくらい握りしめていた。

「……っ。なんだよ……。絶対許せねぇ。許さない…!!」

「優。私と闇を纏う烏を探してくれないか?」

仁琴はゆっくりと起き上がり、優に向かって手を伸ばした。

「ああ、勿論だよ。絶対に捕まえる。」

優もまた、その手を握った。

「じゃあ、あの人……に相談してみないか?」

「あの人って……まさか。」

仁琴はイタズラっ子の少年のような顔をして言った。

 

 

「あの人の正体は私の父だからな。」

 


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