イナズマイレブンcross   作:練武

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12話 開会式

朝だというのに、強い日差しが容赦なく顔に降りかかる。眠たい目を擦りながらゆっくりと体を起こす時、寝転がっていた場所はほんの僅かに濡れているのがわかった。この歳で?思わず股を探る、よかった。どうやら全身汗だらけになっていただけのようだ、汗ぐっしょり、ベトベトだ。

気怠い身体でベットからドアノブまでなんとか移動し、階段を降りる。降りた先は廊下、そこを右に曲がると、そこには朝飯を作っている祖母の顔が見えた。

 

「おはよう萌」

 

「おはようばあちゃん」

 

机の上にはホカホカご飯に味噌汁、ほうれん草のおひたしと鮭が二人分配膳されていた。椅子に座って手をあわせる。いただきます、まず野菜から口に入れる、いつも通りおいしい。

 

「今日が開会式だろ?」

 

「うん、だから急がなきゃ」

 

「急ぐのも大事だけど、よく噛んで」

 

はいと返事しつつ時間を意識してご飯を平らげる。時間的にもまだ余裕があるか。ごちそうさま

椅子から立ち上がり二階に上がり制服に着替える。そしてカバンの中の持ち物をチェックする。水筒、タオル、そして、ユニフォーム。

カバンから取り出して広げてみる。赤を基調とし、右胸には至心館と漢字で白く横書きされている。また肩には一本の白いラインが入っている。そのユニフォームの真ん中に堂々と描かれた数字、18番。

これが僕の番号だ。

雲井は10番、キャプテンは4番。この背番号の決まり方もまた独特だった。じゃんけんで決めた。監督が提案したんだが1、2年生が3年生のことを考えて難色を示したが何故か三年生側が乗り気になり、結果こうして20番までの好きな数字を背番号にすることができた。俺は早い段階で勝てたのでこの背番号をつけた。18番、俺にとって憧れの番号。これは義政兄さんが小学生の時つけていた番号。練習を教えてくれたあの日々に着ていた稲妻ブレイブズの18番が、俺にとっての憧れだから。

 

「よし、全部入ってる。いくか」

 

 

カバンを肩にかけて、一階に下りる

 

「はい、お弁当」

 

「ありがとう」

 

ばあちゃんお手製弁当をカバンに丁寧に入れる。

 

「いってらっしゃい」

 

「いってきます」

 

俺は様々な思いが混じった胸中で、学校へ向かった。

 

 

「おはよう」

 

「おはようございます」

 

学校の校門前、既にキャプテン含め数名が集まっていた。30分前だというのにもう過半数が集まっていた。まずキャプテンに挨拶してから先輩たちへの挨拶を済ます。同じ一年生は雲井だけだった。

 

「雲井、おはよう」

 

「萌、おはよう」

 

いつもと変わらない、穏やかな表情。慣れてるんだろうな。

俺なんて試合でもないのに緊張してるんだから。

 

「思えばあっという間だったね」

 

「そうだね」

 

入学してから早一ヶ月ちょっと、もうここまでやってきたんだ。雲井との出会いが既に前日のように思い出せる。苦しかった練習も、楽しかった同級生や先輩との会話も、何もかもが懐かしい。

 

「試合は明日、僕は勝つよ」

 

「もちろんだよ、俺も」

 

自然と手に力が入り、握りこぶしを作っていた。大丈夫、俺だってここまでやってきたんだから。

 

「さて、みんな来たしいくか」

 

至心館イレブン11人と監督は開会式の会場、アルカディアスタジアムへと。

 

 

 

 

 

 

 

アルカディアスタジアム。至心館中が属する地区に存在する最大のスタジアムであり、準決勝、決勝戦の舞台ともなる。どの地区にもこのサイズのスタジアムが存在するのだが、アルカディアスタジアムはその中でもかなりの大きさを誇り、プロが時々使用するほどの設備もある。そんなスタジアムに入れるのだから嬉しい限りだ。

 

「うおぉ、やっぱりいつ見ても大きいな」

 

「何してんだ、早く入るぞ」

 

スタジアムへと続く道で見上げていると堅山に注意される。何度か足を運んでいるがやはりいつ見ても大きい。見事なもんだ。

中に進むと大きなカウンター、右にはショーケースがあり、盾やトロフィー、有名選手のサインが飾られていた。そして奥に行くとスタジアムの観客席となっているが、今回俺は左の選手専用通路へと進む。

通路はこのスタジアムをぐるっと一周するようにできていてスタジアムへと続く道や控え室、更衣室やトレーニング施設等様々な部屋や施設が存在している。監督がしばらく歩くと一つの部屋の前で止まる。そこには至心館中学校様と書かれた板がドアに貼り付けられていた。

キャプテンが確認のため聞いた。

 

「ここが俺らの更衣室ですか」

 

「そうゆうことだな。着替えは10時までに済ませること、いいな」

 

「「「はい!」」」

 

中にはロッカーが多数に大きな一面鏡、さらにはソファも置いてあった。

 

「さすがだな、アルカディアスタジアム」

 

「やはり...いつきても...フカフカですね」

 

和田木先輩は物珍しそうにキョロキョロと辺りを見渡す。この人三年目なんだよね?と疑いたくなるほど。松比良先輩はお気に入りなのか早速ソファに座って癒されている。

 

「今9時30分か、みんな!10時までには着替えを済ませておくように。荷物はロッカーに入れて鍵を閉めておくこと。」

 

早速鞄を開けてユニフォームを取り出す。これを着るのは試着した時以来だから実に数日振りだ。カッターシャツとアンダーシャツを脱いで赤い半袖アンダーシャツを着る、そして本命の赤いユニフォームに袖を通す。学校のズボンを脱いで赤のパンツに足を通す。サイズはバッチリだ、気になったので鏡の前に出てみると。

赤が前面に押し出された、至心館のユニフォームを身に纏う俺が鏡の前にいた。

 

「かっこいい....」

 

このユニフォームは、初めて見た時からかっこいいと思っていた。しかしここまでとは。

 

「みなさん!お待たせしました!こいつをとうとう手に入れました!」

 

ドアが勢いよく開け放たれた、いきなりなのでみんなの視線が一気にそこへと注目する。石郡だった。片手には何か本を一冊持っている。

 

「今年のこの地区のFF予選特集です」

 

石郡はそう言うと部屋の中央へ歩き出すと自然と俺たちもそこへ集まる、鵜飼先輩だけは部屋の椅子の上で相変わらずスマホを触りながら動かなかった。

 

「まず、獅子王山高校がぶっちぎりの優勝候補ですね。エースでキャプテンの結城虎之進を中心に個々の技術もこの地区トップクラス、圧倒的攻撃力で今季の練習試合では必ず3点以上の差をつけて勝利したようです。」

 

獅子王山、全国に行くには避けて通れない最大の壁。トーナメント抽選の結果お互い勝ち進めば決勝で当たることになった。最大にして最強の敵。

 

「次の優勝候補は海波浜中です。なんといっても固い守備と機動力。双子のMF兄弟、池上兄弟を中心に統率の取れた完成度の高いチームです。獅子王山がいけないならここだろうと予想されています。」

 

海波浜中、一昨年は獅子王山を破り見事全国への切符を手にしたこともある強豪だ。特に池上兄弟はその場所を選ばない活躍から攻守にわたってチームの柱になっている。

 

「さて、気になる石野崎中ですが、戦力的に見るとEが妥当という少し辛口の総評ですね。やはり去年の3年生が強かったようです。」

 

戦力的に見るとE、ならチャンスは全然ある。俺たちはあれだけ必死にやってきたんだ、だから通用する。

 

「では最後に俺たち至心館ですが、どうやら戦力的にDのようです。というのも天空のストライカーのおかげということもあるんですが、妙だな、雲井一人でここまで上がるか?」

 

戦力的にDか、元々がFだったからかなりパワーアップしたのだが、雲井がいるから、というのが大きな理由か。確かに雲井は大きな戦力だ。しかしら俺たちだってそれに追いつけと努力してきた。だからきっとD以上の力を持っているはずだ。キャプテンはそれを聞いて口を開いた。

 

「そうだ、俺たちは勝てる!気合い入れていくぞ!....の前に開会式か。じゃあみんな準備はいいか?」

 

みんなユニフォームに着替えられたようだ。監督の待つ選手通路入り口に向かった。

 

 

 

選手通路のちょうど真ん中にあるのがスタジアムへと通路。真っ直ぐ続く道からは綺麗なサッカー場がよく見える。そこに続々と選手が集まってきた。鋭い目つきので辺りを見渡す一人の青年、頬には大きな引っかき傷のようなものがある。彼が獅子王のキャプテンでもありエース、結城虎之進。その彼を中心に俺たちは中学校ごとの列を作る。

緊張でドキドキしてきた。足が落ち着かない。せわしなく動かしていると羽柴先輩に笑われた。そんな羽柴先輩もしきりに頭をかいているので、少し心が楽になった。みんな同じなんだ。そうしているとスタジアムの方から軽快な音楽が流れ始めた。いよいよだ。

 

「只今より、フットボールフロンティア地区予選開会式を行います!選手入場です!」

 

スタジアムへの道から堂々とした更新で歩いてくるのは黒のユニフォームの獅子王山。先頭の厳つい男は深い緑色の優勝旗を持っている。

 

 

「まず最初に、前年度優勝校の獅子王山中学校より、優勝旗の返還を行います」

 

先頭の厳つい男はそのまま歩くとスタジアムの真ん中にいる地区会長へと優勝旗を手渡した。

 

「それでは、出場校の選手が入場します」

 

軽快な音楽とともに現れたのは海波浜中学だった。そこから次々に現れてはスタジアムにいる獅子王山中学校を中心に横に並んでいく。

 

「至心館中学校、どうぞ」

 

呼ばれると俺たちはゆっくりと前に行進する。大きな歓声が待つスタジアムへと。夏直前の鋭い日差しと、それに負けない観客の熱気。試合はまだなのになんという興奮だろうか。どこを見渡しても熱狂、これがサッカーの力なのか。

 

奇遇にも海波浜中学校の隣に並ぶことになった。言われた通り音楽に合わせて足踏みを止め、その場で待機する。横を少し見る。先頭の方にいる雲井とは違う深い青色の髪の男が二人、間違いない、あの二人が池上兄弟。堂々とした立ち振る舞い。さすがは強豪校。

あれに勝たないといけないんだ。弱気になるな、絶対勝つんだ。

気持ちを引き締めて、前を向く。もう俺に振り返る余裕なんてない。

 

 

 

 

 

「翔馬、隣の中学校って至心館かい?」

 

「そうだよ馬鹿竜馬」

 

こいつはいちいち余計だ。成績が俺より良いからといって調子に乗っている。一度...ならず数回お灸を据えてやりたい。けど、サッカーでは俺がキャプテンなんだけど。そこは優越感。

 

「あれが天空のストライカーなんだな」

 

「そうだな、馬鹿」

 

もはや侮蔑の言葉しか残っていない。口の悪さだけは全国レベルだ。サッカーでも負けじとそのレベルまで行って欲しいのだが。

 

「そして、いるな。あいつが」

 

「今年は上がってこいよ、至心館....」

 

待っている。俺たちが同じ舞台に立つのを。獅子王山に完膚なきまでに叩きのめされて絶望したことも知っている。だけど俺はお前のあの時の輝きを忘れたわけじゃない。だからもう一度見せてくれよ。お前なら立ち上がってこれるさ。

 

鵜飼....

 

 

 

 

旗を返し終わると先頭列の空いているスペースに入る。しばらくするとうちの正GKが横から肘でちょっかいを出してきた。またお前か

 

「虎ちゃんどしたの、やっぱ気になる?海波浜中が」

 

「そっちじゃないさ」

 

海波浜中、確かに獅子王山にとって全国への道に行くためにはあの中学校が最大の壁だ。だが

 

「じゃあ何?好きなタイプのマネージャーでもいたの?なんだ以外と積極的だね」

 

「あのな、今はやめてくれ小河内。」

 

へいへいと軽く流された。きっとまたやるだろう、言っても無駄だ。でもそこがこいつの良いところでもある。チームのムードメーカー、いつも厳しいことばかり言う俺だ、小河内がいないときっと衝突している。辛い時には周りを笑顔にして、励まして。ここまでやってこれたのも小河内のおかげでもある、感謝している。だけど、やっぱちょっかいは嫌だ。肘を出すな!小河内の肘を手で叩く

 

「いったー!なにすんだよ。...でも海波浜中じゃなかったらどこ見てたんだ?」

 

「急に戻ったな、...至心館だ」

 

「へー、今年もボコボコにするの?俺正直嫌だよあれ。サッカーしてる気分じゃないもん」

 

「それは同感だ、だが俺の見ているのは至心館の一人の選手だ」

 

「へー、百獣のストライカーの君が注目している選手。しかもカースト下位のチームね。」

 

なぜお前がそこにいるのか、だが。あの時忘れはしない。どれだけシュートしても弾かれたあの記憶を。俺は、次こそ、お前を超える。

獅子王山のエースとして!

 

「まっていろ、え...いや堅山」

 

上がってこい、そして、俺と決着をつけるんだ。

 

 

 

 

 

 

「お疲れ様、じゃあ解散」

 

アルカディアスタジアムの前で佐々木監督が解散を告げた。昼をちょうど過ぎたあたりか、日差しが強まっている。

 

「じゃあみんな、今日は明日に備えてしっかり食べてしっかり睡眠をとること。以上」

 

最後にキャプテンからのありがたいお言葉ももらい、俺は駅へと足を運ぶ。明日に、俺たちの初戦がある。....眠れるだろうか?

 

 

 

 


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