Steins;Gate γAlternation ~ハイド氏は少女のために~   作:泥源氏

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ジキルとハイド

 

 

『ジキル博士とハイド氏の奇妙な物語』をご存じだろうか。

 

ロバート・ルイス・スティーブンソンの代表的な作品の一つだが、

諸君の中でも聞いたことはあるが読んだことはない、という者が多いだろう。

言ってしまえば、〝解離性同一性障害〟、または〝二重人格〟が物語の主題。

ジキル博士なる人物が自分を薬の被験体として使った結果、

新しい人格であるハイド氏を手に入れた。

 

いや、言い方が間違っているかもしれない。

彼も、我々も、必ず持っているだろう裏の人格、欲望に塗れた罪深い自分が

表に出てきてしまっただけだった、と俺は解釈している。

以降、ジキル博士の周りで起こる怪事件の数々。

ハイド氏による凶行だと知るのにそう時間はかからなかったが、結末は予想を裏切らず。

 

彼は自殺してしまった。

 

つまり、ジキル博士は裏の人格であるハイド氏に屈したのだ。

罪の意識に、罪の重さに、罪の恐怖に。

 

……別に、今の俺がハイド氏である、などと言うつもりはない。

どこかにジキル博士を置き忘れてしまった、そんな残滓が俺の中にある。

違う世界線、いや平行世界の自分の記憶、想いが流入したのかもしれない。

ヌルく甘ったるい、腐り溶けてしまいそうな粘着物を持つ俺、に似た存在。

 

だが、ソイツと俺も本質は同じ。

一つ一つの選択、事件においてIFがあり、世界は分かたれていくのだから。

 

羨ましくはないが、興味はある。

俺の未来が確定しているのなら確定しない場所へ。

渡る手段があるのなら渡って見せよう。

これは他世界の俺への宣戦布告だ。

ジキル博士はこの俺が喰らってやる。

そう、乗っ取るのだ。

 

 

 

無限の可能性が存在する、未知なる世界、シュタインズゲートを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2010:08:15:17:04

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鮮血の赤が路地裏で弾ける。

散った飛沫を見やり、不快で顔を歪めた。

血が嫌いなわけではなく一張羅の白衣に付いてしまった事が煩わしい。

八つ当たりで転がる死体にもう一発ブチ込もうと時、近くで銃声が上がる。

どうやらあちらも仕事が終わったようだ。

 

 

「……ええ、そう。FBの言う通り、相手は捜査官だった。

ユーロポールの……大丈夫、二人とも始末した。

目標αはガード下、目標βはそこから離れた路地に……死体、転がってる。……了解」

 

 

怜悧の中に僅かながら脆さを帯びる、聞きなれた硬い声。

聞こえた方向に顔を向けると、携帯電話をしまう女がいる。

ラウンダーとして俺が拾い育てた死に損ない――桐生萌郁、通称M4。

 

 

「……M3、目標ブラボーを排除してきた」

 

「そうか」

 

「後始末はFBが。私たちは撤収を」

 

「そうだな」

 

 

彼女の話を聞きながらも周囲の警戒を欠かさない。

いくら治安の悪い秋葉原でも、殺人を一般人に見られると厄介だ。

逃走ルートの確認で通りの方を見れば――――

 

 

「っ!?」

 

「!」

 

 

翻る白衣に長い茶髪。

去り際に目が合った人物は、俺が良く知る人物で。

 

その卓越した頭脳を買ってラボメンに招き入れた天才少女。

――――牧瀬紅莉栖だった。

 

 

「……どうかしたの? M3」

 

「いや、牧瀬紅莉栖に見られた」

 

「っ! すぐに始末を」

 

「待て、想定内だから追う必要はない。しかし身を隠す必要があるな」

 

「……はい」

 

 

この致命的な現状においても特に顔色は変えない。

冷静に分析すれば、大した話ではなく。

既にラボメンには俺がラウンダーであることがバレているのだから。

 

 

 

 

阿万音鈴羽という反則的なタイムトラベラーによって。

 

 

 

 

牧瀬紅莉栖が非科学的な話を信じるかどうかはわからないが、

きっと未来人から場所を教えられたのだろう。

自分の目で見てしまえば彼女も信じざるを得まい。

つまり避けられぬ事象。

 

 

「今のところ牧瀬紅莉栖が通報するとしてもこの殺人だけ。

ならば握りつぶすことは簡単だ」

 

「そうね」

 

「では、ラボに向かうとしよう」

 

「……えっ?」

 

 

だからこそこうなった時どうするかも決めている。

あのまま去るのはあまりにも後腐れがあり、俺らしくもなかった。

 

 

「M4は俺の逃走経路を確保し、隠密に観察しろ。――――行くぞ」

 

「はっ、はい……」

 

 

狂気のマッドサイエンティストである鳳凰院凶真は、常に堂々としていよう。

未来人なんて胡散臭いものに怯えて雲隠れなぞ知れれば良い笑いものだ。

 

M4の戸惑いが伝わってくるが、この程度阿吽の呼吸で理解してもらわなければ困る。

まだまだこの女には調教が足りないのかもしれない。

 

風を切り颯爽と歩く、両手はポケットの中。

どのような状況でも鳳凰院凶真に不可能などありはしない。

それは事実であり真理。

不可能なことが在ってはならないのだ。

俺の手で世界の支配構造を変えるために。

 

 

 

野望へまた一歩足を踏み出す。

待っていろ、ラボメン諸君。

さぁ、お別れのご挨拶だ―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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