ゾイドバトルストーリー異伝 ―機獣達の挽歌―   作:あかいりゅうじ

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回想録:機獣達の挽歌 ―『ニクスへの旅路』編―

 ―第四章『ニクスへの旅路』―

 

 『機獣達の挽歌』の最終章。公式ファンブック4における、暗黒大陸戦争後半の時期を舞台にしたストーリーであり、作品執筆開始時点より作者が最も書きたかった章でもあったため、このエピソードはすこぶる快調に執筆が進みました。怒涛の更新ラッシュで読んで下さった方々を驚かせてしまったかも……すみません(苦笑)

 三章ではだいぶおろそかになってしまった、「主人公と特定キャラの関係を描く」というドラマパートのコンセプトですが……この章はヒロインであるエリサ・アノン少尉に焦点が当てられています。第三章までの物語で、共に連れ立った多くの仲間を失ってしまった主人公ジェイが、唯一残されたエリサの安否を思って再起し、悪戦しつつも彼女を取り戻しに行く、というのが大筋で、既に戦争も後半、次々と強力ゾイドが出現し、戦いも苛烈さを増していく――そんな暗黒大陸戦争終盤における終末感が、ジェイの物語の執着を劇的なモノにしてくれるだろうと確信していました。一方で、終章であるこの章はエリサを取り扱った1エピソードではなく、彼女とかかわる一連の展開を交えて、ジェイがこれまで立ち向かってきた葛藤に決着を着ける章でもあります。本作のタイトルを思わせる終盤の二話のサブタイ『機獣達へと捧ぐ挽歌(前)・(後)』はこの第四章のボス戦であると同時、本作全体を通した上での最終決戦でもある事を意図し、最終話『どうか終わる事の無き旅を』は四章の副題にかけつつも、作品で描かれた冒険の果て、物語を超えたジェイ達の目指すべき展望を指して、それぞれ名づけました。

 作品の根幹にあるべき「ゾイド戦」にも明確なコンセプトがあって、本家バトストではこの時期完全にフェードアウトしていた《ブレードライガー》の「暗黒大陸戦争での戦い」を描くという事に注力しています。原作バトストでは既に《ライガーゼロ》と主役交代を果たし、一線を退いていた《ブレードライガー》ですが、まだまだ通用するポテンシャルを持っているはず。《エレファンダー》や《ライガーゼロイクス》と言った、この時期の新鋭機と激闘を繰り広げるライガーの姿を想像するのは、書いていてとても楽しい作業でもありました。中でも最終決戦は、アニメ「ZOIDS」では馴染み深い光景であった《ブレードライガー》と《デスザウラー》の戦いを、バトストの設定・パワーバランスに準拠した上で再現しようと試みた結果でもあります(といっても、本来《ゴジュラス》級の大型ゾイドすら一撃で打ちのめすパワーを持つ《デスザウラー》の猛攻に晒されていながら、ジェイの《ブレードライガー》はずいぶん粘り強く戦っている、等……ある種の「主人公補正」が働いているのは否めませんが……)。

 

 三章が長引いた反省を鑑みすぎたのか、改めて読み返すと若干駆け足気味ですが――それでも作者的には、ドラマパート・バトルパート共に最もお気に入りの章でした。自己満足だけでない、ジェイ達の旅の終着点として、読んでいただいた皆様にもある程度の納得を与える事が出来ていればいいのですが……。

 

 

―登場キャラクター雑記・『ニクスへの旅路』編―

 

 シオン・レナート

 暗黒大陸戦争に赴くジェイに同行した、年下の女性士官。見方によってはヒロインのテンプレートとして確立されています、「後輩の女性キャラ」とも言えます。『ニクスへの旅路』ではエリサが終盤まで出てこないため、実質彼女が四章におけるジェイのパートナーキャラクター。その人物像は、ジェイの追い求める『在りし日のエリサの残像』と対になっていて、性格も対極――穏やかで控えめ、ジェイに対してある種の母性みたいなモノを発揮するエリサに対し、高飛車で神経質・かつ自己中心的な人物として設定しました。外観描写もそんな人物像が透けて見えるように腐心しており、金髪で痩せぎす、そして普段から華美な装飾の礼服を着て歩くというシオンは、彼女がエリサのような普通の女性軍人ではない、所望『ライトノベルのヒロイン』的存在の、浮世離れをしたキャラクターであるというのを、文中で表現しようとした結果であります。

 戦場に立つ中でプライドの高さから来る精神的脆さが露呈し、以降はジェイを求めるようになって行くシオン。実を言うと彼女もレイモンド同様、最初期のプロットでは存在しなかったキャラなのですが、「主人公ジェイとの泥沼な恋愛劇を演じる」という展開は、終焉の戦いに向けてどんどん追い詰められていくジェイを描くための、良い要素の一つとして機能してくれました。これまた妄想なのですが、シオンとジェイの性格的な相性は決して悪くありません。性格に難アリなシオンですが――自律し、自らの意思でセスリムニルの死地に赴いているエリサと比べ――遥かに彼の助けを必要とし、また彼を理解しようとしている存在でもあります。鉄竜騎兵団(アイゼンドラグーン)と戦う混乱の中で決別した二人でしたが……最後の最後でシオンがジェイに指摘しようとした言葉を聞き取っていれば、ジェイは彼女を守るため、ヴァーヌ平野で戦う事を選んでいたのでしょう。

 名前の由来は、私が愛読してます某漫画の登場人物・お嬢様キャラの「紫音(しおん)」と、アニメ『ゾイドフューザーズ』に登場したラスターニの兄・レナートから。後者はシオンの愛機である《ブレードライガー》繋がりでの拝借です(周知の通り、レナート本人はライガーに乗ったわけではないですが……)。余談ですが、最初は彼女のポジションに、ゾイドバトルカードゲーム初出のキャラ「ユニア・コーリン」を出す予定でした。ただ、公式キャラをお借りするにはあまりにあんまりな役回り(性悪な性格・主人公とのラブシーン等、上げればキリがない……)だったために、あっさりお流れに……。

 

 

 ピーター・アイソップ&コーネル・ロドニー&タクマ・サンダース

 これまでのメインキャラがことごとく退場したというのもあり、『ニクスへの旅路』編は慢性的なキャラ不足の状態からスタートしています。でも、残り一章しかない尺で大量に新キャラを投入しても扱いきれるわけがない、というのもあり、新キャラの投入は上記のシオン一人に抑え、代わりに背景をこの三人、読み手であるゾイドファンの方々にある程度人物像のイメージがついているであろう、本家バトストキャラクターに固めてもらう形となりました。アイソップとコーネルは『ゾイド妄想戦記』の、タクマ・サンダースは本家バトストの『エースパイロット名鑑』が出典です。主人公ジェイが暗黒大陸戦争でミラージュ高速戦闘隊と同行する、という展開は早期から決まっており、必然的にその絡みのバトストキャラが搭乗する形となりました。ミラージュの活躍は公式においてウェブコミック一話分しか存在しないため、比較的私独自の解釈を加えやすかった、というのも……『挽歌』内のIFの歴史として、受け入れてもらえればと思います。

 ちなみに、中でも一番扱い難かったキャラは、最高のゾイド乗り「レオマスター」でもあるピーター・アイソップ。本来ならばもっと活躍してくれていいはずの彼なのですが、どうしても主人公であるジェイに活躍の場を設けなければならず、必然的に苦戦するシーンが増えてしまいました。一応終盤の《ライガーゼロイクス》戦では、アイソップが後学迷彩をショートさせたおかげでジェイが真っ向勝負に持ち込めた、という形になっています。

 公式でも描写の少ないミラージュ隊の活躍を描くに辺り、コトブキヤより発売してますHMM版の解説より、いくつかの設定を拝借しました。公式では《シールドライガー》乗りであるタクマ・サンダースの加入を初め、ヘルダイム城塞の戦いは彼が活躍したというミミール要塞攻略戦を、《ゼロイクス》との戦いは、アイソップが《ブレードライガー》を失ったという、鉄竜騎兵団(アイゼンドラグーン)幻影部隊との戦いを、それぞれ参考にしています。

 

 

―登場ゾイド雑記・『ニクスへの旅路』編―

 

 

 《ブレードライガーミラージュ》

 公式で暗黒大陸戦争期に活躍したとされる《ブレードライガー》のバリエーション機。公式ファンブック3以降、カメラに映る機会がめっきり無くなってしまった《ブレードライガー》ですから、それを愛機にするジェイが共に戦っても不自然じゃない僚機として、この《ミラージュ》は最適な機体でした。《ライガーゼロ》の所属する閃光師団(レイフォース)ではなく、《ブレードライガー》のミラージュ高速隊に所属する、というのも、主人公ジェイ、ひいては『機獣達の挽歌』が公式で描かれた表舞台ではない――描かれることのなかったもう一つのバトストである、というスタンスにマッチしているような気がします。作中《ミラージュ》の改造機として登場した《バスターブレード》は、公式ファンブック4にチラと出ていた改造機。《ミラージュ》との関連付けを行ったのは、これもHMM版の設定が初出ですね。

 以前このハーメルンの外のコミュニティでも漏らしていたのですが、《ブレードライガーミラージュ》の象徴、パールホワイトとワインレッドの機体カラーで戦場に立ったのは、実はピーター・アイソップ機以外に無く、他の隊員たちは各々のパーソナルカラーにリペイントしていた、という設定があります。しかし、ウェブコミックや公式ファンブック4、そしてHMM版パッケージで見られる《ミラージュ》は、やはり皆一様に白赤のカラーリング。本作では視覚的な知名度のある後者に沿って、アイソップ機以外の《ミラージュ》も、チームカラーである白と赤の機体カラーを持つと設定しています。余談ですが、一度乗機を撃墜されたシオンが乗り換えた予備機の《ミラージュ》は、唯一通常機とカラーリングが違う、と描写する予定でした。実戦配備されていない予備機はパールホワイトとコバルトブルーの装甲を持ち(前述の改造機《バスターブレード》作例のカラーリング。逆に『挽歌』内の《バスターブレード》はあくまで《ミラージュ》の換装形態で、色合いは白赤のままです)、つまりは通常の《ブレードライガー》を駆るジェイと、その反転カラーのシオン機だけをミラージュ隊の他機と差別化する、という予定だったのですが……入れ忘れた(笑)。

 

 

 《ジェノフレイム》

 聞き慣れない機体名が出て戸惑った読者の方もいることと思います。初出はゲーム『ゾイドサーガⅡ』のオリジナルゾイドで、曰く「《ジェノブレイカー》とは別のコンセプトで完成した《ジェノザウラー》強化プラン」。ゲーム内では主人公ゼルの宿敵・リバイアスの最後の愛機として立ちはだかりました(個人的には一対一の戦闘ということもあって、この《ジェノフレイム》こそ、作中の主人公機《ブリッツタイガー》のライバルという感じがします)。

 原作ではゼネバス派の勢力・テラガイストにて運用された《ジェノフレイム》ですが、本作においてはガイロス帝国の開発した「純然たる《ジェノザウラー》の後継機」として設定しています。というのも、私のバトスト観においては「《バーサークフューラー》は帝国正規軍の保有しない、鉄竜騎兵団(アイゼンドラグーン)の占有機である」という持論がありまして。これに乗っ取るのであれば、鉄竜騎兵団(アイゼンドラグーン)との戦い以外で《バーサークフューラー》を出すわけには行かない……でもそうなると、《ライガーゼロ》を有する共和国軍に対して、ガイロス正規軍の型落ち感が目立ってしまう。悩んだ結果、へリックの次世代ライガー・《ライガーゼロ》に対し、ガイロス帝国が用意した対抗馬・次世代ジェノとして、この《ジェノフレイム》に出演してもらいました。ちなみに本作で《ジェノフレイム》を有する部隊として登場した「ロットティガー」もゲームネタ。『ゾイドVS』シリーズ初出の。ゼネバス派の組織を取り締まる特務隊ですね。

 『ニクスへの旅路』のゾイド戦の展開は、ズバリ三章以上の「ボスラッシュ」でもあります。一つの章でボスキャラを張れそうな強力ゾイドが次々と立ちはだかる、という絵面を作りたかったのですが、異形の改造機《ジェノフレイム》が初っ端というのも、そのコンセプトの体現と言えるのではないでしょうか?

 

 

 《エレファンダー・アサルトコマンダータイプ》

 《ジェノフレイム》に続くボスクラスゾイド。一転して正統派、《ブレードライガーミラージュ》との対決構図が良く描かれる《エレファンダー》です。コマンダータイプにESCS装備、さらにアサルトガトリングを搭載した仕様は、アニメ『スラッシュゼロ』においてストラ大尉が搭乗した機体と同じですね。作中では《ライガーゼロシュナイダー》が全く太刀打ちできないほどの、圧倒的な強さを発揮しました。本作においてジェイと対決した《エレファンダー・アサルトコマンダー》も、彼と《ブレードライガー》単独では倒せないであろう威圧感を持つ「強敵」として設定しています(前述の《ジェノフレイム》は見た目の派手さに反して、六機連隊という「群」を最大限に生かして戦闘を展開しており、この《エレファンダー》と対になっています)。

 この《エレファンダー》戦、作中ではジェイとシオンの二体一で戦っているのですが、実はこれ、先のキャラクター雑記で述べたジェイとシオンの相性の良さを、それとなく匂わせるシーンとして描いたつもりでした。一人では勝てない相手を前にして、真っ先にシオンの援護を求めたジェイ。彼女もすぐさま息を合わせて攻撃を仕掛け――連携を破られ、一度は倒されかけると、今度はシオンがジェイの助けを求め反撃する。お互いの弱点や、迎えた危機を補い合って戦えるのは、ジェイが過剰な程に「守りたい」と気張ることがなく、またシオンが彼に遠慮なく助けを求められる「素直さ」がある故でしょう。以降戦闘シーンの無いシオンにとっては、この《エレファンダー・アサルトコマンダー》が『ニクスへの旅路』でのラスボス戦ですね。

 

 

 《ライガーゼロイクス》&《バーサークフューラー》

 物語を佳境に導く存在として、鉄竜騎兵団(アイゼンドラグーン)が少しだけ登場する、というのも、初期プロット段階から構想していました。と言っても、本作ではバトルストーリー原作で描かれた旧ゼネバス派の暗躍という要素には深く言及せず、主人公ジェイはゼネバスもガイロスもない「帝国軍」との戦いを我武者羅に戦っている状態にあります。そんな中でヴォルフ・ムーロアと鉄竜騎兵団(アイゼンドラグーン)が登場しても、作品の趣旨を混乱させるだけかも知れない。迷いましたが――バトストの表舞台を知るゾイドファンの方々、つまりは読者視点から見れば、彼らが表だって行動を起こし始めた事が、物語の佳境へと進んでいるという合図であると理解していただけるだろう、と考え、めでたく登場の運びとなりました。《ライガーゼロイクス》は鉄竜騎兵団(アイゼンドラグーン)の圧倒的な強さの一端を見せるために《ブレードライガー》と直接対決するポジションとして、そして《バーサークフューラー》は部隊の象徴として、あのヴォルフ・ムーロア共々ゲスト出演してもらっています。

 作中《ライガーゼロイクス》と《ブレードライガー》の武装配置が似ている、という言及がありましたが、これは数年前にとあるファンサイトで《イクス》に関してなされた考察から着想を得た物です。確かにエレクトロンドライバー兼用のスタンブレードは、パルスレーザーを備えたレーザーブレードに通じるモノがあり、最高速度等のスペックも近い。公式で「へリックのCASの最大公約数的装備を持つ」とされる《イクス》は、タイプゼロ装備の直接の強化型ともいえ、また帝国版ライガーとして完成したそれは必然的に、対《ブレードライガー》を想定し、それを上回る装備・スペックを備えていても、おかしくないのかもしれません。

 

 

 《デスザウラー》

 『ニクスへの旅路』において、ジェイが最後に戦う帝国ゾイド。先に述べた通り、アニメ『ZOIDS』で二度描かれた《ブレードライガー》と《デスザウラー》の死闘を、バトストの設定・世界観に合わせて再構成したものをラストバトルに据える、というのは、本作を構想した一番最初の段階で決めていたことです。「破滅の魔獣」と称される超常の存在ではない、兵器として圧倒的なパワーを持つバトスト版《デスザウラー》と、あくまでオーガノイドシステムによってアップグレードされた《シールドライガー》の改造機に過ぎない《ブレードライガー》……両者の戦いには奇跡や偶然の介在する余地が無く、アニメ版以上に勝ち目のない戦いと言えるでしょう。

 帝国最強ゾイド《デスザウラー》の戦闘描写としては、本作のそれは少しだけ「無敵感」が足りないかもしれません。《ブレードライガー》は無論、乱入してきた改造機《ゴジュラス・ザ・バズソー》や《ガンブラスター》も瞬殺するような真似はせず、プロレス的戦いを披露しますが――これは意図的なモノです。「向かってくる敵を一撃で倒して終わりより」も、相手が講じてきた策や技を真正面から受け止め、その上で潰し迫ってきた方が、死竜《デスザウラー》の兵器としての圧倒的戦闘力を描写する手段として正解と考えた次第です。 

 もう一点、作中ではやたらと《デスザウラー》の鳴き声について言及する場面がありますが、これは私の中でアニメ版《デスザウラー》の鳴き声の独特さが、非常に強く印象に残っていたからです。ゴジラの鳴き声を意識して作られたものでしょうか、《ジェノザウラー》《ゴジュラス》のそれに似た轟咆の後に、甲高い残響音が追いかけてくるあの鳴き声。子供心に非常にかっこよく思えました。バトスト版の《デスザウラー》も、是非あの声で吠えてほしいのですが……映像化の機会は、もうさすがにないだろうなぁ……。

 


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