Steins;Gate γAlternation ~ハイド氏は少女のために~   作:泥源氏

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収束

 

俺と橋田と未来人の三人で顔を突き合わせて見た中鉢の飛行場インタビュー。

ただ第3次世界大戦における牧瀬紅莉栖の重要性を再確認したというだけなので、特にコメントはない。

 

 

『ドクター中鉢をどうにかしないとあたしの生きる最悪な未来は確定的だね……って、何脱ぎだしてんの!?』

 

『ウホッ、イイ筋肉』

 

 

過去へ跳んだときついでに論文を盗む必要があるので、早速準備のために着替える。

脱ぐには心地好い気候だが、コイツらのリアクションはいらない。

初心なネンネじゃあるまいし……ホモはNG。

 

 

『それ、防弾チョッキ? と、血液!?』

 

『リアルチャンバラごっこ出来そうだお。そんな物すぐに手に入れるなんて、さっすが忍者だってばよ!』

 

 

最初に跳んだタイムトラベルで“牧瀬紅莉栖殺害事件”の真相は掴んだ。

ニュースで見た通り致死量の出血が現場に存在し、観測者たる岡部倫太郎も目撃している。

 

だから、

 

 

『これで牧瀬紅莉栖が死んでいると岡部倫太郎に勘違いさせる』

 

『――なるほど! オカリン早漏乙ってことですねわかります』

 

『いや、それはどうかと……』

 

 

最初のDメールを岡部倫太郎が送る、ということはこの世界での決定事項だ。

ならば岡部倫太郎が同じ内容のDメールを送らせるように誘導しつつ、牧瀬紅莉栖を死なないようにすればいい。

 

要するに、

 

 

『牧瀬紅莉栖が殺されていたと思ったけどただ他人の血の上で寝てただけだったぜ!』

 

『うわ、なんというご都合主義』

 

 

そんな生温い展開こそがシュタインズゲートへの道である、というのが俺の推理だ。

しかし全ては推測でしかない。

実行あるのみである。

すでにサイは投げられた。

白衣を着込み、堂々と鎮座するタイムマシンへ足を踏み出す。

 

 

『勝算が、あるんだね……?』

 

『このオカリンになら抱かれてもいい』

 

 

足を一旦止め、振り返る。

どこまでも不敵に、自信満々で余裕綽々な笑みを浮かべよう。

 

 

 

 

 

 

 

なんて、無様。

 

それが、コレ。

真っ赤な血にまみれて這いつくばり、すでに五感は虚ろ。

思考すら儘ならない。

自分が何故、こんな状態なのか仮説も立たずに。

あまりにも無力だった。

 

 

「……賭けに、勝ったようだな。悪く思うなよ、もう一人のオレ」

 

 

薄い意識の中で、頭に響く自分の声。

足だけは見えるが、恐らく目の前にいる俺と同じ顔をした男の声だろう。

 

 

「本当は出てくるつもりもなかったが、あまりにお前が俺と解離した存在だったから介入させてもらった。パラドックスでどちらの存在が残るのか五分五分だったが……15年経っても、ちゃんと世界は俺を岡部倫太郎と認識してくれたようだ」

 

 

15年……つまり、未来からタイムマシンで来た岡部倫太郎だということか。

 

どうして、どうやって――?

 

疑問ばかり湧き出ては消える俺のぼやけた頭。

そんな俺へ、奴は優しく教えるように歩きながら語る。

 

正しく、勝者の余裕だった。

 

 

「まさか同じ時間に現れる訳にもいかないから、昨夜からずっとラジ館で待機していたよ。ああ、タイムマシンはダルに頼んですぐさま送り返したさ」

 

 

帰る気のない過去への片道切符。

そうまでして挑みかかってくるとは、完全に予想外である。

 

未来からの奇襲は、見事に俺の首を討ち取っていた。

 

 

「元々、“未来を司る女神作戦(オペレーション・スクルド)”は俺の実行する計画ではない。俺はDメールを送るだけの裏方に徹するはずだったのだ。しかし肝心のDメールが送れない。何か不測の事態が起こったのかと思い、次善策にでたわけだが……正解だったな。まさか俺が乗っ取られているとは」

 

 

Dメールを受け取り拒否したのが裏目にでた、というわけか。

そして先程、中鉢と牧瀬紅莉栖に見せた岡部倫太郎とは思えない所業が決め手。

 

身からでた錆は猛毒だった。

笑えない、笑うことが出来ない。

既に顔の感覚がなく、俺はどんな顔をしているのだろうか。

 

いつの間にかこぼれ落ちていた鍵となる論文。

岡部倫太郎はソレを拾い上げて、牧瀬紅莉栖の頬を撫でる。

 

 

「身体が軽いな。岡部倫太郎と認められたお蔭で若さも取り戻したらしい。

――――今は抱き締められないけど、必ず助けるよ、紅莉栖」

 

 

……そうか。

確かに、この男こそシュタインズゲートに相応しい岡部倫太郎だ。

世界に選ばれし救世主であったこの男と、殺人鬼で驕り油断したこの俺。

 

 

勝てるはずはなかったんだな。

 

 

岡部倫太郎とともに人間の機能が消えて。

俺が俺である要素、因子が、本物の岡部倫太郎へと吸収されていく。

 

 

「――さらばだ、偽者。シュタインズゲートへは俺が行く。お前は安心して逝くがいい」

 

 

――――嗚呼、そうだ。

コイツも岡部倫太郎なのだから、まゆりを任せられるはず。

 

約束も、決意も、失われて。

その時俺は、穏やかに自分の終わる音を聴いていた――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これより先は語る必要がないだろう。

岡部倫太郎は無事シュタインズゲートへ到り、1ヶ月後に牧瀬紅莉栖と再会する。

怪我を負ってはいないものの、その程度の誤差は世界にとって些事だ。

 

物語は本編へと収束し、終息して。

未来は誰もわからないけれど、それでいいのだと、誰かは言った。

きっと主人公たる岡部倫太郎は、どんな壁でも必ず乗り越えるはず。

 

では、岡部倫太郎の今後の活躍をご期待下さい。

 

皆さん、ご機嫌よう。

エル・プサイ・コングルゥ――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




お久しぶりです。
もし宜しければもう少しだけお付き合いください。

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