〈2020年 対馬支部:指令室〉
「作戦失敗よ。」
彼女は目を赤く腫らし、指令室を後にする。
「オイ!」
バタン!
勢いよく閉める扉をもう一度開閉して後を追う。
「ウルフ、お前が回収した食料の手続きなんだが・・・・・・」
「悪い。後にしてくれ。」
通りすがりの兵士にそう返し、もう一度前を向くが其処に彼女の姿は無かった。彼女の個室に足を向けた時、不意に後ろから手を掴まれた。
「あの、先輩。私に任せてもらえませんか?」
「あ、ああ。わかった。」
確かに、同じ女性同士で話しやすい事が有るかもしれない。ここは大人しく引き下がるのが一番だと判断する。
そこで、ふと引っかかる。
「おい、待て!先輩って!?・・・」
そう言って振り返るが、もうそこに彼女の姿は無かった。
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〈倉坂 燐(自室)〉
心の底では解っていた。きっと誰かが死ぬ。例え、どんなに強いアイツでも、人間なんだから。でも、こんなにショックを受けるなんて・・・
コンコン
不意にドアがノックされる。
また、アイツなのだろうか?また、あの時の様に私の震える体に手を回して安心させてくれるのだろうか?13年間も抱いているこの感情も知らずに・・・
でも、今ではそれも苦痛でしかない。いつ彼に出撃を指示して、その温もりが帰って来るか解らない・・・もう、戻って来ないかもしれない。伯父さんの様に・・・それなら私は、ここで誰にも会わず、ずっと蹲って居たい。
「倉坂先輩?・・・入りますよ?」
女の子の声。その声は聞き慣れた声だった。彼女も死なせるかもしれないと思うと不意に2年前の恐怖心が芽生える。あの時、彼女を1人置き去りにした時の恐怖心が・・・
ガコン・・・キィィィ
扉の開閉音。「来ないで!!」と言う私の心の声も空しく、柔らかい手が私の頭を包み込む。
「先輩・・・これは戦争です。先輩が指揮を執ってなくても必ず死傷者が出ます。むしろ、2年間で今まで誰も死ななかったなんて凄い事ですよ・・・もっと自分に誇りを持って下さい。」
「ぇ!?」
突然の彼女らしからぬ発言に少し戸惑う。
「神村先輩の言いそうな事を言っただけです。」
それを聞いて納得した。確かにアイツが言いそうな事だった。慰めているのか、開き直っているのか解らないような言葉・・・でも、それが何故か心の支えになっていた。
「もう少しだけ、そばに居てくれる?」
気が付くとそんな事を口走っていた。慌てて取り繕おうと言葉を探していると、彼女は私が思いもしなかった応えをした。
「良いですよ。偶にはお休みする事も大切ですしね。」
彼女の声は何処か柔らかく身体を包み込む様な声だった。
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〈指令室〉
俺は彼女と別れた後、もう一度指令室に戻っていた。正面には大きなディスプレイがあり、中央には大きな机型のタッチパネルがある。両サイドには自分達の仕事をしているデスクワーカー達が壁を向いてキーボードを叩いたり、他の支部と連絡を取っている。
ふと、ディスプレイに違和感を感じる。
「なぁ、そこのお前・・・どうして他の隊員は[Dead]って表示されてるのに、ピリオド07だけ[No Signal]なんだ?」
いきなり声を掛けられたからか通りすがりの男性の隊員は戸惑いながら答えを模索していた。
「最初に07の通信が途切れて、一緒に居た4人が死んでいます。多分、ターミネーターに襲われた時にバイタルセンサーが外れたとしか言いようが・・・」
「それか07が潜入型のターミネーターだったか・・・」
その言葉を口にした瞬間そいつの顔が青ざめる。
「そんなはず・・・」
確かにその可能性は極めて低い。だが、ピリオド07は負傷し救出されて出撃するまで専門の検査を受けていない。それを考えれば有り得る事だった。
「九州中継基地から入電。ディスプレイに出します。」
話しかけた男とは別の隊員が唐突にそういった。すぐに対馬全体を移したディスプレイの上にライブ映像が映し出される。
「ヴァルキリー、説明しろ。どうして精鋭チームであるピリオド部隊がやられた。」
映像に映し出されたのは、50歳前後の男だった。歳の割に毛髪は残っていて、それが一層彼の歳を判断できない要因でもあった。
「ん?・・・お前は、誰だ?」
ディスプレイ正面に立っている俺と目が合うと彼はそんな間の抜けた質問をする。
「ウルフだ。ヴァルキリーは少し外している。代わりに俺が説明する。」
俺の言葉使いに不機嫌に思っているのか、彼は眉間に少し皺を寄せる。
「今日、07:30にピリオド部隊は上対馬にあるターミネーター製造基地に潜入し、そこを破壊する作戦を決行した。」
「その作戦については承知している。私が指示を出した。」
彼は、当然の如くそう返す。
「そして10分後、2手に別れて爆弾の設置を行っていると、全員が謎の死を遂げた。」
「・・・」
「以上だ。」
暫くの沈黙の後、俺はそう言って話を強引に終わらせた。
昔からこの手の人間は好きになれない。指示を出しておいて成功しても当然な顔をする。そして失敗したら素知らぬ振りだ。もしくは、こうやって人に押し付ける。
その点、燐はよくやる。どんなに浅い傷でも、負傷兵には1人1人に気を配る。作戦が成功しても決して自慢したりしない。まさに理想の指揮官と言える。
「ふざけるな!」
顔を上げるとそこには茹でダコの顔が有った。
「我々は精鋭部隊を失ったのだぞ!その落とし前をどう付けてくれる!!」
画面には彼の唾が付きまくっている。とても気持ちの良い物ではない。
「そうですね・・・貴方が戦線に赴いてT-800を100体程、ご自身の手でお仕留めになったら何とかなるのでは?・・・」
もうこれ以上無い位赤い顔である。
「貴様!!私を誰だと思っている・・・」「そうですね・・・」
俺の態度に激怒する九州の最高責任者を相手に止めの一撃を喰らわせる。
「内地で踏ん反り返って居るガキの様な臆病者・・・に見えますが・・・・・・もしや、ご自身で『それ以下だ』と言うおつもりですか?それなら一向に構いませんが・・・」
「貴様!!・・・覚えていろ!必ず貴様を殺してやる!!前線に送りだしてあの鉄屑どもの餌食にしてやる!!」
そう言う姿は何とも滑稽だった。力を持っている奴はそれでしか対抗できない。相手が言っている事が図星なら尚更だ。
「言われなくても・・・」
そんな奴らに殺されてたまるか。それなら、ターミネーターに殺された方が数万倍マシだ。
「俺はこの身が尽きるまで・・・元の生活が戻るまで、この戦いに全力を尽くすつもりだ!」
そう言い終わる頃には、俺は奴を睨んでいた。最後に脇に居た隊員に通信を切る合図を出して、強制的に話を終了させた。
ペースを上げると言いつつ全然上がって無い・・・反省してます(嘘)
活動報告にも書きましたが、ツイッターを始めました。
アカウントを作って早1ヶ月、小説サイトからのフォローが0人な件。「誰かフォローお願いします~ww」
更新情報もそちらでしますのでお楽しみに!!