それと、ひとつご報告がございます。活動報告でするべきことなのですが、こちらの方が皆様に読んでいただけるので。
大変申し訳ないのですが、しばらくの間活動休止致します。
書きたい話ができたのと、11月に高校で受ける検定が恐ろしく多く、その勉強に追われるためです。あとバイト。
八咫M?は俺自身が好きなので、失踪はしません。
再開か、気まぐれ投稿を楽しみにお待ちいただければ幸いです。
さて、メインである八重ちゃんより恋愛方面が発展中の紅葉さん。今回もそんなお話です。
長らくお待たせいたしました、最新話、「八咫烏って寒がりなのか?」ごゆっくりどうぞ。
寒い。
まだ十月序盤だというのに十一月並の寒さである。うちの烏たちもソファに三人で座って密着している。真ん中に位置している烏沙義はさぞかし暖かいことだろう。
一方俺は、冷え込む台所で昼飯をせっせと用意している。
普段ならば、
「まったく二人ともだらしないな。榊を手伝いなさい」
「えー寒いからやだよー」
「私動けないです」
「嘘をつくんじゃない!」
みたいな感じの光景が広がっているはずなのだが……。
何でも紅葉は極度の寒がりらしく、今も寒くてたまらないそうだ。室内温度十七度、俺も寒いのは苦手だが、紅葉ほどではない。
というか、烏沙義はともかく八重だけでも手伝ってくれると有り難いのだが。
一人で四人分は、一人暮らし歴半年の俺には中々大変だ。
「あー誰か手伝ってくれないかなー」
ソファから紅葉の申し訳なさそうな謝罪が聞こえてきたが、それ以外は何も聞こえない。
こうなったら最終手段だ。
「手伝ってくれたら虐めてあげようかなーなんて」
「榊、お皿運ぶね♪」
この切り替わりようである。
八重と協力して支度を済ませると各々席に座るように言った。紅葉がブランケットごと移動しようとしたのでやんわりと咎めるが、知らんぷりをして着席してしまった。
意外と紅葉は頑固だなぁ、というかそれほどまでに寒いということか。夕飯は温かいものにしよう。
きちんと合掌して食べ始めると、自然と会話が弾む。見慣れた光景だ。
「榊……すまないが温かい緑茶を淹れてくれないか……」
「お、おう。分かった」
俺も八重たちも冷たいウーロン茶を飲んでいたが、それを飲むのもはばかられるとは……尋常じゃないな。
「寒いならくっつけばあったかいです!」
烏沙義は得意げな顔をして隣に座っている紅葉にぴったりとくっついた。あぁして並んでいると、紅葉の大きさが際立つ……あ、背の話ですよ?
苦笑いしながらも礼を述べた紅葉は俺から緑茶を受け取ると、ずずーっと啜って一息ほぅとはき出した。
温まったようで何より。
んー紅葉のためにいろいろ用意してやらないとな。あとで買い物行くか。俺が行くなら八重も来るし、そしたら烏沙義も来るだろうから紅葉は一人になっちゃうけど、大丈夫だろう。
「飯食ったら買い物行くけど、一緒に来たい人~」
案の定八重と烏沙義の腕だけが上がり、紅葉から申し訳なさそうな声が発せられる。
さ、ぱぱっと食って出かけてしまおう。俺だって寒いには変わりないのだから、日が高いうちに済ませよう。
「んじゃ行ってくるから、俺の部屋でのんびりしてな。そっちの部屋より日が差すから増しなはずだ」
「有難う、榊……」
両手を八重と烏沙義に握られた榊を見送り、私は体を抱きながら二階へと上がる。にしても寒い。毎年毎年拷問過ぎる、冬なんて消えれば良いんだ。届かぬ願いをなんども心の中で復唱しつつ、先ほど言われたとおり榊の自室に足を踏み入れる。
確かに、榊の使っているベッドにちょうど日が当たっていて暖かそうだ。何の躊躇いもなくベッドにダイブする。寒いから温かくなりたい。その気持ちも勿論あったが、榊のベッドを前にした瞬間別の願望が生まれてしまった。
(……榊がいつも寝てるベッド)
大好きな人の温もり、匂い、実際にそこにはないのだろうけど、あるように思えてならない。そんな不思議な感覚にとらわれながら、気がつけば私は榊の使っている羽毛布団をぎゅうっと抱きしめていた。
たまらなく、愛しい。いつの間にか身の震えも止まっていて、寒さもさほど感じなくなった。それでもベッドからは降りない。少なくとも、榊が帰ってくるまでは。
羽毛布団に顔を埋めると胸が激しく熱くなる。嗚呼、幸せだ――
「……そんなに匂い嗅がれると恥ずかしいんだが」
心臓が跳ねるとかでなく、あまりの驚きにベッドから転げ落ちた私を見て榊がクスリと笑う。
「ななななななんで!?」
「いや、よく分からんが八重がニヤニヤしながら『買い物はしとくから、紅葉と一緒に居てあげて』って」
うわぁぁぁぁぁぁ! 八重のやつ、後で覚えてろ! ほんのり顔を紅くした榊から逃れるようと脇を抜けて部屋を出る。が、榊に止められてしまった。
気にすんな。とベッドに戻されたのだが、気にするに決まってる。あんなとこ見られたのに……。引かれたかなあ……。
「ふぁ~。俺も昼寝すっかなぁ」
榊にベッドは私が使っているから必然的にそうなるのだが、榊は八重のベッドに身を委ねた。お互いに好きな人のベッドを使っているこの状況でおかしいかもしれないが、八重の使っているベッドの上に榊が居るのが、なんだかいやだった。
……神様、少しだけ、勇気をください。
「さ、榊。その、いいいい一緒に……」
「なんだ、添い寝してほしいのか?」
からかってくるように言われたが、私は勇気を振り絞って何度も首を縦に振る。
少しだけ眉を下げて微笑んだ榊は私の横に寝転がった。ちょっと狭いな、と笑う榊の胸元に顔を埋める。
「八重たちには、内緒にしてくれ……」
「へいへい」
優しく頭を撫でられ、私は正真正銘の愛しい温もりに包まれながら意識を手放した。
おやすみ、榊――。
「烏沙義、榊のスマホ持ってきて~。写真撮る」
「お姉ちゃん意地悪だね~」
「怒られたとしても私にとってはご褒美だよ♪」
二人の昼寝姿を写真に収め、電源を切ろうとしたがもう一度写真に目をやる。
特に意識したわけでもなかったが、なぜか私は小さく呟いていた。
「ずるいな、紅葉」