まず、これはいわゆる台本形式のSSです。そういうのが苦手な方はバックでお願いします。

兄と妹のほっこりラブコメ。掲示板の分類なら、「兄妹」「兄弟姉妹」などにあたるお話です。

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どもども。

現在はここで俺ガイルのSSなどを書いてる作者ですが、はるか昔、某掲示板で台本形式のSSを書いていた時期があります。
このお話は、パソコンのデータ引越し時に行方不明になっていた未発表の作品を最近たまたま発掘し、それに若干の加筆修正をしたものです。

せっかく見つけたものの、今更掲示板に参戦する気力も体力も無く……まあ昔、こんなのを書いていましたよ、ということで。少しでも需要があるといいのですが。

兄と妹のほっこりラブコメ。(ただし台本形式)よろしければどうぞ。




兄「妹には抱きまくらになってもらう事にした」

 

 

兄「というわけで、妹には俺の抱きまくらになってもらうことにした」

 

妹「言っている意味が分からない」

 

兄「抱きまくらには睡眠中の体をリラックスさせる効果があるらしい」

 

妹「うん。さっきテレビで言ってたね」

 

兄「人の体温には相互に癒やしの効果がある。母親と赤ちゃんがふれ合うように」

 

妹「まぁ、何となく分かる」

 

兄「そして、『妹』という存在には萌えの効果がある」

 

妹「……」

 

兄「これで分かっただろう。『リラックス』+『癒し』+『萌え』=『最強』ということだっ!」

 

妹「兄さんがおかしいという事はわかった」

 

兄「『兄さん』じゃない」

 

妹「?」

 

兄「萌える『妹』は、この兄を『お兄ちゃん』と呼ばねばならぬのだ」

 

妹「」(遠い目)

 

兄「まずはそこからだな。『お兄ちゃん』だ。はい、りぴーとあふたーみー」

 

妹「お、お兄ぃ……ちゃん?///」

 

兄「…………いい…………///」

 

妹「はっ、ついやってしまった。今の無し。絶対無い。うん」

 

 

 

妹「そもそも私が兄さんの妄想に付き合う義理は無いし」

 

兄「『お兄ちゃん』だ!」

 

妹「あのね、兄さn

 

兄「『お兄ちゃん』でお願いしますっ」(涙目)

 

妹「……お兄ちゃん」

 

兄「どうした妹よ」

 

妹「……私が、『はい、抱きまくらになります』って言うと思うの? なんのメリットが有るのよ」

 

 

兄「ふっ」 つ[妹が好きな海外ミュージシャンの日本公演プレミアムペアチケット]

 

妹「!!!」

 

妹「……っ、それ、どうしたの!?」

 

兄「プロのテレビっ子である俺を舐めてはいかん。データ放送の四色ボタンなんちゃら……の懸賞を片っ端から応募しまくっていると結構色々と当たるのだ」

 

 

妹「くっ、そういえばこういう運だけはやたら良い兄だった」

 

兄「俺の最大の幸運は、妹の兄になれた事だ」

 

妹「///……はっ、恥ずかしい事を良く平気な顔で……」

 

兄「俺の妹に対する愛に恥ずかしい事など一つもないっ」

 

妹「///ばかっ」

 

兄「顔を赤くして照れているところを申し訳ないが、

 

妹「///照れてなどいないっ」

 

兄「妹が兄の抱きまくらになってくれれば、このチケットを進呈しよう」

 

妹「……」

 

兄「五年ぶりの来日公演だってな。今回を逃すと次はいつになるやら」

 

妹「ひ、卑怯な」

 

兄「更には、このチケットは、さっき抱きまくらの事を取り上げていたワイドショーの先月の懸賞なのだよ」

 

妹「……それが?」

 

兄「つまり妹が、このチケットを手に入れて兄の抱きまくらになるというのは、アカシック・レコードに記載されている運命なのだ」

 

妹「そんな運命など信じない」

 

 

兄「……そんなに、この兄のことが嫌いか?」(悲しい目)

 

妹「な……。べ、別に嫌いってわけじゃなっくって……」

 

妹「ただその、抱きまくらとか……恥ずかしい……し、さ」

 

兄(これは……、もうひと押しか?)

 

 

 

兄「オーケィ、ベイビー。それじゃこう考えようじゃないか」

 

兄「妹は好きで抱きまくらになるわけじゃあない。だがライヴのティケットは欲しい。ここまではOK?」

 

妹「おーけーだけど、兄さ……お兄ちゃん、キャラがおかしくなってるよ」

 

兄「律儀に『お兄ちゃん』と言い直してくれる所に愛を感じる……///」

 

妹「顔を赤らめるな! 愛など無い!」

 

兄「え。な、無いの……?」ショボーン

 

妹「っ、あーもう面倒くさいなぁ……」

 

妹「お兄ちゃん、ちゃんと愛あるよ///、その、家族愛っての?」

 

兄「ありがとう。俺も妹を愛してるよ」(真顔)

 

妹「///……もう……」

 

 

 

兄「それで、だ」

 

妹「うん」

 

兄「妹は兄の持つティケットを手に入れるために簡単なジョブをこなすというわけさ」

 

妹「変なキャラが抜けてないよ……」

 

 

兄「結論として妹は『抱きまくら』という労働の、正当な対価としてこの『チケット』を受け取るということになる」

 

妹「抱きまくらって、労働かな……?」

 

兄「つまりっ、妹が、

――『///別に好きでお兄ちゃんの抱きまくらになりたいわけじゃないんだからね、チケットが欲しいだけなんだからね///』―― と言えば全てオーケェイ!!」

 

妹「言わないし!! OKでもないし!!」

 

兄「いやそこは言って下さいお願いします。出来ますれば顔をほんのり赤らめて伏し目がちにして」

 

妹「私に一体どんなキャラを求めてるのよっ」

 

兄「では、妹らしく言うならば……?」

 

妹「うっ、……く」

 

妹「……///」

 

兄(なんかドキドキしてきた///)

 

 

妹「///わかったわよ。もう……。確かにチケットは欲しいし、その、何年か前までは、おんなじ部屋で布団並べて寝てたんだし、それに一緒にお風呂だって入ってたもんね」

 

妹「そう考えれば、抱きまくらくらい、大したことじゃないし、うん。いいよ。アホな兄さん、じゃ無かった『お兄ちゃん』の妄想、叶えてあげる///」

 

兄(よおっしゃあぁぁぁぁ!!!)

 

 

 

 

 

妹「で、抱きまくらって何をどうすればいいのよ?」

 

妹「一緒にベッドに入って、こう、だ、抱きつかれて///……眠る、でいいのかな? それとも、こっちからも、なんていうか、///抱きしめあう、みたいにするの……?」ウワメヅカイ

 

兄「///か、可愛い……」

 

妹「に、お兄ちゃんっ///]

 

兄「スマン……。特に決まりはないと思うが、俺の勝手なイメージでは、妹に背中を向けてもらって、俺が後ろからくっつくように抱きついて……かな///」

 

妹「///あ、あぅ……」

 

 

兄「だが、抱きまくらには他にも重要な事がある」

 

妹「何よ?」

 

兄「服装、つまりっ、コスチュームだっ」

 

妹「? 寝るんだからパジャマじゃ無いの?」

 

兄「甘いな、そんな事では『抱きまくら道』を極める事は出来んぞ!」

 

妹「いや、極める気無いし。でも、どゆこと?」

 

兄「よくぞ聞いた。お主には我が秘蔵のコレクションから参考資料を出してやろう」

 

 

 

兄 ガサゴソ……「見つけた。これこれ」つ[電撃ビリビリな女の子制服抱き枕カバー]

 

妹「何これ? 布の……ポスター?」

 

兄「これは『抱き枕カバー』といって、自分で用意した抱きまくらに被せて使う物だ」

 

妹「へえ、って、これがどう参考になるのよ」

 

兄「寝るから、と言ってパジャマとは限らん、ということだ」

 

兄「制服姿の妹を抱きしめて寝る、とか、テンション上がるじゃないか!」

 

妹「///え、やだよ、制服しわになるし、なんか変態っぽい」

 

 

 

妹「だいたいなんで制服なのよ。あんまり、その……触り心地ってゆうか、肌触り良くないと思うよ?」

 

兄「俺は妹の制服姿が好きなんだよ。よく似合ってるし、こう、清楚って感じで、ギュッとしたくなるというか……/// ごめん、自分で言ってて恥ずかしくなってきた」

 

妹「///ギュッて……あぅ」

 

兄「と、とにかく無理にとは言わん。あくまでも参考としてだな……

 

妹「これって筒状になってるんだねー」(抱き枕カバーくるり)

 

兄「あ」(マズイ)

 

妹「」 つ[裏面:ブラとかパンツとか半脱ぎでイヤ~ン]

 

 

 

兄「…………」

 

妹「…………」

 

妹「……兄さん」

 

兄「はい」

 

妹「私にこれをやれと?」

 

兄「五回DEATH。いや誤解です。裏面のこととか忘れてました。単純に制服を着た妹をですね……

 

妹「制服という案は却下されました」

 

兄「……申し訳有りませんでした」

 

 

兄「で、その……妹様が抱きまくらになっていただける件については……」ヘコヘコ

 

妹「……はぁ、そんなに卑屈にならないでよ。一度やるって言ったし。それに……」

 

妹「今さらこのくらいで『お兄ちゃん』の事嫌いにはならないし」

 

兄「妹……」

 

妹「ただし、脱いだりしないからね///」

 

 

 

 

 

 

 

 

――――お風呂――――

 

 

妹(……なんか変なことになっちゃったなぁ)

 

妹(兄さんの、だ、抱きまくら、とか////)ゴシゴシ

 

妹「♪~」

 

妹(髪も躰も、いつもよりていねいに洗って、と)

 

妹「///いや、何も無い。何もないけど一応アレがソレだし……念のために///」ボソボソ

 

妹(私ってば何を言い訳してるんだろ。いいじゃない、「兄さんには、少しでも可愛い私を見て欲しい」で)

 

妹「ふふっ」

 

 

 

―――― リビング ――――

 

 

妹「兄さん、お風呂上がったよ~」

 

兄「そこは、『お兄ちゃん』で、

 

妹「ば、ちょっと、お母さん達が聞いたら変に思うでしょっ」アセアセ

 

兄「ん。大丈夫、さっき二人共部屋に行ったよ」

 

妹「そか。 ……コホン。お兄ちゃん、お風呂、上がった、よ///」

 

兄「おう///」

 

兄「あれ、そのパジャマ初めて見るような……」

 

妹「あ、うん。おニューだよ、可愛いでしょ?」

 

兄「……」

 

妹「えと、……変……かな?」

 

兄「いやその、あまりの可愛さに見蕩れてた///」

 

妹「っ///」

 

兄「いや悪い、変なこと言った。ごめん」

 

兄「でも、ホント、よく似合ってる。可愛いよ」

 

妹「///あ、ありがと……」

 

 

 

兄「で、さ」

 

妹「うん」

 

兄「その……、どっちの部屋が良いかな、と」

 

妹「あ、えーと、うん」

 

妹(どうしよう…… 全然考えて無かった。でも、兄さんの部屋に行ったら、兄さんのベッドで兄さんに抱っこされて/// ……駄目だ、恥ずかしくて死んじゃうかも///)

 

妹「じゃ、じゃあ今日は私の部屋で/// ……で、良いかな?」

 

兄「仰せのままに」

 

兄(妹の、『今日は』という台詞に突っ込みたいがここは我慢だ)

 

 

 

 

―――― 妹の部屋 ――――

 

 

(明かりは豆球だけ)

 

妹(自分のベッドに入って兄に背中向けたまま)ドキドキ

 

妹「に、お兄ちゃん、いいよ……」

 

兄「あーなんか、すごくドキドキする…… お、おじゃまします///」

 

妹「う、うん///」

 

兄(妹のベッドの端っこにすっと入る)

 

妹「」(カチンコチン)

 

兄「ふふ、大丈夫。とって食ったりしないっての」(妹の両肩の上から腕を伸ばして、優しく抱きしめる)きゅっ。

 

妹「ふわ///、ん」(躰ヨジヨジ)

 

兄「妹あったかいなー。それにすごく柔らかいし、いい匂い」(スンスン)

 

妹「やっ/// 恥ずかしいから匂い嗅がないでよ……」

 

妹「……でも、」

 

兄「……ん? でも?」

 

妹「こう、ね、兄さんに後ろから抱きしめられてると、あったかくて、すごく、すごく安心するの///」

 

兄「……」

 

妹「……ん、どうしたの?」

 

兄「なんか、ちょっと意外というか……、もう少し嫌がったり恥ずかしがったりするんじゃないかと思ってたからさ」

 

妹「もちろん恥ずかしいし、ずっとドキドキしっぱなしだよ///」

 

妹「けど……、私が一番安心できるの場所は、兄さんの隣なの。あの日から……ずっと」

 

兄「そっか。 ……あの日から……か」

 

妹「うん……」

 

 

 

 

兄「はぁーーーー。なんか超癒されるぅ」スリスリ(ギュッ)

 

妹「ふふっ。私達兄妹でなにしてんのって話よね……。けど私も、癒されるっての、よく分かる。すごく気持ち良く眠れそうな気がしてきた」

 

兄「うん。これだけたっぷり妹パワーを充電しておけば、明日から4ヶ月位は頑張れそうだ。妹も、ここでしっかり兄パワーを充電しておくがよい」アタマナデナデ

 

妹「んっ、くすぐったいよ にい……お兄ちゃん?」

 

兄「あ~もう可愛いなお前わ~」ギュウ~

 

妹「あん///。それは流石にちょっと苦しい……」

 

兄「おっとごめん。お前が可愛すぎるのがいけないのだよ」

 

妹「ぷっ。ばぁか」

 

妹「でも、なんだかぽわぽわして、ほんとに眠くなってきちゃた」

 

兄「じゃあ、今日はもう寝るか。……お休み、妹」ギュッ

 

妹「うん。おやすみなさい、『お兄ちゃん』」スリスリ

 

 

 

 

 

―――― 明け方 [妹の部屋] ――――

 

 

 

妹「ふわぁ~…………え?」(目の前に兄の寝顔)コンラン

 

妹(そうか……昨日……。もう、朝……?)

 

時計(4時30分だよ)

 

妹(うわ、いつの間にか腕枕されて……向かい合ってるし……///)

 

妹(///うう、顔近いよ……。でも、兄さん……寝てるとなんだか可愛い。大きいわんこみたい。ふふ)

 

妹「…………兄くん……」(指先でそっと兄の唇に触れる)

 

兄「んん…… ふわぁ」パチ

 

妹(!!)ササットテヲヒク

 

兄「ん……おはよう、妹」

 

妹「お、おはよう『お兄ちゃん』 ふぁ」(あくびをするふりをして指先を自分の唇に触れる)ドキドキ

 

 

 

――――――――――――――

 

 

 

妹「で、よく眠れた? この抱きまくらちゃんの効果はあった?」

 

兄「ああ、すごく良く寝れた。抱きまくらちゃんが、柔かくってあったかくていい匂いだったからな」ニッコリ

 

妹「///あぅ。恥ずかしい台詞を爽やか笑顔で言うな」

 

兄「まだ早いな。今日は休みなんだから、も少しゆっくり寝てろ」(妹の頭ぽむぽむ、ベッドから出る)

 

妹「あっ……」(思わず兄の袖に縋る)

 

兄「! 妹……?」

 

妹「///あ、いやその、兄さんはもう起きちゃうの?」

 

兄「一回自分の部屋に戻るよ、一緒に寝てて、母さんが起こしに来たりしたら流石に気まずいし///」

 

妹「あはは、そうだよね、じゃ、もう少し寝よっかな~」

 

兄「俺は…… 少し本でも片付けよっかなー」

 

妹「ん。じゃあ、もう一回、おやすみなさい『お兄ちゃん』」

 

兄「ぷ。んじゃ、またな」ガチャ……バタン

 

妹(「またな」だって。変なの)

 

 

妹(まだ兄さんの体温が残ってる…… あ、なんか隣の部屋からガタゴト音がする…… なんだか………… 本当に…… 眠く…………)

 

 

 

 

 

―――― 夢 ――――

 

 

――大人達が慌ただしく何かの準備をしている部屋の、ふすま一枚挟んだ部屋――

 

小学生兄「…………」

 

幼妹「うえっ…… ぐすっ…… お母……さん……」

 

小兄「……妹ちゃん、もう泣くなよ……」

 

幼妹「だ、だって。ぐす…… おかあさん、もうおはなしできないんだって。だっこも、できないんだって。 …………し、死んじゃった、からって……うえっ……」

 

小兄「妹ちゃん……」ギュッ

 

幼妹「兄くん…… えっ、くっ、わぁあああん…………」

 

小兄「ボクが、妹ちゃんといっしょにいるから」

 

幼妹「……んっ……、ぐす」

 

小兄「ずっと、妹ちゃんのこと、守るから……」ギュッ

 

幼妹「兄くん、兄くん……」ギュッ

 

 

 

――――――――― 

 

 

 

 

妹「………… もうすぐお昼、か」

 

妹(変な夢見ちゃったな…… もう十年以上経つのに……)

 

妹「下降りて、ご飯食べよ……」

 

妹 コンコン → 兄の部屋

 

妹「兄さん、居る? ご飯どうする~」

 

部屋「シーン」

 

妹「あれ、 もう下に降りたかな?」

 

 

 

 

 

妹「あ、お母さんおはよ」

 

母「おはようって、十一時半よ……」

 

妹「へへ、ごめんなさい。二度寝しちゃった」

 

母「まあ、休みだし、それに昨日は遅くまで兄と色々話してたんでしょ」

 

妹「///は、話ってゆーか……」

 

母「なんで赤くなるのよ。何か言われた?」

 

妹「なんでもないっ。いーの別に」

 

妹「で、その兄さんは?」

 

母「!!! 妹! あんた昨日話聞いたんじゃ無いの?」

 

妹「な、何をよ?」

 

母「……あのヘタレめ。 ……妹、落ち着いて聞いてね。兄は今月からしばらくアメリカよ。向こうの大学院生との共同研究だって」

 

 

 

 

 

―――― 旅客機 客室 ――――

 

 

 

アナウンス「……を離陸しました当機は、アメリカ合衆国西部標準時08時30分にロサンゼルス国際空港に到着予定です。飛行時間は10時間05分の予定ですが、現地の天候等により……」

 

 

兄「…………」(結局言えないままで来ちゃったな……)

 

兄「あいつ、怒るかな、それともやっぱり泣く……かな」

 

 

 

 

―――― 回想 3日前・リビング ――――

 

 

母「ちょっと兄、あんたまだ妹に話してないの?」

 

兄「あー…… その、言うタイミングが……。それに、もし泣かれたら、とか色々考えると、さ」

 

母「んー。ま、泣いちゃうだろね。なにあんた、『妹には笑顔が一番似合ってるから、笑顔のままで見送って欲しいんだ』とか言うつもり?」

 

兄「いや、俺的には妹は、照れたり恥ずかしがったりしてる顔が一番可愛いと思う!」

 

母「……私は時々あんたのことがホントに心配になるわ……」

 

母「この際、あんたの気持ちを正直に言ってったほうが良いんじゃない。 ――好きなんでしょ、あの子の事」

 

兄「……それは、……うん」

 

母「だったらちゃんと妹に言いなさいよ。大丈夫、あの子も兄の事が好きよ。多分、あんたが妹を女の子として見るようになるずっと前から」

 

兄「なんでそこまで断言出来んだよ……」

 

母「そんなのあの子を見てればわかるわよ、母親だもの」

 

兄「何だその自信は。それに母親って言うけど、

 

母「姉さんが亡くなって今年で11年目」

 

兄「……」

 

母「あの子がうちの子になった時まだ7歳だったわ」

 

母「『私が』妹の母親よ」

 

兄「……ごめん今、俺、母さんに酷いこと言おうとした……」

 

母「いいわよ。母親だから許してあげます」

 

母「……それに、これじゃ姉さんにも悪いしね。……訂正、『私も』妹の母親よ!」

 

兄「カッコいいよ。母さん」

 

母「ありがと。あんたはカッコ悪いわね」

 

 

兄「……わかってるよ。色々と自信が無いんだよ。認める。俺は妹の事が好きだ。一人の女の子として好きだ。でも……妹として、家族としてもちゃんと好きなんだよ」

 

兄「……『もう妹として見れない』みたいにはならないんだよ……」

 

母「それがどうしていけないの?」

 

兄「それは多分……依存なんだ。そう、俺は妹に依存している」

 

母「え、『妹』が『兄』にじゃなく?」

 

兄「んー、あいつも多分俺に依存してる。とは……思う」

 

兄「俺は『妹を守る兄』 あいつは『守られる妹』 お互いそういう関係でいることに依存していて、だからその関係を変えるのが怖いんだ。 『兄妹』でいられなくなるのが怖いんだ」

 

 

母「それで妹と距離をとる、と」

 

兄「……」

 

母「あんた達の『テレビがなんちゃら……』っていう研究、こっちの大学を拠点にしても出来ないわけじゃないんでしょ」

 

兄「『テレビとウェブサイトの連携による宣伝効果の限界と、その先の戦略』な。スポンサーがついてる以上、中途半端な事は出来ないだろ」

 

母「でも、大手の企業が三社も出資してくれるなんて、そんなにすごい研究なの?」

 

兄「やってる事は難しい事じゃないぜ。要は、今現在ネットが普及している国においては、テレビのCMは、消費者に企業のウェブサイトを検索させる事が主目的になっていて、CM自体の宣伝効果は極端に低下しているってことだよ。よくある、『続きはウェブで』とか、『〇〇を検索』みたいなやつ」

 

母「そ~言えば、最近そんなのばっかりねー」

 

兄「ただ、そのCMによって、実際に検索が増えるケースと、CMがスルーされて、余り効果が無いケースとがある」

 

兄「これは受け手側の国民性、性差、年齢層などによって大きく異なるから……、まあ、何が重要かって言えば、『ターゲットとする消費者を明確に絞って、その国・地域に合わせた戦略を』ってこと」

 

母「でも、大きい企業ならみんな考えてるんじゃないの? わざわざあんた達が研究しなくても」

 

兄「そうだよ。だからうちで研究しているのはその先、ターゲットに、『検索ボタンを押させる』ための心理的な戦略」

 

母「心理的な戦略?」

 

兄「具体的に言えば、ある国でCMを流す場合、Aというルールを守れば、30代40代の女性の検索数は間違いなく上がりますよ、っていう感じのノウハウ」

 

母「え、そんなルールが有るの?」

 

兄「効果の高低はあるけど、60項目位は見つけてる。ルールをどうやったら効率よく収集出来るのかってのが研究の肝だね」

 

母「なんだか凄い事のような気がしてきたわ」

 

兄「ただ、企業がお金を出してくれるのには他にも理由はあると思うよ」

 

母「他に?」

 

兄「『日米の現役学生による画期的な共同研究』に資金提供する、というのは企業のイメージ戦略として有効だからね、特に向こう(米国)では」

 

 

母「……まあ、妹から逃げるわけじゃ無いってことは分かったけど……、いずれ、答えを出すつもりはあるんでしょうね」

 

兄「ああ。今回、あいつと少し離れることで、お互い、依存無しで向き合えるようになると信じてるよ」

 

母「カッコつけるなら妹にちゃんと言いなさい!」

 

兄「……妹の泣き顔は苦手なんだよ……」

 

 

 

――――――――――――――

 

 

 

母「……兄は今月からしばらくアメリカよ。向こうの大学院生との共同研究だって」

 

妹「…………」

 

母「……おーい、妹?」

 

妹「……え、何、えっと……あれ?」涙ポロポロ

 

妹「……っ、おっかしいなぁ。涙なんか……、変。兄さんが、あれ……止まんない……」ポロポロポタポタ

 

母「妹」ギュッ

 

妹「あ……」

 

母「落ち着いて。兄は別に家から出てったって訳じゃないのよ。大学でやってる研究のために少しの間向こうを中心に活動するだけ。ただそれだけ」

 

妹「あ……その、うん……なんかごめん、お母さん」

 

母「ふふ。少しは落ちついた?」

 

妹「うん。なんか、急でさ……。ちょっとびっくりしただけ、かな。うん」

 

母「やっぱり兄はあなたに何も言わないで行っちゃったのね?」

 

妹「……うん」

 

母「なっさけないわねー。まあ兄は、あんたに泣かれたくない、みたいな事言ってたけどね」

 

妹「泣いたりなんか……って泣いたよね、私。あはっ」

 

母「ちょっとの間離れて暮らすってだけよ? それに今の時代、電話もメールも有るでしょう?」

 

妹「……そか。うん。 でも、兄さん……迷惑に思わないかな? 電話したりしたら」

 

母「兄があなたの電話を迷惑がるなんて思う?」

 

妹「思……わない///」

 

母「きっと喜ぶわよ。妹の声を聞いたら」

 

妹「うん!」

 

母「あと、これ、あんたが起きたら渡してって」 つ[封筒]

 

妹「何……? あ、ライブのチケットと、メモ用紙……いちおう手紙?」

 

 

 

――――――――――――――

妹へ

 まあそんなわけで、約束の報酬だ! ちなみにテレビの懸賞だったというのは全くの嘘では無いが、それは応募したけど外れた。

 これは今回の研究のスポンサー企業から特別に廻してもらった最前列のプレミアムシートだから、仲の良い友達でも誘ってたっぷり楽しんでこい。

 

 ただし、男とは許さん! 俺が戻ってくるまで、彼氏とか作るんじゃないぞ。

 

 あと、なんかあったらいつでも電話してこい。

 あと、なんか無くても電話してこい。その時は時差を考えてくれると嬉しい。

 

 じゃあ、行ってきます。

 

 今回の事、ちゃんと言えなくてごめん。

 

  兄より

――――――――――――――

 

 

妹「……ばーか。彼氏なんて……作るわけ無いじゃん……」

 

 

 

 

 

 

――― 妹 回想 [11年前] ――――

 

 

幼妹「んんっ」(目を覚ますと薄暗い部屋。いつの間にか毛布をかけてもらっている)

 

幼妹(ねむっちゃった……)

 

幼妹「あれ……兄くん……?」

 

 

――二階には誰もいないみたいだ。階段の下からかすかに誰かの話し声が聞こえてくる。

 

 

幼妹「兄くんも下にいるのかなぁ……」(静かに階段を降りて、そっと様子をうかがう)

 

 

 

 

小学生兄「お願いします。父さん、母さん!!」(土下座)

 

 

父「!!」

 

母「!!」

 

幼妹「!!!」

 

 

小学生兄「妹ちゃんを、うちの子に……僕の『妹』にしてください!」

 

父「おい、急にどうした……。それに、男が土下座なんか簡単にするもんじゃないぞ……」

 

小学生兄「簡単に……じゃないよ。……僕、さっき聞いちゃったんだ」

 

小学生兄「妹ちゃんのこと引き取れるの、うちか叔父さんのとこだけだって。叔父さんとこはマンションだし、子供も小さいから、むりだろうって」

 

小学生兄「他の人は、僕ん家が無理なら可哀想だけど施設に預かってもらうしか無いって……」

 

父「…………」

 

母「…………」

 

 

小学生兄「でも、僕……約束したんだ――妹ちゃんを守るって。一緒にいるからって!」

 

幼妹(…………)

 

小学生兄「だけど僕はまだ小学生で……お金も、何の力も無くって……だから、出来るだけ早く大人になるから、きっと自分で妹ちゃんを守れるようになるから、それまでは……」

 

母「兄、あなたがそんな事……

 

父「待ちなさい、母さん」

 

母「あなた……?」

 

 

父「兄、まずは立て。そして俺の目を真っ直ぐ見ろ」

 

小学生兄(素直に立って父の目を見上げる)

 

父「約束できるな、自分の力で妹ちゃんを守れるようになると」

 

小学生兄「!! うん、約束する。どんなことがあっても、僕が妹ちゃんを守るよ!」

 

 

幼妹(……兄くん……)

 

 

――――――――――――――

 

 

妹(私は、あの日から……ずっと、ずっと…………)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――― 四ヶ月後 [空港] ――――

 

 

アナウンス『20時30分到着予定の〇〇航空△△便は、到着が30分早くなり、20時ちょうど到着の予定です。なお……」

 

 

兄「はー……やっと着いたかぁ」(肩ゴキゴキ)

 

兄「4ヶ月ぶりか……。さて、ホテル……いや、まずはメシか……って」

 

 

 

妹「お帰りなさい、兄さん」

 

兄「え」

 

妹「ふふ、びっくりした?」

 

兄「そりゃあ……。どしたの、妹? 到着夜になるから、明日新幹線で帰るよって……それに、何で制服?」

 

妹「びっくりさせたくて……ううん、兄さんに早く会いたくて……来ちゃった」

 

兄「…………」

 

妹「あと、制服は……『お兄ちゃん』喜ぶかなって///」

 

 

兄「妹……」ダキツキ

 

妹「きゃ///」

 

兄「……ただいま」

 

妹「うん……お帰りなさい///」ダキカエシ

 

兄「どしたの? 妹」

 

妹「え、何が?」

 

兄「いや、……なんか、素直?」

 

 

妹「……兄さんの…………」

 

兄「ん?」

 

妹「兄さんのせいでしょっ、ばかっ」(涙目)

 

兄「…………」

 

妹「あんな……急に抱きまくらとか言ってドキドキさせといて、……黙って行っちゃって……。もう会いたくて会いたくて会いた、くて……」(涙ポロポロ)

 

 

 

兄「……ごめんな……」ギュッ

 

妹「……うん……うん……」

 

 

 

 

―――― エアポート・ホテル 客室 ――――

 

 

兄「……部屋がツインに変更されてる?」

 

妹「うん。私が兄さんを迎えに行きたいって言ったら、お母さんが手続きしてくれたの」

 

兄「そうか……」

 

妹「って、あ。私まだお母さん達に電話してない……」

 

兄「いや、とりあえずメールはしておいたぞ。『妹と合流した』ってだけは」

 

妹「そか、じゃあ大丈夫だね」

 

妹「えいっ」(ベッドにダイブ)

 

兄「おいおい子供かよ…………」

 

妹「ふふ、何年ぶりかな、兄さんと二人で旅行?」

 

兄「これは旅行っつーか……でも、そうだな……お前が中1の時に宮城のばーちゃんとこに俺らだけで行った時以来、か?」

 

妹「ああ、新幹線間違えた時かぁ」

 

兄「そう、あせって一本前のに乗っちまって、結局指定席座れなかったんだよな……」

 

妹「ふふ、今回は予定通りの飛行機で帰ってきてくれてよかった」

 

兄「あのな、国際線でうっかり間違えたりしたら乗せてくれないっつ~の」

 

妹「えへへ……。ねえ、兄さん」

 

兄「ん?」

 

妹「疲れてるでしょ。お風呂……入っておいでよ。次に私も入るから」

 

兄「……ん、じゃあそうさせてもらうか」

 

 

 

―――――――――――――

 

 

妹「お待たせ~。出たよ~」

 

兄「おう…………って、何で制服のまま……?」

 

妹「だって……私、兄さん――お兄ちゃんの『抱きまくら』だから……///」

 

兄「妹……」

 

 

 

妹「兄さん……兄くん。大好きだよ」

 

妹「たった4ヶ月だったけど、離れてみてよくわかったの。私、お兄ちゃんとしてだけじゃなく、男の人として兄くんのことホント大好きだって」

 

兄「…………」

 

妹「もちろん、ずっと好きだったけど……怖くなったの。兄さんが向こうで好きな人できちゃうんじゃないかとか考えちゃって……そしたら、涙止まんなくなって……」

 

兄「そんなわけ……

 

妹「……私、兄さんを独り占めしたいの。……だから、ね」

 

妹「……今夜は私を、兄さんの抱きまくらにして下さい……その、あのときの裏側の絵みたいにしても……いい、から……あぅ///」

 

兄「! おま、裏って……脱ぎ……///」アワアワ

 

妹「///ちょ、兄さんのばかっ! はっきり言ったら恥ずかしいからぼかしてるのに……」

 

兄「…………コホン。あー……妹よ」

 

妹「///……何、兄さん」

 

兄「好きだ。……愛してる」

 

妹「!!!」

 

兄「今回の研究で、独り立ちの道も見えてきたんだ。……だから、落ち着いたら俺と結婚してくれないか? ……俺もお前を独り占めしたい」

 

妹「兄さん…………」ウルウル

 

兄「返事はすぐでなくてm……

 

妹「はい……はい! よろしくお願いします……私を兄……兄くんのお嫁さんにして下さい」

 

兄「……いいのかよ即答で……」

 

妹「いいに決まってるでしょ……ずっと……ずっと好きだったんだよ……」ポロポロ

 

兄「妹」(抱き締めて妹にキス)

 

妹「んっ……」(抱き締め返す)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

妹「あぅ……じゃあその、全部……ぬ、脱いだほうがいいのかな……///]

 

兄「いや! そこは制服半脱ぎでオネガイシマス!」

 

妹「……兄さんのえっち、変態っ…………///」

 

 

 

 

 

はっぴーえんどっ!!

 

 

 





今読むと、抱きまくらカバーのキャラクターとか、検索ばっかりのコマーシャルの話とかに古さを感じますねー。
それに、地の文が少ないと表現に限界が……。

まあ、今後この形式で書く予定があるわけではないんですが、この兄妹、なかなかいいキャラをしていたので、日の目を見ないのは可哀想だなーと、ついここに載せてしまいました。
台本形式があまり好きではない方もいるとは思いますが、どうぞ笑ってお許し下さい。


ではまた別のお話で。

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