八咫烏ってMなのか?   作:凛之介

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挿入投稿申し訳ない。
これから書き直しを進めていくのでご了承ください。


八咫烏って発情期なのか?

無機質なアラーム音で目を覚ますと、眼前には美少女の顔が迫っている。こんな状況は中々異端だと思う。

寝ぼけた頭で、あぁそういえば家族が増えたんだった。と昨日のことを思い出していると八重がムクリと起き上がった。

半目で髪はくしゃくしゃ、折角の可愛い顔が台無しである。

 

「おはよう、取り敢えず顔洗ってこい」

 

本当に理解したのかは分からないが、一応首を縦に振ってベッドから抜け出した八重。それにしても意外である。昨日の様子からして甘えてくるかと思ったのだが……、別に残念だなんて微塵も思っていない。

さて、朝飯を作らないとな。献立は無難に白米、味噌汁、目玉焼きにしよう。

朝飯は簡単に作って早く支度しないといけない。ゴミ捨てとかもあるしな。

 

「榊聞いてー! 今日いい夢みれたの!」

 

「ん? おう、よかったな」

 

八重はまるで以前から交流があったかのように接してきたため、少し塩対応になってしまう。

昨日は撫でたりして距離が縮まったのは確かだが、それにしても順応しすぎだ。

クッションを抱きしめ、ソファで嬉しそうに体を揺らしている八重に目玉焼きを焼きながら問いかける。

 

「いい夢、ってどんな夢だったんだ?」

 

「んとね、榊が私に首輪をつけて――」

 

「もういい、話すな」

 

そういやこいつドMだったわ……うっかり忘れてた。

制したにも関わらず話し続ける八重。出来るだけ話を聞き流しつつ、相槌を打ってやる。イラついて缶を投げつけた俺の責任でもあるのだ、きちんと八重との親睦を深めねば。

 

結局夢の話は朝食が終わる頃、ようやく終止符を打った。いやぁ長かった。途中俺が八重を鞭で叩き始めたあたりからの八重のテンションがMAXで、箸を落とすわ麦茶を零すわ大変だった……。

八重と食事中は暴れないことを約束し、食器洗いを済ませてから、俺はゴミを持って家を出た。一旦ゴミ捨て場に歩いていって、それから自転車に乗って高校へ向かう。

今日はちゃんと八重の昼飯を用意してから家を出たので懸念することはない。安心して授業に望める。

しかし、俺の考えは実に甘かった。

 

 

 

「えーそれで、このthe cattleは単数ではなく複数形なので動詞は――」

 

英語教師の熱心な説明をノートにまとめていると、授業は気がつけば終わっている。そんな俺を周りは真面目だの変人だのいうが、ノートを綺麗にまとめるのが楽しいと感じるのだから、どうしようもない。

むしろ、退屈だからといって惰眠を貪ったり下らない話題で盛り上がっている奴らよりは、幾分かマシだと思うのだが……。

 

そんな俺でもふと窓の外に目をやったりすることはある。

風でなびく松の木は見ていて心が落ち着くのだ。なんでも、松の葉音のことを松籟(しょうらい)というらしい。以前国語教師が授業の合間に言っていたが、それを聞いていたのはごく少数だろう。なにせ国語はお昼寝の時間と呼ばれているくらいだからな。

とまぁ、それは置いといて、だ。

英語教師がまとめを黒板に書いている間、窓の外に目を向けた。

 

「~♪」

 

松の木の幹に腰掛け、笑顔で手を振っているのは紛れもない八重だ。驚いて声を出すとか、音を立てて立ち上がるとかはしなかった。ただただ、状況が飲み込めなかった。

幸い他のクラスメイトは気がついていないようだが……残りの授業の内容は全然頭に入ってこなかった。時折窓の方を見てなにか囁く生徒が数人いたが、怪しむなという方が無理があるだろう。

 

チャイムが鳴り、号令が 済むと同時に教材を机の中にぶち込んで昇降口へとダッシュした。かかとを踏んづけたまま靴を履いて例の松の木へ向かう。

 

「あ、榊~!」

 

俺を見つけた八重は頬を赤くして飛び降りてきた。ジーンズを履いているから良かったが、はらりとめくれたトップスから白い肌とへそがあらわになり、思わず顔を背ける。

体勢を崩すことなく綺麗に着地した八重が俺に抱きついてくるが、まだ慣れていないこともあり、頭を掴んでそれを制す。それでも押し切ろうとするので、思い切りチョップしたら蕩けた顔して漸く止まった。流石ドM。

前読んだ本に倣って、しゃがみ込んで八重より目線をしたにする。

どうして来たんだ? とか訊くべきことはあったのだろうが、俺は取り敢えず正直に伝えた。

 

「今すぐ帰れ」

 

残念そうな顔、絶望したような顔。八重が浮かべたのはどちらでもない。

幸福感溢れる満面の笑みである。やはり除け者扱いされるのも嬉しいのか。

 

「榊……もっと♡」

 

「帰れ愚図」

 

「もっと♡」

 

「目の前から失せろ雌豚」

 

「もっと強くぅ♡」

 

「良いからさっさと家に帰って一人興奮状態で転がりまくってろこの年中発情期エロ烏!」

 

 

 

満足したように八重は帰ってくれたが、このあと数日間俺のあだ名が「ドS委員長」になったのはどうも解せない。

 

 

 

八重に学校に来るなという約束をさせたいが中々いうことを聞いてくれない。

今日虐めてしまったから、また来れば虐めてもらえるという認識になったらしい。非常にまずい……。

説教されても喜び、無視されても興奮し、殴られても発情する。こいつにとって何が罰なのか、さっぱり検討もつかない。

それでも来られるのはまずいので、なんとか頼みこんで承諾してもらった。

それにしても、まさか学校に来るとは思っていなかった。八重曰くどこに出かけているのか気になったのだと。学校は関係者以外立ち入り禁止ということを切々と語ったので疲れてしまった。

 

「あーもう疲れた! 今日は夕飯どっか食いいこう。八重食いたいものある?」

 

その問にうーんと唸った八重は数秒間考え、ぴんと人差し指を立てた。

 

「回転寿司!」

 

回転寿司か、自転車で十五分のところに回転寿司屋がある。そこに歩いて行くか。

八重に支度を促し、財布と上着を持って俺も玄関へ向かう。

……回転寿司か、父さんたちと最後に行ったのはいつだったかな。仕事で忙しい両親だったから外食は少なかった。

 

「準備できたー! 行こー!」

 

誰かと一緒に外食、なんだか嬉しく思ってしまう。

隣に並ぶ八重が俺に微笑んだ。俺もつられて微笑み返す。

 

「行こうか、八重」

 

「うん!」

 

 

 

 

 

 

「美味しいねぇ榊♪」

 

「……」

 

おかしいな、俺まだ十皿しか食ってないよ? ……なんで、目の前に四十皿分積み上げられてるんだろう。

心は温かくなっても、懐は寒くなりました。

 


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