アイドルな彼女と声優の彼氏   作:飛簾

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休日出勤はもう嫌だ。

 「…………遅い」

 

 時計の短針が七時と八時の間ぐらいを指し、長針が数字の六のところを過ぎたころ。

 私はカズくんがいつも座っているところのソファで、体育座りしていた。

 

 「七時には帰れるって……言ってたじゃん……」

 

 カズくんのメールを見ながら私ははぁ……と、思わず深いため息をつく。

 

 「もうすぐで……一緒にいられなくなるのに……」

 

 そう。私とカズくんは、明後日からの一週間一切会うことなく過ごすことになるのです。

 

 …………。

 

 無理だよ~絶対無理だよ~! カズくんに会いたいよーーーー!

 一週間? 一週間も会えないの? もう私耐えられないよ~~~!

 カズくんに一日会えないだけでちょっとだけ泣いちゃう私が一週間も会えないなんて

 私はどれくらい号泣すればいいんだよ~~~~!

 

 

 ……まあ、それは置いておいて。

 私が明後日からの一週間、この家を離れるのはある大事な仕事があるからだ。

 その大事な仕事とは……ズバリ! アイアルの初全国ツアーなのです!

 ……まあ、実際は全国じゃなくて関東地方とかそこらへん回るだけなんだけどね☆

 でも、このイベントは本当にアイアルの大きな転機になると思っている。

 地下アイドル時代だったころは、私たちを見に来てくれているお客さんも、ほんの十人くらい

 しかいなかった。だけど、コツコツコツコツ地道に活動を積み重ねてきて、

 やっとメジャーデビューして、そして初めてこんな大きなチャンスを掴むことができた。

 だから、このツアーは絶対に成功させないといけないし、それとは別にもう一個絶対に成功

 させないといけない理由がある。

 

 ……カズくんに……一歩でも近づけるように。

 

 カズくんは、いつも私の前を歩いている。初めてカズくんが主演キャラを演じると聞いた時、

 私は大喜びした傍らで、少し焦りもあった。

 

 ……私は、カズくんに置いていかれないかな? 

 

 カズくんが有名になっていくのは、本当に嬉しかった。私はカズくんの努力を誰よりも

 知ってるからカズくんが出演したアニメが好評だったり、カズくんのキャラが人気になって

 カズくん自身がみんなに知られるようになって、本当に誇らしかった。

 だけど……私はどうなんだろう?

 まだまだ無名のアイドルグループで、去年やっとメジャーデビューしたようなグループで、

 私はカズくんのようにみんなに元気を与えてるのかな……とか一人になったときに時々考えてしまう。

 こんなこと、絶対にカズくんには言えないよね。

 

 ……はやく、カズくんに会いたいな……

 

 

 た、例えば……正義のヒーローみたいにカズくん呼んだら来ないかな?

 カズくーーーーん! 助けてーーー! みたいな。

 それで巨大化してヒーローもののコスプレしたカズくんが街中で登場したらどうしよう。

 この人私の彼氏なんですなんて言えないよ! ていうかそもそも誰にも言えないよ!

 

 「カ、カーズーく……ん……」

 

 は、恥ずかしいっ! ていうか私何やってるのーーー!

 もうバカバカ! カズくんのバカーー!(これはカズくんがいけないのです。)

 でも……本当にカズくん……遅いな。

 

 「…………バカ」

 

 そうだ。カズくんが七時に帰れるって言ったのにもう一時間くらい遅刻してるカズくんが

 いけないんだ。作った晩御飯ももう冷めちゃうし。カズくんには会えないし。

 甘えられないし。カズくんに会えないし。カズくんに会えないし。

 ……もう、カズくんが帰って来ても無視しよ。うん、それがいい!

 彼女との時間を守れないいけない彼氏さんには一度痛い目に遭った方がいい。

 うんそうだ! きっとこうすればカズくんも遅刻が減って……

 

 「ただいま!」

 「!?」

 

 え!? か、カズくん? 本当に? でも、声的に絶対にカズくんだ。

 あ、走ってこっちまで来てる音がする……む、無視だよね、絶対に反応しちゃいけないんだからね。

 

 「ただいま希!」

 「…………」

 

 う……沈黙が重いよ~! 本当だったらすぐにそっち行って抱きしめたいのに~!

 で、でも、これはカズくんのため。カズくんのため!

 

 「……希?」

 「…………」

 

 ……カズくんの顔が見れない……どんな顔してるのかな?

 もう……そろそろやめようかな、カズくんよりも私の方がはるかにきつかったし。

 と、私が無視をするのをやめてカズくんの方に顔を向けようとした時。

 

 「ごめん、希」

 

 そう言って、私の耳元で囁くと、そのままカズくんは私を押し倒してきた。

 

 「ど、どどど、どうしたのカズくん!?」

 

 事態の進行が分からず、私は思わず噛みながらカズくんの方を見やる。

 そこには、若干を汗をかいているのか、顔は赤くなっており息もはぁはぁと荒々しい。

 もしそれが興奮によってだったら私も幻滅だけど、カズくんには絶対にないことだ。

 だったら……なんで?

 

 「希……ごめん、遅くなって。七時には帰れるって言ったのに、帰れなかった」

 「…………」

 「もともと今日は希と一緒にいる予定だったのに、一緒にいれなくてごめんな」

 「…………」

 「だから……今日はずっと一緒にいよ?」

 

 そう言って、私を優しく大きく包み込むカズくんの腕は本当に安心感があって。

 その暖かさも、感触も、ずっと待ちわびていたもので。

 とろけてしまうような感覚になるのは、もうこれで何回目だろう?

 

 「カズくん……」

 「ん?」

 「…………」

 

 だから、私は無言のままそっと目を閉じて、わずかに唇を尖らせる。

 カズくんはそれを見ると、ふふって甘い苦笑いをしてそっと唇を合わしてくれる。

 

 「……チュッ……これでいい?」

 「…………うん」

 「あれ? ダメだった?」

 「………もっと長いのが良かった」

 「そ、そうか……つ、次の機会に善処します……」

 「……ん」

 

 本当に、何で次の機会にって逃げちゃうかな~カズくんは。今でいいのに。

 でも、それがカズくんらしいと言えばカズくんらしいのかも。

 

 「じゃあ、一緒にイチャイチャする前に、晩御飯食べよう!

 もう僕お腹ペコペコで倒れそうだよ」

 「え? もう食べてきたんじゃないの?」

 

 だから遅くなったんじゃ……

 

 「な訳ないでしょ。彼女が作ってくれたご飯より美味しいご飯はないから」

 

 ……だからさ。そうやって天然でそういうかっこいいこと言うのやめて。本当に。

 私がデレデレになって面倒くさくなるぐらいベタベタしても……知らないから。

 

 「じゃ、じゃあ……食べる……?」

 「おう! 希の料理だ~!」

 

 嬉しそうにするカズくんをよそに、私はちょっとだけ恥ずかしくなっちゃって、

 あまりカズくんの顔を見れなくなったのはみんなには内緒にしときます☆

 

 

 

 それからというもの……

 

 「希~ほら、こっちおいで」

 「にゃ!」

 「お~えらいね~、わしゃわしゃわしゃ」

 「ん~~! にゃ!」

 「おあ!? どうした?」

 「髪わしゃわしゃしすぎると髪がぼっさぼさになっちゃう!」

 「髪がぼっさぼさでも大丈夫!」

 「ん~~! わしゃわしゃわしゃわしゃ!」

 「おあ!? やったな? ほれっ!」

 「にゃあ!? お腹触らないでっ! 気にしてるの!」

 「へ~? 気にしてるの? ぷにぷに」

 「にゃっ……もう、カズくんッ!」

 「あはは、ごめんごめん! 怒るなって!」

 「もう、カズくんなんか知らない」

 「悪かったって。ほら」

 「…………ふん、ちょっとだけだからね」

 

 そう言って、カズくんの腕に埋まる私も大概だなぁ~……

 ご飯を食べ終え風呂も入り終わり、こんな感じでずっ~~~~~とイチャイチャしてた、 

 私とカズくんでした☆! 

 

 




希視点でした!
感想、お気に入りありがとうございます!
これからもどしどしお願いします(^^)

今回もお読みいただきありがとうございました!

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