テイルズオブゼスティリアクロスIF ~聖主の願い~ 作:ソフトな何か
雲の絨毯が眼科に広がっている。落ちたらなんて無粋なことを言うつもりは今さらないのだが、実際に落ちたことがあるのでなんとも言えない気分になってしまう。
壁画の前。確か前に来た時はスレイが最初に見つけたんだっけ。
僕はそっと壁に手を触れると、慈しむようにその表面を撫でる。
この壁画に描かれた導師の姿を見て、僕とスレイは思いを馳せていた。
ここに描かれているのはアスガード時代中紀に登場したという最初の導師。あれから僕も調べていろいろなことを知った。
アスガード時代にも災渦の顕主が現れたこと。それをカノヌシと共に鎮めようとした初代の導師。
過去にも沢山の導師が存在し、人間と共に災厄に立ち向かったこと。
中には真逆の話しが書かれたものもあったが、大筋では初代導師と災渦の顕主が戦ったことが書かれていた。
実はマギルゥという名のメーヴィンが残したと言われる書物を見たこともあるが、きっとこれは本物ではないのだろう。
そこにはまるで導師が世界を滅ぼすとも取れるような記述や、カノヌシと共にこの空の向こうに渡ったなどの荒唐無稽な記述が多く書かれていた。
メーヴィンを騙る誰かが書いたものだとしても、あまりにも内容が突飛すぎて、とても正気とは思えない。
しかし、フィクションとして捉えるのであればとても面白く、スレイなどが聞いたら絶対に聖主の御座を探しに行こうと言い出して、きっと僕も一緒に旅をすることになるのだろう。
少しだけ想像してフッと笑みが溢れる。
最近はよくスレイの事を思い出す。
今もこうしてイズチに戻り、ジイジの遺跡を探索しているのはスレイの事を思い出したからだ。
あの最後の戦いから100年以上が経った。
世界から穢れは消えていないが、それでもあの頃に比べると穢れの量も憑魔の数も格段に減ったように思う。
今も"鎮め"の力を扱えているのはスレイが生きている証拠であり、また主審であったライラが健在の証でもある。
今頃皆はどうしているだろうか。
確か最後に会ったのはアリーシャ王妃が亡くなった時だったか。人間と天族の生きる時の違いを思い知らされた時で、少し余裕を失った僕は一人で旅に出たのだった。
ライラたちは確かロゼの子孫が従士となった事で共に旅に出たはずである。
便りなどはないが、力が使えている以上彼女らも元気に過ごせていると思う。
そうだな。スレイが帰って来たらまたみんなに会いに行こう。きっとスレイもみんなも喜ぶはずだ。それから・・・。
ガラッ!
「!? しまった!」
考え事をしていて足元を疎かにしていた。あれから100年以上経っているのに僕はまるで成長していないじゃないか。
驚きと後悔が背筋を冷たくさせる。
僕は崩れた足場の縁に手をかけようとして、そして。
ガシッ!
「うわっ!」
突然手を掴まれた。
ガララ・・・。
落ちていく瓦礫がかなり深い場所で破砕していく音が響いた。もしそのまま落ちていれば、僕もそうなっていたかもと思うとまた背筋に冷たい汗が流れる。
宙に浮いた状態でぶらぶらとぶらさがりながら、しかし、"そんなことよりも" 今はこの手を握っている主が誰かという方が気になってしまう。
逆光のため、顔がハッキリ見えないがシルエットだけでも見間違うわけがない。
それに握っている手にはめられたグローブこれはかつて・・・。
「スレイ!」
「久しぶり。ミクリオ」
逆光に慣れてきた目で懐かしい笑顔を見つめる。
間違いなかった。僕の知っているスレイだ。
あの頃と少しも変わっていない。
「いまっ!引き上げるから!」
スレイはふんっと一瞬力を入れると、穴から引き抜くように僕を引き上げた。
「ふぅ。間一髪だったなぁ」
服に着いた汚れを軽くハタき落としながら、僕も一息つく。あの程度落ちたところで今の僕には造作もないことだったが、助けられた時、握りしめた手が僕らが旅立つ前のことを思い出させて、少しだけ嬉しかった。
「今度は助けられちゃったね」
「だな」
屈託なく笑うスレイの笑顔が本当に懐かしくて。これは現実なのかと疑ってしまいそうだった。
「いつ戻ってきたんだ?」
話したいことが山ほどある。早く。早くスレイと喋りたい。行きたいところも沢山ある。
「さっき。とりあえずイズチに戻ってからみんなを探そうと思ってたんだけど、まさかミクリオが戻ってるなんて思わなかったよ」
「実は僕もたまたま立ち寄ったところだったんだ」
「じゃあ、ラッキーかな」
僕とスレイは拳を握りしめ、お互いのの手の甲をぶつけると、同時に微笑んだ。
「おかえり。スレイ!」
「ただいま。ミクリオ!」
約束は守られた。スレイが戻った。ということは・・・。
「ヘルダルフは?」
あのキララウス火山での最終決戦。
スレイは災渦の顕主であるヘルダルフを浄化するためにあの地に残り、100年という歳月を過ごしてきたのである。
きっとここに彼が居るということは、ヘルダルフはもう・・・。
「ヘルダルフは・・・」
スレイは言い淀むと自分の後ろを振り返った。
そして。
「・・・」
姿を現したのは人間で言うところの10歳くらいの少年。
まだあどけない子供の顔立ちで、柔らかそうな銀髪にアメジストのような美しい紫の瞳が、怯えを孕んだ色で僕を見つめていた。
「スレイ。この子は?」
たぶん天族だろう。人間にはない清廉とも言える空気を纏った子供だった。
どこかで見つけてイズチにでも連れてきたのだろうか。
確かに憑魔も減ったとはいえ、こんな子供が一人で過ごすのはとても危ない。
「いやぁ・・・」
なんだ?やけにもったいつけるじゃないか。
まさか・・・。
「はっ!スレイの子供かっ!」
「違う!それはないっ!」
まぁ確かに。こんな大きな子供を育てている時間なんてなかっただろうし。うーん。
「怒らない?」
「子供以上に衝撃的な内容じゃなければね」
スレイは少しだけ逡巡するような仕草をみせると意を決したように口を開いた。
「この子がヘルダルフなんだ」
「そっか、ヘルダルフくんね。よろしくヘルダルフ・・・ってええええええ!?」
予想を遥かに上回る告白に思わず大声を上げてしまう。
いや、驚くだろう。
「へっ!へっ!ヘルダルフっ!嘘だろ!?」
「ミクリオはちょっと見ない間に髪伸びたね。あと今の犬みたい」
「サラッと流せる内容じゃないぞっ!」
明らかに話題転換を始めるスレイを一喝し、改めてヘルダルフを見る。戦った時は大きな獅子の顔をしていて、瞳石で見た時の顔は髭を生やした精悍な顔つきだったのだが・・・。
さっきの僕の大声でさらに怯えてしまったのか、スレイの後ろにがんばって隠れようとしているヘルダルフの頭を掴み、ジタバタ暴れているのを抑える。
「まぁ、転生してるから元ヘルダルフだけどな」
「むぅ。確かに」
掴んでいた頭を話すと、一目散にスレイの後ろに回り込み、今度は涙目でこちらを見つめている。
「昔のヘルダルフがこんな顔するわけないしな」
僕は小さくため息をつくと、ヘルダルフと同じ目線になるように屈むと、努めて優しい声を意識しながら喋りかけた。
「僕の名前はミクリオ。いきなりごめんな。別にキミをどうこうしようなんて思ってないから大丈夫だ」
「ほら、ヘルダルフ」
スレイに促され少しだけ顔をだしたヘルダルフはまだ少しだけ怯えているようだが、小さく、とても小さくだがコクりと頭を下げた。
悪い奴じゃ無さそうで何よりだ。いや、今のは僕の方が悪いか。
少しだけ凹みながら乱れた髪の毛を掻き上げた。
100年ぶりの親友との再開。
旧敵との不思議な出会い。
僕はスレイが居なくなってから失いかけていた自分の世界の色が、少しずつ鮮やかさを取り戻しはじめているのを感じていた。
今回も読んでいただいてありがとうございます。
ここまではほぼテレビやらゲームやらの内容ですね。
次回で新しい旅の目的が!
あと、もしかしたら誰かでてくるかも?マジですか?(他力本願