Steins;Gate γAlternation ~ハイド氏は少女のために~   作:泥源氏

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流星

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『まゆりちゃんにはこのこと、黙っておきますからっ』

 

 

そう言って背中を見せたルカ子が頭を離れない。

ルカ子は存外、俺の中で大きなウェイトを持っていたようだ。

 

それでももう切り替えなければならない。

彼女たちの前以外では、裏の人間でなければならないから。

 

既に俺は神社を去りM4の自宅まで来ている。

神社の入り口で待機していたのだから、殊勝なパートナーである。

 

 

「……はい、これ、ケバブ」

 

「ああ」

 

 

俺の好物まで言われずとも用意する。

このパートナー、プライスレス。

 

差し出されたケバブを奪うように受け取った。

腹は正直だ、食欲をそそる匂いに刺激され寄越せ寄越せと催促する。

その声に抗うことなく、貪るように喰らいつく。

 

……うん、やはり美味い。

秋葉原名物は伊達ではない。

 

 

「……FBが、連絡を」

 

「FBが?」

 

 

ケバブを食べ終え食後の小休止を取っていると、自分のケバブを

ようやく食べ終わったM4が独り言のように呟いた。

 

M4はしゃべるのが苦手だが、むしろそれは静寂を好む俺にとってもありがたい。

それでも、もっと早く伝言ぐらい寄越せと言いたくなる。

 

俺のケバブを食べる様がそんなに面白いのだろうか。

見世物ではないのだが、眺める暇があるなら伝言を取り次ぐなり、

自分のケバブを食べるなりしろ。

M4の思考は未だに読みづらい。

 

とにかく、下らない思考は捨ててFBに連絡することにした。

あの坊主は意外でもなんでもなく短気だ。

何の言いがかりをつけてくるかもわからない。

 

M4から携帯電話を受け取り短縮でダイヤルすると、1コールで繋がる。

……暇なのか?

 

 

『M3、何故すぐに連絡しなかった?』

 

「今こうして連絡しているだろう」

 

『……まぁいい、今更だが連絡事項を伝える。

 警視庁への根回しが現場レベルまで徹底されるには今日いっぱいかかる。

次の命令まで待機しろ』

 

 

本当に今更だった。

既に日は落ちて、夜を迎えているのだ。

これからわざわざ出かける気にはならない。

 

 

「了解。それと、例の俺が作った発明サークルだが」

 

『どうした?』

 

「――いい加減“回収”しようと思う。これ以上放置しておくのは危険だ。

奴らは時の禁忌に触れ過ぎている」

 

 

自分で種を蒔き、自分で刈り取る。

SERNの常套手段。

あまりにも自然で原始的な行為が、何故か背徳感を帯びていた。

刈り取るものが稲ではなく人間だからか。

 

 

『そうか……そっちはお前に一任していたから、別に構わない。

ブラボーチームを行かせるか?』

 

「いや、“鳳凰院凶真”を行かせる。アシでM4がいれば十分だ」

 

 

後始末ぐらい自分でやってやる。

誰にも邪魔させない。

この刈りは、もはや芸術なのだ。

狂気のマッドサイエンティスト鳳凰院凶真の、な。

 

 

――――それに、確かめたいこともある。

 

 

 

『……やり過ぎるなよ? 発明者の二人は予定通り、生きたまま回収しろ』

 

「くくっ、当然だろう? 彼らは俺の仲間なのだから、誰も殺しはしないさ」

 

『この間、友軍を容赦なく虐殺した人間が言うセリフじゃないな……』

 

「彼らは抵抗した。それだけだ」

 

 

殺していいのは、殺される覚悟のある奴だけだ――――

 

どこかのテレビに出ていた、仮面のヒーローが言っていた台詞。

電話の向こうから嘆息が漏れる。

俺に任せるとどうなるかわかるはずなのに、贅沢な奴だな。

 

 

『で、作戦はいつ決行する?』

「明日一七○○。場合によってはズレるが、おおよそそう見てくれ」

 

『了解、健闘を祈る』

 

「ああ。――――エル・プサイ・コングルゥ」

 

『……それ、必要なのか?』

 

 

無視して通話を切る。

厨二病のふりをしているうちに身についてしまった意味のない単語の羅列。

それでも確かに俺の中では日常的な合図になっていたのだ。

 

M4に視線を送ると、了承の頷きが返ってきた。

それを見た後窓の外を見やる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

流れ星が通った。

願う暇もない。

忙しなく、儚かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

寝心地の悪いボロアパートで夜を明かす。

昨夜はM4を抱く気分にはなれなかった。

 

そのM4はすでに部屋から出ている。

様子を見に行くと言っていたから、警視庁の追及について偵察しに行ったのだろう。

 

携帯電話を取り出し、電源をつける。

昨日の着信メールはいくつかあったが緊急性はなく。

 

そして一昨日来たメールを改めて確認する。

合わせて、三通。

 

 

『明日は携帯の』

 

『電源を切って』

 

『まゆりを救え』

 

 

全て送信者は同じ、俺の副アドレス。

送信日時は――――2010年8月21日。

未来から送られてきたメール、つまりDメールだった。

 

それにしても訳がわからない。

何故、昨日携帯電話の電源を切ることがまゆりを救うことに繋がるのか。

いやもしかしたら、これらのメールに繋がりはないのかもしれない。

最後の一言は単なる依頼なのか。

 

 

 

しかし俺には仮説がある。

この携帯電話、電源をつけていなければDメールの干渉を拒むことが出来るのではないか。

 

 

 

無論、根拠はどこにもない。

それでも、否定することは出来ない。

だから俺は信じることにした。

未練タラタラの未来の俺が考え抜いて送ったものであるのだから。

 

携帯電話依存症ではないので、電源を一日切っておくことに躊躇いはない。

FBにもスポンサーにもちゃんと伝えておいたから仕事にも支障はなく。

仮説通りなら、世界線を渡ってきた俺に身体を乗っ取られてしまう危険性が高かったので、

このぐらいお安い御用だった。

自分ではない自分なんて、想像するだけでも吐き気がする。

 

記憶に繋がりがあるので結局乗っ取られはしなかったようだ。

一安心、と言いたいところだが、これからが難問である。

 

 

『まゆりを救え』

 

 

不治の病に侵された少女、椎名まゆり。

彼女を救うことによって何か未来を変えることが出来るのか。

今の俺にはわからないが、なにがしかの重要なファクターなのだろう。

 

……いや、それは言い訳だ。

彼女が死ねば間違いなく後悔する。

それぐらい想像できたことだった。

 

そして、こんなメールを送ってくるということは手段が存在することもわかる。

その手段も、俺の持ち駒の中では一つしか思い浮かばない。

 

 

(――Dメール、か……)

 

 

俺のお遊びサークルが作ったガラクタが、まさか過去の携帯までメールを送ることを

可能にするとはな。

しかもそのメールによって変えられた事象が世界に反映される脅威の機能付。

通称“Dメール”

 

事象の変化が不確定過ぎるということで没になりかけていた作品だが、

大きな成果を期待出来ることも事実。

不治の病を治すなどと言う神の所業もメール次第では可能なはずだ。

メール次第、では。

 

 

(必ず収束する事象ならば神でも変えることは不可能だが――)

 

 

いっそ思い切って大きな事件を変えてやる。

因果の収束を振り切って、今の俺が想像の出来ないような世界へ。

 

アタリはつけていた。

 

 

――――2000年クラッシュ。

 

 

2000年に起こった数々の電子的災害。

世界を混乱へ陥れて、俺やまゆりから全てを奪い去った。

忘れたくても忘れることなど出来ない歴史的な事件である。

 

アレは天災でもなんでもない、人災なのだ。

しかも俺の推測ではSERN関係者によるもの。

内情をよく知る俺が、変えられないはずがなかった。

 

 

ふと、時計を見る。

思考に耽ってもう昼になっていた。

空腹を確認していると、ドアを叩く音。

M4である。

 

 

「入れ」

 

「はい」

 

 

扉を開き、玄関先で靴を脱ぎ俺のそばまで来て腰を下ろした彼女。

ビニール袋を片手で差し出す。

 

 

「ケバブ、……とマウンテンデゥー」

 

「ご苦労。で、収穫はあったか?」

 

 

受け取って、中身を取り出した。

マウンテンデゥーを一飲みし、喉の渇きを潤す。

 

 

「M3の言う通り、漆原るかの母親はDメールをポケベルに、受信していた。

……それも、1993年に」

 

「そうか、奴の言っていたことに間違いはなかったらしい。

それでポケベルの番号は?」

 

「受け取って、来たわ。……M3の言う通り言えば、快く」

 

「だろうな」

 

 

俺が2000年クラッシュをSERNが引き起こしたものだと推測した理由。

それはワクチンプログラムを開発した人間がSERNの科学者だったからだ。

 

それだけでは確証などどこにもないのだが、SERNの手法を俺はよく知っていて。

ワクチンが出来ればウィルスを蒔く、自作自演。

マッチポンプなんてどこも使う話だが、SERNのソレは正しくお家芸だった。

 

俺はSERNの仕業と仮定して行動を進め、

ワクチンプログラムを開発した人間に辿り着き拉致した。

苛烈な拷問の末彼は色々と自白してくれたが、

その中で興味を持ったのがルカ子の母に送られてきた未来からのメール。

明らかにDメールだった。

 

そんなものがきっかけで2000年クラッシュが起こるなんて誰が想像できるだろうか。

 

バタフライエフェクト、というやつか。

蝶の羽ばたきによって起こった嵐は、俺やまゆりをどん底まで叩き落としたのである。

 

 

「よし、この番号に俺が考えたDメールを送信すれば――」

 

「送信、すれば……?」

 

「――世界が、再構成される」

 

 

2000年クラッシュの起こらない世界なんて、バタフライエフェクトを考えればもはや別次元。

正直、一昨日までの俺だったらここまでの改変はしなかっただろう。

あまりにもリスクが大きすぎる。

しかし、――――

 

 

(後悔している俺なんぞ、なりたいとも思わないからな)

 

 

Dメールの意図通り動くのも癪だが、先の盗聴記録を思い出す。

 

 

『岡部倫太郎は嘘と裏切りだけで世界を手に入れて、

またその嘘を塗り固めるために数多の命を奪い続けてる。

だからあたしはこの時代に来たんだよ。未来を変えるためにね』

 

『2036年ではさ、岡部倫太郎はSERN治安部隊ラウンダーのトップで、

300人委員会の一人。

決して表舞台には出てこない影の独裁者になってるんだ』

 

『アイツは自らを神格化してこう名乗ってた。――鳳凰院凶真。

アイツのせいで沢山死んだよ。仲間も、両親も、友達も、

あたしの知らない誰かも、アイツの手下として虐殺に加担した連中も。

……あたしも、無事じゃいられなかったし』

 

 

聞いてしまった。

知ってしまった。

未来の自分の姿を、所業を、孤独を。

 

このまま俺が走り続ければ、阿万音鈴羽の言った鳳凰院凶真になると理解している。

避ける必要もない。

目指している場所であり野望なのだから達成すべきである。

成功の保障をしてくれているのだから喜ぶべきなのだ。

 

 

それでも、俺は。

 

 

『あの時の岡部、私の知ってる岡部じゃなかった。

普段から冷たいヤツだったけど、根は良いヤツだって思ってた。

でも、あの時の岡部は……』

 

 

この世界を、否定する。

 

 

『またいつか行った遊園地、岡部くんと一緒に行けるといいなっ』

 

『まゆりを救え』

 

 

俺は、俺の命じるままに。

湧きあがる青臭い情熱が俺を突き動かし。

 

 

「テンションに流されて賭けに出る、か。――俺らしくもないな」

 

「……」

 

 

心は、久しぶりの高揚を覚えていた。

そんな自分が、嫌いではなかったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現在ラボの前で待機している。

突入目前だ。

予定より早いが、特に問題ない。

 

 

『はぁー……フェイリスは倫太郎でも探して来ようかにゃー』

 

『死にに行きたいの?』

 

 

ラボにはちょうどラボメンが全員揃っていた。

あの忌々しい未来人も。

 

 

「銃、いる?」

 

「そうだな」

 

 

M4からミネベア9mmを受け取る。

脅迫する時銃は実に有効だ、徒手空拳と威圧感がまるで違う。

持っていて損はない。

 

FBには二人で突入すると言ったが、他者に介入させないためのブラフで

本当は俺一人突入するつもりだった。

このミッションはどうしても自分の手でクリアしたかったから。

 

しかしM4は付いてきた。

 

 

『世界を、再構成……?』

 

 

彼女に言う必要はなかったのだが、俺の偉業に見物客が一人もいないというのも侘しい。

パートナーとして信用していたから話したが、予期せぬリアクション。

 

 

『今の世界は、どうなるの?』

 

『さあな』

 

『そう……』

 

 

まさか彼女がこの世界に未練を持っているとは思わない。

一時自殺しようとしていた女である。

彼女なりの希望でも出来たのだろうか。

少し名残惜しそうではあったが、俺を止めるわけでもなく黙ってミッションに加わる。

 

結局俺も黙認することにした。

せっかくの見物客なら、すぐ傍の特等席で見せよう。

マッドサイエンティストの美学だった。

 

 

「何か心残りでもあるのか?」

 

 

このまま突入するのも構わないが、気になったことは聞いてみるに限る。

どうせこのミッションが終われば彼女と会う機会はないのだ。

 

少し躊躇うと、彼女は重々しく口を開いた。

 

 

「……私は貴方に生きる意味を、与えてもらった。

貴方は、私にとって家族も同然。……貴方との関係が崩れるのは、嫌なの」

 

 

……純心に、驚く。

M4とは長く一緒にいるが、俺にとって只の気まぐれだ。

彼女に話しかけたのも、ラウンダーとして拾ったのも、俺の傍に置いたのも。

 

 

「でも、私は貴方のためなら何でもする。……力に、なりたいの。

たとえ貴方が世界中を敵にまわしても、私だけは、貴方のパートナーだから。

……背中を、預けて」

 

 

抱きたいときに抱いて、後は雑用を押し付けた。

ビジネスライクとも言えぬ道具に近い扱いにも関わらずそんな風に思っていたとは……。

いつもより饒舌な彼女が泣いているようで、どうしようもなく別離を思わせる。

 

 

「……はあっ、終わったらあのケバブ、もう一度二人で――――」

 

 

これ以上喋らせない。

 

俺はM4に――――萌郁に、口づけた。

 

濃厚で、息もつかせぬように吸う。

舌で彼女の口内を蹂躙し、唾液を絡め取る。

 

 

 

想いも、約束も、願いも、全て飲み干して。

 

 

 

息の荒い彼女と俺の間に透明な橋が作られる。

途切れても、その瞳は見つめ合ったまま、何かが通じていた。

 

 

「行くぞ」

 

「……ええ」

 

 

無駄な言葉はいらない。

必要がない。

 

 

「カウント」

 

「1、2、3ッッ!!」

 

 

俺たちは走り出す。

光の中へ――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

急がなければならない。

鈴羽が電話レンジ(仮)を破壊する前に、SERNが回収しに来る前に。

 

 

 

ミッション、スタート。

 

 

 

 

「全員動くなッッ!!」

 

 

ドアを蹴破り突入。

威圧するように声を張り上げる。

無駄な抵抗を避けるために。

 

 

「岡部っ!?」

 

「ぅうう動かないから、うぅう撃たないで……っ!」

 

「倫太郎……なんでっ!」

 

 

ラボメンたちはこちらの思惑通り震え上がり、抵抗の意思を見せない。

……当然だ。彼らは暴力に慣れていない、単なる一般人なのだ。

銃を持った人間二人に脅されれば失神してもおかしくなかった。

 

 

「岡部さん……」

 

「……見損なったわ!!」

 

「喋るなッ! 全員壁に向かって跪くんだ!!」

 

 

突き刺すような敵意と失望の眼差しを振り払うように、威勢を見せる。

こちらの優位を大仰にでも示さなければならない。

 

 

「M4はこいつらを見張っておいてくれ。俺はDメールを――」

 

「待って! 一人、足りないっ!!」

 

 

M4が悲鳴のような警告を叫ぶ。

そう、ラボメンは声を聞く限り5人。

それが4人しか見当たらない――――

 

 

「こっちッ!!」

 

 

這いつくばるほど低空の死角から俺に向かってくる一つの影。

その声は、その気配は、憎らしく邪魔な未来人で――――

 

 

「シッッ!!!」

 

「がふっ!??」

 

 

この俺が、捕捉していないはずがなかった。

下段から打ち上げる回し蹴りが奴の腹に直撃する。

骨の折れる音、ゴムを叩くような感触。

……どうやら相当鍛えているようだ。

 

 

「鈴羽っっ!!」

 

「案ずるな、死んではいない」

 

 

盛大な音を立ててふっ飛んだが、内臓破裂までは至っていない。

肋骨数本で許してやった。

ラボメンとしての情けである。

二度目は、ない。

 

 

「戦士だかなんだか知らないが、小娘一匹でこの俺に敵うはずがなかろう。

情報不足だったなぁ阿万音鈴羽」

 

「くっ……!」

 

 

俺は基本的に銃を支給されていない。

人を確実に殺さなければならない時ぐらいしか使う必要がないのだ。

鍛え抜かれたこの身体さえあれば、大概のミッションはクリア可能なのだから。

 

 

「倫太郎、こんなことしてなんになるのっ!?」

 

「もうやめてっ!! やめてよ……。お願い岡部、自首して」

 

 

身を切るような嘆きを聞き流し、電話レンジ(仮)の前に立つ。

もはや抵抗するとは思わないが、彼らに背を向けて電話レンジ(仮)を操作する気にならない。

近くにいたルカ子に銃を突きつける。

 

 

「岡部、さん……」

 

(ルカ子。抵抗しなければ、危害は加えない)

 

「っ!」

 

 

つくづく甘い、と思う。

偽善者と、罵倒が俺の内から聞こえた。

 

 

「いいか! このメモに書かれた内容を、X68000に入力しろッ!」

 

「は、はい……」

 

「従っちゃダメッ!」

 

「黙れッッ!! ――さあルカ子、入力だ」

 

 

痛みなどどこへやら、飛び掛からんばかりの未来人を銃で牽制する。

元気な女だが、ここで動くほど馬鹿でもあるまい。

 

 

「……岡部、何する気? Dメールは安定した運用が――」

 

「俺には仮説がある。42型ブラウン管、アレこそリフターの役割を果たしている可能性が高い」

 

「っ! そう、か……アンタの仮説が間違っていたこと、ないものね」

 

 

ルカ子の操作音と入り乱れる呼吸音。

ラボ内は、不思議と凪いでいた。

 

 

「……打ち込みました」

 

「よし、後は俺の携帯から、メールを送れば――っ!!」

 

 

 

 

突如、激痛が走る。

 

 

 

外からの銃声。

俺の腕から赤い花火が炸裂する。

危うく銃を取り落とすところだった。

 

 

 

 

 

「っ!?」

 

「岡部さんっ!?」

 

「スナイパー!!? 隣のビル……なんでっ!??」

 

 

咄嗟に弾道から予測した狙撃地点へ弾丸を放つ。

当たったかどうかわからないが、威嚇程度にはなる。

それより、――――

 

 

「こいつら……ッ!」

 

「FBっ……」

 

 

後詰めの前衛部隊。

轟音と共に乱入してきたのは、ブラボーチームを率いたFBだった。

 

 

(切り捨て、られたか……)

 

 

随分前から俺が危険視されていることはわかっていた。

油断した俺と、全ての一網打尽を狙った作戦。

 

 

「ブラボー、ターゲット以外無力化しろ! 撃てッ!!」

 

 

まず厄介な俺をスナイプ、後は物量。

なるほど、理に適っている。

舌打ちしたくなるほどに。

 

 

「るかッ!」

 

 

こんな狭い室内で、奴等はマシンガンを乱射した。

……ターゲットもクソもないではないか、阿呆めッ!

 

 

「ガッ!?」

 

「M3ッッ!!」

 

 

誰かに当たるなら俺が引き受ける。

そんな風に考えたわけでもなく、衝動的に飛び出していた。

彼女が傷つけばまゆりが悲しむから。

 

 

「皆、伏せてっ!」

 

 

鈴羽が銃で威嚇射撃を行っている。

俺も加わらなければ……。

 

 

「くっ……制圧しろォ!!」

 

 

それでも視界は霞んできて。

ルカ子を庇い出来た銃創から、止めどなく血が溢れ出す。

 

 

「ゴフッ」

 

「岡部さんっ……岡部さん、っ! すごい血……やだ、どうすればっ……死なないでっ!」

 

「ぐ、ぅう、メール――」

 

 

Dメールさえ送れば、こんな傷なかったことになる。

俺のことは、いいんだ。

だから泣くなよ……。

 

 

「M3っ!!」

 

「M4、メール、をこの携帯から、送れ――」

 

「っ……わかった! 今……」

 

 

薄れ行く意識の中、銃声の鳴り響く部屋で。

どうしてかハッキリと聞こえた彼女の声。

 

 

 

 

「岡部くん、……元気で」

 

 

 

 

だから、最期に感謝を伝えよう。

ずっとこんな俺を支えてくれた相棒に。

 

 

 

「――――」

 

 

 

 

泣き顔へ伸ばした手は届かず。

 

 

 

世界が、変わる。

想像もつかない方向へ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

蝶の羽ばく姿が、視えたような気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ドラマCD部分終了です。
行替えのタイミングがよくわからないですね。
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