八咫烏ってMなのか?   作:凛之介

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疲れた……5千!長い!(八咫M?にしては)
ほんとちょこちょこ書いてて、書きたいことが多くて纏まりませんでした……!
言い訳ですね、はい。
それではごゆっくりどうぞ。


八咫烏って寝巻きなのか?

時計の針が示すのは午後九時。

普段なら烏沙義と八重はもう睡魔に襲われてベッドに入る頃だが、今日は違う。

 

「来客用の布団なんてあったんだ」

「あぁ、ベッドは三つしかねぇけどな」

 

リビングに敷き詰められた布団。ソファは邪魔だったので端に追いやった。ごめんな、ソファ。

まだ誰も風呂に入っていないのも、お泊まり会だからだ。折角なので買い置きのお菓子も出して、皆で食べながら夜更かしだ。

 

「寝る布団決めないとだね」

 

布団は角が四つ、中央に集まるような形に配置されている。俺はどこでもよかったので大窓の傍の布団に寝転がった。

俺の隣を例のごとくでじゃんけんで決めようとしている八重と紅葉、しかしその間に烏沙義が俺の横の布団に寝転がってしまった。まさに漁夫の利。

項垂れながら余った布団の上に座り込む二人を見て烏沙義が首を傾げる。

 

そろそろ風呂に入り始めないといけないな。

まず誰から入るか、という話になった時、八重が

 

「時間かかるとアレだし、紅葉と烏沙義一緒に入ったら?」

 

と何食わぬ顔で提案した。俺には意図が読めなかったが、紅葉は何か察したようで、笑顔で八重に提案し返す。

 

「いやいや、八重と烏沙義で入ってくればいいじゃないか」

 

よく分からなかったが、二人の口論はいつもの事だったので俺が先に入ろうかと思ったその時、烏沙義から思いもよらぬ提案が飛び出した。

 

「榊様、お風呂一緒に入りましょう」

 

無知とは怖いものだ。穢れのない瞳が俺を真っ直ぐに捉える。烏沙義からしたら別に何ともないことなのだろう。むしろ家族なのだから普通、とでも言わんばかりの表情だ。

……断るのも可哀想だし、仕方ないか。

俺はロリコンじゃないから幼女の裸を見たとこで興奮はしない。胸を張ってそう言える。

だから俺も「いいよ」と返答して、二人で風呂場へ足を運ぶ。

そんな俺たちを八重と紅葉は呆然と見送っていた。

 

 

 

 

 

「――さっぱりしましたぁ♪」

 

ツインテールを下ろしている烏沙義の髪の毛をバスタオルで拭いたあとドライヤーをかけてやる。日中はいつもツインテだからこの髪形の烏沙義は新鮮だ。紅葉と同じくサラサラな髪の毛で非常に乾かしやすかった。

え、入浴シーン? んなもんあるわけないだろう。別に何もなかったしな。

タオルを首にかけて居間に向かうと、八重と紅葉が恨めしそうな顔で烏沙義を見つめた。

やめろ、という意味も込めてふたりの頭を叩き、順番に風呂に入るよう促す。

まったく、八重はともかく紅葉まで子供みたいな嫉妬して……。

何故か一緒に風呂場へ向かう二人を眺めていると、

 

「榊様、お菓子食べたいです!」

 

と大きな声で呼ばれた。

お泊まり会ということでお菓子を食べてもいいと聞いて一番喜んでいたのは烏沙義だ。やはり幼女というのはお菓子が好きなものなのだろうか。

両手を胸の前で上下させながら、満面の笑みを俺に見せている。

 

「はいはい、菓子入れから何か持ってきな」

 

「はーい!」

 

走ろうとした烏沙義に「走るな」と強めにいうと、一瞬硬直した後、忍者のようにそろそろと歩き出した。別にそこまでしろとは言っていない。

あまりにも慎重なその後ろ姿に思わず吹き出してしまう。

烏沙義本人は不思議そうにこちらを振り返っている。

 

「良いから、普通に行っといで」

 

やっと普通に歩き出した烏沙義。持ってきたのはタマゴボーロだ。以前スーパーに行った時に、「子供といえばこれだ」と直感で買って烏沙義にあげてみたところ、あっという間に食べ終えてしまった。

それ以来ちょくちょく補充しているのだ。

 

「榊様! 」

 

突然タマゴボーロの袋を差し出され、首をかしげつつも受け取る。もう開封したようだが……。

と、前を向くと口を開けて待機している烏沙義がいた。

なるほど、食べさせろということか。ま、甘えたいお年頃なんだろうな。

一粒摘んで烏沙義の口元へ運ぶ。烏沙義はそれを待ち構え、ここぞと言わんばかりに食らいついた。

 

タマゴボーロどころか、俺の指まで。

 

ここで良くあるシチュエーションだと、指を舐められてイチャコラが発生するのだろうが、残念ながらそんなことは無かった。元より烏沙義にそんな意図はない。

ただ烏沙義は口を閉じただけなのだ。口を閉じるのに躊躇なんてものは存在しない。

つまり、烏沙義の前歯が容赦なく俺の指を切断しかけたということだ。

 

「いってぇぇ!」

 

「ご、ごめんなさい! わざとじゃないです! ホントです!」

 

分かってる。そんなことは分かっている。

もし烏沙義が故意でやったとするならば、そういうことは八重にしてほしいものである。

慌てふためく烏沙義に心配させまいと気合でなんともない様な顔をする。内心大暴れだが。幸い血も出てない。

が、やはり烏沙義は申し訳ないのか、タマゴボーロを自分で食べ始めた。

 

「さっきみたいに失敗しても良いから、甘えたいだけ甘えな」

 

頭を撫でながら言い聞かせるように、慰めるようにそう伝えた。

烏沙義には自分を押し込んで欲しくない。いや、烏沙義に限らず八重にも紅葉にも、だ。みんな俺の大切な家族なのだから。

 

「お風呂あがったー!」

 

「いい湯だったよ」

 

一緒に風呂に入ったであろう二人が髪を拭きながら居間に入ってきた。八重は烏沙義を見るなり自分もお菓子を取りに台所へとまっしぐら。

一方紅葉は冷蔵庫から冷えた牛乳を取り出して、ぐびぐびと音を立てながら飲んでいた。

まるで銭湯に来ているかのようないい飲みっぷりを見つめていると、赤くなった顔を隠すようにそっぽを向いてしまった。

 

と、激辛煎餅を手にして戻ってきた八重が、当たり前のように胡座をかいている俺の膝の上に乗ってきた。眼前の癖のついている髪の毛は一応拭いてはいたがまだ湿っている。

やれやれと微笑しながら手元にあったタオルで強めに髪を拭いてやる。

煎餅を齧りながら俺に世話を焼かれて喜んでいる八重だが、何も食わせず構ってやらなくても勝手に興奮して喜ぶので、実に都合のいい奴だ。

 

「どうも眠くならないと思ったら、皆昼寝したんだったね」

 

布団に寝転がって苦笑しながら紅葉がそう言った。

 

「まだまだ寝ないし、お話とかしようよ!」

 

「普段一緒に暮らしてるメンツでの提案じゃねえな」

 

そもそも、お泊まり会というのは友達で集まってするものでは無いのか。いつも同じ屋根の下にいるこの四人の場合、お泊まり会と言えるのか。

まぁそんなこと気にしたところでどうしようもないのだが。

ただ、このメンバー全員血の繋がりを持っていない。つまり、まだお互いに知らないことが多い。

 

「それならさ、八重と榊の出会いとか聞かせてよ」

 

紅葉がわくわくしながらそうねだってきたので、すこし恥ずかしいが俺は八重と出会った当時の様子を語った。

 

空き缶スパーン! 【ボーイ】

烏だよ☆ 家族or通報【ミーツ】

しゃーないな…… 【ガール】

 

「――つまり、八重が一方的に、無理矢理、強引に、家族になったと」

 

「ごめんなさい♪」

 

……八重が紅葉に説教を喰らっている。が、八重に説教は意味がない。ただただ八重が興奮するだけだ。

それを知っている紅葉も、一通り叱ったところでそうそうに切り上げた。

まったく……と顔を赤くしながらブツブツ呟いているが、何を言っているのか、何故赤くなってるのか、それは俺にはわからない。

 

「ま、今となっちゃ八重が居て当たり前みたいな感じだけどな」

 

擦り寄ってきた八重を膝に乗っけながら、改めて八重に抱いている好意を実感する。

初めこそ脅され、半ば強引に家族になったが、後悔はしていない。むしろ八重のおかげで紅葉にも烏沙義にも会えたわけだし。

今この幸せな時間を過ごせているのは八重のおかげだ。決して、俺を委員長にしたあの担任のおかげではない。

 

「紅葉も烏沙義も、すっかり馴染んだな」

 

笑いながら言うと二人は照れくさそうに顔を伏せた。

 

 

 

その他にも紅葉の昔話やら八重の性癖についてだったり、色々な話で盛り上がっていると、気がつけば日をまたいでいた。

そろそろ八重も欠伸し始め、烏沙義に至っては俺の膝に頭を乗せて半分寝ている。布団も枕もあるのだから普通に寝ればいいのに。

膝が埋まっているからか、八重が背後からのしかかってくる。

 

「これ、俺身動き取れねえじゃねぇか」

 

「すー……すー……」

 

「って聞いてねぇ!」

 

俺にくっついたまま寝てしまったちびっこ組をそれぞれの布団に横たわらせ、始末されてない菓子の包装やらをゴミ箱に捨て、食卓を挟んで紅葉と向かい合う。

目の前に置かれているのはパウンドケーキ、サイダーにポテチ系のお菓子が二袋。

ちびっこ組が寝たので、ここからは「家事お疲れ組」の夜だ。

紅葉にはいつもお世話になってるから、八重たちに内緒でこっそり約束していたのだ。

 

「ふふ、すっかり静かになったね」

 

パウンドケーキを齧りながら慎ましく紅葉が微笑む。完全に保護者の服風格だが、本人にその自覚はないようだ。

俺と紅葉の好みは似ているため、俺の持っている本を紅葉が読むことがしょっちゅうある。その本や作者について語り合うのは非常に楽しい。八重は本嫌いだし烏沙義は字を読むのに慣れていない。

前は母さんと父さんが居たけど三年間戻ってこないから、本について話し合える奴がいるのが嬉しくて堪らない。

 

「今度一緒に本屋とか出かけようぜ」

 

「う、うん! 是非そうしよう!」

 

そこまで嬉しそうにOKされるとこちらまで嬉しくなってくるな。そんなに本屋に行きたかったのか?

この近くに本屋はないため、俺はいつも自転車で二十分ほどかけて本屋に行く。しかし、紅葉と行くとなれば徒歩になるだろうが……ま、たまにはのんびり歩くことも必要だ。

ゆったりとしていて、落ち着いた空気。それはきっと話し相手が紅葉だから。大人な雰囲気の紅葉には本当に助けられている。

俺が学校に行っている間も八重が寂しい思いをすることもなく、家事までやってくれる。おまけに俺の恋の応援まで。

 

「ほんと、いつもありがとうな。紅葉」

 

「なんだい急に、そんなの気にしなくていいさ。私が好きでやっている事だ」

 

「そっか、紅葉はきっといいお嫁さんになれるな!」

 

「そうかな」

 

あれ、照れるかと思ったら微塵も照れなかった。むしろ何故か真面目な、少し強ばった顔で俺をまっすぐに見てくる。

 

「私ならいい嫁に、彼女になれると思うかい?」

 

その真剣さに気圧されてしまうが、俺はもちろん、と首を縦に振った。心なしか紅葉の身体が強ばっている気がする。

何かを決意したかのように、紅葉は口を開いた。

……そういえば、観覧車の中でも紅葉はこんな感じだったな……。

 

「榊、私……。私は――」

 

「んゅ?二人ともお菓子食べてる……」

 

「え、あぁ。起きちゃったか」

 

紅葉が何か言おうとしたその時丁度八重が目を擦りながら起き上がった。紅葉は咄嗟に言葉を飲み込み、おやすみ。と言って布団に潜ってしまった。

紅葉は結局、観覧車の時もそうだが、俺に何を伝えたいのだろう。気になるが、自分から踏み込むのも悪い気がするのであえて聞かないでおく。

いずれ紅葉がその口で伝えてくれるのを待っていよう。

 

「さて、そろそろ俺も寝るかー」

 

流石に眠くなってきたし、このまま起きていると八重まで一緒に夜更かししそうだからな。健康は維持せねば。

が、案の定八重は駄々をこね始めた。

 

「えーもっと起きてるー!」

 

駄々っ子八重には何を言っても無駄なので、ブーイングをスルーして布団に潜り込む。俺が寝れば八重も寝るだろう。

……その考えが甘かった。

 

「まだ寝ないー!」

 

突如布団が湿り、ひんやりとした感触が直に肌に触れ、俺と隣の烏沙義は飛び起きた。

目に飛び込んだのは、びしょびしょになった布団と中身がすべて零れたサイダーの二リットルペットボトル。

恐らく両腕を振り回して駄々をこね、それがサイダーに直撃して中身をぶちまけながら注を舞ったと。

俺も紅葉も、それほどサイダーを飲まなかったので、三分の二は残っていた。

掛け布団と敷布団はともに湿り気を帯びており、とても寝れたものじゃない。烏沙義の布団も同様である。

 

気持ちよく寝ていた烏沙義はよほど驚いたのか、半泣きで俺にすがりついてきた。可哀想に。

俺と烏沙義の布団は使用不可になってしまった……どうしようかと悩んでいると、八重がドヤ顔で

 

「二枚の布団で寝ればいいじゃん」

 

と言ってきたが元を正せば八重のせいだ。そのことを指摘し、頭を小突いた。

まぁソファで寝るのも体が疲れそうだし、その案しか無さそうだ。

もう寝かけている紅葉の隣に俺は寝転がり、両端を挟むように烏沙義と八重が寝転がった。

順番で言うと、八重、俺、紅葉、烏沙義の並びだ。

 

「く…これ意外ときついぞ」

 

「えへへ〜榊と一緒♪」

 

「紅葉さん体温高いです……暑い……」

 

(なななななんで榊が添い寝してるんだ!?)

 

誰も落ち着いて眠ることは出来ず、結局昼頃まで皆でくっついて爆睡していた。

蝉の声と家族の寝息を三人より早く聴いた俺は、愛しい八重の頭を一撫でして再び意識を手放した。

まだ皆起きないし、俺も寝てよう。

それじゃ三人とも、おやすみ。




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