ペースが遅くなった分、今回は長めですww
許して下さいww
基地へ向かうヘリの中で、俺は怒りと後悔で半狂乱になっていた。
「ックソ!!」
ヘリのローター音の中に金属を殴る音が響く。
「ウルフ。落ち着け。」
腹立たしいほど冷静に言ってくるジョーカーを睨みつける。
「どうしてこんな無茶をした!」
近づいて胸倉を掴む。
「俺一人の命とあいつ等の命。どっちが重いか解ってるだろう!」
俺の手首を掴む。彼はとても悲しそうな顔をする。
「解ってる。解ってる...俺たちはそれが解った上で、お前にこれからの全てを賭ける覚悟でお前を助けたんだ。」
「だったら!」
「だからこそ、お前は犠牲になった奴等の分までこのクソったれな世界を必死で生き抜け!」
そう言う彼の目尻に浮かぶ涙を見て、俺は言葉に詰まる。
「どうして...」
歯を食いしばる。意識が薄れていく。
「如何してお前等は、俺をそこまで生かす!このクズの血が流れた俺の命を!」
口内に血の味が広がる。襟元を掴んだ拳から力が抜ける。
意識が途切れた。
*ーーー*
目が覚める。初めて見る天井に困惑しながら体の状態を確認する。手足は辛うじて動くが、骨折や疲労のせいかあまり力が入らない。
「うぅおぁぁ」
悪態を吐こうとするも声が上手く出せない。
「一狼?」
名前を呼ばれるが、視界がボヤけているせいで声の正体を把握できない。視界が暗くなる。声の主が影を作っていることに気付くのに数秒かかる。
目の前に居る女性の名前を口にしようとするが声が出ず、手を伸ばそうとするが手足も思うように動かない。もどかしく悔しく腹立たしい気持ちに支配される。無力感が襲う。
「...!?」
不意に、胸の辺りに温かい物を感じた。
「良かった...ちゃんと...生きてる。」
ボヤけてよく見えないが、たぶん俺の鼓動を聴きながら安心して泣いているようだ。だが、その泣いている顔にそっと触れる事も、頭に手を添える事もできない事に憤りを感じる。
「ごめんなさい。.........本当に、ごめんなさい。」
彼女の涙声をただただ聞いているしかない。「君が謝る必要はない。悪いのは俺だ。」そう言うだけだ。
ただ...それだけなんだ。
「私、指揮官を降りるわ。」
静かな部屋で、その一言は嫌に耳に残った。脳が理解しようと反復する。2度3度、頭の中で繰り返す。
「ごめんなさい。」
そう言って彼女は立ち上がり、部屋を出た。
麻酔が効いているからか意識が遠くなって行き視界が暗くなった。
*ーーー*
次に目が覚めた時には麻酔の効果は消えて、ある程度だが身体を動かせるようになっていた。
身体を起こして手足の動きを確認する。まだ痛みは残っているが動けない程ではない。状態を起こし、医療用のベットから立ち上がる。覚束ない足取りでドアまで歩こうとするが筋力が落ちているのか途中で躓いて転倒する。
「ックソ!」
拳を床に叩き付ける。
「大丈夫ですか!?」
聞き覚えのある声がする。身体を支えられてベットまで戻される。
「無理しないで下さい。まだ病み上がりなんですから。」
心配そうに顔を覗かせる。
「問題ない。」
そう言って彼女の肩を掴んで払い退ける。
「止まってください!」
急に威圧感のある声が医務室に響き渡る。それが未来の声だと理解するまでに数秒かかった。
「先輩に何と言われようとこれだけは譲れません。お願いです...ちゃんと休んでください。」
強い力で手首を握られる。俺を止めようと必死に握っているらしく、両手で握られた手首から先が鬱血して指先が痺れ始める。
「解っている。」そう言って彼女の手に右手を添える。
「ただ、俺は燐にどうしても言っておかなきゃいけない事があるんだ。」
彼女の透き通るような眼を真っ直ぐに見据えてそう言う。
「頼む。」
俺の目を見返す未来との間に暫くの沈黙が続く。
「...」
「...」
「...分かりました。」
「ありがとう。」「ただし...」
礼を言うと言葉を遮られる。
「私も同伴します。途中で倒れられたら困りますので。」
今回は有無を言わせない声色でそう言ってくる。俺はその条件に無言で頷く他なかった。
*ーーー*
未来に体を支えられて十分程度で燐の部屋の前に到着する。やっとのことで部屋の前に着いた時には息は絶え絶えで今にもバランスを崩して転倒しそうだった。
燐の部屋に案内され未来がノックをしてみるが反応がない。
「燐、話がある。居るなら開けてくれ。」
暫くすると、中でヒタヒタと足音がする。足音が止まり、鍵が開く音がする。
「入って。」
消え入りそうな声でそう告げられる。扉を開けて部屋に足を踏み入れると足元には使い捨てられたティッシュとゴミ箱が散乱していた。
後を追って入ろうとする未来を手で静止して扉を閉じた。
「何?」
彼女の声は震えてはいるがとても攻撃的な声だった。
「そっち...行っても良いか?」
張り詰める空気の中、侵入の許可を得る。
1年前に武装した民間人と交渉する際、相手の土地に踏み入った時と同じような感覚に襲われる。
「...」
返答は帰ってこない。ただ、暗闇に目が慣れて部屋の隅に置いてあるベッドの端で小さく座り込む燐の姿を確認する事はできた。
重く、張り詰めた空気の中で一歩を踏み出す。心なしかとても重く感じる足をどうにか動かす。
ベッドまで到達し、彼女と相対する。いつもの雰囲気がない事に何故か可愛らしさと言うか、“守りたい” と言う感情が芽生える。
「...!?」
彼女の隣に腰を下ろし、肩に手を回したところで肩が跳ね上がる。
「すまん。驚かせるつもりは無かった。」
その言葉に小さく首を横に振る。そのまま、俺の胸に頭を預ける。
「ごめんなさい。貴方に言った言葉は、謝って済む話ではないと分かっているけど...ごめんなさい。」
「誰だって過ちは犯す。俺だって君に酷い事をしてきた。当然の報いだと思ってるよ。」
そう言って肩まで伸ばした手で、そっと頭を撫でる。
「大事なのは今どうするかだ。過去を悔いても何も始まらない。」
こんな事を言いながらも、彼女の髪に艶やかで多少の色気がある事を考えてしまう自分に少し呆れながらも左手で彼女の肩を抱き寄せた。
「温かいわね...一狼は。
私、貴方がおかしくなったんじゃないかって怖かった。でも、違ったみたいね。」
「どうだろうな。もしかすると、この世界が始まったあの日から、俺たちはもう正常じゃ無いのかも知れないぞ。」
少し嘲笑気味に言った俺の言葉を「そうかもね。」と言って暫く沈黙が続くと、彼女は小さく寝息を立てていた。
さっきまでとは違ったとても穏やかな沈黙が其処にはあった。
まるで、その空間だけはあの日よりも前の時間で止まっているかの様に...
次回
「RISING SUN」