Steins;Gate γAlternation ~ハイド氏は少女のために~   作:泥源氏

6 / 18
すれ違い

 

 

 

 

 

 

 

 

 

虚言、ごまかし、脅迫。

我ながら無茶苦茶で支離滅裂な説を展開したものだ。

仕舞に最後は力押しで終わらせた。

大人げない。

何故未来人というものはこんなに俺を苛立たせるのか。

 

彼女がこれからどうなるのかは知らない。

おそらく無間地獄、煉獄の中へ堕ちていき、時の囚人、ただ腐敗していくだけだろう。

それは俺にとってどうでもいいことだった。

しかしタイムリープについての問題点が浮き彫りになったことは僥倖である。

 

トビすぎると、ああなる。

まあそういうことだ。

 

記憶だけ与えられてもそう上手くいくことはない。

子供に戻るまでする気はないが回数を抑えておこう。

廃人になる気はさらさらないのである。

 

 

時計を見ると9時を回っていた。

頃合いかもしれない。

紅莉栖もいい加減落ち着いただろう。

 

この世界にもはや未練はない。

理論的なことを紅莉栖から聞いてトンズラするとするか。

 

 

『……全部、全部嘘だったの? 私たちを、騙していたの!?』

 

 

携帯電話を押す指先が漂う。

この世界では裏切っていないはず。

目を瞑り、プッシュ。

耳に当てた。

少しして、繋がる。

 

 

『ハロー、岡部』

 

「状況を報告しろ」

 

『……性急ね。それよりあんた、まだタイムリープしてなかったの?』

 

 

簡単に聴こうかと思っていたが、牧瀬紅莉栖も十分立ち直っているようだ。

少しぐらいならこちらの状況も説明して大丈夫だろう。

 

 

『もう、どれが本当の岡部の顔なのか、解らないのよ……』

 

 

……きっと。

 

 

「タイムリープならいつでも出来る。少しお前に聴きたいことがあったのだ」

 

『そう。どんなこと?』

 

「まず言っておく。俺はDメールで渡ってきた、言わば別の岡部倫太郎だ」

 

『……え?』

 

 

あまり情報を漏らすべきではないが、ここは下手に隠すより明かしたほうがいい。

ボロを出して警戒されると面倒だ。

コイツはお人好しだから、無知を装えば得意気に色々と教えてくれるはず。

 

 

「渡ってきたのは今日の17時ほどだな。

だが前の世界でタイムリープマシンは完成していなかったよ」

 

『! ……そっか。正直、私でも岡部の状況はよくわからないわ』

 

「俺にもわからないから、仮説でもなんでも立ててくれ。

 

とにかく俺が欲しいのはこの世界の情報だ」

 

 

粛々と進める。

思い返せば前の世界では紅莉栖とぶつかることが多かった。

性格が悪い、なんて直接言われたこともある。

実験大好きなマッドサイエンティストの癖に、俺の現実的な物言いには腹が立ったらしい。

根っからのスイーツ(笑)であり構ってちゃんだった。

 

それでも今は穏やかに、淡々と。

媚びる気はないが無駄に怒らせて拗ねられてもつまらない。

 

 

『そっか……タイムリープすれば、あんた以外の記憶はなくなるからね。

いいわ、話せる限りのことは話してあげる。……その前に』

 

「ん?」

 

『っ……ううん、何でもない。それじゃあ先ずは――』

 

 

紅莉栖は懇切丁寧に話してくれた。

ラボのこと、ラボメンたちのこと、今までの経緯、その他政治状況に至るまで。

そしてこの世界の岡部倫太郎のことも詳しく。

 

彼女は誤魔化したけれど聞こえていたんだ。

その呟き、静かなる問い。

 

 

 

 

 

 

《―――― あんた、本当に岡部なの? ――――》

 

 

 

 

 

 

答えはない。

自然と目はラボを見渡していて。

 

 

 

そこには、

俺の好きでもないドクターペッパーが、

二本寄り添うように置かれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

姿勢を変えるのは何度目だろうか。

長電話でソファが熱くなり、仕方なく立ち上がる。

 

冷蔵庫を漁ればカロリーゼロのダイエットコーラのペットボトル。

迷わず開け、呷る。

甘味料の特有な風味が舌に残るのを無視し、ラボの物色を続け。

携帯電話の充電器は幸運にも簡単に見つかった。

耳には愚痴に近い声が響く。

聞き流しながら、話を纏める。

 

要するにIBN5100を手に入れれば俺の勝ち。

時間制限がなく、ゲームオーバーは俺が諦めた時、か。

 

 

 

なんて、イージー。

 

 

 

制限プレイでタイムリープを極力しないにしても、だ。

今までのミッションに比べれば大したものではない。

 

何も見えない闇が一気に拓けるような感覚。

“目標があれば人は努力できる”なんて、誰かが言っていた。

的が見えれば中るは必定。

俺にとってこれ程気楽なステージはなかった。

 

 

『――と、いうわけ。良くわかった? 鳳凰院凶真、さん』

 

「ああ分かりやすかったよ。説明ご苦労、紅莉栖」

 

『えっらそうに……』

 

 

適当に労うと不満そうな嘆息が返ってきた。

仮にも本気で労ってやっているのに贅沢な奴だ。

この世界の俺は助手と呼んでいたようだが、高尚すぎるあだ名である。

 

 

『……ところで、前の世界線はどんなモノだったの?

もはやここの岡部とは別人なような気がするんだけど』

 

「別人? フン、聞く限りではそうなのかもしれないな」

 

 

躊躇いの後、柔らかい声での問い。

話し続けていたから和ませるためのモノだったのかもしれない。

好奇心旺盛な紅莉栖が聞く機会を窺っていたのかもしれない。

 

さて、どう答えてやるか。

 

 

『その感じだと、フェイリスさんや漆原さん並みの改変なんでしょうね。

……もしかして、あんたの出生?』

 

「――は?」

 

『そうね……例えば、あんたのお母さんに、

息子はダミアンの生まれ変わりってDメールで言われた世界……とか?』

 

 

何を言っているんだコイツは。

俺は悪魔か何かか。

さすがにそこまで人間をやめたつもりもない。

……多分。

 

 

「俺からしてみれば、この世界の岡部倫太郎こそが異常なのだ。

あまりにも惚けている、腑抜けていると言ってもいい」

 

『……あんたは天然系厨二病なの?』

 

「お前はどの世界でもソレだな。人の話をマトモに聞けないのか?」

 

『ソレって何よ!? つーかあんたに言われたくないっ!』

 

「何を言う。俺は静聴したろうが、阿呆め」

 

『ぐっ……!』

 

 

食い付きが良すぎるなこの女。

面倒臭さが数段増している。

前はそれなりにシリアスでも使えた奴だったが……見直した俺がバカだった。

 

 

「まあ、コイツもここまで平和な環境で生活していれば怠けていても致し方ないか」

 

『そういうものかしら……』

 

「――それでも、まゆりを救うために独り闘い続けたことは評価してやる」

 

『っ!』

 

 

どこまでも凡人で、優柔不断で、頼りなく揺れる男。

しかし諦めず挑み続けたこの岡部倫太郎は、嫌いじゃない。

コイツのお陰で道筋が見えたようなものなのだから。

 

 

『……当然よ。岡部は私が認めた男なんだから』

 

「認めていたのか? まぁ、俺も認めてやってもいい」

 

『ほんっとに、鳳凰院さんは偉そうですね!』

 

 

彼女の息は湿り気を帯びていて、喪った哀しみを湛えていた。

おそらく俺を鳳凰院と呼ぶのは線引きなのだろう。

彼女が求める面影との。

 

殺してしまった俺にかける言葉はなく。

――そもそもそんな時間、与えられていない。

 

乾いた木のぶつかり合う音が鳴り、迷惑な客人の到来を報せている。

襲来を予期して設置しておいたモノが役に立ったようだ。

 

しかし、予想よりも遅い。

天王寺綯のやつ召集に手間取ったらしい。

 

 

「ようやく来たか」

 

『……え?』

 

「さて、前の世界を語ってやりたいところだが生憎の来客だ」

 

『こんな時間に? ……っ! 早く逃げなさいっ!』

 

「逃げる必要はないな」

 

 

階段を昇る音を聞きながら、武器を手繰り寄せる。

数は4人、ってところか。

 

 

『あんたは捕まっちゃダメッ!!』

 

 

 

 

 

「悪かった、紅莉栖。終わったら飯でも奢ってやる」

 

 

 

 

 

『ちょ――――』

 

 

携帯電話を切る。

気紛れに、果たせない約束を。

稀有な謝罪は世界に溶けて霧散するだろう。

 

俺だけが、覚えていて。

俺だけが、知っていて。

世界から孤立する。

 

直後に近所迷惑な騒音。

大袈裟な音を立てる侵入者を見て、皮肉な笑みを浮かべてやる。

無知で愚かで憐れな、狼の皮を被った子羊たちに嘲りを向けて。

 

 

 

ラウンダー、俺が所属していた組織の末端。

見る限り素人の動き、有象無象の集まりだ。

 

 

 

 

「岡部、倫太郎だな?」

 

「くくっ、何故今更問う? 問答無用で襲えばよかろう」

 

「……FBから殺害命令は出ているが、一旦確保してから処遇を決める」

 

 

FBの代理である萌郁もいない、となれば誰も責任者がいないのか。

メールだけのFBに不信を抱き、妥協案として取り敢えず岡部倫太郎を拉致。

その後正式な命令が下った時処分する。

 

 

なるほど、無難な考えだ。

停滞、保留、受身。

強者ならそれでもいい。

 

 

窮鼠猫を噛む、と言うが今は当てはまらない。

つまり、コイツらは被我の戦力差を見誤っているということだ――――。

 

 

「ふっ――」

 

 

手を挙げると同時にナイフを放る。

彼らにその動きが見えていたかどうか。

突如現れた赤い噴水にすら現実感が乏しいだろう。

白目を剥いた仲間に意識を奪われ。

 

 

その隙こそ、致命的。

 

 

 

「――ごっ」

 

「えっ」

 

 

銅像を投げつけて走り出す。

直撃した人体はトラックに轢かれたように潰れ。

それでも未だ、奴等は引き金が引けず。

 

 

「なっ」

 

「ひっ――」

 

 

悲鳴を上げようとした奴を残党にぶつけると、両者混ざりあって一つの塊になった。

首が声帯を震わす前にへし折れて。

もう助けを呼ぶことは出来まい。

 

 

 

早々にラボはまた静寂を取り戻す。

手応えが無さすぎて拍子抜けだ。

 

 

(増援がすぐ来るだろう。その前に――――)

 

 

汚れた床を早足で抜け、研究室へ。

拾った銃を出口へ向けたままヘッドセットを装着する。

 

……全く、俺らしい旅立ち方だな。

 

舌で頬を嘗める。

いわゆる鉄の味がした。

相変わらず、不味い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は今、どんな顔をしているのだろうか。

 

なぁ、まゆり。

 

こんな俺でも、お前の傍にいていいのかな――――――?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。