「や、八重……! ちょっと露出が多くないかい!?」
「気にしすぎだよ。烏沙義も似合ってると思うよね?」
「はい、お姉ちゃんのいう通りです♪」
……おせぇ。
俺は炎天下で長い間惚けていた。少し遠出して市民プールに来たわけだが、更衣室から一向に三人が出てこない。あいつら水着を買う必要もないし、ぱぱっと水着に変化して出てくればいいのに……。
心の中でぐちぐち言っていたが、三人がようやく出てくると同時に俺の気分は晴れやかになった。
黒いスクール水着の八重に、黄色いフリフリの水着の烏沙義。そして驚くべきは、真っ赤なビキニの紅葉だ。
恥ずかしがり屋だからもっと露出を抑えるかと思ったが、予想に反してグラマラスである。
「榊、似合ってる? 可愛い?」
「おう、可愛いぞ」
くるっと一回転してアピールしてくる八重を撫でるが、太陽に熱された黒髪は意外と熱く、すぐに手を放す。
紅葉は胸元を腕で隠しずっと赤面している。周りからひと際注目を浴びているのが余計恥ずかしいのだろう。
恥ずかしさに耐えきれなくなったのか、足早に入水する紅葉を追うようにして俺たちもプールに入った。
外気温は高いがプールの水はひんやりとしていてとても心地よい。プール特有の塩素のにおいもなんだか落ち着く。
中三では天候の都合上、水泳の授業はなかった。うちの高校は水泳はないから、懐かしい気もする。
びったんびったん水面を叩いてはしゃいでいる八重を脳内カメラにしっかりと納め、道中買ったビニールボートに背を預け、俺は天を仰いでいた。
太陽はカンカン照りで、すぐにでも日焼けしてしまいそうだ。
利用客は意外と少なく、のびのびとしていられる。まぁ明日夏休み終わるしな……。
夏休みいろいろ出かけはしたが、結局海に行けなかったのでせめてもと、今日このプールに足を運んだのだ。
と、不意に疑問が脳に浮かぶ。
「なぁ紅葉」
首だけ動かして、入水してもなお赤面している紅葉に問いかける。
「烏って泳げるの?」
「え? あ、あぁ。今は人間の姿だからな。泳ぐことはできるが、まぁ個体差はあるさ」
そういって指さしたのは、泳ごうとしているが微塵も進んでいない八重と烏沙義だった。
「榊ぃ! どうやって泳ぐの??」
「進まないです~!」
二人がそう嘆いてすり寄ってくるが、俺は目線をそらすことしかできない。太陽に照らされて、というより冷や汗が出てくる。
言えない、言えないんだ。男のプライドとして……。泳げないなんて!!!
さっきの口ぶりからして紅葉は泳げるのだろう。その手前「俺も泳げねぇんだわ☆」とか言えない! しかも八重にかっこいいところも見せられない……ド〇えも~ん! 助けて~!
「まさか榊も泳げないとか?」
「…………」
「榊ぃなんで目そらすの~?」
からかうようにそう言って八重が抱き着いてくる。水着越しに八重の柔らかい感触が……って、違う!
俺が慌てて八重を引っぺがすと、悲しそうに上目遣いで俺を見つめてくるが、さすがにだめだ。
「やっぱり男の人は紅葉さんみたいに大きい方がうれしいんじゃないのです?」
烏沙義が全国の貧乳を怒らせるような一言をためらいもなく発した。紅葉も紅葉でゆでだこみたいになってるが。
と、急にまた八重が抱き着いてきた。さっきよりも力強く。
痛い痛いと訴えていると、小さく八重が何かをつぶやいた。
「…………いらないもん」
「え、なんて?」
八重は顔を真っ赤にし、はっきりと口にした。
「榊とぴったりくっつけるなら、胸なんていらないもん」
その後、俺の周囲の水がほんのり赤く染まったのは言うまでもない。
もしかしたら続く。