イナズマイレブンcross   作:練武

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10話 それぞれの思い

「なぁ、新葉はどうしてサッカーやろうと思った?」

 

練習終わりの部室、帰宅準備をする俺に石郡は話しかけてきた。今部室にいるのは片付けのため少し遅れた一年生だけだ。

 

「俺?勿論サッカーが好きだからだよ」

 

「質問を変える、なんでサッカー選手になったんだ?ここで聞きたいのは明確に選手になろうと思ったキッカケだ」

 

なんでまたそんなものを聞きたいのか。でも別に聞かれてまずい内容でもないし、いいか。俺と石郡のやりとりを見てか堅山と雲井も耳を傾けていた。

 

「俺は幼い頃からサッカーが好きだった。だけどそれと同時にとてつもなくサッカーが下手だった。」

 

満足に前にボールも蹴れなかった。トラップも出来ず、ドリブルも全然前に進まない、ボールを蹴れば見当違いな方向に飛んでいく。

 

「だから俺には無理かなと思ったんだ。....あ、で俺は小学校3年までは関東の方にいたんだ。俺の住んでたのは稲妻町、あの雷門中のある場所、それでしょっちゅう雷門中の試合は見てたんだよ。」

 

「憧れだったんだよ。でも俺には手の届かない場所。...あ、理由か。ごめん。そんな俺がサッカーやろうと思ったキッカケは一つ年上の近所の義政兄ちゃんなんだ。義政兄ちゃんは稲妻ブレイブズの選手で忙しい練習の合間をぬって俺にサッカーを教えてくれたんだ。けど今思い出してもホント何教えてくれたのかさっぱりなんだよね。難しいこと言ってた記憶しかないな、でも、楽しかった。見るだけでは味わえない、選手としてボールを蹴る楽しさを俺はあの時教えてもらったんだ。それから転校してもずっとやりとりをしていてさ、義政兄ちゃんどうやら稲妻ブレイブズのキャプテンを2年やって雷門中に行ったらしいんだよね。それを聞いた時、俺決めたんだ」

 

「絶対、義政兄ちゃんと同じ舞台に立ちたいって」

 

「でも、ここに入ってカーストの実態を知って不可能だと思ってしまった。だけど雲井が俺に勇気をくれたから、俺はここでもう一度言う、義政兄ちゃんと同じ舞台に立ちたいって」

 

長々と話したが良かったのだろうか、3人の顔を伺う。

何か驚いたように眉ひとつ動かさない。

 

「どうしたの?」

 

思わず聞いてしまう、するとおずおずと雲井が口を開いた。なんでまたそんな低姿勢で。

 

「義政?もしかして竜安寺義政さんのことか?」

 

「雲井はやっぱり知ってるよね」

 

同じチームだったし、知らないわけないよね。ただなぜそこまで驚いているのだろう?

 

「おい、雲井。竜安寺さんが歳一つ下の子供にサッカー教えてる姿想像できるか?」

 

「いや、無理」

 

堅山がこちらから顔を全く動かさず訊ねた疑問を雲井は否定する、予想通りと言わんばかりに堅山もまたその答えに深くうなづいた。

 

「え、義政兄ちゃんってそんなキャラじゃないの?」

 

「僕あの人怖い、サッカーに対してはとても厳しい人だから。確かに顔だけは優しそうな人だけど。」

 

「わかる」

 

堅山も雲井から聞かされた初の事実。優しい近所のお兄ちゃんって感じしかしなかったけど。普段の練習は全く見てなかったからかなぁ?

ってちょっと待て。

 

「堅山って義政兄ちゃんと面識あるの?」

 

「いや、ちょっとな」

 

堅山は答えたがそう言えば堅山ってどこで何してたんだろ?

 

「ねぇ、堅山って以前なにしてたの?」

 

俺の質問に、なにも答えなかった。目はいつにも増して鋭く、それ以上踏み込むなという警告でもあったかもしれない。

 

「堅山」

 

雲井が横から何か小さな声で耳打ちしたのを見た。やはり、あの時感じた壁は、本物だったのか。

 

「!」

 

耳打ちの内容は短かった。一瞬で終わった。だけどその瞬間を見逃さなかった。耳打ちされた堅山は最初じっとしたまま何かを考えている風だった。

 

「お?本当に何か隠し事かぁ〜」

 

石郡が茶化す。石郡なりにも気を使っているのだと、解釈しておく。時々どちらかわからない時がある。そこが和田木先輩に似ている。

 

「俺、すごい気になってたり...して。あ、言いたくなかったら別に」

 

顔色を伺うように下からお願いする。正直ここまで来ると気になる。これから同じチームメイトとして苦楽を共にするのならやはり知っておきたいという今後のためと個人的に気になる。

 

「あぁ!わかった。ひとつ教えてやる!」

 

頭を乱暴に掻いてから吐き捨てるように言った。そして、その口から出た言葉は、あまりにも大きかった。

 

「俺はな、ちょっと前まで雷門中にいたんだよ」

 

雷門中?

 

「すまんな、堅山はちょいと訳ありでな」

 

雲井がフォローを入れる。雷門中サッカー部にいた?

 

「雷門中?嘘だろ?下手なジョークはよせよ」

 

石郡は悪巫山戯と思っているのか、笑っている。

堅山はそれを見て、何か考えた後

 

「はは!そうだジョークだよ!俺が雷門に入るわけないだろ!サッカー歴は0、最近引っ越してきたんだよ」

 

大きな口を開けて、石郡のように笑い出す。その姿がいつもの堅山とはかけ離れていて、不自然に見えた。

雲井は何か腑に落ちない顔をしている。やはり、何かあるんだ。

だけどこれ以上追求しないでいた。いずれ時期は来るんだ。

 

 

 

 

 

 

「じゃあ次は石郡、お前サッカー歴実際どれくらい?」

 

ひとしきり笑った二人は質問を始めた。堅山が石郡に訊ねる。

 

「俺?俺は普通に地元のサッカーチームでスタメンだったぜ。けどそこは弱かったから声はかかることはなかったな。あ、うちのエースはかかったけどってそれはどうでもいいことか。まぁ俺は3年間楽しくサッカー出来ればいいなと思っていたが、とんでもないことに巻き込まれたと思ったぜ。でももうなんとも思わない。こうなったらとことんやってみるしかないと思ってな。吹っ切れたわけよ」

 

「ふーん、で石郡は必殺技とかあるの?」

 

「....ねーよ、なくて悪かったな」

 

堅山に聞かれたくないことを聞かれたのか不貞腐れたように言い捨てた。

俺みたいなのが必殺技持ってるから、やっぱり気にしてるのか。

 

「やっぱり、みんなサッカーが好きなんだな」

 

雲井はポツリと一言漏らした。とても笑顔で。

 

「いや、だからこうなったのもお前のせいだからな。責任とってゴール量産してもらうぞ、至心館のエース。」

 

石郡は前半早口に言い回していたが後半どことなく笑顔で皮肉を言った。雲井もまたそれに深くうなづいて

 

「任せろ」

 

その一言が、とても力強く聞こえた。するとチャイムの音がなる、結構長い時間話していたみたいだ。俺がそろそろ出ようかと促すと3人はうなづいた。FFの開会式まであと3日、初戦まであと4日。

初めての大舞台に、今は胸を踊らせるばかりだ。

 

 

 

 

 

 

 

「良かったのか?堅山?」

 

下校の道の途中、横の青いのが聞いてくる。あー五月蝿い。

 

「いいよ別に、俺はここで堅山としてサッカーするの」

 

「僕は、もう一度だけ本当のお前とサッカーしたい」

 

叶いっこない夢だ、諦めろ。それにしてもよ

 

「お前今日のアレはなんだ」

 

「アレ?」

 

とぼけやがって、その本当に何も知りませんっていう顔が本当にムカつく。軽く蹴りを入れた足も見事にかわしやがる。あーイライラする。

 

「あー、アレね」

 

何か思い出したかのように頷きながら言う。忘れるわけないだろ。

 

「また、逃げるのかい?」

 

「あのな、俺逃げてないし」

 

「じゃあ、なんで。」

 

そこで奴は区切る。謎の溜めにイライラして思わず口に出す。

 

「なんだよ」

 

「なんで言ったの?誤魔化してたけど。図星だったからだろ?」

 

何も言い返すことはなかった。きっと、心ではそう思っているからだ。だけど、俺はあいつに勝てなかった。何一つ。

この悔しさは、今も消えていない。


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