涼しい店内に客たちの話し声、食器同士がぶつかる音やらが飛び交い、決して静かとは言えないがそれがファミレスの良さでもある。
俺はこの雰囲気が好きで何度も足を運んでいる。
まぁ食事の支度が面倒くさい時が殆どだが。
「榊様、私この"ふわふわおむらいす"食べたいです!」
「私はミックスグリルにする〜♪」
「おう。俺はミートドリア食おう」
「……わ、私もミートドリアにしよう」
皆注文が決まったところで呼び鈴を押して店員に伝える。いつも通りデザートは追加注文だ。
昼時ということもあり結構混んでいるため料理が来るのは少し遅くなりそうだ。その間は烏沙義との親睦会と称して色々なことを話した。
「ってか、なんで俺だけ様付けなんだ?」
その問いに少し照れたようにもじもじとした烏沙義。
「えっと…私を助けてくれましたし、家主ですので……」
真面目すぎだろ!
ふと気がつくが、烏沙義が八重と紅葉を呼んでいるの聞いたことないな。
二人のことはなんと呼ぶのだろう。
「私のことは紅葉で構わないよ。敬称は自由にしてくれ」
「私は……お姉ちゃんでいいよ!」
お姉ちゃん!? 紅葉と俺は顔を見合わせ、苦笑いを浮かべた。八重がお姉ちゃんか、世も末だな。
しかし八重自身冗談のつもりだったのだろう。
あはは、と笑っていたが、烏沙義の反応は予想外のものだった。
「お姉ちゃん…お姉ちゃん!えへへ、お姉ちゃん!」
ものすっごい嬉しそうである。
それこそ"笑顔が眩しい"という表現がぴったり当てはまるほどに。
改まって烏沙義は俺たちの顔を見渡し、頭を下げた。
「榊様、紅葉さん、お姉ちゃん。これからよろしくお願いします」
「あぁ、こちらこそだ」
そこへやって来た店員の顔を見て俺は思わず手に持っていた水のグラスを落としそうになった。
「小鳥遊!?」
「お!? 榊君おっはろ〜!」
「お前掛け持ちかよ……」
「時間があるんだから働かなきゃ損ですよ奥さん」
「誰が奥さんだ」
何故か引き攣った顔の紅葉と八重。何事かと首をかしげている烏沙義を見て小鳥遊はふふっ、と笑みを浮かべた。
「その子、助けられたんだ。よかったね」
そうだった、と思い出し、烏沙義に小鳥遊が烏沙義のことを教えてくれたのだと教える。そのお陰でお前を保護できたのだと。
その途端烏沙義はバッと立ち上がり勢いよく小鳥遊に頭を下げた。
感謝の言葉をつらつらと述べる烏沙義に小鳥遊も困った様子だ。
というか、小鳥遊の持っているお盆の料理は俺たちのじゃないか……?
「あ、そうだった! こちらミートドリアになります」
慌てて俺たちの注文品をテーブルに並べ、レシートを筒に指す。ごゆっくり、と言いながら厨房へと消えていった。
さて、忘れていたがドリンクを取って来なければ。
烏沙義との会話ですっかり忘れていた。
二人ずつ行こうと話し、俺と烏沙義は席を立った。
棚のグラスを手にしてドリンクバーに並ぶ。
ドリンクバーでメロンソーダを飲むのもファミレスの楽しみだったりする。
不意に烏沙義が半泣きのような声で呼びかけてきた。
どうしたのかと横を向くと、懸命に背伸びしている烏沙義がいた。
背が低いせいでボタンに手が届かないのか。難儀だなぁ。
どれが飲みたいのか訊くと、たどたどしく「かる〇すさいだー」と指さしてくれた。
取り敢えず早く席に戻ろう。ジュースを注いだグラスを
烏沙義に渡し、手を引いて足早に去る。
幼女に様付けで呼ばれてるせいで視線が痛い……。
席に戻ると二人はわいのわいのと盛り上がりながらそれぞれの料理を頬張っていた。幸せそうな顔で、美味しそうに食べていた。
ハンバーグを咀嚼している八重の頭を撫でて、ドリンクバーに行くよう促す。
俺と烏沙義は席に着き、目の前の料理に手を付ける。
「! これすごく美味しいです! これがふわふわおむらいすですか!」
きらきらと目を輝かせてそう俺に報告してくる。その反応が新鮮で思わず頬が緩む。
八咫烏って可愛い奴らばかりだな。全員そういう体質なのか?
ドリンクを持って戻ってきた紅葉が座る前に烏沙義を見つめて立ち止まった。それはまるで可愛いぬいぐるみを見つけた少女のような顔だった。
「……可愛いなこの子」
そう微笑みながら再び食事を始める。
俺と同じミートドリアを食べながら他愛のない話で盛り上がり、可愛らしい八重の食事シーンを堪能しているとあっという間に時間は過ぎていった。
また一緒に来よう。烏沙義と約束して店を出る。
家族の幸せな顔が見れる。そんなファミレスはやっぱり何度来てもいいものだ。