ゾイドバトルストーリー異伝 ―機獣達の挽歌―   作:あかいりゅうじ

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⑨ 強襲 ―グラム湖畔― (後編)

 コンボイ大尉の《シールドライガーDCS(ダブルキャノンスペシャル)》がビームキャノンを撃ち放ち、グラム駐屯地の正面ゲートを吹き飛ばす。「基地深奥まで侵入し、主要施設を完全に破壊する。が、無理はするな。敵増援が到着する前に脱出するのが大前提だ」と念を押して、大尉の《シールドライガーDCS》は真っ先にゲート内へと飛び込んだ。次いで彼の配下の《コマンドウルフ》が、グロック少尉率いる(ブラボー)小隊の機体たちが、基地内部へと侵入していく。

 

「散開しろッ。この施設は二度と使えぬよう、完膚なきまで破壊する!」

 

 

 ジェイの《シールドライガー》率いる(チャーリー)分隊もまた、グラム駐屯地の内部へと突入した。重砲隊の砲撃で崩落した瓦礫が散乱する中、基地の心臓部たる司令部、そしてゾイド格納庫を目指して歩みを進めていくが、その道のりは決して単調な物ではない。共和国軍の襲撃に気づき、ようやっと迎撃の準備が出来た「帝国機甲師団」の機体たちが次々と出撃し、待ち構えていたのである。

 

 先の戦いで遭遇した《イグアン》に、イモムシ型の小型突撃ゾイド《モルガ》。各二機ずつが、ジェイのライガーとの邂逅に気づいて、臨戦態勢を取る。だが、いずれも先の砲撃で損傷し、万全とは程遠い状態だ。

 

「そんな様の小型機で……ッ!」

 

 獰猛な雄叫びを上げた《シールドライガー》が、まず《イグアン》に体当たりを見舞い、跳ね飛ばした。間髪入れず、足元の《モルガ》に『ストライククロー』の一撃を見舞う。小型ゾイドの中ではずば抜けた装甲強度を誇る《モルガ》だが、体重の乗ったライガーの一撃の前では問題にはならない。拉げた装甲板が千切れて飛ぶと、剥きだしになったコクピットブロックを踏みつぶす。

 瞬く間に二体を潰された《イグアン》と《モルガ》。怖気づいて後退しようとした二機を、ジェイ機の後続として控えていたフリーマン軍曹、そしてツヴァインの《コマンドウルフ》が砲撃した。ビーム砲座の一撃が《イグアン》を撃ち抜いたが、《モルガ》の機体は自慢の装甲で持ちこたえている。

「めんどくせぇな――ッ」

 ツヴァイン機が飛び出すと、《コマンドウルフ》の牙で《モルガ》を捕えた。中型ゾイドである《コマンドウルフ》のパワーは、《シールドライガー》に比べれば幾分劣るものの、電磁牙『エレクトロンファング』によって電装系を破壊し、無力化することが出来る。ショートした《モルガ》を、ツヴァインの《コマンドウルフ》が投げ飛ばし、むき出しになった機体下部――非装甲部分にビーム砲座を叩き込むと、今度こそ爆発、四散する。

 小型ゾイド達を退けたジェイ達の前に、高密度のビーム光弾が撃ち込まれた。《シールドライガー》の足元が爆ぜて、コクピットが激震に揺れた。「なんだ――ッ」と、火線の先を煽ぎ見たジェイは、瓦礫の中を這いまわる黒い中型ゾイドを見つける。

 イグアナ型の《ヘルディガンナー》。帝国奇襲部隊の主力機で、ミューズでのゲリラ掃討を目的としていたこの駐屯地には、大量に配備されていた機体だ。その主砲・『ロングレンジアサルトビーム砲』が、ジェイ達を狙撃したのだ。純粋な戦闘力では《シールドライガー》《コマンドウルフ》の方が上だろうが、残骸の散乱したこの戦場では、《ヘルディガンナー》の方が小回りが利き、有利に立ち回れる。

 

 やり辛い相手だ――と、ジェイ達が警戒した瞬間、不意にコンクリートの地面が捲れ上がり、別のゾイドが這い出した。

 

 ブラウンカラーの装甲を持つヘビ型の小型ゾイド――共和国奇襲戦隊の主力《ステルスバイパー》が地中から飛び出すと、その瞬発力を持って、瞬時に《ヘルディガンナー》の機体に絡み付き、締め上げる。完全に虚を突かれた《ヘルディガンナー》に、反撃の手はなかった。

「《ステルスバイパー》……奇襲戦隊の突入も始まったか」

 小型機に分類されてはいるものの、その長大な全身を使った《ステルスバイパー》の締め付け攻撃は、自身より優れた体躯の相手をも粉砕し得るパワーがある。全身を破砕され、グニャグニャに拉げた《ヘルディガンナー》――その残骸を放り出すと、《ステルスバイパー》の機体がジェイのライガーに近づいて、鎌首をもたげた。

「こちら奇襲戦闘隊、シニアン・レイン中尉。基地の主要施設は? 既に破壊できているのですか?」

 《ステルスバイパー》から通信が入る。落ち着いた女性士官の声――確か、今作戦で奇襲部隊の指揮を執っている女性士官だ。

「コンボイ大尉の指示の元、散開して主要施設の制圧を進めています」

 ディスプレーに映った金髪の女性士官に、ジェイも返答を返した。数秒考え込んだシニアン中尉は、「それでは非効率ですね」と眉を顰め、

「基地主要施設に対する破壊工作ならば、私達の装備の方が向いています。貴方は――」

「高速隊の、ジェイ・ベック少尉であります」

「……ベック少尉。貴方達はコンボイ大尉達と合流し、ゾイド部隊の対処と敵機格納庫の破壊に注力してください。《レッドホーン》級の機体に遭遇すれば、私達奇襲戦闘隊のゾイドでは対応できません」

 高速戦闘隊がゾイド部隊の足止めをしている間に、奇襲隊が基地中枢を叩く――中尉の提案は、理に適っている気がした。「了解しました」と即答したジェイは、ツヴァイン機、フリーマン機を伴いながら機体を反転させると、

「ゾイド部隊を叩くぞ。格納庫に向かいつつ、残存兵力を無力化する」

 と指示を出す。二人も異論はないらしい、ジェイのライガーに続いて、機体を反転させた。

 

 

 

 スターク・コンボイ大尉率いる(アルファ)分隊、グロック少尉の(ブラボー)分隊は、既に基地の奥深くまで侵入していた。遭遇した帝国守備隊をことごとく退け、コンボイの《シールドライガーDCS》は今、グラム駐屯地のゾイド格納庫を前に立っている。建物は先の長距離射撃を受けて半壊していたが、中には未だ損傷していない《レッドホーン》や《ヘルディガンナー》が、数多く残っていた。

 おそらくは近々、ミューズ森林のゲリラ部隊に対する大規模掃討作戦が行われる予定だったのであろう。コンボイ機の横で、グロックの《シールドライガー》が獰猛な呻り声を上げる。

「こいつらを破壊すれば、ガイロス野郎共に灸を据えてやるって目的は、一先ず果たせますかね」

 昂ぶるグロックに、コンボイは冷静な応答を返す。

 

「奴らの物量は侮れんから、どうだかな。なんにせよ、見つけておいて破壊しない手は――無いッ!」

 

 《シールドライガーDCS》の背負った大型ビームキャノンの砲口が、まばゆい光を放った。それに同調するかのように、グロックの《シールドライガー》、そして配下の《コマンドウルフ》達も、ビーム砲を照射した。撃ち放たれた閃光が最前に納められていた《レッドホーン》の横腹を貫き、金属生命体の心臓部・ゾイドコアを掠める。高熱を蓄えて膨れ上がったレッドホーンの機体が、まるで風船のように爆ぜて周囲のゾイド達を巻き込み、炎上した。

「――ぬぅんっ!」

 コンボイの気迫に合わせるように、《シールドライガーDCS》も咆哮し、最大出力を維持したまま、光線を剣のように撃ち振るう。砲身が焼切れる程の長時間照射で、格納庫内の帝国ゾイドは完全に破壊された。

 

 

 これで帝国側の防衛戦力は、大半が損失した事になる。後は司令部を完全に破壊すれば、『グラム駐屯地』の戦略的価値は、完全に失われるだろう。

 これからだ――、と、一行が勇んだ矢先の事だった。最前線に立った特殊工作師団の機体全機に通信が入る。戦域の索敵・警戒を続けていた《ゴルドス》部隊からの、緊急入電だ。それはすなわち、帝国軍の救援部隊が作戦領域に侵入した事を意味する。コンボイ達の想定していたタイミングよりも、遥かに早い出現だ。

 

「心苦しいが……ここまでだな」

 

 まだ基地を完全に無力化したとは言い難いが――このまま深追いすれば敵部隊に包囲され、全滅する。そうならないためには速やかに戦域を離脱し、ミューズ森林地帯の共和国軍防衛線内へと立ち戻る必要がある。

 高機動ゾイドの《シールドライガー》や《コマンドウルフ》は勿論、《ステルスバイパー》や《ガイサック》と言った奇襲隊の機体も、俊敏性は高い。負傷兵の救援という役目もあるはずだから、敵の追撃の手は万全ではないはずだ。それならば、今から撤退しても十分に帝国軍を振り切れる。

「目標は十分に破壊した。引き上げるぞ!」

 オープン回線で号令を掛けると同時、コンボイ機のミサイルポッドに装備された照明弾が空高く打ち上げられた。事前に決めておいた撤退信号だ。ジェイ達(チャーリー)分隊、そして基地主要施設の破壊を目指していた奇襲戦闘隊のパイロット達も、合図に気づいて機体を反転させた。

 

 

 

 炎上する『グラム駐屯地』を背に、コンボイ率いる高速戦闘隊が疾走する。既にミューズの森林地帯は目前だった。多少機体の損傷があるものの、高速戦闘隊に死傷者は出ていない。敵の追撃があっても、森林に待機した重砲隊の支援射撃が食い止めてくれる間に振り切る事ができるだろう。二度目の実戦――それも大規模な作戦行動が、これほどまでに上手く進んだのは、ジェイに大きな安堵感を与えた。

「あっさりしたモンだったなぁ。こんなだったらあの基地が完成して、大物部隊を森に送り込んできてくれた方が、刺激的だったかもしれねぇよ」

 すっかりと気を抜いたツヴァインが、通信越しにそんな強がりを言った。無論、大勝の高揚感が言わせたジョークなのだろうが――、

 

 ――直後、彼は後悔する事になる。

 

 レーダーに反応が出た。全速で疾走するジェイ達の機体に、ピッタリと追従する程の高機動。けたましいアラーム音に、「――敵!?」と振り向いたジェイは、猛スピードで駆けてくる赤い猛獣型ゾイドの群れを見た。

 

 

「――《セイバータイガー》……ッ!」

 

 

 コンピュータが弾き出した敵機のデータを受け、ジェイが叫んだ。

 シルエットは《シールドライガー》に良く似ていながら、ガイロス帝国軍の機体らしい装甲化されたボディ。それでいて無骨な感は無く、曲線的なカウルはむしろ気高ささえ感じさせる。紛れもなく、旧大戦時代より帝国機動陸軍を支えた名機、《セイバータイガー》の形質であったが――異様だ。うち一機の背には、高機動ゾイドの武装らしからぬ、大型のビームランチャーが備えられていた。

 凄まじいスピードで追撃する《セイバータイガー》部隊。既にジェイ達と肉薄しているそれは、重砲隊の援護射撃では止められない。隊長機と思われるタイガーのビームランチャーが照準を合わせると――撃ち放たれた光線が《コマンドウルフ》の後ろ脚を切り裂いた。

 

「ナァアア……ッ!」

 

 絶叫と共に横転したのは――ツヴァイン機。

 

 倒れ込むツヴァインのウルフを、タイガーの前足ががっちりと踏みつける。

 帝国の『紅き暴風』――《セイバータイガー》が吠えた。それはまるで自らに背を向け、逃げるように森を目指す共和国軍の機械獣達を、挑発しているかのようだった。

 


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