八咫烏ってMなのか?   作:凛之介

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八咫烏って照れ屋なのか?

「お!兄ちゃん四等~!」

 

よく訪れている商店街の一角で俺は多くの人に拍手されながら、景品を受け取る。景品はタコ焼き機だ。

タコ焼き。生地の中にタコを入れて丸く焼いたもの。

細かくは知らんが、とにかくタコ焼きが家でもお手軽に作れるのだ。

正直に言おう。

 

「おっしゃぁぁ!」

 

たこ焼き、かなり好きだ。

 

 

土曜日に商店街で買い物をしたら福引券を頂いたので引いてみたら、素晴らしいものを当てることができた。

俺ってくじ運強いのかな?

福引券を三枚もらって結果はタコ焼き機一台とポケットティッシュが二つ。

後半のティッシュ二つが正直残念だったが、タコ焼き機の嬉しさの方が大きい。

 

「ただいま~」

 

玄関扉を開けて靴を脱いでいると八重が居間から走ってきて、俺に飛びついてきた。

が、右手に持っているタコ焼き機の入った箱に勢いよく膝をぶつけてしまい、その場に蹲ってしまう。

それでも口元がにやけている辺り流石Mと言ったところか。

上機嫌な俺はお姫様抱っこで八重をソファまで運び、座らせてやった。頭を撫でながら時計に目をやると十一時半だ。

 

少し早いが、昼飯にしよう。今日はタコ焼きパーティーだ。

福引の後に買った、タコ焼き粉などを用意しながら八重に紅葉を呼んでくるように命令する。

 

「あとで撫でてね~」

 

と訳の分からない交換条件を残して二階へ上がる八重は放っておいてタコ焼き機のセットも済ませておく。

生地も準備して食器類もすべて用意した。

 

「おや、榊。なんだかご機嫌だね」

 

「ふふふ、タコ焼き機が当たってな。今日はタコ焼きパーティーだぞ」

 

今日は特別にいつもの食卓ではなくソファの前のローテーブルを囲んでの昼食だ。

タコ焼き機の電源を入れ、油をしいて十分に熱したら生地を流し込んでいく。

その後、天かすやタコを入れて暫くの間焼けるまで待つ。

 

「そうだ、特別にジュースも買ったんだ」

 

「ホントご機嫌だね……」

 

八重が驚いたように呟き、紅葉はずっとニコニコしている。

サイダーとミルクティー、それぞれ二リットル入りのペットボトルをローテーブルに置き、コップに注いで乾杯する。

紅葉はジュース類が好きなようで幸せそうな顔をしてサイダーに口を付けている。

かくいう俺もサイダーで、八重も……。ミルクティーいらなかったかも。

 

「そろそろいいかな」

 

竹串を使ってクルンとタコ焼きを一回転させると、うん良い焼け具合だ。それを見た二人も竹串で同じようにひっくり返していく。

皆の手元に数個のタコ焼きが行きわたったところで、合掌していただきますと唱える。

 

「あっつ、あふ、ほひひ~♪」

 

「こら八重飲み込んでから喋れ!」

 

タコ焼きを口いっぱいに頬張って幸せそうな表情を浮かべる八重。

口元の周りに青のりを付けてたままの笑顔は可愛らしいが、少々行儀が悪い。

そんな八重に注意しながら口元を拭ってやる俺を紅葉はクスクス笑いながら眺めていた。

いつも通りだけどちょっとだけ特別な昼食。

 

 

「タコ焼きってこんなに美味しいんだねぇ」

 

紅葉が口に手を当てて感心したように溜息をもらす。二人ともまだ食べたことがなかったらしい。

ちなみに二人とも俺よりも年上である。

最近聞いたのだが、やはり人間と八咫烏では寿命がかなり違うらしい。

八重なんてこの見た目で六十七歳だとか。紅葉は年齢を教えてくれなかったが、恐らく百歳くらいだろう。

まぁ、長生きはしているものの基本的に烏として生きていたから、あまり人間の食べ物は食べたことがないらしい。……その割には料理とかできるのは何故だろう。

 

「これ、タコ以外にも入れても面白そうだね」

 

「おっ、そうだな。やってみるか」

 

紅葉の提案により台所から色々な材料を持ってきて次々に焼いていく。

それが美味しかったり微妙だったりして意外と盛り上がった。が、八重は何故かその間静かだった。

八重にもちゃんとタコ焼きはあげたんだけどなぁ。

 

「ちょっとトイレに行ってくるよ」

 

「おう、行ってら」

 

紅葉が居間から出ていくと、八重が俺にすり寄ってくる。

少し膨れた赤い頬を見て、俺は納得した。

こいつは俺が紅葉とばっかり話しているから拗ねたのだ。

むっとした顔で俺の二の腕に額を押し付けてくる八重をひょいと持ち上げ、胡坐の上に乗せる。

しかし、後頭部が丁度俺の口元付近にきてしまい、八重の甘い髪の香りがダイレクトに鼻腔へと入り込んでしまい、慌てて膝からおろした。

少し残念そうな顔をした八重だが、その場で仰向けに寝転がると俺の膝の上に頭を乗せた。

 

普段なら注意するところだが、今日は特別に許そう。

それに、甘えてくる八重はすごく可愛いからな。

前髪を退けて額を撫で繰り回していると、紅葉が戻ってきた。

 

「おや、仲良しさんだねぇ」

 

母親のようなことを呟きながら座り込み、コップに入ったサイダーを飲みだした。

と、俺はあることに気が付いた。

 

「なぁ紅葉」

 

「んー?」

 

サイダーを飲みながら紅葉がこちらに目をやる。

 

「それ、俺のコップだぞ?」

 

と、その瞬間紅葉は勢いよく咳込んだ。コップを慌ててテーブルに戻し、

 

「え、さささ榊のかい!?」

 

狼狽えながら俺に向けた顔は真っ赤に染まっていた。目も髪も赤いから本当に真っ赤だ。

こんなに照れている紅葉は初めて見たな。

その様子がおかしくてつい吹き出してしまう。それに慌てて紅葉が

 

「ちょ、そんなに笑わなくてもいいでしょ!?」

 

と反論するが、いつもと口調も違いそこを指摘するとさらに頬を赤く染めた。

それがまた可笑しくて笑ってしまい、紅葉もさらに反論してくる。

 

紅葉の文句を受け流していると、不意に八重が起き上がりミルクティーのペットボトルを手に取った。

何故かこちらを不満そうにジト目で見つめてくる。

 

「どうしたんだ八重」

 

コップにミルクティーを注いでいる八重に問いかけたのだが何も返答されない。と、俺は気付いてしまった。

八重がミルクティーを注いでいるコップが、先ほど紅葉が間違えて口を付けた俺のコップであることに。

 

「おいそれまだサイダー残ってるだろ!?」

 

慌ててコップを奪い取って覗くと、少し薄いミルクティーの中で弱弱しく炭酸がはじけている。

八重はそれを確認すると、満足げに頷いてたこ焼きを頬張り始めた。

 

「なぁ八重、俺が何をしたよ……」

 

「ん~おいひい♪」

 

「ちょっと榊聞いてるのかい!?」

 

騒がしい、でもすごく楽しいタコ焼きパーティー。今後も何回か開こう。

普段と違った食事もいいものだ。

あ、これタコ入ってねぇ……。


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