アイドルな彼女と声優の彼氏   作:飛簾

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嵐の前夜は甘々です。

 「カーズーくんっ!」

 「……ん? どうしたの希?」

 「遊ぼっ!」

 

 今だかつて、こんなかわいいおねだりがあっただろうか。

 いやないだろう。多分ない。絶対ない。あってはならないのです!

 ……少々荒ぶってしまったが、まずはこの状況を説明しよう。

 まず僕と希はソファに座っていて、僕は今度出演するアニメの原作のラノベを読んでいる。

 そして希はというと、今さっきソファに座っていると言ったが、これは少し語弊がある。

 具体的に言うと、ソファに座っている僕の膝の上に女の子座りしながら座っている。

 しかも、顔を僕の方に向けて、だ。

 つまりは、僕が本を読んでる時も希はその本を上から見るように読んでいたり、

 僕がちょっと読むのを休憩するとすぐ胸に頬をすりすりしてきたり、端的に言ってしまえば

 希が可愛すぎるだけなのだが、それはもう昔から知ってたことなのでそこはスルーしておく。

 そして今さっきのおねだりなのだが、休憩が終わり再びラノベを読み始めた僕に希がちょっかい

 をかけ始めてきて、それでも僕は屈しないと最初は無視してラノベを読んでいんだが、だんだん

 ちょっかいに反応し始めてしまったら希が一気に嬉しそうに笑顔になってしまって、

 結局そのままずるずるいってあのセリフが放たれたのだ。

 

 ……いや可愛すぎでしょ。

 こんな笑顔を他の男に見せようもんなら僕が何が何でも阻止してやる。

 なぜなら間違いなくその男が希のことを獣のような眼差しで見てあらぬ妄想を繰り広げるからである。

 そんなこと絶対にさせないからな!……絶対絶対させないからなっ!(涙目)

 

 と、言うわけで。今日はもう夜中の九時で、明日からいよいよ待ちに待った全国ツアーに

 参戦する希のことを応援するという名目で今日は希の好きなようにやってやろう。

 

 「おう! じゃあ何するんだ?」

 「う~ん……特に考えてなかったや……えへへ……」

 「そうか、じゃあ猫ごっこでもするか!」

 「え~? 昨日もやったじゃん! 今日は違うのがいい!」

 

 ……な、なんだと?

 ね、猫ごっこが……拒否されただと……!

 これは大緊急事態が起こってしまった。あの希が、猫ごっこを拒んだのだ。

 これはきっと何かあったに違いない。そうでもなければあの希が猫ごっこを拒むはずがないんだ!

 ……あ、ちなみに言っとくと希が猫ごっこを拒む割合は約五十パーセントくらいです。

 

 「じゃあ何するんだ?」

 「ん~……なんか夢中になれるものがいいな」

 「夢中になれる、か……じゃあ映画でも見るか?」

 「うぅ……それは今度の家デートの時がいいな、今日は映画に集中できそうにないし……」

 「ん? 今日はなんだって?」

 「あうっ、な、なんでもないってば!」

 

 ……今日はどうやら希の様子がおかしいですね~。

 これにはいくつかの証拠というか理由というか色々あるので少し聞いてくださいお願いします。

 まず第一に、希が猫ごっこを拒んだこと。先ほど五十パーセントの割合と言ったが、これは僕が

 何の突拍子もなく言ったときの割合だ。僕があの時猫ごっこを誘ったのは、その時希が僕に

 ベッタリだったからである。猫ごっこをするとき、希は大体デレデレのふにゃふにゃになって

 しまうのだが、それは猫ごっこを始める以前にその状態だと、希は約九十パーセントの割合で

 猫ごっこをやる。

 つまり、僕は希がベッタリだったため希に猫ごっこを推奨したのだが、希はそれを拒んだ。

 これすなわち、希の様子がおかしいと言える第一の手がかりだ。

 

 そして第二に希が今さっきの映画も拒んだ後の最後の一言。

 あの時はつい何だって?っとさも鈍感系主人公のように聞いてしまったが、僕はあの時の希の

 声をはっきりと聞いていた。というか僕が希の言ったことを聞き漏らすわけが……ないこともない。

 ま、まあそれはさておき。希のあの時の、「今は集中できそうにないし……」という言葉。

 あれは多分、今何か考えている、あるいは悩んでいるからそんなことを言ったのだろう。

 普段は何も考えていない(至って誉め言葉)希が、今は何か頭の中でモヤモヤとするものがある。

 これも希の様子がおかしいと言える第二の手がかりだ。

 

 ……では、希の様子をおかしくしているものは何か?

 ここで彼女の悩みが分からない彼氏は彼氏失格だ。伊達に希のことをずっと見てきた彼氏じゃねぇぜ!

 ……希のことを見てきたって言うのは別に物理的な意味じゃないからね? いや物理的なんだけど……

 まあ要はつまり……

 

 「なあ、希? こっちおいで」

 「え?」

 「ほら、いいから早く早く!」

 「う、うん」

 

 恐る恐ると言った感じで希は僕のもとまで来ると、僕はできるだけ優しく、大きく、温かく、

 希のことを包み込むように抱きしめた。

 

 「カ、カズくん……?」

 「希、実はさっきからライブのことでもう頭がいっぱいなんだろう?」

 「え、えぇ!? カズくんなんでそれを!?」

 

 何故犯人が私だと分かったの?! と言わんばかりのテンションでそう言う希に思わず笑みがこぼれる。

 大体最初からベタベタしてきた時点で予想はしてたんだけどな。 

 まあ、ここまできたらとことん希のことを落ち着かせよう、絶対成功させてほしいし。

 

 「カズくん……何で分かったの?」

 「ん? 希のことならなんでもお見通しだからな~」

 「……もぅ……カズくん大好き」

 「おう……僕も希が大好きだよ」

 「……うん、知ってる。私もカズくんのことお見通しだから」

 「お? じゃあ希は今僕が何を思ってるか当たられるか?」

 「うんっ! 私のこと!」

 「……不正解……じゃない……」

 「ほら! それで私の何のことを考えてたんですか~?」

 「……絶対。絶対に希たちのライブが成功するだろうな……って」

 「え……?」

 「ずっと見てきてたからな、希のこともアイアルのことも。初めてアイアルに出会ったときは、

 本当に大丈夫かって思うくらい頼りなかったし、歌も正直うまくなかったし、ダンスもそこまで

 だったのに、今じゃファンもたくさんいるし、ツアーも始まるし、あの時のアイアルでは

 想像つかなかったな」

 「……そう、だね」

 「それと同じように、希も成長したよな」

 「わ、わたし?」

 「あぁ。初めて会った時もそうだったけど、本当に人見知りでこの子がアイドル?って思ってた」

 「……そうだったね、初めて会った時も……」

 「だーけーど、希は本当にかわいくなった!」

 「え、えぇ!? カ、カズくん?」

 「最初は自分の皮がむけずにグループにも馴染めずにいてずっと涙流してた泣き虫の希が、

 今じゃファンもたくさんいる立派なアイドルののぞみひめになった」

 「……カズくん」

 

 抱き合ったまま、僕が言いたかった思いの丈を話して、希も今さっきよりはずいぶんと落ち着いた。

 ふぅ……このまま行けば、明日のライブでも成功間違いなしだな!

 ……だから、ちょっとだけ。ほんのちょっとだけ、独り言を言おうかな。

 

 「だから、希がライブの時……ちょっとだけ嫌だ」

 「え?」

 「ちなみに言うと握手会の時はもっと嫌だ」

 「カズくん?」

 「さらに言うとライブの後の握手会と撮影会はもっともっと嫌だ」

 「……カズくん」

 

 これは独り言だ。別に希に向けて言ったことじゃないし、言ったところで何も解決することじゃない。

 しかも、そもそもアイドルという生き物は恋愛なんてものは御法度だ。

 だからそのアイドルと付き合ってる僕がこんなことを言うのは筋違いだというのは分かっている。

 だけど……やっぱり彼女が、知らないところで何かされてないかとか、変な奴に触られたり、

 撮られたりしてないかとか、頭の中で思ってしまうことは言うまでもない。

 

 「カズくん……大丈夫だよ」

 「……うん」

 「私、カズくんが思ってる百倍くらい、カズくんのこと好きだから」

 「……そりゃ困ったな、僕は希が思うより千倍希のことが好きだけど」

 「あぁ! じゃあ私は一万倍好き!」

 「じゃあ僕は十万倍好きだ」

 「じゃあ百万倍!」

 「お? じゃあ僕は千万倍だ!」

 

 こうやって、子供たちがするようなやり取りも希とだったら心地の良いものでしかなくて。

 

 「カズくん、そろそろ歯磨きして寝よ?」

 「そうだな、明日から忙しくなるもんな、希は」

 「うん! カズくんのおかげで、明日からのライブも楽しめそうだな~」

 「お~そりゃ良かった」

 

 こうやって、何気ない会話でも笑って話せる時間も心地の良いもので。

 

 「じゃあお休み、カズくん」

 「うん、お休み」

 「明日も同じ時間に起こせばいい?」

 「いや、明日は希が起きる時間に起こして」

 「うん、分かった!」

 

 お休みを言うのも、こんなに幸せにできる希だったら、アイドルになって大正解だな。

 明日のライブ、僕も行きたかったけど仕事があるんだよなぁ……チクショー!

 でもまあ、希たちだったらきっと楽しくやるだろう。

 隣でもう寝息を立てている可愛い彼女のことを見ながら、僕ももう明日に備えて寝よう。

 ……そう思ったが、体は正直なもので、希の頬にちゅっと触れ合うだけのキスをして、

 僕は自分の布団に入った。

 

 ……あぁ、恥ずかし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




まず最初に、投稿区間が開いてしまいすみません。
実家に帰っていてわいわいしていました。
次に、評価、お気に入りありがとうございます!
これからも頑張っていきますのでよろしくお願いします。

今回もお読みいただきありがとうございました!

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