あなたが人生を楽しんでいるとき、遊んでいるとき、何かに没頭しているとき、恋をしているとき。その陰では誰かが苦しんでいる。
そして、自分が苦しいとき、ほかの誰かが人生を楽しむことができています。
あなたが頑張って我慢しているお陰で誰かが笑える事ができているし、あなたが笑えているのは誰かが我慢して頑張っているお陰です。
そう考えたら、少しの苦しみも悲しみも乗り越えられる気がする。
〈爆発の10分前:神崎一狼〉
迫り来る機械の音を警戒しながら手榴弾にジョーカーに貰ったC4とチェストリグに入った5.56mm用のマガジンを2つ巻きつけてテープで巻いた物をパラコードをワイヤーがわりにして設置する。
「ふぅ...」
トラップを設置し終えて額に溜まった汗を腕で拭う。周りを確認してもう一度歩き出した。
「ック!!」
脚に激痛が走る。
「まずいな...」
すぐにちゃんとした治療をしないと取り返しの付かない事になるだろう。
痛みを堪えるために歯を食いしばる。一歩、また一歩と歩を進める。
意識が薄れる。
痛覚が鈍くなり、視界が霞む。
ドーン!!
爆発と地響きがした。爆音で意識が覚醒する。
「ックソ!」
思ったより近くに来ていたと知ると、俺は悪態を吐きながら歩く速度を上げる。
だが、暫くして脚が絡れ斜面を転がり落ちる。骨折した患部に激しい痛みが走る。
「!!」
歯を食いしばり、声を上げないようにする。口の中に血の味が広がった。
〈ウルフ、伏せろ。〉
無線から聞き覚えのある声が聞こえる。
指示通りに伏せると、俺の頭上を何かが通り過ぎる。その青白い物体は俺の前の土に当たり、大きな爆発を起こした。
「クッソ!」
思ったより近くに居たらしく、背後を見るとTー800や偵察ドローンが迫っていた。
「スモーク!!」
ジョーカーの声がすぐ側で聞こえる。次の瞬間、俺の横を拳大の筒状の物が転がって行く。背後でプシューと音が鳴り、視界がの端からオレンジ色の煙が見える。
「助けに来た。上げるぞ。」
視界が反転する。担がれた状態から後ろを見るとスモークの奥に制圧射撃をする味方が後ろに下がりながら数発ずつ発砲する。
「すぐに奴等の増援が来るぞ。」
「分かってる。」
腕の間から見え隠れするジョーカーの顔は苦虫を食い潰したような顔だった。
「スモーク!」
二度目のスモークはオレンジ色だ。援軍が来るんだろうか。
「カバー!」
ジョーカーの合図を機に全員が後ろに下がりながら制圧射撃を行う。偵察機の一機が側面に来る。速度を落とさず向かってくる。恐らく打つかってくる気だろう。
俺はジョーカーの腰からデザートイーグルを抜き3発発砲する。一・二発目は上下に逸れ、三発目で命中し金属に大穴を開ける。
「おいおい、撃つときは言えよな。」
笑い交じりに言う彼に、ただすまないと返す。痛みが酷く冗談を言うほど余裕がない。
遠くにヘリの音が聞こえる。
〈こちらフィンガー1、近接航空支援を開始する。離れろ。〉
無線にそう聞こえて暫くすると、爆発が起こる。
〈フィンガー2、パッケージを回収する。
突如、降下中のヘリが爆発し、墜落する。
「フィンガー2ダウン!フィンガー2ダウン!」
「ハンターキラーだ!」
兵士の1人が声を上げた。それを合図に全員が建物の影に入る。
「先輩、大丈夫ですか?」
聞き覚えのある声が聞こえた。心配そうに顔を覗かせる彼女を睨みつける。
「なんでお前がここに居る。」
「なんでって、心配だからに決まってます!」
強い口調で言い返され、少し苛つく。
「お前が来ると足手纏いになるだけだろ。」
そう言い返すと彼女はすみません。と返すだけだった。その目尻に涙が滲んだのを俺は目を逸らして無視する。
「...ここからどうするんだ?」
逆さまになった視界でジョーカーに問う。
「スナイパーが居る。
「無線は繋がってるか?」
急いでジョーカーにそう聞く。
「ああ、どうしてだ?」
「繋いでくれ。」
俺はそう言って耳の無線機を二度叩く。
「待ってくれ。」
そう言うと彼は少し無線機を弄る。
「いいぞ。」
「こちらウルフ。ジョーカーに回収されたパッケージだ。そちらはスナイパーで間違いないか?」
《こちらシエラ1、準備は出来てるぞ。》
「
《了解。報告を感謝する。》
無線が切れる。耳を澄ますと騒音が近づいて来るのが分かる。やがて、その騒音は段々と大きくなっていき頭上を通り過ぎる。
「今だ!」
市街地に間隔を置いて2発の銃声が聞こえる。続けて墜落する音が聞こえた。
《HKダウン!周辺はクリア。》
「了解。パッケージを回収する。」
それを合図に全員が大通りに出る。
《フィンガー3、回収に向かう。LZを確保してくれ。》
道に発煙筒を焚く音が聞こえ、煙が昇る。
《確認した。待機せよ。》
ヘリが着陸し、6人の内4人がカバー、ジョーカーと未来が先にヘリに向かう。
「コンタクト!真正面!」
仲間が接敵を知らせる。
「...がは!!」
援護していた一人が負傷する。これでもかと言いたげに追随する敵弾に止めを刺される。
「マンダウン!近接航空支援を要請する。」
《了解。しばらく待て。》
「こっちは撃たれてんだ!オレンジの煙だ。」
そういってスモークを投げようとした兵士が被弾する。
「ジョーカー!行け!」
LMGを持った兵士が叫ぶ。
「何言って...」「いいから行け!ここで退かないと全滅だ!」
彼の決意の眼差しにジョーカーは言葉を詰まらせる。
「なーに、すぐに追いつk...」
そのLMG持ちの頭を青白く光る弾が貫く。
「ックソ!行け!!」
パイロットに向かってジョーカーが叫ぶ。
《了解。ホットゾーンを離脱する。》
開いたドアから見える仲間たちは奴らに次々とやられていた。
《レーダーに感あり!HKが来ます!》
HKの増援が来たようだ。ヘリに乗っている全員の顔に冷や汗が滲み出る。
《振り切ります。掴まってください。》
その声とともに機首が右に大きく旋回した。だが、恐らく振り切ることはできないだろう。ハンターキラーは出現当初は戦闘機にも負けず世界の制空権を確保した敵の主力兵器だ。
《任せろ。》
無線から聞こえたのはシエラ1の声だった。次の瞬間、後ろで大きな発砲音が聞こえる。ドアからその方向を見るがHKは撃墜できていない。
「フィンガー1、シエラ1を援護しろ!」
ジョーカーが無線に叫ぶ。1機のAH‐64が支援攻撃を行うが、難なく落とされてしまう。
《ジョーカー、生き残れ。俺たちの分も、死んでいった仲間たちの為に!生き残r...》
後ろで爆発音が轟いた。
次回
「傷だらけの二人」