Steins;Gate γAlternation ~ハイド氏は少女のために~   作:泥源氏

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呼鈴

 

 

 

 

 

 

 

 

 

0.523307

0.571046

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

有り体に言おう。

気づけば、ラボにいた。

タイムリープマシンの前で所在なく立ち尽くしていて。

 

 

(過去改変が成功したのか?)

 

 

まゆりをベンチに寝かせて、FBの携帯電話を操作しDメールを送ったところまでは覚えている。

内容は萌郁への活動中止命令。

彼女のメールボックスの中に未来からのメールを見つけ、それを取り消すには

FBの携帯電話からIBN5100を探さないよう通達しなければならない、と判断したのだ。

性格上、彼女は依存相手の役に立ちたいと思えばどんな怪しいメールでも飛び付くし、

どんな無茶なメールでも依存相手からならば従うだろう。

この世界で彼女の依存相手が俺ではなくFBであることは、メールを読めば容易にわかる。

 

 

(IBN5100は……あるな)

 

 

ラボの中を探せば、橋田の最新パソコンの側に見覚えのあるマシンがあった。

ラウンダーとして回収した際に見かけたものと瓜二つ。

ご丁寧にパソコンとセッティング済みだ。

 

それこそDメールによって世界線移動が成功した証拠である。

セッティング済みなのは、また都合の良い世界線を喰らったからだろうか。

 

 

(さて、どう動くか……)

 

 

感慨などはなく、次の行動を模索するのみ。

おそらくまゆりの死亡日時は一日ずれているはずで。

その場合明日約束を守りたいところだが、

この世界線ではコミマへ一緒に行くのは難しいかもしれない。

まゆりが死んだ直後、IBN5100を橋田に操作させるのはあまり得策じゃないからだ。

落ち着くのを待つ、なんて悠長なことをする気もない。

 

コミマは諦めて、まゆりが死ぬ前に世界線を渡ろう。

約束にこだわるのも危険である。

今は戦争中なのだ。

 

 

(だったらいっそ、一刻も早く世界線を移動するか)

 

 

今現在20時前。

橋田がコミマに行っていたとして、既に帰宅している可能性が高い。

わざわざ呼び出す必要性。

 

 

(……ない、な)

 

 

急いては事を仕損じる、と言う。

IBN5100を使うチャンスは一度きり。

万全を期して挑むべきだ。

 

というわけで、今夜は情報収集と下準備に時間を費やすことにする。

まずは俺の携帯電話を漁ろう。

己を知らば百戦危うからず、である。

 

コイツを俺とするのは誤解があるか。

誰もいないラボで独り自嘲していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いつの経験かわからない。

いや、俺の記憶かどうかすら朧気だ。

 

曖昧な視界の中、目の前に人間の顔が見える。

場所はおそらくラボの開発室、向かい合う女性は見覚えがあって。

牧瀬紅莉栖だと気づくのに数瞬かかった。

 

 

『俺は、お前が好きだ』

 

『…………っ』

 

 

自分の口から恥ずかしい言葉が零れ出る。

止められない、止める暇もない。

俺の告白を聞き、顔を真っ赤にしてうつむく紅莉栖。

 

 

なにがなんだかわからない……。

 

 

 

『お前は……?』

 

『えっ!? と、言いますと!?』

 

『お前は、俺のこと、その、どう思ってる?』

 

 

話しは勝手に進み、俺は彼女に返事を促す。

夢だな、リアルすぎる夢だ。

こう言うと現実逃避みたいだが、九分九厘夢だろう。

この俺が紅莉栖に告白するなんて妄想でも有り得ない。

 

 

『し、知りたいのか?』

 

 

それにしてもこの胸の高鳴りは、異常な発汗は、紅莉栖の顔補正はどうなっているのか。

まるで本当に俺が彼女を――

 

すると紅莉栖は表情を引き締め、顔を上げて詰め寄る。

そのまま俺の襟元を掴み引っ張った。

 

 

『……目を閉じろ』

 

『なぜ、目を……?』

 

『いいから、閉じなさいよ!』

 

 

正直閉じたくない。

だが無情にも瞼は降りて、シアターは闇に包まれる。

不安な気持ちに襲われ気分が悪くなってきた。

 

このシチュで不安……?

もしかしてコイツ、鈍感野郎か?

 

 

『…………』

 

『んっ……』

 

 

柔らかな感触が柑橘系の芳香とともに訪れて。

予想通り、キスをされた。

 

 

『な、な……』

 

『べ、別に、したくてしたんじゃない……から……』

 

 

その時、俺に電流走る――!

脳天を貫くような衝撃。

夢の中なのにあまりにも鮮烈で目が覚めるような口づけ。

 

 

頭がおかしくなりそうだ……。

 

 

 

『ただ……さっき、約束したでしょ……。私のこと忘れないでって……』

 

 

つらつらと照れ隠しか壊れた機械の様に理論を垂れ流す紅莉栖。

その顔を、愛しいものを見るように眺めて。

感情の激流に流されてしまう。

 

 

『どうしても、岡部にだけは、私のこと忘れてほしくなかったから……』

 

 

紅莉栖、愛してる。

お前のことは絶対に忘れない――。

 

 

 

 

『ねえ、岡部。

相対性理論って、とてもロマンチックで――とても、切ないものだね……』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――ハッ!」

 

 

荒々しく、乱れた呼吸と共に跳ね起きる。

どうやら情報収集の最中に眠っていたらしい。

 

 

「はぁはぁ、はぁっ」

 

 

目の前にはパソコンのディスプレイ。

黒い画面に映し出される、寝惚けた顔。

 

 

(夢、か)

 

 

仮眠だったはずなのに、夢を見るほど熟睡するのは珍しく。

生温い雰囲気に気が緩んだのか。

元の世界だったら死んでいただろう。

 

……まあ、いい。

それよりも俺が見た夢――。

 

 

(最後、おぞましいことを考えていたな……)

 

 

唇を指でなぞる。

紅莉栖との口づけの感触が未だに残っていて、想いの奔流に心が落ち着かない。

 

 

(世界の記憶……か?)

 

 

間違いなく、俺の過去ではない。

夢にしては有り得ないリアリティー。

ならばこの世界の岡部倫太郎の残骸なのか。

それとも俺が奴を喰らったから、記憶すら吸収したのか。

 

 

(どちらにしろ、あの夢は――)

 

 

この世界で起こり得た出来事。

二人の男女が交わした愛の契りは果たされることもなく消えた。

死別、という形で。

 

 

『相対性理論って、とてもロマンチックで――とても、切ないものだね……』

 

 

紅莉栖、またお前を、――――

 

 

「トゥットゥルー♪ まゆしぃでーす」

 

 

明るい声に沈んでいた意識が浮上する。

反射的に振り向き、入り口へ顔を転じた。

 

 

「あー、オカリン。おはよー♪」

 

 

元気なまゆりが弾けんばかりの笑顔を浮かべる。

それだけで、俺は救われてしまう。

 

それが逃避だと気づいていても止まる術はなく。

何を傷つけても、何を失っても、ただひたすら突き進む。

 

 

 

 

 

(――――これこそ、運命石の扉の選択だ。牧瀬、紅莉栖)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

0.571046

1.130205

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『牧瀬紅莉栖が』

 

『男に刺された』

 

『みたいだ。男』

 

 

エシュロンに捕らえられていたDメールの内容は上記の3通だった。

これらのメールを岡部倫太郎はラジ舘前で送ったらしい。

そしてラウンダーに見つかり、目をつけられた。

タイムマシン研究を阻むSERNに。

俺が最初にいた世界とはまるで違うということだ。

 

自演。

 

ラボの存在は言ってしまえばソレだったから。

偶然の産物だったとしてもその事実は変わりない。

俺にとっての玩具に等しい。

邪魔になれば片付ける、それだけだ。

それだけだったはず。

 

しかし、

 

 

(得難い場所……なのかもしれない。もう少し大事に扱うべきか)

 

 

IBN5100を先ほどまで操作していた橋田と,

世界線が変わっても何も変わらないまゆりを見る。

橋田に関してもはやその腕は疑うものではない。

まゆりの居場所を護るために必要な力だ。

 

怪訝な表情をするまゆりの頭に手を乗せ、優しく撫でる。

紅莉栖も、頭脳として、補佐として十分使えることがわかったものの、

まゆりに代えられる人間ではない。

惜しい人材を亡くしたものだ。

それでもまゆりのために死んだと思えば。

 

目を細めてされるがままに撫でられるまゆり。

この世界では彼女がいつ死ぬかわからない。

もしかしたら明日散る命かもしれない。

俺に出来ることは、傍で見守ることだけ。

 

 

――――だが俺は、黙って奪われるほど弱くはないぞ。

 

 

 

「なんかリア充空間が構築されている件」

 

「オ、オカリン……まゆしぃは嬉しいけど、ちょっと恥ずかしいよー」

 

「ん? 俺は気にならないな。まゆりが嬉しいならばそれでいいだろう」

 

「それはそうだけども……非リアに対する配慮ぐらいしろし」

 

「オカリン、何かあった……?」

 

「――――」

 

 

相変わらず、まゆりは鋭い。

気遣う視線が手元から投げ掛けられる。

しかし答える言葉はなかった。

語るような話でもないのだ。

妄想と一蹴出来る、荒唐無稽な物語。

 

 

「ラボメンNo.004は誰だ?」

 

「え?」

 

「は?」

 

 

それでも、確認しないわけにはいかない。

俺が俺に勝利したこの日、戦いの日々が白昼夢へと消えないために。

 

 

「ラボメンNo.004て、そんなのいるん?」

 

「さあ……? まゆしぃは知らないよー」

 

「誰なん誰なん? 僕としては貧乳ツンデレ美少女キボンヌ」

 

「女の子が欲しいのは同意かなー」

 

 

橋田のスレスレ発言がリーディング・シュタイナーから来ているとは考えづらい。

つまるところ、牧瀬紅莉栖はラボメンではないようだ。

 

当然だった。

前の世界で彼女自ら語った、その残酷な宿命――――。

 

 

「牧瀬紅莉栖。知っているか、橋田」

 

「……当たり前だろ、jk。今丁度スレを見てたとこだっての。これはメシマズ」

 

「クリスさん、って誰?」

 

「脳科学の権威で、サイエンス誌にも論文が載った天才美少女でごさる。そんで――――」

 

「7月28日にラジ館で刺殺された女、か」

 

「……うん」

 

 

沈鬱な表情を浮かべ陰を作る橋田に、確かな実感を得る。

 

 

 

 

 

そう、オレガ彼女ヲ殺シタ――――。

 

 

 

 

 

見えるはずのない真っ赤な染み。

手にへばりついた血糊。

床に甲高い音を立てて落ちるナイフ。

 

夢か現か、もはやわからない。

目の前の視界が歪み、堪らず膝をつく。

 

俺は、間違いなく辿り着いたんだ。

望む世界、1%の壁を越えた場所。

 

 

 

それでも、

 

 

 

 

 

 

「……大丈夫だよ、オカリン。ココが、オカリンの場所だから」

 

「――っ」

 

 

 

 

 

まゆりに支えられてすがり付く、空っぽな俺がいる。

全てを失った虚無感に浸る俺が、そこにはいたんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――慌ただしい日々が唐突に訪れて。

 

 

 

世界線変動率1%の壁を越えたあの日から、

俺はこの世界で使えるカードを揃えるために奔走した。

俺が本来いた3%の世界を利用し、最低限の力を取り戻すことに成功する。

 

 

情報しかり、人脈しかり、武器しかり。

 

 

電話レンジ(仮)を早々に破壊したためこの世界ではやり直しが効かない。

そのため危険に伴うリスクは段違いだが、それも今更である。

俺は戦いの中で生きることしか知らないから。

裏に潜り、影に伏せて、地を這いずる。

どこまでも愚かな男だった。

 

まるで一件が片付いたような言い様だが、それは間違いである。

俺にはこの場所で未だやり残した仕事が残っていた。

大事な大事な、劇の幕引き。

 

 

「……オカリン? オカリン、謎の女が代われってさ」

 

 

パソコンでゲームに没頭していた橋田に着信。

内容が意味不明といった困り声で俺へと渡される。

特に何も問わず受け取った。

 

 

 

 

 

予感がある。

この電話こそ、終劇のベルをもたらす予感。

 

 

 

 

 

 

「誰だ」

 

「お願いっ、今すぐラジ舘屋上に来てッ!」

 

「――お前、は」

 

「私は、2036年から来た橋田至の娘、阿万音鈴羽。

お願い、私の言うことを信じて。――――第三次世界大戦を防ぐために」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2010年8月21日。

 

待ちに待った運命の動くはずのこの日。

俺たちラボメン3人が呼び出されたのは、

三週間前牧瀬紅莉栖の殺害された、あのラジ館の屋上だった。

 

 

「わあ、あれなにー?」

 

「……ロボじゃね? 変形とかしたりして」

 

 

何と言ってもまだ新しい殺人現場。

現場保全のための封鎖は続いていたが、侵入は造作もない。

日の長い夕暮れ、未だ太陽の存在感は衰えず。

目の前には巨大で奇っ怪な金属の塊が赤く紅く照らし出される。

 

 

(タイムマシン――)

 

 

一見、人工衛星に見えなくもない。

だが俺は、呼び出した人間が何者か知っているからわかる。

そう、かの機体の影から出てきたのは――

 

 

「……岡部倫太郎?」

 

「阿万音、鈴羽」

 

 

薄汚れた戦闘服に身を包むタイムトラベラー、別名橋田鈴。

電話での印象通り切羽詰まったような固い表情である。

緊張、焦燥、疲労、安堵の色が織り混ざって。

戦場下の兵士に特有な悲哀を感じさせた。

 

 

「質問に答えて。君が岡部倫太郎?」

 

「だと、言ったら?」

 

「あたしは2036年から来たタイムトラベラー。オカリンおじさんに頼みがあるの」

 

「おじさんなのー?」

 

 

頼み。

我が天敵の話など聞く気にならないが、

俺やまゆりに利する可能性も考えられたので、口を挟まず黙っていよう。

すると奴は感情を舌に乗せ、訴えかけるように自身の窮状を語りだす。

 

 

「この世界線の未来では、第3次世界大戦が起きちゃうんだ!

それを回避するために、あたしに協力して過去を変えて! お願い!」

 

「――――」

 

 

驚き半分、納得半分。

タイムトラベラーの目的なんて、観光でもないなら予想は簡単だった。

 

そして想像通り、

世界線変動率1%の壁を越えても歴史的には何の解決にも至っていなかったのだ。

 

奴曰く、戦争により人類の総人口は10億人になっていて。

タイムマシンをめぐり冷戦による核兵器の使用が行われた、とか。

EUとロシアとアメリカの開発競争が火種である、など。

 

人間の業が集大成へ向かいつつあるような、眉唾物の終末論。

まるでどこぞのSF小説に出てくる世界史だった。

 

 

「2036年には戦争は終結してるけど、地球はボロボロ。

もうさ、人がまともに住める世界じゃないんだ」

 

 

嘆きに憂いを重ねて悲しみが寄り添い。

無力に歯噛みし、端整な顔立ちに影を作って。

自らの意志により本気で世界を救いたいと、瞳に光を宿す。

 

 

 

嗚呼、この女は――――本物の救世主なのかもしれない。

 

 

 

 

「あんなひどい世界を変えるために、あたしはここに来たの。

そして過去を変えるためにはオカリンおじさんの協力が――」

 

「断る」

 

 

だから奴の行く手を阻む俺は、さながら裏切り者の中ボスあたりか。

正義の味方、英雄ごっこには付き合いきれないのだ。

 

俺の答えに目を白黒させていた奴が、食って掛かるように剣呑な眼差しを向けてきた。

断られるとは露ほど思っていなかったのだろう。

 

 

 

真っ直ぐに押し付ける、その青臭い正義も鼻につくんだよ。

 

 

 

 

「……何で?」

 

「わからないか?」

 

「わからないから、聞いてるんだけど?」

 

「……ち、ちょっ待てよ! 何で二人とも険悪なふいんき()になってるん?

オカリン、別に手伝ってあげてもバチは当たらないんじゃね」

 

「黙っていろ、橋田」

 

「は、橋田ぁっ!?」

 

 

橋田のテンションがおかしいが、この際捨て置き。

今は目の前の天敵に意識を払う。

奴もこの空気に苛立ちを露にしていた。

挑発しがいがあるというものだ。

 

 

「もしかして、あたしのこと信じてないの?」

 

「いや? ただお前の話に俺へのメリットがまるでないからな。

同情を誘うだけの子供騙しじゃ人は動かんぞ」

 

「……今までの話をちゃんと聞いてた?」

 

「聞いていたさ。人が何人死のうと、地球がボロボロになろうと知ったことじゃない。

ラボメンの生死ぐらいは提示してもらわないと、な」

 

 

まゆりと、そして萌郁。

その二人の運命は最低限聞いておいて損はない。

弱みにならない形で。

 

 

「ラボメンの、生死……?」

 

「わからないならここにいる人間の寿命だけでも構わない。

まさかそんなこともわからない役立たずな未来人(笑)なのか?」

 

「っ! それぐらいわかるよ!

父さんと椎名まゆりは2036年も健在、オカリンおじさんは――岡部倫太郎は、

10年ぐらい前……今からだと、およそ15年後。2025年に、亡くなった」

 

 

15年後――――前の世界と、同じ。

収束する運命だとでも言うのか。

この俺に15年もの月日を与えて下さるなんて、なんともお優しい神様だな。

 

 

 

それより、まゆりが生き延びている――――それが事実ならば。

 

 

 

 

「その運命から抜け出すために、目指すべきは――アトラクタフィールドの狭間。

どのアトラクタフィールドからも一切干渉を受けない、

たった1つの世界線――通称『シュタインズゲート』」

 

 

“どのアトラクタフィールドからも一切干渉を受けない”……?

ならば俺の特殊能力も、至るはずの未来も、全て失われるのだろうか。

 

 

「『シュタインズゲート』はさ、まだ誰も見たことのない未知の世界線らしいんだ」

 

「らしいって、それ誰かが観測したんじゃないん?」

 

「観測はされてないんだよね。だから“未知”なわけで」

 

 

俺が何も知らないこの世界で、

せっかく手に入れた未来の確証を捨て去りわけのわからない世界へ旅立てというのか。

 

 

 

一寸先には、2000年クラッシュだろう?

 

 

 

 

「でも、シュタインズゲートの世界線変動率は、

父さんとオカリンおじさんとですでに割り出されてるよ。

相対値で、ここから、-0.081609%。そこがシュタインズゲート」

 

 

行け、と。

勝手に決めつけた使命を果たせ、と。

未来人たちは、この俺に傍迷惑な脅迫を突き付けた。

 

 

「――――ふふっ」

 

 

思わず吹き出す。

待て、まだ笑うな。

しかし…………堪えきれない。

 

 

 

 

 

 

「くくく、フーッハハハ! フーッハッハッハッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

「……えっ、ここ笑うとこ?」

 

「…………」

 

 

余りにも滑稽だ。

腹を抱えたくなる程に。

 

 

「…………オカリンおじさん、何か雰囲気が随分違うね。まるで別人みたい」

 

「ククッ、そう見えるか?」

 

「見えるよ。全く隙がないし、何より――戦場の臭いがする」

 

「はっ? えっ? オカリンは単なる厨二病患者で――」

 

 

 

 

 

「お前、何者だ?」

 

 

 

 

 

含む響きは、困惑、疑念、多分に敵愾心。

腰を落とし手は背中の武器へ。

臨戦態勢に移行する。

 

今更な質問も、小動物が威嚇するようなその姿さえ滑稽だ。

俺の口元は極限まで吊り上がり――

 

 

 

 

 

「名前を言えば解るかな?

――――我が名は、鳳凰院凶真。

狂気のマッドサイエンティストにして時の支配者、

300人委員会の一人である鳳凰院凶真だよ」

 

 

 

 

 

まるで悪魔のようだった。

成る程、人間を弄んで愉悦に浸り魔に堕ちる存在が悪魔なら、正しく俺は悪魔だろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アア、愉シイ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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