イナズマイレブンcross   作:練武

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5話 河川敷のグラウンド

「なぁ、なんでお前いるの?」

 

片足体重の崩れた立ち方のまま俺ら3人を見る。ギラギラとした目つきがで睨むように見られると萎縮してしまう。

 

「こんばんわ堅山。早速本題に入るけどそろそろサッカー部に入らない?」

 

「いや、だからまだ俺は....あれだ、その段階に達してないというか」

 

きっぱりと断ったわけではない、その曖昧な態度に雲井の話していた特殊な理由は俺の想像以上に特殊なことなのかもしれないと感じた。

 

「確かにね、だけどだからこそ一緒にやるべきなんだと僕は思う。大丈夫だよ、新しく始めよう」

 

「だが...」

 

一歩踏み出せないのかいい返答を渋る。そんな堅山に寄り添うように優しく語りかける

 

「僕らは君がいないとダメなんだ、約束しただろ?一緒にサッカーしようって」

 

「.....そう言われればしょうがないな、明日から行こう」

 

難航するかと思いきやあっさり入部してくれた。こうあっさりだとなにか裏がありそうな気もしない。堅山君、クラスも違うこの少年は一体何者だ?

 

「紹介するよ、同じサッカー部の一年の新葉萌君と岩郡真幸君。「いしごおりだ!」

 

このやりとりお馴染みになりそうだな。雲井に鋭く訂正を入れた石郡は二、三度咳払いをして声を整えた。

 

「紹介にあがった石郡だ、ポジションはDF。まぁよろしく」

 

「俺は新葉萌、萌だけど男だし。ポジションは未定かな、よろしく」

 

とりあえず自分の口からも自己紹介をする。堅山は俺たち2人を一瞥してから口を開いた。

 

「堅山司、ポジションは適当。よろしく...あ、GK以外」

 

ぶっきらぼうに言った。距離を置いているわけではないのだが、僅かながら壁を感じる。触れられたくないものを守るために、そこだけを守る小さな障壁が確かに彼には存在した。

 

「ポジションは適当?面白いこと言うじゃないか」

 

「適正ポジションを探る、それだけ」

 

石郡の冷やかしを軽く受け流す。適当ポジションを探る、僕と同じ初心者なのかもしれない。しかしそれにしては貫禄というか経験者みたいに見える。

 

「ふーん、じゃあ新葉と同じ初心者か」

 

「!?.....そうだ」

 

一瞬の躊躇いが気になったが、僕と同じなのか。あの雰囲気はどうやら作り物らしい。それを知ると少し親近感が湧いてきた。

 

「雲井みたいな上手い人に追いつけるように頑張ろうな!」

 

「...そうだな」

 

小さな違和感が心に引っかかる。彼はなぜサッカー部を悩んでいたのか。そして雲井との会話の内容。追求してもいいがしたところではぐらかさせるだろうしなによりそれが原因でサッカー部を去ってもらっては困る、今はサッカー部に入ってもらえるならそれでいいのかもしれない。

 

「そうだ、4人で練習しよう。いいだろ堅山?」

 

雲井は提案してきた。石郡は乗り気らしく小さく笑って肯定した、堅山もまた首を振らなかった。

天空のストライカーと練習とはいえプレーできるなんて。小学生の頃の俺に聞かせてやったらどれほど喜んだか。

思えば彼と会ってから僕も今のサッカーを見つめ直すことができたのかもしれない、無理だと思っていた勝利を手にすることは不可能なことだと、最近思わなくなった。同じ中学生だ、だったら俺らにだって勝つチャンスはあるはずだ。雲井の想いは確かに響いていた。

和田木先輩にも伝わったんだ、キャプテンにもきっと届く日が来るはずだ。

 

「それじゃいくよ、石郡」

 

「へ、こいよ」

 

ボールを蹴って一気に石郡の前まで接近する。石郡もそのスピードに慌てずボールを奪いに体を入れる。雲井の巧みな足さばきで何度か抜かれそうになるが石郡も冷静にそこを止める。

 

「へぇ、やるね」

 

「舐めるなよ、俺だってサッカー歴は長い方だ」

 

石郡ってあんなにサッカーできたんだ、すごいや。感心していると雲井が一瞬の不意をついて石郡を抜いてしまう。

 

「僕の勝ち」

 

「ふん、負けといてやるよ。...ほらよ2人」

 

負け惜しみを言いつつ石郡は雲井の蹴っていたボールをこちらに渡した。どうやら堅山とやればいいということか。

 

「どっちが攻める?」

 

「そうだな、じゃあ俺が奪う」

 

攻撃と守備も決まり僕は雲井のいた所定の位置に立つ、守備の堅山も準備ができたようだ。

 

「いくぞ」

 

「こい!」

 

俺はいつものようにボールを蹴りだした。

俺は小学生時代、サッカーチームに入っていた、しかし下手くそで試合に出た記憶なんてない。だから自分のポジションというものもイマイチわからずにいた。だからのかもしれない、長所を見つけようと僕は様々な練習をした。

壁に向かってシュート練習、素早く正確なドリブルをするためにコーンをジグザグに避けながらドリブルしたり、壁に当てて跳ね返ってきたボールをトラップしたりと1人でできる練習はたくさんやった。

今僕を含めても至心館サッカー部は僕を入れて9人、ということは僕は憧れのフットボールフロンティアに確実にスタメンで出場する。嬉しい反面、恐怖心もある。僕のような下手くそが出て大丈夫なのか、毎日不安に思う。それを払拭するために最近は自主練の量を増やしているがそれでもたまに失敗するイメージが湧いてくる。

僕はまだまだなんだ、もっと強くならないといけない。

 

 

「ぐっ!」

 

接触に耐えられず尻餅をつく。またボールを取られた。

結局あの後僕はものの数秒でボールを取られた。堅山が特別うまかったわけじゃない、僕がミスしてしまったのだ。攻守を交代しても激しい粘り合いのあと競り勝てず抜かれてしまった。悔しいので攻撃側でもう一度対戦を頼んだが今度は見事に読みきられて取られてしまった。その度に悔しさでもう一度続けてしまう。この時俺は完全に熱くなってしまっていた。

 

「もう一度!」

 

「いいぜ、俺も練習になる」

 

堅山もまたそんな誘いを真っ向から受けてくれた。

堅山としてはボールを蹴るより相手から奪うことが楽しかったのか

 

「俺決めた、DFやる」

 

と言い出した。

一方の俺はドリブルも守備もダメだ、あんなに練習してるのに全く成果に結びついてない。

 

「新葉、まだまだだな」

 

石郡は項垂れる俺に手を貸してくれた。

 

「すまないがもう遅いし俺帰る、それじゃあな3人」

 

僕を起こすと肩にカバンをかけてそう言い残して去っていった。空を見ると赤暗かった空は地平線にうっすらとオレンジを残すだけとなっていた。いつの間にかかなり時間が経っていたようだ。

 

「俺も、じゃあな2人」

 

堅山はシャツの袖で額を拭うとボールを拾ってゆっくり帰っていった。そんな後ろ姿を見送っていると堅山が完全に見えなくなった時、雲井が話しかけてきた。

 

「お疲れ様」

 

そして俺の鞄の上に置いてあったタオルをいつの間にか持ってきてくれた。ありがたく受け取ると顔の汗をぬぐった。

 

「全然ダメだった」

 

ドリブルもできない、守備もできない。俺は本当に何をやっているんだろうか、情けない。

 

「焦らずにゆっくり力をつければいい」

 

雲井は地平線に落ちかけている夕日の方向を向きながら言う。

 

「焦る気持ちもわかる、だけど焦れば焦るほど大切なものを見失ってしまう」

 

「大切なもの?」

 

「それは、サッカーが好きっていう気持ちさ。結果が出ず落ち込んだりイライラしたりすることもある。僕だってあったよ。その時僕は思い出すんだよ、きっとこれをできるようになったらさらにまたサッカーが楽しくなる、そう思うとワクワクしてくるんだよね」

 

そう語る雲井はとても眩しかった。満開の笑顔で、楽しそうにサッカーのことを話す姿を見ていると、それがわかる気がしてきた。そうやって雲井は困難を乗り越えてきたんだな。

 

「そうか...俺はサッカーが好きだからやっているんだ。楽しくやらなきゃね」

 

「そうさ!だから次は僕とやろう!」

 

雲井と!俺なんてまだまだな身だ。正直勝負にならないんじゃ、そんな不安をよそに雲井は鞄から取り出したボールを俺に渡す。

 

「こい!」

 

楽しく、だ。好きなサッカーを憧れの選手とできるんだ。思いっきり胸を借りよう。

 

「いくよ!」

 

ボールを蹴って駆け出す。雲井も距離を縮めてくる。どう抜く?どうすれば彼を出し抜ける?

素早く考える。もしかしたら俺が雲井を抜ける可能性は0%かもしれない、だけど負けたくない、諦めたくない!

 

「うおぉぉぉぉぉぉ!」

 

その時、体から溢れる力を感じた。感じたことのないこの熱気。そして本能で勝手に動いた

 

「デーモン・ディストーション!」

 

すると雲井は突如片膝をついた。息を少し荒くして何かに怯えているようだ。目の視点が何かを追っている。その間に雲井を抜くことができた。

 

「....今のは?」

 

「間違いない、必殺技だよ。驚いたよ、君の後ろに悪魔が見えたと思ったら、急に自分の地面が歪み出したんだよ。それで思わず立てなくなっちゃって」

 

そんな、必殺技...まさか僕が。


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