テイルズオブゼスティリアクロスIF ~聖主の願い~   作:ソフトな何か

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大きなくくりで今回から第二部といったところです。
またお話が動きます。

さぁ、始まりますよ。





二章.混じり会う世界
12.第二のプロローグ


 止めろ!

 

 私に笑顔を向けないでくれ。

 

 

 止めろ!

 

 私に優しくしないでくれ。

 

 

 止めろ!

 

 私に信頼など向けないでくれ。

 

 

 止めろ!

 

 私を・・・兄と呼ぶのは止めてくれ。

 

 

 

 いつからこの葛藤を止めてしまったのだろう。いや、無くしたと言った方がいいかもしれない。

 

 彼女を失った数年間。

 何かを成そうとする度に続いた葛藤。それも今ではほとんど感じることはない。

 心が壊れてしまったのだろうか?

 ・・・いや、そうではないはずだ。

 確かに今でもこの胸の奧ではチリチリと小さな痛みが走っている。

 

 ああ、そうか。

 本当に覚悟ができた。ということなんだろうな。

 

 これが本当に正しい道。これが本当に救われる道。

 繰り返してはいけないのだ。あの惨劇を。あの絶望を。

 だから、これは必要なことなんだ。

 だから・・・。

 だから・・・。

 

 

 そんなに涙を流さないでくれ。

 

 

 目の前で涙を流す、美しい黒髪の女性。

 彼女の涙を拭いたくて右腕を伸ばす。しかしその右腕は肘から先が黒く霞んで見えない。

 

 彼女の顔はこんなに近くにあるのに、その涙すら拭えないことに絶望を感じる。

 

 そうだ。これだけ犠牲にして、これだけ失って、それでもまだ、私は世界を救えないのか。

 

 

 本当におかしな話だね。

 

 

 "セリカ"

 

 

 

・・・。

 

 

 

 うっすらと目を開ける。

 視界に映るのは緑の草木。

 長く人の手をつけられていないであろう木々たちは、太陽の光を遮り、昼間なのにとても冷たい空気が辺りを支配していた。

 少し湿ったような土の匂いと草木が発する独特の匂い。どうやら、自分は森の中に居るらしい。

 

 「ぐ・・・うっ・・・!」

 

 上体を起こそうとしただけで体がバキバキと音を立てる。どれほど長く自分はここに倒れて居たのだろう。

 いや、そんなことよりも気になることがある。

 

 右腕が・・・。

 

 右腕を見ると、肘から先が無かった。

 

 "おかしい"。

 右腕はどこで無くしてしまったんだ。

 それにこの胸の傷跡は・・・。

 

 視線を落とすと、服のみぞおち部分が破れており、その下には大きな傷跡が残っていた。

 まるで何かに刺されたかのような傷。

 

 私は誰かに刺されたのか・・・?

 

 とりあえず近くの木を支えに立ち上がる。

 辺りを見回すと長い剣が落ちていた。

 自分の腰辺りを見ると鞘。

 なんとか拾い上げ、それを鞘に挿してみると、すんなりと収まってしまった。

 きっとこれは自分の剣だったのだろうと判断する。

 もう一度鞘から抜き出して見てみると、美しい装飾の施された剣は少しの歯こぼれはあったが、研ぎ直せば問題ないという程度の損傷しか受けていないようだった。

 しかし・・・。こんなに重い剣を振り回せるのか?

 鞘に挿し直して軽く振ってみるが、思いの外手に馴染むような感覚があり、振り方さえ気を付ければ振れないことはなかった。

 

 ふむ。

 

 剣をそのまま杖代わりにし、少し呼吸を落ち着けてから辺りをもう一度見回す。

 先ほどは横になって見えなかったが、少し行った先に道のようなものが見える。

 

 「少し歩いてみるか」

 

 思うように動かない体に四苦八苦しながら前に進む。

 左手に体重を乗せすぎたのか手首があっという間に悲鳴を上げた。まだほんの数分しか歩いていないというのに、足もすぐに限界を迎えたようだ。

 

 近くにあった大きな木を背に、ずるずると腰を降ろす。

 

 「ふぅ・・・」

 

 疲れた足を投げ出して、服の襟元を大きく開ける。

 今になって気づいたが、自分はとても豪華な衣装を身につけていることに気づく。

 真っ白な頑丈な下地に、金であしらった装飾の数々。そのデザインから、よっぽど身分の高い者が着るような服に感じて、少しだけ違和感を感じた。

 

 さて。これからどうするか。

 

 「・・・」

 

 あまり考えないようにしていたが・・・。

 

 「記憶が・・・無い?」

 

 いや、全く無い訳ではない。ここが森の中であるとか、自分が着ている服が豪華な物とか、そういったことが判断できるほどの記憶はある。

 しかし、なぜなのだろう。自分の過去や自分に関すること、そういったものが全くと言っていいほど思い出せない。

 この胸の傷と関係があるのだろうか。それとも倒れる際に頭でも打ったのだろうか。何も思い出せないのである。

 

 とにかく森を抜けねばな。

 見たところ食料や水なども持ち合わせていない。

 今の体調では獣を狩ることも出来ないだろう。

 

 「まぁ、仮に獣が狩れても、火を起こす道具が無いがな・・・」

 

 

 

 「あら、火ならここにありますよ?」

 

 

 

 「っ!?」

 

 突然背後に現れた声と気配。

 木を挟んで後ろ側。

 そこから"聞き覚えのある女の声が聞こえた"。

 

 「そんなに警戒しないで下さい。と言っても無理がありますよね」

 

 そう、本来なら女の声が聞こえただけで、警戒する必要なんてない。

 だが自分の心と体が早く逃げろと警鐘を鳴らす。

 

 彼女から感じる分かり易すぎるほどの"殺気"。

 

 それを駄々漏れにさせながら、女の足音が、草を踏む音が、少しずつ自分に近づいている。

 

 逃げろ!

 

 早鐘を打ったような心臓の鼓動がそう告げるが、そもそも立ち上がることすら一苦労であるこの状況。

 立ち上がっている最中に殺されでもしたらたまったものではない。

 

 ならば・・・!

 

 足で前に向かい地面を強く蹴り、そのまま全体重を前に倒して前転する。

 

 ゴゥ!

 

 その瞬間背後の大きな木が炎に包まれ、大きな音を立てて崩れ落ちる。

 

 「くっ!なんだ!」

 

 前転の勢いのままバランスを崩さないように立ち上がり、背後を向く。

 先ほど少し動かしたおかげか、幾分か体が言うことを聞くようになってきているようだが、戦うにはまだ足りない。

 

 「あら、避けられてしまいました。これは少し甘く見すぎていたのかもしれません」

 

 炎の向こうから、やけに楽しげな女の声が聞こえる。

 やはり聞いたことがあるその声に少しの違和感を覚えながらも、頭を強く振って逃げることに意識を集中する。

 

 「では、もう少し本気を出させていただきますね」

 

 言うと自分の足元に、真っ赤に輝く紋章が現れる。

 

 「我が火は舞い踊る・・・紅蓮の業嵐・・・」

 

 マズいっ!

 後ろも確認せずに背後に大きく跳躍。

 

 「トルネードファイヤー」

 

 ゴォオオオオオ!!

 

 「ぐぅ!クソッ!」

 

 目の前で起こった炎の竜巻に体が押され、宙に浮いた体が大きく吹き飛ばされる。

 

 「ガっ!?」

 

 飛び降りた先、大きな岩がありそこに勢いよく体をぶつけた。

 なんとか炎を避けることはできたが、ダメージは深刻。早くこの女から逃れなければ。

 

 「また避けたんですか?これはいけませんね」

 

 まだ炎の竜巻が渦巻くその向こうから、女が走って来るのが見える。

 炎をものともせずに進んでくるその姿に、今度こそ背筋が寒くなるのを感じる。

 

 あまりにもデタラメな行動。

 一瞬剣を抜こうか迷ったが、剣を抜いたところで炎に巻かれてしまっては戦うことすらできない。

 それに近接戦すら自分よりも強かったらと思うと決断を鈍らせる。

 今のこの絶不調の状態。絶好調だとしても勝てるかわからない相手に剣を向ける気すら起こらなかった。

 

 近づいてくる人知を遥かに超越したその存在に、胸の奥がなぜか少し痛むのを感じたが、それを無視して背後を向いて走る。

 

 地形を無視した全力逃走。

 突きだした木々に体を切り裂かれるがお構いなしに走る。

 そして見えたのは崖。

 

 「くっ!」

 

 急ブレーキをかけて滑りながら背後を向く。

 

 「つかまえました」

 

 「!?」

 

 目の前に女の顔。

 

 とても整った顔立ちをしていたが瞳は見開かれ、そこには狂気が宿っていた。

 女は口の端を大きく歪めていびつに嗤う。

 

 「こんな瞬間が訪れるとは思っていませんでした。ほんとにほんとに偶然なんですよ?だから私嬉しくって!」

 

 瞬きもしない女は、自分の頬をその繊細で真っ白な手で、まるで恋しいものにでも触れるように両手で撫でる。

 体が恐怖で動かない。なんだこの女は。

 

 「震えていますね。恐いのですか?・・・でも、あなたに殺された人たちは、もっと恐かったんですよ?」

 

 この女は何を言っている!

 知らない!私は知らない!

 

 「私と話す気はもうありませんか・・・。では、お別れです。あの子たちによろしくお願いしますね」

 

 違うっ!そうじゃない!

 

 女の足元から先程と同じように赤い紋章が浮かび上がる。

 

 逃げ・・・!!!

 

 「イグニートフォトン」

 

 ドンッ!!

 

 至近距離。

 女を中心に膨れ上がった炎は大きく広がり、こちらの体を飲み込んでいく。

 その圧力と熱から意識を刈り取られ、男は成す術もなく崖の下へと落ちていった。

 

 「・・・これでは殺せたか分かりませんね。失敗しました」

 

 しばらく女は崖下を眺めていたが、静かに呟くと男が落ちた崖に向かって躊躇なく飛び降りていった。




 始まりました第二部。
 男の正体は、それに女の正体は、一体誰なんでしょうか。

 本格的にゼスティリアとベルセルアが干渉を始めました。

 不安で不安で仕方の無い幕開けですー。

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