八咫烏ってMなのか?   作:凛之介

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お久しぶりです。
漸くメインヒロインがそれらしい展開へと歩みだしました。
以前八咫M?を読んでくれている友人と話したのですが、サブである紅葉がメインと化していることについて「紅葉ちゃんは副菜。肉じゃがみたいな感じ」と申しておりました。
何だこいつとも思いましたが、俺の作品を好いてくれていてとても嬉しいです。大事な親友でございます。

さて長くなりましたが、最新話です。どうぞごゆっくり。


八咫烏って欲塗れなのか?

「やぁやぁ榊君。今日遊び行ってもいいかな?」

 

「小鳥遊……別にいいけど、あいつらいるぞ?」

 

 終業式が迫った高校生活、午前中四時間授業で午後は用事はない。後で行くねー! と教室を後にする小鳥遊を見送り、俺は教科書を鞄に詰める。

 と、隣の席の男子が羨ましそうに溜息を吐いた。

 

「お前いいよなー。小鳥遊と仲良くて。おまけに家には黒髪の女の子。ハーレムかよ」

 

 八重の存在は既にクラスで知れ渡っているが、紅葉と烏沙義に関しては、小鳥遊以外知る人はいない。教えたら……視線が痛くなるだろうなぁ。

 俺は適当に返事をして、家路に着いた。

 信号を待っている間、空を飛ぶ烏を眺めていたら不意に肩をたたかれる。

 

「榊、おかえり」

 

「買い物してくれてたのか。ありがとな紅葉」

 

 買い物帰りの紅葉と合流して、肩を並べ家に到着。玄関を開けると八重と烏沙義が飛びついてきた。

 教科書を入れたカバンが重いので、一旦二人を引きはがして二階に荷物を置く。手早くジャージに着替えて下に戻ると、階段を下りたところで再びちびっ子組が抱き着いてきた。

 

「榊ー!」

 

「榊様ー!」

 

「さ、榊ー……」

 

 顔を真っ赤にして紅葉も便乗してくる。何故こいつは照れることを自分からするのか。ドМなのか。

 そのまま三人を引きずるようにして居間へ入り、ふと思い出す。

 

「多分そろそろ小鳥遊遊びに来るから。って……」

 

 八重と紅葉の眉間に皺が一瞬で浮かび上がり、どす黒いオーラが滲みだしていた。来るな、と言わんばかりの眼光である。

 小鳥遊がこいつらに何かしたか……? と思い返すも、微塵も心当たりはない。一体小鳥遊の何が嫌だというのか。が、それを尋ねるとさらにへそを曲げそうなので聞かないでおこう。

 一応の来客ということで、八重たちの散らかした本やトランプやゲームを片付けるのだが……こいつら散らかしすぎだろ。軽く説教も交えて皆で掃除。そうこうしている間にインターホンが小鳥遊の到着を知らせた。

 

「おっじゃましまーす! って威圧感凄いな!」

 

 ハイテンションの小鳥遊を、怒気をはらんだ笑顔で出迎える紅葉。

 軽くはたくと如何にも不満そうな目で俺を軽く睨んだ。前に来た時も、紅葉達の方が好きだといったのに忘れたのか。記憶喪失ですか。

 ”Oh Yeah”と書かれたセンスを疑うTシャツの小鳥遊が居間に入ると、真っ先に反応したのは烏沙義だった。

 

「小鳥遊さん! いらっしゃいなのです!」

 

「随分とまぁ愛らしいことで。どっかの誰かさんが愛情を注いだからかな?」

 

 こちらを見やりながらにやけていたので飲み物は出さなかった。

 小鳥遊は遊びに来る、と言っていたが、まぁ特に何をするでもなく。ただ学校の話をするだけだ。

 前みたいに八重が拗ねるといけないので、今回は小鳥遊とはテーブルを挟んでいる。俺の左隣には誰がいるか。勿論八重である。俺の右隣には誰がいるか。当然ながら紅葉である。俺の膝の上には誰がいるか、言うまでもなく烏沙義である。

 

「モテモテだねぇ」

 

「うるせぇ」

 

 威嚇するように小鳥遊を睨む八重を宥め、学校の話をしていると烏沙義が不思議そうに八重を見つめているのに気が付いた。どうした、と尋ねるが烏沙義は何でもないと首を振って微笑む。俺はそれが不思議だった。

 

「なんか嫌われてるみたいだし、ここは一つお二人に気に居られましょうか」

 

 何故かそう口にした小鳥遊はわざとらしく咳払いし、自信満々な笑みで八重と紅葉を交互に見つめた。

 そしてズボンのポケットから取り出したスマホを二人に示すと、

 

「ここに榊君の学校での写真があります。あと友達と悪ふざけをする動画も撮ってあります」

 

 などとふざけたことを言いやがった。しかし、それは効き目が大きかったようで。

 

「夕飯食べていくかい? 小鳥遊さん」

 

「一緒にトランプしよ! 小鳥遊さん」

 

 と欲にまみれた目へと変貌した二人を、俺は冷ややかな目で見つめる。なんかすごいからかわれる気がするので、小鳥遊に勘弁してくれと頼んだ。

 小鳥遊が俺にこっそり、紅葉に預けたスマホに件のデータを送っていたことが判明したのは、数日後のことだった。

 結局、夕飯を一緒に食った小鳥遊は満足そうにして帰り支度を始めた。俺は聞きたいことがあったのを思い出し、見送るついでに小鳥遊と外に出る。ちなみに八重も引っ付いてきた。

 

「なぁ、なんで今日遊びに来たんだ?」

 

 そう尋ねると、小鳥遊は小さく微笑んで八重に視線を向ける。

 

「ちょっと気になったことがあったから。そんだけ。ご馳走様でしたアンドお邪魔しました~」

 

 手を振って去る小鳥遊の背中を、八重は何故か拗ねたように頬を膨らませて睨み続けていた。




八重ちゃんがメインヒロインを奪還しようとしております。奪われてませんが。

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