あ、八咫烏ってMなのか?が週間オリジナル15位を獲得いたしました。
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更新ペースが早かったのはそれが嬉しかったからです(笑)
それでは漸くあの子が登場。
八咫烏って盗人なのか?ごゆっくりどうぞ。
幼い少女は薄暗い路地裏を駆け抜ける。
背後から聞こえてくる怒号から必死に逃げる。
両手に抱えているのは八百屋から盗ったいくつかの野菜。
歯を食いしばり、涙をぐっと堪えながら少女は一人今日も街の陰に隠れた。
「――で、この辺に金髪の八咫烏がいるの?」
「あぁ、そうらしい。二人も三人も変わらないしな、本人が嫌じゃなきゃ匿ってやりたい」
「……榊はそういう優しいとこがいいんだけどね」
最近街に現れるという自称八咫烏の少女を匿いたい。そう二人に告げると賛同はしてくれたものの、微妙な顔をしていた。
さっきから溜息をよく吐いている。何故かは、全く分からない。
すっかり日も沈み空にはいくつかの星が瞬いている。
小鳥遊曰く夜によく現れるというので今日は小鳥遊を送るついでに八咫烏を捜索するのだ。
「にしても不思議だね」
「何がだ?」
紅葉が歩きながらうーんと唸ったので問いかける。
「いや、烏だったら家がないのは当たり前だ。普通八咫烏でも巣は作るしいくらでも移住できる。なのにその子は盗みをしてまでこの街に居るんだろう?」
そう言えば小鳥遊がそんなこと言ってたな。よく盗みをしては店主に追い回され、しかし誰も捕まえたことはないとか。恐らくだが、視界から外れたところで烏に変化してるのではないだろうか。
まぁ大事なのはそこではなく紅葉の言っていたことなのだが。
商店街をぶらぶらとしていると、一軒の八百屋が目に入った。軒先でなにやら魚屋らしき男と話している。
「くっそあのガキ、今日こそとっちめてやる」
「うちにもたまに来るよ。いつか痛い目見せねぇとな」
……あの子の事か。だいぶ恨みを買っているな。
しかし、烏なのに盗みを働くというのはそれ相応の働きがあるのだろう。店主たちには悪いが、保護したら見つからないようにこの街を後にするつもりでいる。
と、八重が小さく声を上げた。
八重が指さす方を目で追うと、一人の少女が物陰に隠れてしゃがんでいた。
服はぼろぼろ。顔は暗く髪の毛も手入れしてないのが見て取れる。
「おい」
「っ!?」
俺が声をかけると、少女は全身を震えさせ、脱兎の如く駆けだした。
八咫烏の身体能力は人間と比にならないほど高い。その為走られては俺に勝ち目はない。
――はずなのだが。
「はっ、離せ!」
あっさりと捕まえることができてしまった。
見かけの割には確かに早いのだが、足取りはフラフラとしている。そのため余裕で追い付けたのだ。
掴んだ腕をふりほどこうと必死に暴れるが力を緩める気はない。
「私だって生きたいんだ!そのために人間の物を奪って何が悪い!私は八咫が――」
「私は八咫烏だ。そこの黒髪のも、八咫烏だ」
いつの間にか少女の正面に回り込んでいた紅葉はしゃがみこんで少女と目線を合わせ、言い聞かせるようそう口にした。
少女はその言葉にぽかんと口を開く。
「君が嫌じゃなければ俺は君を匿いたい。うちに来てくれないか?」
「……」
まだ状況がつかめていないようだが、呆気に取られながらも小さく頷いた少女。
俺達は少女が見つからないように迂回しながら自宅へと戻った。
「羽が折れた?」
少女はホットミルクを恐る恐るすすりながら、恥ずかしそうにこくりと首を振る。
しかし以前の八重のことを思い出すと、少女の腕が折れている気配はない。腕と羽の傷は同じじゃないのか?
そんな俺に少女は項垂れながら、怪我は治ったのだがうまく飛べなくなってしまった。と話してくれた。
少女の見た目からして人間年齢で言うとまだ小学生程度。体力もないから歩き回るのには限度があったのだろう。
おまけに飛べないから移動のしようがない。食料もままならないから近くの商店街から盗んで食べていた、ということか。
「大変だったね、辛かったろう」
紅葉は優しく少女の乱れた髪の毛を整えるように撫でる。他人に優しくされたのが久しぶりだったためか、今にも泣きそうである。
「取りあえず、シャワー浴びよ?髪の毛も洗ったげるよ」
そう言って少女を風呂場へ案内する八重。
二人が居間から退出したところで、紅葉が真剣な顔で俺に話しかけてきた。
「あの子は私と同じ不純な八咫烏だ。身体能力も純粋な八咫烏に比べてとても低い」
「……不純?純粋?」
首を傾げる俺に、紅葉は分かりやすく説明してくれた。
「八咫烏同士が交尾して生まれるのが”純粋”。黒髪黒目だ。しかし八咫烏とただの烏が交尾することも稀にある。そうして生まれた八咫烏は、変化した時に髪と目に共通の色彩を持つんだ。
純粋の方が圧倒的に身体能力が高い。今私が八重に勝っているのは、年が離れているからと八重がまだ大人じゃないからだ」
「っはぁ~。そんな話初めて聞いたぞ」
紅葉は「初めて話したからね」と苦笑いを浮かべる。
とどのつまり、不純なうえ弱っていたからこのような事態になったのだ、ということか。
まぁ本人も嫌がっていないみたいだし、ここで匿うことにしよう。
さて、日常がまた大きく変わりそうだ。