テイルズオブゼスティリアクロスIF ~聖主の願い~   作:ソフトな何か

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レイフォルクに向かうと言ったな。

・・・あれは嘘だ!!!!!






ひぃっ!?ごめんなさい!

次回からまたちょっとお話が動くので、絆強化と仲間強化するみたいです。

ロクロウの加入でみんなにどんな変化があるのか。
わたしもワクワクします!



7.誓い

旧ハイランド王国 王都レディレイク

 美しい湖に囲まれたその景観は、災厄の時代に一度失われかけたが、ある導師の活躍により、今も変わらず大陸随一と言われたその美しい姿を残していた。

 

 そのレディレイクの宿屋の一室。

 二つあるベッドにはスレイが眠っており、傍らにはミクリオが座り、心配そうにスレイの顔を眺めていた。

 エダはというと、ミクリオの足にすがりついており、どうみてもミクリオの看護の邪魔になっている。

 

 「なぁ、エダよ。こっちにきて一緒に座らんか?」

 

 「嫌です」

 

 即座に拒否。なんで敬語・・・。

 ロクロウは部屋に備え付けられたテーブルに突っ伏した。

 

 こう見えてもロクロウは人当たりは良い方だと自負している。実際にこうしてスレイ達と行動を共にすることになったのも、強引ではあるが、話し合った上で共に動いているのだ。

 

 しかし、この警戒のされよう。

 前途多難である。

 

 ロクロウは改めてエダを見る。

 真っ白な髪に紫の瞳。髪は全体的に短く切り揃えられてる印象だが、襟足だけが背中に届くほど伸びている。

 淡い紫を基調とした服に、白のラインが入っており、ワンピースの形となっている。下には白のホットパンツを履いているため、その短いすそが捲れても大丈夫なようだ。良く言えば天族らしい服装。

 そういえば男児か女児か聞いておらなんだが・・・?

 まぁいいさ。

 

 しかし、先の戦い。

 この幼い姿ゆえ侮ってしまい、結局手痛いしっぺ返しを受けることになったのだが、あのエダという子供はなんなのだろう。

 エダはあの大太刀を・・・、號嵐を全くと言っていいほど扱えていないように見えた。しかし、あの戦いの最中、エダは自分の技を盗んだ。それも、"見た目だけ"ならほぼ満点をつけてやりたい程の再現度でだ。しかし、技の出し方は全くの別物。

 

 ランゲツ流 二十六の型 黒川蝉

 

 これは本来、二本の小太刀を使う、裏ランゲツ流の流れを組むロクロウが編み出した新たな技である。

 憑魔であるアシュラの力を二本の小太刀に流し込み、それを前方上下に放つ。一見すると相手には大外れしたように見えるが、その実、その小太刀はまるで獲物を狙う鳥のように、弧を描きながら鋭く相手の致命傷となる部分を確実に射抜くのだ。

 二本同時ということから、判断や反応がしずらく、また、それぞれが生き物のように高速で飛び回る小太刀を両方避ける術はほぼ存在しない。

 これは確実に相手の戦闘力を奪うための必殺の技だ。

 特に武器を一本しか持っていない場合、二本の小太刀が自分に届くよりも早く打ち落とさなくてはならなず。それは超高速の域に達する剣術を習得しなければとても無理な芸当だ。

 

 そして、そんな凶悪な技。これをエダは一目で特性を掴み、そして放った。それも"武器を使わずに"だ。

 

 ロクロウは見ていた。あの時一瞬構えて、そしてエダの体はブレた。

 その動きから当初は一本の大太刀を神速で抜き放ち、居合いと呼ばれる東方の技で再現したと思ったが、それは違った。

 あの時体がブレたように見えたのは、自分が思ったように大太刀を動かすことができないことに気づいたエダが、動き出しから瞬間的に停止したためだ。つまりエダは刀を振ってすらいない。

 しかし、エダは技を放った。自分が動けないことを悟った瞬間に、二本の小太刀からアシュラの霊力に至るまで、全てを"天響術"で再現していたのだ。

 恐ろしいまでの判断の早さと応用力。

 唯一残念だったのは、"小太刀の重さ"までは再現できなかったようで、そのためエダの放った黒川蝉には鋭さが欠けていたのである。しかし威力は本物かそれ以上。自分が作った技でやられてしまうなど恥ずかしいにも程があるため、なんとか気合いで捌いたが、かなり焦ったことには間違いなかった。

 これは、もしかするともしかするかもしれんぞ。

 

 ロクロウは思い立つと、早速町に向かった。

 

 

・・・。

 

 

 先ほどからロクロウの姿が見えない。

 エダは安堵してミクリオの体から離れた。ミクリオもここまでスレイをおぶって来て疲れてしまったのか、先ほどから目を閉じて船を漕いでいる。

 

 ロクロウが居てくれたおかげで、スレイが気を失ってても宿屋の人間とコミュニケーションが取れたことには感謝するが、そもそもスレイが倒れたのはロクロウのせいなので、やっぱりキライだ。

 

 エダはミクリオにそっと毛布をかけると、眠っている二人の頬にキスをして、部屋を後にした。

 

 

 ひとりで宿屋を飛び出したエダ。

 

 「うわー・・・!」

 

 初めてだらけの世界に心が踊る。

 レディレイクの町。人間の町。どこを見てもあちこちに人間がいて、とても騒がしい。

 先ほどから人間に声をかけたり目の前でおどけて見せるが、やはり誰も反応してくれなかった。

 なんだか何もかもが新鮮でとても面白い。

 でも遊んでばかりはいられない。

 エダが町に繰り出した理由は一つ。"グミ"なるものを買うためだった。

 残念ながらイズチには売っていないそれをエダは見たことがないが、スレイやミクリオからどんな物かは聞いている。

 これを使うと疲れが吹き飛び、体力が一気に回復するという。

 道具屋さんに売っているらしいということもわかっているが、しかし、道具屋さんとはどこにあるのだろう?

 

 あれ?

 

 周りを見渡すと、所々で露店が開かれており、様々なものが売られている。

 そう、ここは元王都。世界中から商人が集まり、一大規模の露店群が立ち並ぶ場所。

 階段の向こう。遠くに大きな建物があるが、目を凝らしてみると、この露店の群れはその大きな建物まで続いているようだった。

 

 「これだけお店があれば、どこかに売ってるよね?」

 

 えっと、えっと・・・。

 大きな建物に向かって露店を一つずつ確認しながら歩いてゆく。

 

 しかし、どの店も不思議な物ばかり置かれていて肝心のグミを扱ってる店が一つもない。

 

 不思議に思うエダだが無理もない。実はこの町特有の理由で、露店には滅多なことではグミは並ばないのだが、人と話せないエダにそれを知る術がなかったのだ。

 

 ここには確かにたくさんの露店が立ち並んでいる。しかし、その店に置けるものはいくつかの制限があるのだ。

 たとえばその代表格たるはグミなどの日用品。

 

 異国の珍しいものであれば販売されることはあるが、基本的にこの街の商店で扱ってるものは露店に置かないのが暗黙のルールだった。

 

 例えばどこかの露店でグミを扱おうものなら、それは街の商人組合から酷いバッシング、最悪この町での露店営業を差し止められる可能性があったりする。

 

 当たり前である。外から来た商人に日用品を取り仕切られ、町の商店が店仕舞いした日には、日用品ですら露店に頼らなくてはならなくなるし、露店に値段を吊り上げられた日には、この町の消費が停滞してしまう可能性もある。最悪町民からの理解を得られず、大きな暴動や窃盗や強盗など、町の治安が悪化することも想像できてしまう。

 

 だからといって、完全に法律で販売を禁止すれば、今度は露店商たちからのバッシングや、最悪町に寄り付かれなくなるなど、それはそれで経済が停滞してしまうため、町も苦渋の決断で、日用品に関しては特に制限を儲けず、持ち込みに大きな税を課すことで、日用品などを取り扱っている商店を守っている。

 そんなお互いを守るためのルールから、露店には基本的にグミなどの日用品は置かれていないのだ。

 

 そんなことも露知らず、エダは時間をかけて露店を一つ一つ物色していく。

 そんなことを続けて小一時間。

 

 「あれ?ここどこ・・・?」

 

 気がつけば先ほどの大きな建物まで到着しており、先ほど自分が通ってきた道は、大勢のごった返す人で隠されてしまっていた。

 

 しまった。と思った時にはもう遅かった。とりあえずエダは周りの人々に話しかけるが、どの人間も全員がエダを無視する。

 当たり前である。一般的な人間は霊力が低く、天族を見たり話を聞いたりできるものなど皆無に近いのだから。エダもそれは先ほど試して充分理解している。

 しかし、万が一自分の声が聞こえる者が居ればと、大声で呼び掛けては諦めてを繰り返す。

 

 そして何人かに声を掛け、もう止めようと思った時だった。

 

 「助けが必要か?」

 

 見知った声。それも嫌な声が聞こえた。

 

 振り向くとそこに立っていたのはロクロウ。

 エダは少し涙の滲んでいた目を擦ると、その声を無視して反対方向に歩きだす。

 

 「お、おいっ!」

 

 制止する声を無視してただただ闇雲に歩き続けた。そして。

 

 

 もっと迷った。

 

 

 先程と更に景観が違う豪邸が立ち並ぶ場所に来てしまった。露店など、見渡す限りここには一つも見当たらない。

 まずい。これはとてつもなくまずい。宿を出てからだいぶ時間も経ってしまった。

 どこか豪華な服を着た人間に話しかけるも、やはり気づいてはもらえない。

 エダはたまらず頭を抱えて叫んだ。

 

 「ボクのバカーーーーー!!」

 

 大声で叫ぶが、反応するのは後ろのイヤな奴だけ。

 

 「はっはっはっ!元気だなぁ!どれ、そろそろ帰らんか?」

 

 くっ!しっかり着いてきてる。あんなに人間に隠れるように動いていたのに!

 エダは踵を返すと路地に向かって一目散に駆け出した。

 

 

 はぁはぁ・・・。ここまでくればきっと・・・。

 少し薄暗い路地裏、背の高い家々に囲まれたこの場所は隠れるならうってつけだった。

 呼吸をなんとか整え、塀から顔を出して周囲を確認する。

 

 うん。とりあえず、追ってはきてないみたい。

 

 ほっとため息をつき、隠れようと後ろに足を出したその時。

 

 「ギャン!」

 

 「うあ!?」

 

 なんか踏んだ。

 

 恐る恐る足元を確認すると、やはりというかなんというか、謎の生き物の尻尾を踏んでいた。

 なんか凄く怒っている様子だ。当たり前か!

 

 安心しきったタイミングでのエンカウント。

 エダの頭は完全に混乱。

 

 うお!?とにかく剣!?術!?わあああああ!!

 

 パニックの頭で思わず両方を出そうとして失敗。そして更にパニック。

 

 相手は今にも飛びかからんと、牙を剥き出しにして低い唸り声を上げている。

 まずい。本当にまずい。スレイもミクリオもここには居ない。

 それでも訳がわからず、エダは助けを求めてしまう。

 

 「ひっ!?た、たすけ・・・」

 

 口をパクパクと動かし、悲鳴と言葉が空気のようにぽっかり空いた口から抜けていく。

 エダは恐慌状態に陥り、とうとう泣き出してしまった。

 そして謎の生き物がエダに向かって飛びかかる。

 

 もうだめだ。

 

 諦めを示すように、瞳から大粒の涙をこぼし、ただ飛びかかってくる相手を呆然と見つめる。

 あの鋭い牙に噛まれたらどうなるんだろう。どうでもいいことが頭の中を過ぎ去り、ただ自分の無力に脱力した。

 

 

 「・・・まぁ、今のはお前が悪いがな」

 

 「ふぇ?」

 

 

 突然目の前を塞ぐように現れた人影。

 そして彼の言葉に一瞬理解が追い付かず、気の抜けた声がでてしまった。

 

 「ふんっ!」

 

 人影・・・ロクロウが腕を横に振ると、一本の銀線がロクロウから伸びる。

 そして、謎の生き物の鼻先を掠めて路地に突き刺さった。謎の生き物の動きが止まる。

 

  「グルル・・・」

 

 一瞬虚をつかれた謎の生き物は低い唸り声を上げたが、ロクロウが腕を組んで睨み付けると、諦めたようにすごすごと路地裏から走り、逃げていった。

 

 「あ、ああ・・・」

 

 まさに間一髪というところ、だった。エダはまだ回復しておらず、顔を伏せてその場にぺたんと座り込む。

 

 「・・・」

 

 ロクロウはエダの顔をしばらく見つめた後、エダの顔を覗き込むようにしゃがんだ。

 

 「まぁ、なんだ・・・帰るか?」

 

 エダはその言葉に顔を一瞬顔を上げ、驚いたものを見るようにロクロウの顔を見た。

 

 ロクロウの顔はとても優しい顔をしていた。

 

 何も言わずにただ顔を眺める。

 だんだんとエダも落ち着きを取り戻していき、瞳に正気が宿り始めた。

 もう大丈夫だろうとロクロウは判断し、よっこいしょとエダの隣に座った。

 

 「なぁ、エダよ。俺のことは嫌いか?」

 

 「・・・嫌い」

 

 ロクロウの問いに一瞬の間を空けてエダは呟く。

 やはり嫌いだ。でも、助けてもらった。

 だから・・・。

 

 「ありがとう」

 

 小さく呟いたエダの声。聞こえたか聞こえてないのか、ロクロウは笑うと、エダの手を握り言った。

 

 「さぁ、帰ろう」

 

 エダはコクンと小さく頷くと、ロクロウに合わせて立ち上がった。

 

 

・・・。

 

 

 貴族街を抜けて、また露店の立ち並ぶ場所へ。

 だんだんとエダも見知った場所に出てきた。

 

 日差しが傾き始めており、もう少しで夕刻という時間帯。西日が淡くオレンジ色に輝き、町の風景を優しい色で包む。

 

 大きな階段の前に着いたとき、ロクロウはエダに尋ねた。

 

 「して、エダはなぜ一人で町にでてきたんだ?」

 

 それまでロクロウの手を握ってトボトボ歩いていたエダは突然の質問に、なんでだっけ?っと一瞬考え、そしてようやく思い出した。

 

 「あぅ。グミ・・・」

 

 エダの纏う空気がとたんに重くなる。

 色々あって本来の目的を完全に忘れてしまっていた。

 どうしよう。もうロクロウに道具屋さんの場所を聞いてしまおうか・・・。

 

 エダが悩んでいると、ロクロウは自分の袖をまさぐり、数個の赤いグミを出した。

 

 「グミとは・・・これか?」

 

 「!? そう!たぶんそれ!」

 

 食い入るようにグミを見つめるエダに少し驚いたロクロウだったが、すぐにその理由に気づいた。

 

 「やるよ。そもそも使う相手は一緒だろうしな」

 

 エダの掌を上にさせ、その手にグミを握らせる。

 目をキラキラと輝かせて、エダはとても嬉しそうに見える。

 

 「いいの?ほんとに?」

 

 「ああ、欲しかったんだろ?ならもらっとけ」

 

 ロクロウはニッと笑うと、階段をスタスタと降りていった。

 

 早く宿屋に帰ろう。スレイとミクリオに食べさせなきゃ!

 エダはふんっと気合いを入れるように拳を腰に当てると、ロクロウの後を小走りで付いていった。

 

 

・・・。

 

 「エダ!?」

 

 宿屋に着くと、ミクリオがどこかに出かける準備をしていた。スレイも起きたのか、ベッドの縁に座り靴を履こうとしている。

 

 「ただい・・・ま・・・?」

 

 二人から感じる異様な雰囲気にエダは一瞬たじろいでしまう。

 

 えーと・・・。

 

 エダが悩んでいると、ミクリオはツカツカと足音を立ててエダの正面に歩いて行き、そしてそのままの勢いでエダをガバっと抱き締めた。

 

 「わぁ!み、ミクリオ?」

 

 驚くエダだが、ミクリオたちの行動の意味がわかってしまい、どうしたらいいかわからなくなる。

 

 「エダよ。まず言うことがあるんじゃないのか?」

 

 ロクロウの言葉にやはりと納得する。

 いや、二人のことだ、自分が居なくなった事に気付き、今から探しに出ようとしていたのだろう。

 

 エダはミクリオを抱き返して消えそうな声で言った。

 

 「ごめんなさい・・・」

 

 スレイを見ると困ったような安心した顔をしていた。

 

 

 しばし抱き合った後、ミクリオはキッと顔をあげると、ロクロウに詰め寄った。

 

 「ロクロウ!君がっ!!」

 

 「わわっ!違うの!ロクロウは違うの!」

 

 今にも殴り掛からん勢いのミクリオに、エダは慌てて訂正する。

 

 「これ!これを探しにいってたの!」

 

 エダは掌を開き、赤いグミをミクリオに見せた。

 

 「これは・・・?」

 

 ミクリオがポカンとした表情で二人の顔を見る。

 

 「ロクロウは・・・助けてくれただけなの・・・」

 

 懇願するようにミクリオにすがりつく。

 ミクリオはまだ訳がわからないというように、目をパチパチさせながら、ロクロウの顔を見る。

 

 「エダが二人のために大冒険して手に入れた品だ。文句があるなら相手になるぞ」

 

 茶化すように笑いながら言うロクロウに、やっと思考が追い付いてきたミクリオはエダに向き直り、そしてその掌を見つめる。

 

 「僕たちのために、持ってきてくれたのかい?」

 

 「うん・・・」

 

 よく見れば、服も靴もだいぶ汚れており、エダがどれだけ苦労したのかが見てとれる。

 

 ようやく完全に理解したミクリオは、たまらずエダを抱き締めた。

 

 「ぅわっぷ!?」

 

 勢いがつきすぎてエダの驚く声が聞こえるが、ミクリオは構わずエダを強く抱き締める。

 

 「ありがとう・・・。ありがとう、エダ」

 

 ミクリオはエダの頭を撫でながら、しばらくエダを抱き締め続けた。

 スレイとロクロウはそれを見て微笑んでいた。

 

 その後、スレイとミクリオにグミを食べさせ、起きようとするスレイを無理やりベッドに寝かせると、エダは相当疲れていたのか、そのままスレイのベッドで一緒に眠ってしまった。

 ミクリオはそれを愛しそうに眺めていたが、ふと顔を上げて、ロクロウに尋ねた。

 

 「そういえば君はどこにいってたんだい?」

 

 「あー・・・」

 

 少しバツが悪そうに頬をポリポリ掻くと、懐から色とりどりの紙束をだした。

 

 「これは?」

 

 「エダと仲良くなろうと思ってな。もう必要は無くなってしまったが・・・」

 

 これは東方に古くから伝わるオリガミという物だ。ミクリオも何度か目にしたことはあるが、実際に買ったことなどなかったため、面白げに紙束を見つめていた。

 

 「もしかして君、折れるのかい?」

 

 「まぁ、簡単なものならな」

 

 言うとロクロウは手早く紙を折っていき、一羽の鳥のような形の動物を作った。

 迷いのない見事な手捌きにミクリオは感嘆の声を上げる。

 

 「これは鶴といってな、東方に生息する鳥を模しているんだ」

 

 「おお・・・ツル・・・これが・・・」

 

 ミクリオでさえ聞いたことがない鳥の名前。ミクリオは驚きの表情で折られた鶴を見つめる。

 

 「欲しいのか?ほれ」

 

 「い、いいのかい!?こんな貴重な物を!」

 

 ロクロウがミクリオに手渡すと、ミクリオはそれを大事そうに両手で受け取った。

 ロクロウはそれを見て苦笑すると、もう一つと言って腰に下げていた真新しい鞘に納めた異国刀をミクリオに手渡した。

 

 「これは?」

 

 「エダに与えようと思って買ってきた。ただ、刃物だからな。保護者の同意無しには渡せんだろう」

 

 一応気は使ってるのか。

 困ったように言うロクロウに、ミクリオは少し苦笑しながら手に持った刀を見た。

 

 長さは柄を入れても50cm程の短い刀。

 見た目よりもかなりの軽さに少しばかり驚く。

 鞘から刀身を少し出すと、まるで透き通るかのように美しい銀色の刀身が姿を現した。

 光に反射する光は真っ白のように見えて、わずかに青色の光を放っている。

 

 「これは!?」

 

 「気づいたか? そう。刀身はミスリルだ」

 

 ミスリル。

 伝説の金属とも言われている超希少金属。鋼よりも剛性に優れ、アルミよりも軽い。もうかなり昔から採れなくなったと聞いていたが、どこで手にいれたのだろう。

 

 「ずいぶんな値段だったんじゃないか?」

 

 ミクリオが心配そうに問いかけるが、ロクロウは首を振った。

 

 「いや、それがな。店主の見る目がなかったのか、中古で二束三文だったんだ。たぶん軽さでオモチャとでも思ったのだろう」

 

 ふむ。ミクリオは考える。

 確かにこの刀があればエダも戦える。この長さと軽さなら、エダでも自由に振り回すことができるだろう。

 しかし、エダに戦う力を与えるのは本当に必要なのだろうか?

 

 ミクリオは考える。

 最初は守ろうとしていた。

 自分とスレイで、まだ幼いこの子を。

 

 しかし、現実は違った。

 

 3人で始めたばかりの旅。

 しかし初戦でいきなりピンチに陥り、守ろうとしていた相手に救われ、そして生き残って今がある。

 

 あんな事はもう無いと思いたい。

 しかし・・・。

 

 「それはお前さんが決めることなのか?」

 

 ロクロウの言葉にはっと瞳を見開く。

 確かにそうだった。エダはエダであり、これはボクだけが決めていいことではない。

 

 スレイにも相談しよう。そうだ。今は一人じゃない。みんなで決めればいい。

 

 「すまない。もう少し考えるよ」

 

 言って立ち上がると、部屋を出てどこかに行ってしまった。

 結局、その日ミクリオは部屋に戻ってくることはなかった。

 

 

・・・。

 

 

 次の日の朝。

 宿屋の一室に集合した一行は、部屋に設置されている丸テーブルを囲い、今後の行き先と方針について、再度話し合っていた。

 

 「じゃあ、とりあえず予定通りにレディレイクを出たらレイフォルクへ行こう。そこでエドナと合流。導師探しとライラたちとの合流はエドナと合流してからで。・・・とりあえずはこんなのでいいかな?」

 

 スレイの言葉に皆が頷く。元々探しながら動く旅なので、これくらいの方針の方が動きやすかったりする。

 良く言えば臨機応変に。まぁ、行き当たりばったりなのも旅や冒険の醍醐味なので、余裕があるのならそれも悪くない。

 

 「スレイ、エダ。ちょっといいかな?」

 

 ミクリオは立ち上がると、エダの目の前に一本の異国刀を置いた。

 

 驚いた顔をするスレイと、刀を置かれた意味を考えるエダ。

 

 「ミクリオ。これは?」

 

 スレイは神妙な顔つきになり、ミクリオに問いかける。この刀が意味するところ、つまりミクリオはエダを戦わせようと考えている?

 スレイは今回の旅立ちの前にミクリオと話したことを思い出した。

 二人の意見としては、やはり産まれたばかりのエダを戦わせたくない。という意見で一致していた。

 これを覆すということは、何か考えがあってのことだろう。大体察しはつくが、やはりミクリオの口から聞いておきたかった。それに、自分もたぶんミクリオと同じことを考えている。

 

 ミクリオは瞳を閉じて重々しい口調で話し始めた。

 

 「今回の旅。正直僕は甘くみていた。憑魔も減り、人間の戦争もない。他の仲間と合流して、導師を探して仲間を助けて、そこに至るまでに、エダを危険に合わせないようにする自信もあった。僕とスレイが居れば、大抵のことはなんとかなると思っていた。でも・・・違った。村から出て、いきなりの初陣で、早くもエダを命の危険に晒してしまった」

 

 「・・・」

 

 ミクリオの悲痛な告白にスレイは黙って耳を傾ける。それは皆も同じようで、誰一人身動ぎ一つせず、真剣な眼差しでミクリオを見つめていた。

 

 「旅にトラブルは沢山ある。きっと、これからもだ。今回のような事が二度と起こらない保証は無い。だから、これからはエダにも困難と戦う力を身につけさせる必要があると思った。・・・でも、正直に言うと、僕はまだエダには戦ってほしくはない。だから、エダに決断して欲しい。家族としてではなく、これから共に旅をする仲間として、君の意思を尊重したい。どちらを選んでも僕は君と共に旅を続けるよ。それは約束しよう。スレイ。君もそれでいいかい?」

 

 問いかけにスレイは迷うことなく頷きを持って肯定を示す。

 一同の視線はエダに注がれた。

 

 「ミクリオ・・・。ありがとう」

 

 これまで真剣な表情でミクリオの言葉を聞いていたエダは、優しげに微笑むと、躊躇することなく目の前の異国刀を握った。

 

 「二人が、ボクを大事にしてくれているのは解ってたよ。だから、ありがとう。でも、でもね。ボクは戦いたい。二人の事をボクにも守らせて欲しい。・・・だって、ボクも二人の事が大好きだから。ボクのために無理をして傷ついていくのを、ただ後ろで眺めてるのは嫌なんだ」

 

 エダの放つ覚悟にスレイもミクリオも難しい顔をする。

 しかし、エダはより笑みを深めた。

 

 やっぱりこんなに心配してくれる。二人は、ボクの事をこんなに大事に思ってくれてる。じゃあそんな二人の足手まといはだめだよね。

 

 「ロクロウ」

 

 「ん?どうした?」

 

 エダはロクロウに向くと、意を決して頭を下げた。

 

 「剣を・・・、ボクに教えてください!」

 

 唐突な言葉に場が静まる。ロクロウも少し考えているような顔になった。

 

 「俺でいいのか?スレイも剣を使うぞ」

 

 「ほんとはヤダ!ロクロウはスレイとミクリオいじめたから!今も大っキライ!・・・でも、この中で一番剣が強い!だから、ボクにスレイとミクリオの足手まといにならないくらいの力を下さい。二人を守る力を下さい!」

 

 大声で一気に捲し立てると、エダは強く拳を握った。

 エダは悔しかったのだ。ロクロウに勝てなかったことも、あの大きな刀を扱えなかったことも。

 

 だからロクロウを嫌いと言った。スレイとミクリオと戦ったことなんてそんなに怒ってない。本当は自分が戦えなかったことが悔しくて、悔しくて悔しくて悔しくて。ロクロウに辛く当たってしまっていた。

 

 渾身の思いを込めた言葉に、ロクロウは胸がむず痒くなる思いがした。かつての仲間たちとは確かにある種の絆はあったが、このように本気を言葉にするような奴らではなかったからだ。

 

 ロクロウは負けとばかりに嘆息すると、腕を組んで言った。

 

 「その願い、承った。・・・こう真っ直ぐお願いされては断れんな」

 

 ロクロウが笑いながら頭を掻くと、スレイとミクリオは静かに頭を下げた。

 スレイもミクリオもまだ思う所はある。でもこれはエダが選んだ道だから、二人が共に過ごしていこうと決めた家族が選んだ道だから、だから応援しよう。

 

 「エダを、よろしくお願いします」

 

 スレイの言葉にロクロウは腕を組ながらニヤリと笑う。

 

 「ああ、任されよ。お前たちより強くしてやる」

 

 

 新たな戦力としてエダを迎えた一行は、ついに霊峰レイフォルクへ向けて出発する。

 




あ、やば。1万弱くらい文字数いってたです。

かなり長くなりましたが、今回のお話はここまでー。
ロクロウは先生ポジに落ち着いたようです。

冒頭にも書きましたが、次回からお話が動きます。

たぶん!

それでは、次回もお付き合い頂ければ幸いですー。

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