ターミネーター イースタン・フロント   作:花咲 狼

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敵の敵は味方である保証はない。
共通敵が居ようと自分に牙を剥かないとは限らないのだから。


12話「敵の敵」

暗い部屋で目が覚める。どうやら眠ってしまったらしい。

右腕が全体的に痺れ、感覚がない。仕方なく左手で目を抑える。

体を起こし、周囲を一瞥した。

そこは見たこともない工場の一部で辺りには火花が飛び散っている。

 

「一狼!」

 

不意に誰かに呼ばれる。

その瞬間後ろから声の主に引っ張られる。

壁にもたれるようにして座らされ、357マグナムを差し出される。

 

「援護を頼む。

 その右腕じゃまともに戦えん。

 俺がⅭ4を設置する。」

 

そう言われて右腕を見ると、

そこにある筈の右腕が肩から先で綺麗に無くなっていた。

傷口から骨が見え、

赤黒い血液が流れだす。

 

「悪いが治療させてもらうぞ。」

 

その男はマガジンから2発の弾丸を取り出すと、

弾頭をM1911のグリップで叩いて外し、

薬莢から出る火薬を俺の傷口に振りかけた。

軽い痛みを味わうがここからが本番だ。

彼はポケットからジッポライターを取り出す。

俺が目で合図すると、

それを傷口に近付けて発火させる。

炎が立ち上り、

焦げ臭さが辺りに立ち上る。

瞬間、

形容しがたい激痛に苛まれる。

 

「これで失血死することはない。」

 

彼は立ち上がり、

俺に背を向ける。

ここからは自分で切り抜けないといけない。

立ち上がり、

彼に渡されたマグナムを構え、

暗い中を一歩一歩歩き出す。

大きな扉を開くと廊下があり、

外から光が差し込んでいる。

希望の光に向かって走り出す。

やっと外に出られる。

 

「...!!」

 

あと少しで外に出れそうなときに角からT-800が現れる。

俺を見つけ、

真直ぐこちらに走ってくる。

振り返り元来た道を戻ろうとするが、

足が縺れて転倒する。

振り返るとT-800が踏みしめながら迫ってくる。

マグナムを構え顔に3発撃つ。

被弾した顔が少し逸れるだけで致命傷ではない。

 

「ックソ!」

 

銃口を頭に向けて意を決する。

引き金を引き絞る。

カキン!と金属音が鳴るが弾が出ることはなかった。

T-800の手が迫り首を絞める。

俺の体を軽々と持ち上げ掴んだ首に力が加わる。

意識が薄れる。

視界が暗転する。

鼓動だけが聞こえ、その間隔も長くなっていく。

そして何も聞こえなくなった。

 

※ーーー※

 悪夢に魘されて飛び起きる。

 呼吸が荒く、汗が滲んでいる。痺れた右腕を見るとそこには燐の寝顔があった。彼女を起こさないようにベッドに寝かせると、彼女の部屋を後にする。

 扉を開け、外に出ると未来が膝を抱えて座っていた。

 

「待ってたのか。」

 

声をかけると伏せていた顔を上げる。俺の介護をして、ここまで連れて来てくれたのもあるせいか少し疲れているように見える。

 

「はい。帰りで倒れたら元も子もないので。」

 

 そう言って立ち上がり、砂の付いたジーンズを叩く。

 

「ありがとう。」

 

 彼女の目を見据えてそういう。それを聞いて彼女は少し目をそらす。

 

「いえ...私も先輩に助けてもらいましたから。」

 

 ほんのりと赤みを帯びる頬を見て、少し笑いそうになる。

 

「それより、今日はもう休んでください。まだ怪我も治ってないんですから。」

 

 今度はしっかりとこちらを見返してくる。

 

「分かった分かった。」

 

 真剣な眼差しに両手を上げる。

 

※ーーー※

 少し休んだのもあってか、来る時よりは大分マシにベッドへと戻る事ができた。

 ベッドの上に座ると軽く首を鳴らす。鈍い音に未来が肩を竦めた。

 

「悪い。」

 

「いえ...大丈夫です。」

 

 すぐ横にある洗面台でタオルを濡らす彼女の後姿を見る。

 

「何してるんだ?」

 

 彼女が振り返り濡れタオルを差し出してくる。

 

「汗かいてますから、拭いてください。今からシャワーを浴びるのも体力使うでしょうし包帯も濡れるので。」

 

 それを聞くとタオルを受け取り顔と首を拭いた。

 

※ーーー※

 下対馬、陸上自衛隊の駐屯地に見慣れない人の姿があった。

 

「こちらゴースト。データを入手、エリアを離脱する。」

 

「手を挙げろ。」

 

 後ろからガバメントを突きつけるブロンドで青眼の兵士が居た。

 

「まだ生きてたとはな、ジャック。」

 

「ウィル?」

 

 ウィルと呼ばれた男は振り返ると口角を少し上げる。

 

「久しぶりだな。」

 

 そう言うと、ジョーカーに向かい合い両手を軽く広げる。

 

「お前こそしぶとく生きてたとはな。」

 

 ジョーカーは銃をしまった。

 

「他に生きてる奴は居るのか?」

 

 そう聞くと、ウィルは頷いた。

 

「アメリカでは抵抗軍のジョン・コナーって男が俺たちを率いてる。彼の御陰でスカイネットは半壊してる。」

 

「待て、こっちでは勢いが増してるぞ?」

 

 ウィルはもう一度頷くと、暫く沈黙し重い口を開く。

 

「日本は大陸から見たら離島だ。少数のマシーンで守れるからな。生産ラインの調査隊によると、HKとクラーケンの生産が過去に比べて格段に増加してるらしい。恐らくは日本に第二のデータサーバーを創って一種の避難経路を用意しているんだろう。」

 

「何だって!?」

 

 血の気が引く。もしそうだとしたら近々日本には大量のマシーンが押し寄せる事になり、2年前の再来、もしくはそれ以上の悲惨な光景が広がる事になる。

 

「ウィル、そっちの部隊を2分隊程こっちに送れないのか?」

 

 ウィルは首を縦には振らず、考え込む。

 

「分からない。今や連中が他国を救うかどうかもな。もしコレがブラフでこっちに援軍を送ってみろ。俺たちは壊滅だ。」

 

「だがもしブラフじゃなかったら?そっちは被害が出ないかもしれないがスカイネットが逃げるのをみすみす見逃すハメになるぞ。

...ギャンブルに勝つには賭けが必須だ。」

 

「ジョーカー、物事はそんなに簡単じゃないんだ。ここで賭けるのは金じゃない。人命なんだぞ?」

 

「それでもだ。ここで何も賭けなかったら日本の戦えない民間人が死ぬ事になるんだぞ?」

 

「...」

 

「...頼む。」

 

 ウィルの顔を覗き込んで訴え掛ける。

 

「はぁ...分かった。一応、要請はしてみるが本部が請け合うかは保証は出来ないぞ?」

 

「あぁ、助かる。」

 

「貸だからな?」

 

「お前を殺さなかった貸があるはずだろ?」

 

「...じゃあ、コレでチャラだ。」

 

「あぁ。」




次回
 「渡り鳥」

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