次回の伏線はこのためです。もし「お、新キャラ登場か!?」的な期待をされていた方はいらっしゃいましたら申し訳ございません!
今回コラボということで、とても楽しく執筆させていただきました。そありん有難う!!!
それではコラボ回、ごゆるりとどうぞ!
ケモ耳娘拾いました→https://syosetu.org/novel/104628/
高く上った陽の下を、俺達は口に残ったラーメンの味について談笑しながら歩いていた。
「あぁ、最っ高だったよ……また行こうね、榊っ♪」
満足げにしている八重だが、その台詞に俺を含めた三人は若干―いや、かなり引いている。八重がラーメン屋で頼んだのは激辛つけ麺。店内に「ご注文は自己責任でお願いします」という張り紙を見つけぞっとしたが、勿論八重は目を爛々と煌かせ、意気揚々に注文していた。一口頂いたが、正直あれは兵器だと思う。八重は平気だと言ってたけれども。
興奮している八重は可愛いのだが、自分もその辛さを身をもって実感しているため、今回ばかりは「八重は可愛いなぁ!」という反応は示すことができない。何せその一口のせいで舌が焼けるように熱く、自分のラーメンを食べるのが最早拷問と化していたのだ。故に、ラーメンの感想をまともに語り合っているのは紅葉と烏沙義だけだったりする。
「味噌ラーメン美味しかったね、烏沙義」
「はい、とっても美味しかったです!」
俺と八重の少し前を歩く二人。紅葉が烏沙義と手をつないで歩いているその姿は、母親そのものだった。
と、不意に進行方向から三人組が歩いてくるのに気が付いた俺は、軽く目を疑った。
俺と同じくらいの背丈の女性と、さらにその女性を見下ろしている男性。百八十はあるであろうその男性は、烏沙義と同じくらいの背の少女も連れている。仲睦まじく会話しているが、家族……なのか? よく分からない一行である。俺も人のことは言えないが。
「帰ったらいっぱい攻めてくださいね、春斗さん♡」
「ゲームの話だな、よし来た!」
「春斗ってチキンだよね」
……会話の内容が微かながら耳に届いたのだが、あの女性、中々の性癖を持っているようである。うちの八重と分かり合える存在かもしれない。
「榊、私も帰ったら責めてほしいな♡」
「こら、公の場でそういうことを言うんじゃない」
「紅葉はやっぱお母さんみたいだな」
「紅葉お母さんですね~♪」
そんなやり取りをしている間にも三人組との距離は縮まり、ついにすれ違った。が、その時だ。
「「あっ」」
烏沙義が女性がぶつかり、尻餅をついてしまう。女性は「大丈夫ですか!?」と慌てて烏沙義に手を差し伸べてくれたのだが……
「ちょ、アズキ!!!」
男性が顔を蒼く染めて女性の落とした帽子を再度頭に被せるが、残念ながら遅かった。俺たちの目にはすでに焼き付いてしまったのである。
女性の頭から生えた、犬のようなケモ耳が。
◇ ◇ ◇ ◇
「じゃあアズキさんとクロネちゃんは半獣なんだー。私達とはちょっと違うみたいだね」
八重は向かいに座ったアズキさん達をしげしげと見つめながらクッキーを頬張る。クロネちゃんも食べたそうだったので「食べていいよ」と勧めてあげるとすごく嬉しそうに尻尾を揺らしてお菓子に手を伸ばした。
二人の半獣を連れた男性―春斗さんは、あの後八重達が八咫烏という存在であることを教えると、安堵したように息を吐いていた。折角なので家に招き、少し早めのおやつタイム中である。
アズキさんと子供組がソファー前のローテーブルでお菓子を食べてる中、俺と春斗さんは食卓に向き合って座っていた。
「――という訳で、うちの八重はドМなんですよ。すぐ罵れだの責め立てろだの」
「アズキも攻めてほしいとかよく言ってるな。受け身仲間だな。首輪付けられたがるし」
「……お互い苦労しますね」
無言でうなずき合う俺達。人外の家族を持つ人と話すのは初めてだが、こんなにも共感できる話があるなんて……。いや、共通してるのは人外という点ではなく、手がかかるという点か。
「話を聞く限り、烏沙義とクロネちゃんも仲間だよね。二人とも元盗人だったんだし」
俺達の前にお茶の入った湯飲みを置いた紅葉が盆を抱えてニコリと微笑む。そんな紅葉を、何故か目を輝かせて見つめる春斗さん。どうしたのかと尋ねると、疲れたように溜息を吐いて
「うちにも、こういう気の利く人がいたら楽なんだけどな。って……」
「ちょっと春斗さん!? 私家事とかやってますよ!?」
「お茶旨いな……紅葉さんありがとう」
反論をガン無視されたアズキさんが頬を膨らます。無視されて怒る辺りは、八重の方が重症だな。
確かに、紅葉という保護者的存在がいてくれるお陰で俺自身とても助かっている。今度お礼しなきゃな……そういえば以前理由は分からないが小鳥遊から遊園地のチケットを二枚貰った。それで紅葉を誘ってみるか。
お菓子に満足したのか、八重がローテーブルから離れて俺にくっついてくる。ああああ可愛い! と叫びたいが、客人の前では我慢だ。我慢。でも撫でちゃう。
「随分と懐かれてるんだな。八咫烏か……どういう経緯で知り合ったんだ?」
「道端の烏に缶投げつけたら、痴女が不法侵入した上に脅してきたんです。家族にしろって」
「えぇ……」
てへへと舌を出す八重の頭をくしゃくしゃと撫で繰り回し、俺は春斗さんに尋ね返した。
「春斗さんこそ、半獣なんてどこで知り合ったんですか?」
「拾った」
「え」
「拾った」
……アズキさんにも色々な事情があるのだろうと悟り、俺はそれ以上聞くのをやめた。
「ねぇ榊さん」
不意に猫耳の少女、クロネちゃんが俺に歩み寄ってきた。何故だか烏沙義と手を繋いでいる。
ニコニコ顔の烏沙義を見るあたり、すっかり仲良くなったみたいだな。
「今日クロネちゃん達とお泊り会したいのです!」
「いいぞ」
「え!?」
俺の即答に驚いたのは春斗さんだった。着替えもないし迷惑だ、と慌てた様子で首を振るが、俺は別に気にしない。それに、クロネちゃんとアズキさんは一度帰って必需品を持ってくる気満々のようで既に玄関へ向かってしまった。そんな二人を見て申し訳なさそうに頭を掻いた春斗さんは、
「……じゃあ、お言葉に甘えようかな。なんか菓子折りも持ってくるよ」
足早に二人を追いかけて玄関へと向かっていった。三人の見送りから戻ると、嬉しそうにぴょんぴょんと跳ねる烏沙義を撫でながら、紅葉が少し気合の入った笑顔で俺に目線を向けてくる。
「全く、今日の夕飯は豪華にしなきゃいけないね」
「そうだな。紅葉手伝ってくれるか?」
「当たり前だろう。榊のためなら何でも手伝うさ」
仰々しくそう言う紅葉に礼を言い、俺はみんなの顔を見渡した。
さぁ、来客を出迎える支度をはじめよう。
◇ ◇ ◇ ◇
「ご馳走様でした!」
普段からは考えられないような手間をかけた夕食に三人とも満足してくれたようで、紅葉とハイタッチをした。
ちなみにアズキさんに事前に頼まれていたので玉ねぎは使っていない。そういや八重と暮らし始めた時、気を遣って玉ねぎ抜いたら文句言われたなぁと思い出し、自然と笑みが零れる。
デザートは春斗さんが買ってきてくださったケーキとコーヒー。口に広がる甘さを楽しみながら談笑に花を咲かせた。
「八重ちゃんなら理解してくれるかもと思って、これ持ってきたんですけど……」
「おいこらアズキ。何持ってきてんだ馬鹿。てか何時買った!?」
「首輪!? 榊、私に付けて! そんで思いっきり引っ張って踏んづけて罵って♪♪」
「やっぱり興奮してる八重可愛いなぁ」
「さ、榊……」
「クロネちゃん、UNOしましょー!」
「うん、やろう」
艶めかしく息を荒げる八重を撫で繰り回しながら、ふと時計に目をやる。二十一時、もうこんな時間か。楽しい時間は流れるのが実に一瞬である。
時が止まればいいのにと思うこともあるが、終わりがあるからこそ価値が出るのだ。終わりがあるからこそ、幸せなこの時を大切にしようと思うのだ。
「風呂、春斗さんお先にどうぞ」
「ん、じゃあ一番風呂頂くよ」
「お背中お流しします!」
「くんなエロ犬」
順番に入ってかないとなぁ、一人三十分としても大分時間がかかってしまう。どうしたものかと考えていると、八重と紅葉の目が光った。あぁ、デジャヴを感じる……。
「八重、烏沙義と入っといで」
「あはは、紅葉が烏沙義と入んなよ♪」
「私クロネちゃんと入りたいです!」
二人の邪な考えは、またもや純真な烏沙義ちゃんによって打ち砕かれたのでした。まる。
ならば烏沙義クロネちゃんペア、アズキさん、紅葉八重ペア、俺の順でいいか。と考えていたら、アズキさんが八重の肩に手を置いた。
「八重ちゃん私と入りません?」
「! うん、いいよ!」
少々驚いた八重だが、アズキさんの誘いを快く受けた。となると……。なぜか少し顔を赤らめている紅葉と目線が合う。まぁ、流れでそうなるよな。仕方がない。
「俺、入るの最後でいいぞ」
「ですよね……」
俺と紅葉は別々だな。というか、紅葉が残念そうにがっくりと肩を落としたのだが、一体どうしたのだろうか。
各々風呂の順番が回ってくるまでくつろぎ、俺は一番風呂を上がった春斗さんとソファに座って、お茶を飲みながらまた会話に勤しんでいた。
「にしても高校生で家事もできて、しっかりしてるな」
「いやぁ、両親がいないのなんていつものことだったんで」
「でも、四人分の食事とか大変だろう。紅葉さんも手伝ってくれてるんだろうけど」
その言葉に紅葉と顔を見合わせ、俺は小さく微笑んだ。
「そうですね、大変です。居間は散らかるし、料理は大変だし、いつも騒がしいし」
膝の上の八重が誤魔化すように口笛を吹き、紅葉が申し訳なさそうに眉を下げる。風呂場の方からは烏沙義とクロネちゃんの楽しそうなはしゃぎ声。
困ることもたくさんある。面倒くさいことも、手のかかる奴が居れば手伝ってくれる奴も居て、元気を有り余らせた奴が家の中を走ったり。でも、時折考える。それらすべてがもし無かったのなら、俺は今頃一人寂しく散らかる要素のない質素な居間で本を読んでいるだけの高校生になっていたかもしれない。
「大変だけど、八重が、紅葉に烏沙義が居てくれるから、俺は幸せで、頑張れるんです」
「……やっぱ榊君とは気が合いそうだ」
微笑んだ春斗さんのその言葉に、アズキさんの耳がピクリと反応する。
「春斗さん、それって――」
「あーちびっ子が風呂上がったぞ。アズキ、八重ちゃんと風呂頂いてこい」
誤魔化すようにアズキさんを急かし、俺に悪戯っぽい笑みを向けた春斗さん。さてはこの人、素直になれないタイプだな。俺も大概だけど。
俺は立ち上がり、我が家にあるだけの布団を居間に敷き詰めた。人数分はさすがになかったが、ちびっ子もいるし詰めれば問題ないだろう。
窓から注ぐ月明かりに照らされた布団に寝転がる烏沙義を撫でながら、本を読んでいる紅葉に寄り添われながら、湯上りの八重を頭に浮かべて俺は心の底から思った。
この生活が本当に幸せだと。
「っしゃ、皆風呂あがったらトランプ大会でもしますか!」
「いいね、望むところだよ。榊」
「楽しみですー! ね、クロネちゃん!」
「うん、楽しみ」
「俺も楽しみだな」
「お風呂あがったよー!」
「いいお湯でした~!」
ケモ耳娘と八咫烏、その主人たちの賑わいは、朝日が昇るまで続いた。
◇ ◇ ◇ ◇
「もし捨てられてる半獣が居たら連絡しますね。ケモ耳娘拾いました。って」
「俺もマゾな八咫烏に会ったら連絡するよ。やっぱり八咫烏ってMなのか? って」
日曜の昼過ぎ。春斗さんと連絡先を交換して、俺達は四人で客人を見送った。八重も烏沙義も、三人が見えなくなるまでずっと手を振っていた。よほど楽しかったのだろう。
居間に戻ると、昨晩が嘘のように静かで少し寂しかったが、そんな静かさもすぐになくなった。
「榊っ♪」
「榊」
「榊様!」
微笑む三人を見渡し、俺は敷きっぱなしの布団にダイブした。
「二度寝すっか!」
川の字、より一本多いが、俺達は並んで寝転がり目を閉じた。日光が当たって温かい、直ぐに寝てしまいそうだ。
幸せなぬくもりを感じながら、俺は思いを馳せる。
どうか、この暮らしが。三人との幸せな日々が続きますように。
近頃、各話の終わり方がマンネリ化してきてますね……まずい。