テイルズオブゼスティリアクロスIF ~聖主の願い~   作:ソフトな何か

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今回は今のところいいとこなしのヘルダルフちゃんにフォーカスを当てていきます。

この子なにものなんでしょう。全然喋んないんですけど。



2.ヘルダルフ

 イズチに滞在して5日が経つ頃、ようやくヘルダルフも疲れが抜けたのか、元気を取り戻したため、次の目的地について話し合うことになった。

 

 「あの子はどうするんだ?」

 「もちろん一緒に連れていこうと思う」

 

 そりゃそうだとスレイは笑った。確かにイズチに置いておけば安全かもしれないが、正体がバレてしまう可能性がある。

 そうでなくても、まだ精神年齢で言えば5~6歳のこの子をじゃあよろしくねと、置いていくわけにもいかなかった。

 

 過去のヘルダルフはどうだったか知らないが、今のヘルダルフはとても臆病だ。これを人間で言うところの"人見知り"と呼ぶのだろう。

 村のみんなの話では、かつて子供のミクリオは人見知りを発症していたが、対するスレイの方は全くなかったらしく、幼い時のスレイは可愛い。ミクリオは生意気だったとみな口を揃えて笑う。

 

 「本人にも聞いてみようか?」

 「だな。ここに居たいと言うかもしれないし」

 「まぁ、その時は腹を括ってネタばらしだね」

 

 ミクリオの諦めきった顔にスレイが苦笑する。

 ミクリオは席を立つと、部屋の奥でスレイの本を読んでいたヘルダルフを呼ぶ。

 

 「エダ。ちょっとこっちに来てもらえるかな?」

 「はーい」

 

 可愛いらしい声と共に、白髪にアメジスト色の瞳の声の主であるヘルダルフが現れる。"エダ"という愛称は村に滞在した初日に、スレイとミクリオでつけた愛称だ。無論村人からバレるのを防ぐ目的と、ヘルダルフでは少し長いとミクリオが言い出したため、このような愛称になった。

 また、この愛くるしい見た目に対して、ヘルダルフという厳つい名前は少々不似合いだと感じたのも理由の一つだ。

 

 スレイは胡座をかいたまま二人を観察する。

 エダはいつの間にかミクリオに懐いていた。最初こそ怯えていたが、元々面倒見が良く心根の優しい彼にエダはあっという間に懐いていた。

 

 「ほらエダ、おいで」

 

 ミクリオが微笑みながら自分の膝をポンポンと叩くと、エダは当たり前のようにその膝の上に座り、まるで座りなれた椅子のようにミクリオに背を預け、満足そうに目を細めた。

 ミクリオはそれを後ろから優しく抱き締めるとエダのお腹あたりで手を組み、上からエダの顔を覗き込むように、先ほどの質問をエダに問いかけた。

 

 これから自分たちが旅に出ること、旅は辛いことや悲しいこともあること、それ以上に楽しいことや嬉しいこともあること。もし、エダが望まないのならここで平和に過ごせるよう手を尽くすこと。

 ゆっくりわかるように説明した。

 

 「イヤ。一緒!一緒がいい!」

 

 必死とも言える叫びにスレイとミクリオは真剣な顔でお互いの顔を見る。そして。

 

 「そっか。じゃあ決まりだな」

 「うん。決まりだ」

 

 スレイが言うとミクリオも頷いた。

 これからの旅にこの子も連れていく。決して旅は楽しいばかりではないが、それでもこの子が望むのならと、二人で連れていく覚悟を。守っていく覚悟を決めた。

 

 しかし、連れていくとなると、差しあっての準備と目的地が変わってくる。元々は一度近場のエドナの様子を見に、霊峰レイフォルクへ向かう予定だったが、エダを連れていく以上、まず必要な物がある。

 

 「どうしようか、ミクリオ最近何かみつけた?」

 「いや、それよりもまずこの子の属性を知るべきだろう」

 

 二人が話しているのは"器"のことである。穢れが減ったとはいえ、清浄な器無しではこの先、何がエダを憑魔にしてしまうかわからない。

 また、器が天族の特性に合った武器などであれば、ライラと合流後、陪審契約を結ぶことができ、そうすれば最悪エダが戦えなくても、スレイと神依を行うことで、足手まといどころか、戦力にもなりうるとミクリオは考えていた。

 

 「エダ。君は天響術は使えるのかい?」

 「えっと・・・。わからない。使ったことない」

 「これは試すしかないかな?」

 「ここではだめだよ。スレイ」

 

 ミクリオは幼い頃、初めて天響術を使った日の事を思い出していた。

 幼かったミクリオは覚えたばかりの天響術をスレイに見せようと、スレイの家で試したことがある。

 案の定、制御を失った天響術はスレイの家をまるごと洗濯し、危うく二人とも命を落としかけてしまった。

 幸いすぐに異変に気づいた村人たちに救出されたが、一歩間違えば大惨事だったと、後からジイジにこっぴどく叱られた。

 

 スレイもすぐに思い出したのだろう。すぐさま青い顔になって立ち上がった。

 村の出口まで移動しよう。と提案するとイソイソと準備を始める。

 

 「スレイ変だねー」

 「フフッ。そうだねエダ」

 

 ミクリオはエダの頭に軽く頬擦りすると、エダを膝から下ろして立ち上がる。

 

 「なんかミクリオがジイジに似てきた」

 「そりゃ光栄だね」

 

 半眼のスレイの軽口を受け流しながら部屋の扉を開けると、いろいろと準備があると残して手を振りながら出ていってしまった。

 

 「なんか"お母さん"みたいだね」

 「おかあさん?」

 「んー。オレもよくわかんないけど、優しくて、それからすっごく強いんだってさ!」

 「じゃあ、ミクリオだね!」

 

 スレイとエダはイヒヒと笑い合うと、手を繋いで村の入り口まで歩きだした。

 

 

・・・

 

 

 村の入り口付近。

 やぁ、待ってたよ。と既に準備を終えて先に到着している有能なお母さんと合流し、イズチの門より少し先。アロダイトの森の入り口付近にある、広場のようになっている場所まで移動した。確かスレイと村を抜け出して、初めて旅に出た日。二人で朝日を眺めた場所だ。

 

 「さぁ、始めるよ。まずはエダがどの属性を扱えるのか確認をしていこう」

 「うん!」

 

 ミクリオはわくわくを隠せていないエダに少し苦笑しながら、まずはお手本を見せると言い、水属性の初歩天響術である"フロウ"を空に向けて放つ。あえて杖を回転させずに放ったそれは、水流であったのも束の間。即座に失速し、ただの雨粒のように大地に霧散した。

 

 「おー!」

 

 エダが嬉しそうに手を上げる。そして、なんかわかっちゃったかも。と言いながら深く腰を落とした。

 

 何事かと目を見張る二人の前で、両手を腰の右側に組み合わせ、そして紫色の紋章がエダの周囲を取り囲むようにいくつも現れる。

 

 「これは!ジイジと一緒じゃないか!」

 「って、ミクリオなんかこれヤバい!!」

 

 あっという間に拡がった紫雷にミクリオとスレイも囲まれてしまう。制御などハナからされていない雷は草花を焼き、空気すらも焦がしていき、とうとうスレイとミクリオを飲み込もうした時。

 

 「はああああ!サンダァァアア!ブレェェェェド!!」

 

 叫ぶと同時に複数展開されていた紋章が、瞬時にエダの手の中に収束したかと思うと、眩いほどの光を放ち、ひと振りの長大な剣の形を成した。

 更にエダはその長大な剣を腰だめにすると、シッ!という呼吸に合わせてその剣を横凪ぎに振るう。

 

 キュガガガ!!

 

 まるで大気が悲鳴のように耳障りな音を立てたかと思うと、一瞬の内に紫電の光は遥か向こうに見える山に吸い込まれるように飛んで行き、後には派手な破砕音とまるで火山が噴火した後のような土煙が上がった。

 

一瞬呆然としたスレイとミクリオだが、復活が早かったミクリオが大声で叫ぶ。

 

 「スレイ・・・まずい!消火、消火だ!」

 「うわあああ!ルズローシヴ=レレイ!!」

 

 慌てたようにスレイが叫ぶと、ミクリオの体はスレイに吸い込まれ、そしてまばゆい青光の後、真っ白な衣服に身を包んだスレイが現れた。

 

 「まずは蒼穹の十二連!」

 

 先ほどエダが放った紫電の刃の先に向かって水の矢を放つ。そして今度は直上に弓を向けると、目では捉えられない速度で大量の矢を上空に放つ。

 

 「アローレイン!!」

 

 降り注ぐ水の矢が辺り一面に降りしきり、小さな火種を次々と消していく。他にも目立った火種や燻っている草木に水をかけていき、粗方火を消し去ったことを確認すると、額の汗を拭ってから、神依を解除した。

 

 元の姿に戻ったスレイとミクリオ。そしてその視線の先には驚いた表情のエダが居た。

 エダは何度か大きな瞳をパチパチと瞬かせると、とても驚いた様子でこう言った。

 

 「スレイ、ミクリオ・・・。なんか出たかも!」

 

 自分が今行ったことを全く理解していない様子のエダに、二人は毒気を抜かれてしまい、ただただ地べたに座り込むしかないのであった。




ヘルダルフの愛称がエダになるまでの流れ。

ヘルダルフ→へーるだるふ→へえるだるふ→ヘエルダルフ→エルダル→エル?ダル?(長考)→エダ!

という、このような単純な思考で決まりました。

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