ここまで時間がかかるとは……まだ手にかけなきゃいけない部分が山ほどあるのだが。
デザインが決まった。
ヒルダガルデ大公夫人が選んだのは菖蒲のデザインだ。
前にブローチのデザインで菖蒲が漫画で使われていたのでふと思いつきで描いたデザインが選ばれたようだ。
すでに部品のほとんどが仕上がっているので後は菖蒲の花部分を仕上げていくこととした。
リンドブルムの合成屋の工房をお借りして1日目。
鼻と口を覆う口布型マスクに耐熱エプロンとグローブに身を包み完全装備でいざ挑む。
安く手に入れた多くの品質は良いが何らかの形で傷物となった紫水晶を大量にそしてエリクサーを3つ分を惜しげもなく投入後、適量の魔力を注ぎ入れると同時に火を適温にとどめるとドロリと炉の中で溶ける己の魔力に確かな感触(直接触ってはいないが)と共に操作することで混ざり合い花の形へと生まれ変わるのが感じた。
菖蒲の形に成形した基礎となるものを念力で取り出し冷やし固めるため特殊な薬液に満ちた壺の中に静かに沈めていくと熱で薬液が蒸発していく、冷えて形となるまで割れるかどうかは判らないがさらに手を加える為に窯の傍に設置された宝石用の炉に向き直る。
残りの炉の中の紫水晶にとある粉状になった鉄粉をほんの少量加えた。
紫水晶に熱を加えてある一定の配合で鉄粉を加えるとこの世界では黄水晶へと人工的に作り替えることができるのだ。
ただこの黄水晶は扱いが難しく技能習得においては全く役に立たないし、宝石そのものであるために能力値の上昇も見込めない代物なのだ。
故に黄水晶は低価格の人工宝石の一種として宝石商間では叩売りの値段で扱われてしまうのだが、今回はそんな黄水晶に魔力を大量に許容量限界ギリギリを見極めて(失敗すれば炉が割れて大爆発なんて惨事で済めばかわいい方なのだが)籠めていく。
黄水晶は人工宝石として作り出せる物としては魔力許容量は中々の大きさなのが最大の特徴で、技能に枠を取られないため魔力に反発を覚えずに術を込めることがたやすいのだ。
これを核として術式を込めていく。
基礎の部分の紫水晶に魔力を込めて術式を込めても初級回復術しか籠められなかった前回の試作品の時と比べても滑らかに魔力に反発を覚えず術式を書き込めることに味を占めいささか手を加え過ぎたのか炉の中で黄水晶が揺らぐ気配がした。
急いで炉から念力で持って取り出し菖蒲の花の基礎を薬液から取り出し接着していく、冷えて固まりちらりと全体にひびや割れがない事に確認するとまた静かに新たな薬液をつぎ足しながら壺に沈めていく。
この作業に丸一日を使い果たし合成屋の一室をお借りして熱で蒸発していく薬液を注ぎ足す作業で2日がかりで菖蒲の花は完成した。