テイルズオブゼスティリアクロスIF ~聖主の願い~   作:ソフトな何か

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さぁ、とうとう真面目にバトルです。
しかも、相手は・・・。

さぁ、今回も何があるのか。
わたしも色んな意味でドキドキです!


5.災渦の顕主

 「! スレイ!」

 「あぁ!わかってる!」

 

 突如背後に生まれた膨大な量の穢れ。

 二人はなんの冗談かと思う。

 あのヘルダルフとの最終決戦ですら感じたことのない、鋭い威圧感。少し気を抜けば体の自由を奪われかねないほどだ。

 その規模も恐怖もかつてのヘルダルフを遥かに越えていた。全員の足が止まってしまう。

 

 「まずい!」

 

 もう、あまりにも近すぎて、エダを逃がすことができない。

 エダはとっくに恐怖に怯え、まばたきすらできないような状態に陥っていた。

 こんな状態では走ることもままならず、誰かが抱えて逃げる以外の選択肢が浮かばない。 

 体の震えが極限に達している。

 もし器がなければ瞬時に憑魔へと堕ちてしまいそうな、それほどの穢れ。

 エダの器を見つけていなければ、と背筋に冷たいものが流れる。

 

 果てしなく黒いそれは、大地を飲み込むように徐々にその濃さを増していた。

 もう、逃げることはできない。なら!

 

 「スレイ僕が時間を作る!エダを頼む!」

 

 「ミクリオ!?」

 

 ミクリオは反転し、手にした杖を漆黒の穢れに向かって付き出す。

 

 「来いっ!」

 

 かつての仲間はもういない。

 しかし、目の前には明らかに今まで戦った憑魔とは比べ物にならない程の穢れを発する敵。

 放っておけば世界を飲み込んでしまうほどの穢れ。これを放っておくことはできなかった。

 だが、今のスレイとミクリオだけでは絶対に勝てない。

 それでも、スレイさえ、導師さえ生き残ってくれれば、起死回生のチャンスはある。

 ミクリオは瞬時に判断た。しかしその判断は自身破滅。自分を捨て石にする事だった。

 

 「くっ!ミクリオ!」

 

 その時、スレイも判断を迫られていた。

 ミクリオと共に戦うか、それとも逃げ出すか。

 しかし今のエダの状態では全員で戦うにしても誰かがエダを守らなくてはならず、それはすなわち神依を纏えないことを意味していた。

 二人では戦えない。しかし一人一人戦っても勝てない。ほんとうなら自分が守りたい。

 心ではそう考えているが、頭の冷静な部分ではここで逃げて体制を立て直す方法を考えている。

 もしライラが居れば、エドナが居れば、ザビーダがいれば、ロゼが居れば、アリーシャが居れば。

 そうすれば何かが変わったかもしれない。この状況を打破する選択を選べたかもしれない。

 だけど今は居ない。自分とミクリオとエダ。この3人で戦うには、生き残ってこの強大な敵を倒すためには、やはり自分が生き残るしかなかった。

 

 きっとミクリオも同じ事を考えて自分とエダを逃がそうとしているのだろう。

 今もミクリオの考えていることが手を取るようにわかる。

 

 スレイは決断するしかなかった。

 エダを守ることを。そして、自分が友を置いて逃げることを。

 しかし、絶対戻る。友をただ死なせるわけには行かない。

 必ず戻る!歯を食いしばってスレイはエダを抱いてその場から走り去った。

 

 ・・・。

 

 スレイの気配が遠ざかるのを感じる。

 少しさびしいけれど自分の考えを理解してくれた友人に、やはり感謝を感じずにはいられない。

 スレイ、どうか無事でいてくれ!

 

 いい。これでいいんだ。

 自分に言い聞かせるように、今にも震えだしそうな体に渇を入れる。

 

 未だに敵の姿は見えない。

 ミクリオは周囲を警戒し、迎撃体制をとる。

 直後。

 

 「はっはっはっ!いい判断だ。そしてその選択は正しい。だがな?」

 

 「なっ!」

 

 聞こえた声は背後からだった。

 突破された!?

 

 早い。早すぎる。姿を見ることすら叶わなかった。

 溢れる焦燥。

 後ろを振り向くと黒い影がスレイにもう届きそうな勢いで迫っていた。

 

 嘘だろ!そんな!

 

 「スレェェェェェイっ!!」

 

 ミクリオは声を張り上げた。

 半ば悲鳴のようなその声は、確かに友の耳に届く。

 スレイの判断は早かった。

 

 「ルズローシヴ=レレイ!」

 

 ミクリオの体が青い光となって漆黒の霧を追い越し、スレイを覆う。

 

 「蒼穹の十二連!!」

 

 合体して速攻。

 振り向き様に放ったそれは、実にただの牽制。

 

 12本の渦巻く青い光の矢は、確実に地面に着弾し、黒い霧を吹き飛ばす。

 狙いは本体ではなく霧の排除。

 

 いた!

 影の中から現れる人影。

 それももう手を伸ばせば届く距離。

 

 しかしそれを二人は予測していた。

 行ける!

 

 「散りし六星!!」

 

 キュイイイン...ズシャァァア!!

 

 目の前に展開された矢は6本に別れると、目の前の人影へ向かって勢いよく殺到する。

 

 直撃。

 

 黒い霧と土煙が混ざった爆風が辺り一面に広がる。

 

 スレイとミクリオはエダを抱えると、大きく背後に跳躍する。

 背中は決して見せない。

 確かに手ごたえはあったが、あれ一発で倒せる敵とは到底思えないからだ。

 

 追撃は・・・来ない。

 しかし、気は抜かない。目の前の土煙を懸命に睨み付ける。 

 いつでも逃げ出せるようにエダは脇に抱え、重心はいつでも背後に飛び出せるように後ろに掛けながら、

 開いた手で弓を掴み、土煙の向こうに向ける。

  

 「・・・」

 

 だんだんと土煙が晴れ、次第に周囲が見えてくる。

 

 「居ない!?」

 

 先ほどまであった人影は目線の先にはいなかった。

 そしてここまで時間が経ってやっと気づく。

 

 自分たちは判断を誤った。

 "さっき逃げるように動くべきだった"

 

 「!?」

 

 突如として背後に強大な気配が膨れ上がり、それは殺意を持ってスレイとミクリオに遅いかかる。

 とっさの判断で技を放つが・・・。

 

 「分けし天竜!!」

 

 「遅いな!二十六の型、黒川蝉」

 

 避けれない。

 

 人型の影が放った二本の黒い刃が、まるで獲物を見つけた鳥のように弧を描き、上下から鋭く仕掛けてくる。

 どちらを受けても致命傷。右腕と左足、両方を狙っている。

 どちらかを防げばどちらかを失う。

 

 逃げるためには足が必要。だが、この後も奴の攻撃を防ぐなら、攻撃をするなら腕が無くては話にならない。

 エダもここに置いていくわけにはいかない。

 足なら、1本あれば離脱はできる。地面に体を固定すれば攻撃もできる。

 

 足を・・・捨てるしかっ!

 

 弓を頭上に掲げて、下から来る衝撃に備える。ダメージを受けても立ち止まるわけにはいかないからだ。

 すぐに反撃をしなくてはいけない。

 

 ガキィィィン!

 

 金属同士がぶつかり合う甲高い音が響く、腕に衝撃。

 しかし、来ると思った足への斬撃が来ない。

 なぜ・・・?

 

 「童に助けられたようだな」

 

 「エダ!」

 

 視線を下に向けると、あの巨大な刀を握るエダが、下からの斬撃を防いでいた。

 いつスレイらの腕から逃れたのか。いや、今はそんな事はどうでもいい。

 

 ハァァァァ・・・。

 

 エダは大きく息を吐き一度肺に溜まった空気を吐き出す。そして刀を実際には存在しない腰の鞘に納めるように構える。その長すぎる刃から強大な殺気が溢れ出す。

 

 「・・・おい。まて、その刀、まさか!?」 

 

 「にじゅうろくのかた。くろかわせみ!」

 

 なぜか敵が驚いたように大声を上げるが、エダは既に動きだしていた。

 エダの体がブレる。その瞬間エダの前面、上下に紫の刃が二本現れる。

 先ほど敵が見せた技。しかしその色がエダの属性を現すように紫に変わっていた。

 

 「あれ?紫色?」

 

 「おいおいおいおいおい!待てと言ってるだろう!」

 

 紫の刃が敵目掛けて殺到する。

 先ほどの敵が放ったものよりは鋭さが足りない。しかし、明らかに紫雷を纏ったそれは威力だけで見るのなら敵が放ったものよりも高威力だとわかる。

 

 しかし、敵は殺到する紫の刃を容易く二つの斬撃で弾いてしまう。

 だが、顔は驚きの表情で固められていた。

 

 黒い霧は先ほどの攻防で既に晴れていた。相手の姿をようやく確認する。

 相手は男、どこか軽薄そうな東方の国の人間が好んで着るようなキモノを着ていた。

 背後にはエダの持つ刀とどこか酷似している長大な刀を背負っている。

 だが、未だにそれは抜かれておらず、彼の手には二本の小さな刀が持たれていた。

 

 一見すると人間に見えなくもない。この放っている穢れが無ければ、だが。

 一つだけ人間と大きく違うものを挙げるとすれば、

 顔の右側を仮面のように覆う黒い穢れだった。

 

 エダも敵もお互い動かない。

 そして敵が口を開いた。

 

 「悪かった。すまん!」

 

 一瞬何を言ってるのか理解できずに、構える手に力が入る。

 エダも一瞬驚きの表情を見せたが、体を強ばらせて刀を握り直していた。

 

 「いや、もう本当に攻撃はせん。ほれ!」

 

 握っていた二本の刀をポイと地面へ投げ捨て、そして胡座をかいてその場に座った。

 その言葉が本当だというように、先ほどまで放っていた穢れも殺気も嘘のように無くなり、

 視界に映る世界が色を取り戻していた。

 

 ・・・。

 

 (スレイ) 

 (ああ、話ができるみたいだ)

 

 スレイとミクリオは合体を解く。だが、警戒は解かない。

 スレイは彼に向かい、ミクリオはエダを胸に抱き、いつでも逃げられる態勢をとった。

 

 「信用されとらんな、ま、あんなチョッカイのかけかたをしたんだ。あたりまえか!」

 

 はっはっは!と豪快に笑う。

 

 「キミは、災渦の顕主・・・なのか?」

 

 スレイの問いかけに彼はニヤリと笑い。顎に手をやり答える。

 

 「そんな呼ばれかたをしたこともあったな。しかし、あれは俺のことではなく、ベルベットの事なのだがな」

 

 ベルベット。ベルベット=クラウ。

 かつての災渦の顕主。ローランド王の話やグリモワールの話、また、ミクリオが読んだマギルゥというメーヴィンの書物に出てきた女の名だ。

 なぜ、やつがそれを知っている。それに、あの書物はただの偽ものじゃ・・・。

 ミクリオは何か引っかかるものを感じたが、今はそれを考えるのをやめた。

 まずはこの男のことである。

 会話はできるが、れっきとした憑魔の彼をもっと知る必要があった。

 また、できるのであれば、こんな穢れを放っておくことはできないため、彼を浄化する必要があった。

 

 スレイは剣を収めて彼の瞳を覗き見た。

 

 「そんな悪い人には見えないんだけど」

 

 「わからんぞぉ?今も襲い掛かりたい衝動に襲われているからな」

 

 その言葉にミクリオとエダの顔が引きつる。

 

 「冗談だ。戦うのは俺の阿修羅としての本能だが、今は別のことに興味が沸いた」

 

 そういうとエダの持つ刀を指差す。

 

 「?」 

 

 「お前のその刀、それはどこで手にいれた?」

 

 ミクリオはエダの前にかばうように立ち、男に質問した。

 

 「それを答えるにはまずキミのことを教えて貰いたいところなんだけど」

 

 おっとそれはすまんかった。と男は頭を掻き、そして自己紹介をはじめた。

 

 「俺の名前はロクロウ。かつて災渦の顕主と共に世界を救った英雄だ」

 

 茶化すように言うと、ロクロウと呼ばれる人物は獰猛な笑顔を浮かべた。

 




あとがきですー。
いやぁ、ロクロウ。ロクロウでしたか・・・。
ベルセリア勢の中で初登場ですね。

なんでいきなり襲ってきたのか
なんでこんなイズチの近くにいるのか
謎だらけですねぇ。
しかしこれも見切り発車の醍醐味。

彼は何を考えてこの場所にいるのか
次回で明らかになるといいなぁ。

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