イナズマイレブンcross   作:練武

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2話 10人のサッカー部

「カースト上位のサッカー部を倒す?」

 

耳を疑った。そんなことを本気で口にするなんて。当の本人は真剣そうに笑うことなく僕に言った。

 

「そう、例えば...雷門中、帝国学園。木戸川清修や新雲学園。これらは全国に名を轟かせる名門校、Aクラスだ。特に雷門中は今や全国の中学サッカープレイヤーにとって知らぬ者はいない名門中の名門校」

 

雷門の偉業は数多く残っている。廃部寸前のサッカー部がフットボールフロンティア全国優勝をしただけでも奇跡に近い。だがそれだけにとどまらず突如全国の中学校を襲った宇宙人と呼ばれる人達とも戦い、さらに日本代表、イナズマジャパンに数多くの選手を輩出した。それから10年後にはフィフスセクターの管理下にあるサッカーを自分たちの力で取り戻した革命も逸話として有名だ。

その雷門の因縁のライバルとも言われている帝国学園、今は場所を移しているので度々全国の舞台で雷門と激闘を繰り広げている。木戸川清修もまた昔からサッカーで有名な中学校だ。あの赤いユニフォームは地元のサッカープレイヤーには憧れの的らしい。新雲学園はフィフスセクターから革命を起こそうとした雷門の前に立ちはだかった名門校で今もその評価と実力は相変わらず全国クラスだ。

 

「ところでカースト制度が上位の学校の恩恵の中身は知っているかい?」

 

「まぁ、設備の充実やサッカーエリートへの約束。協会への要望を出せる、とかだっけ。」

 

「その他にもお金の動きなんて黒い噂もある」

 

黒い噂、これは密やかに噂されていることだ。お金のある中学校などは協会へ多額の寄付金を出す見返りにカーストを上げてもらっているというものだ。だがあくまで噂だ。それにこれが本当ならとっくに警察が動いている。

 

「その他細かいものがある、だけど一つ言えることがカースト上位はカースト上位ってだけでブランドなんだよ」

 

「.....そうだね」

 

「気にくわない。だから、潰す」

 

「いやいや、待って」

 

話が飛んだような気がする。気にくわない?そんなものが理由なのか?これが困ったことに当本人が本当に真剣な表情そのものだということ。

雲井は僕に思ったことが伝わらなくて少し不思議そうにしていたがハッと何かを思いついた。

 

「そういえば君の名前聞いてなかった、同じサッカー部の仲間になるんだ、聞いておかなくちゃね」

 

「俺は新葉 萌、萌だけど男だし」

 

「確かに字だけなら女の子に間違えそうだね。よろしくね」

 

差し出された手、言っていることは突拍子も無いことだが変な人ではなさそう...かな?

 

「うん、よろしく」

 

その手に応えて、手を握った。僕より小さかったけど、とても力強くて硬い手だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「こんにちわ」

 

雲井とあった翌日の放課後、いつも通りサッカー部の部室に向かった。至心館中学校は他の中学校に比べてグラウンドが広い、だがランクFのサッカー部が使えるスペースなんてたかが知れている。サッカー部の部室も隅の方にあり、練習に使えるスペースもサッカーコートサイズがあるかないかくらいだ。

 

「よっ」

 

最初に声をあげたのは石郡、部室の椅子に腰掛けてスマホをいじっていた。そして

 

「やぁ、新葉」

 

雲井空がいた。狭いサッカー部の部室で見事なリフティングをしていた。サッカー初心者の僕でもわかる巧みなリフティングだ。

 

「んで、こいつがまた新しく入ってきた一年な訳?すっげーリフティングうまいな」

 

部室の隅の長椅子に寝転びながら雲井のリフティングを見つめる三年生。飄々とした性格で夏前なのに焼けた肌と肩まである長い髪が特徴の少しチャラチャラした少年

 

「こんにちわ、伊崎キャプテン」

 

「うぃーす、まぁ適当に練習しよう」

 

この部のキャプテン、伊崎仁さんだ。この見た目なのでよくキャプテンっぽくないと言われているがその面倒見の良さから部員からは慕われている。

 

「他の人はまだですか?」

 

キャプテンは椅子からゆっくり体を起こすとスパイクの紐を締め直した。

 

「松比良はもうちょいでくるかな、和田木も同じ頃かな。白石と鵜飼、羽柴と向島は休み」

 

2年の松比良先輩はGK、このチームの守護神。寡黙で物静かな先輩だと思っていたが帰りに入部祝いとしょうして新入生に無言でジュースを置いていった優しい先輩

そして3年の和田木先輩、DF。DFリーダーとしてこのチームを支えている。少々変わった人で丸い眼鏡が特徴的な人。後の4人に関しては追々紹介するとしよう。

 

「あの、すいませんキャプテン」

 

話が終わるとリフティングしていた雲井がボールを地につけて口を開いた。

 

「今の話聞いてましたけど、話の中の人達と僕らを合わせても10人ですよ、誰か忘れたりしてませんか。」

 

「え?そんなことないよ。今の所、一年生足しても10人。残念ながら1人足りないな。去年はFランクのこの中学では珍しく3年生多かったからねぇ、試合は出来たよ」

 

3年生3人 2年生4人 1年生3人。これが今の至心館サッカー部の部員数だ。

 

「ところでさ、なんで雲井は一週間経ってサッカー部に入ったわけ?」

 

石郡はスマホから顔を上げて雲井に尋ねる。雲井は少しうつむいた後、爽やか笑顔で

 

「迷ってた」

 

そう答えた。

 

石郡はふーんと一言言うとまたスマホの画面に目を向けた。元々そんなに興味はないのかもしれない。

 

 

「こんにちわ、キャプテン」

 

会話もなくなり、静かになった部室に古びた部室のドアが開く音がした。ドアの方を見るとそこには2人の先輩がいた。

 

「松比良先輩、和田木先輩。こんにちわ」

 

和田木先輩は松比良先輩の後ろで手を振ってにこやかに挨拶する。松比良先輩はそのままキャプテンのもとに向かう。

 

「今日の練習はどうされますか?....」

 

「シュート練でもしよかな。頼める?」

 

「大丈夫です。」

 

そう言ってエナメルのカバンを置いて練習着を取り出した。和田木先輩もゆっくりと椅子に座りカッターシャツを脱ぎ始めた。

 

「ふっふーん、シュート練。シュート練。DFだけどやっぱシュートって楽しいじゃん?なぁ松比良。」

 

「自分、GKなので」

 

2人はそんなやり取りを始めた。

 

「んじゃ2人以外はグラウンドに行こうか。」

 

キャプテンの一言により僕ら4人は部室を出た。その時ふと雲井の顔が強張り、何かを我慢しているようにうつむいているのがわかった。

 

「カースト上位の中学を潰す」

 

昨日の一言が、ふと頭をよぎった。

 

 


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