イナズマイレブンcross   作:練武

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7話 伝説の地で

「なぁ、佐々木監督って俺らに具体的な指示出したこと、あったっけ?」

 

「伝達事項以外は、記憶にはないな」

 

佐々木監督が部室を出た後、全員は固まっていた。その中でぼそりと和田木先輩が疑問を呟くと、キャプテンが返した。

驚愕だった、あの人があんな風に威厳を保ちながら話すことに。

佐々木監督は入部届けを出した時にだけ話した記憶がある。温厚そうな見た目を裏切らない性格で練習に対してもとやかく言わずに暖かく見守るタイプの人だ。キャプテンを通じて伝達事項を言うのであまり顔を見たことはない。

先輩たちも優しい初老のおじいちゃんといった印象が強かったのか指示を出すといったごく当たり前のことに驚きを隠せないでいる。

 

「とにかく、向かいますか?」

 

白石先輩がキャプテンに尋ねた。

 

「そ、そうだな。よし、みんな裏門に集合だ。」

 

キャプテンに一言により8人はゾロゾロと移動を開始した。グラウンドではなく裏門、あそこにあるのは山くらいだ。なぜそんな場所に...疑問を抱いたまま、俺らサッカー部は裏門を目指した。

至心館中学校は少々特殊な地形の中学校だ。中学校は住宅街の中に建てられているが裏門からは名前も知らない小さな小山へと繋がっている。この小山は地元の子供達の遊び場として活用されているがそれ以外特に何もない山で手入れも最低限されている程度だ。

なので裏門へ出るということは小山へ行くことになる。小山?そこで何か特別な練習でもするのだろうか?部室を出て校舎を過ぎると奥にある裏門が見えてくる、それと同時に佐々木監督も見える。監督は相変わらずのニコニコ顔で先ほどの威厳が嘘のようだ。俺らの姿を一瞥すると

 

「じゃあ、行こうか」

 

と言って裏門を開けて小山へ通じる道を歩き始めた。未だに困惑している俺らはとりあえずその背中を追いかけた。

 

 

 

鬱蒼と茂る木々に挟まれた獣道を歩く。

 

「監督、どこに行くんですか?」

 

キャプテン疑問に足を緩めることなく答える

 

「君たちが本気で勝ちたいと思ってるから、それに見合う所へ」

 

それに見合う所?こんな小山にそんな場所があるのだろうか?昔何度か小山に来たことはあるが、そんなものがあるなら目がつくはずだ。佐々木監督は疑問の種が消えない俺らに続ける。

 

「10年前、全国に行った時に当時の部員のために作った練習場がある」

 

「今はきっとあまり状態が良くないと思うが」

 

10年前に作った練習場、そんなものがあったなんて。確かにサッカー部のグラウンドは狭い。

 

「やっぱり、道が消えかかってるの」

 

小山には広場と言われる場所がある、公園がなかったこの辺りの地域の子どもはこの場所を遊び場として利用していた。その広場へ続く道の途中、突然監督は右の道なき方を向いてぼやき始めた。

そこをよく見ると道が奥に続くように草が短い箇所がある。かつて道だった証拠だ。

 

「しょうがない、ちょっと足が痒くなるけど我慢」

 

そう言ってかつて道だった所へ足を踏み入れた。この奥にあるんだ、栄光をつかんだ至心館イレブンが使っていた練習場が。抑えられない期待が、少しばかりか早足にさせていた。

そこからちょっと歩くとなにやら開けた場所が見えた。広場とは違い草は中途半端に刈り取られ、長年使われてないのが丸わかり。そこはサッカーグラウンドだった。

 

「こんな場所に....」

 

思わず口に出る。

サッカーグラウンドは公式戦ほどの広さがあり広さとしても十分だった。木々に囲まれたサッカーグラウンドがほこにあった。

 

「まぁ草が生えているがそれさえ抜けば問題はないでしょう」

 

「じゃあまずグラウンドを整備しよう、やるぞ、みんな!」

 

力強いキャプテンの号令、オォ!と声を出す。至心館サッカー部の栄光が全て詰まった場所を元どおりにすべく、部員は動き出した。

 

 

 

まずグラウンドに生えている雑草を抜いた、量自体はそれほど多くなかったが、かなり大きくなっていて腰くらい成長しているものもあった。

 

「しっかし、こんなところにグラウンドがあるなんてな」

 

「本当だよ、びっくりした」

 

屈んで草を抜きながら石郡が話しかけてきた。

 

「でもさ、納得じゃない?なんか中学校のグラウンドは狭いし地面も硬いし、こっちの土は良質だし広いし。ここで練習できるならモチベーション上がるよな」

 

土も柔らかすぎず硬すぎず、といった絶妙な状態だ。かなり気を配ったのだろう。

その後は黙々と草を抜いていった。あらかた抜き終わると整備をすることになったのだが

 

「トンボ、持ってこないとだめですかね?」

 

雲井が尋ねる。トンボらしきものが見当たらない。ここまでトンボを抱えて持ってくるのはかなり大変だが。部員で頭を抱えていると。

 

「なんだ?トンボとか道具諸々ならあそこにあるぞ」

 

監督が指差す先、そこには小さなトタン小屋があった。かなり隅の方に存在を最小限にしていたので気づかなかった。そこのドアを開けて中を確認すると、そこにはトンボやラインを引く道具。綺麗に磨かれたサッカーボールが入ったカゴ、そして一枚の写真が大きく飾られていた。

 

至心館イレブン、全国出場!

 

大きく書かれた文字の下、このグラウンドで笑いながらピースサインする僕らの先輩たちが写真に収められていた。

 

「やっぱり、本当なんだな」

 

ボソッと呟くとキャプテン。何秒間かそれを見つめた後、その写真を元に戻すと。

 

「さあ、もうちょっとだ、とっとと終わらせるぞ!」

 

先ほどより力強い一言が、狭い部室に響く。よし、もうちょっとだ。気合いを入れ直して、トンボを抱えてグラウンドへと向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

「監督、これでどうでしょう?」

 

「うむ、大丈夫そうだな。この感じ、懐かしいなぁ」

 

日が紅く染まり、木々も赤緑に染まる時刻に、グラウンドは元の姿へと蘇った。やはりここなんだ、ここが伝説の生まれた地なんだ。そう思うと身体が止められない。

 

「という事でですね監督。練習します」

 

「今からか?」

 

するとキャプテンは笑いながら

 

「もちろんですよ、おちおちしてられません。フットボールフロンティアはもう迫っているんですから」

 

するとキャプテンはグラウンド中央で集まっている部員の方へ寄った。

 

「さぁ、練習するぞ....と前にいいか?そういえば新入部の堅山の自己紹介がまだだったな」

 

今日は衝突といいドタバタして挨拶するタイミングがなかったからな。みんなの視線が集まった堅山は一歩前に出て淡々と挨拶を始める。

 

「一年の堅山司です、ポジションはDFをやろうと思います。宜しくお願いします。」

 

よろしくな、そんな声にすこし照れたのか顔を背けた。生意気そうなやつだけど、ちょっぴりシャイなんだな、こいつ。

 

「よし、自己紹介も終わったし練習だな!行くぞ」

 

 

夕日に染まる空を背景に、僕らの声がグラウンドに舞った。

 

 

「いくぞ、松比良!」

 

「....!」

 

白石先輩のシュート、それを冷静に目で追いながら弾く。松比良先輩は本当に冷静だ。何事もなく立ち上がると弾いたボールを白石先輩へと渡した。

 

 

「どうした?堅山」

 

「クソ!てめぇ調子に乗りやがって!」

 

雲井と堅山がボールを取り合っている。雲井のボールを中々取れずに悔しがっている堅山の声が聞こえてくる。

雲井の素早い身のこなしについていくだけですごいと思うのは俺だけだろうか?

 

「いいか石郡!DFは守備の要だ!抜かれるな、死んでも抜かれるな!」

 

「死んだら守れませんよ...」

 

「馬鹿!比喩だ比喩!」

 

相変わらず仲の良い2人、性格的にも相性がいいんだろう。DFの極意を授けようとする和田木先輩のあまりの熱さにすこし引き気味の石郡。頑張れ、身体が持つ程度に。

 

 

「こんなに活気付いたグラウンドは久しぶりだ」

 

声が飛び交うグラウンドを見てキャプテンが思わず声を漏らす。数日前までのんびりやっていたのに、雲井が焚きつけた火が先輩たちの心の奥の悔しさに見事に引火した。一歩踏み出せないでいたんだ。やっぱり、勝利のために練習する姿は見えとても生き生きしていた。

 

「じゃあ次の練習いくぞ!集まってくれ。」

 

俺らの練習は夜遅くまで続いた。

 

 

 

 

 

 

 

数日練習するとフィールドの事が色々わかってきた。俺の必殺技をみてか先輩たちが相談して俺のポジションをMFにした。ドリブル、ディフェンスがやっと平均的になってきたのでどちらにも対応できるようになったからが理由らしい。自分のポジションが決まった事で役割が見えてきた。やっとサッカープレイヤーっぽくなってきた、当たり前の事が出来るようになったことが、嬉しかった。

 


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