アイドルな彼女と声優の彼氏   作:飛簾

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休日出勤はつらい。

 どうしてこうなった。

 

 今僕は、食卓に並べられた希が作ってくれた朝ごはん(めっちゃおいしい)を食べながら、

 隣でさっきから僕の腕に絡みついて離れない希を見て、ふっと息をつく。

 

 「あ、あの~……希さん?」

 「ふっふーん♬ にゃ~……」

 

 ……もう一回言おう。

 どうしてこうなったっ!?

 

 いや、まあ大体理解できるんだけどね。

 そう……今日僕はもともと休みだったのにも関わらず、あの忌まわしき先輩が急に昨日体調を

 崩したせいで、急遽その先輩が出るはずだったイベントの代役として僕が出ることになった。

 いやおかしくない?! 普通代役とか使わないでしょ! 

 だいたい、僕がそのイベントに出てもそのアニメで声を当てた役って一話分しか登場しない

 敵キャラだから僕がそのイベントに出たところでしらけるだけなんだよーーーーー!

 

 ……と、まあこんな風に昨日マネージャーから聞かされて家に帰ったときのテンションは

 死んだ魚よりも低かったと思う。それで、昨日希にそのテンションで明日は八時に起こしてくれ

 と伝言をして希と一緒に寝たはずなんだが……今日起きた時間は九時半だった。

 まあ、それも仕方ないと言えば仕方ない。僕の朝の弱さと、希のそれを許しちゃう優しさと、

 極めつけにあんなムードになったりでもしたらこんな時間になっても誰も文句は言えない。

 

 正直……あんなムードになるなんて思ってなかった。いやだって朝だよ?

 急に希に耳を甘噛みされたときにはマジで心臓が飛び出そうだった。表情には出さなかったけど。

 それで希が耳をあむあむしてるもんだから仕返しにと思って一回チューしてもう落ち着くかな

 って思ってたらまさかの「……もっとチューして?」だぞ!?

 さすがの僕も我慢できなくて三回くらいしちゃったけど、その後の希の方がさらに激しかった。

 いやんっ! もうカズくんお嫁にいけないっ!

 

 それでまあ結局そのままずっとイチャイチャしてたら、いつの間にか時間が過ぎていました。

 本当に、時間というのは残酷だな……これめっちゃイケボで言ったらかっこよくなるかな?

 あ、あと今さっきのボケは完全スルーの方針なんで、ご了承ください。

 

 ……僕はなにを言ってるんだ。

 

 

 

 ピコンピコン

 

 「……ん? メールかな」

 

 そして今、朝ごはん(めっちゃおいしい)を食べ終えて、歯磨きとかも全部終えてソファで希と

 だら~んと何とも幸せな空間を味わっていたら、不意に僕の携帯が鳴り始めた。

 この音はメールの受信音なので、おそらくマネージャーから今日イベントがあるので忘れずに

 というような業務連絡だろう。そう思い、僕は携帯を開いてトーク画面へ開いてみると、

 そこには思いもしなかった人が僕にメールを送っていた。

 

 「こんにちは! もう起きていますか? というか起きてないとまずいじゃん!

 えっと、初めてのメールだからちょっとだけ緊張してるけど、ぜひ返信ください(≧◇≦)

 あと、今日イベント代役? なんだっけ? 私もそのイベントに出演するのでよろしくね!

 じゃあ返信ください!(^^)!     華咲紗季」

 

 

 

 ………ん?

 ……………………んん?

 

 なにこれ? え、何で紗季さんからメール送られてるの?

 ていうか緊張とか言いながらめっちゃ顔文字とかビックリマークとか入れてんじゃん。

 しかも何気に返信くださいって二回入れてるし……どんだけ返信欲しいんだこの人。

 

 「にゃにゃにゃ~ん♬………………ん? カズくん?」

 

 どうしようかなこれ。

 え、こういう時なんて返せばいいの? というかこれ一斉送信かな?

 紗季さんのことだから気を遣ってイベントに出演する人みんなに送ってるにちがいない。

 ………違う……だと? え、もうどうしようこれ。やばい、カズくん軽いパニック!

 

 「うぅ~ん! カズくん!」

 「うわっ!? の、希?」

 

 そうして僕が紗季さんからの謎のメールを凝視していると、不意にちょっと怒り気味である

 希が僕のことを睨んできた。え、なんで? 

 

 「カズくん! さっきから何で私を無視してるの!」

 「え? 希、なんか僕のこと呼んでた?」

 「そうじゃなくて! さっきまで一緒に遊んでたじゃん!」

 「あ、あ~あ……ちょっと、な」

 「もう~あーそーぼーよー」

 「ちょ~っと待ってろな? 今すぐ終わらせるから」

 

 いや~さっきからやけに腕が痛いと思ってたら、希がずっと腕を抱きしめてたからなのね。

 ちょっと心臓が飛び出そうだからそういう行動、言動、仕草は今後一切気を付けてくださいね。

 それにしても、どう返したもんかな……いっそのこと僕もパリピみたいにあげあげな感じで

 返信しようかな? あ~でもそうすると引かれそうだしな……

 よし! 決めた! 

 

 「了解。 橘一颯」

 

 よ~っし。これでいいだろう、無難が一番だって先輩も言ってたしな。

 そう思い、僕はこのメールを送ると携帯を机に置いて希の方へ向く。

 

 「希~おいで~」

 「あ……! にゃん!」

 「お~よしよし~希猫はいい子ですね~」

 「ん~にゃん!」

 

 

 ……はは、文面にするとこうも希が可愛くなって僕がきもくなるのか。

 そう、今さっきまで、それこそメールが来るまで、僕たちは猫ごっこをしていた。

 ……ご、誤解しないで! こ、これは別に僕が希に強要してるわけじゃないからな?!

 たまに希がイチャイチャした反動で猫化しちゃうことがあってですね、それで試しに僕が

 猫みたいに希のことを扱っていたら結構嵌ってしまいまして……

 それで希が猫化するとこの遊びをするんだけど、もう心が浄化されすぎてやばい。

 もういっそ一日中希と猫ごっこしたい。うん、文面犯罪臭しかしないからやめとこ。

 

 「にゃん?」

 「お、どうしたんですか?」

 「にゃんにゃん、んー……にゃ~ん!」

 「おーそうですか~頭なでなでして欲しいのですか~」

 「にゃん!」

 「じゃあ特別になでなでしてあげましょう~」

 「にゃ~ん」

 

 いやもうこの遊び神ゲーでしょ。こんな楽しいゲーム他にないよ?

 ただ他の人に見られたら間違いなくそいつに殺されるからする際には責任は負わないので

 注意してお遊びください。

 

 ……と、僕がこの上ない幸せな空間を楽しんでいると、またもや携帯が一定のテンポで鳴る。

 ま・さ・か。

 

 僕は希のなでなでを即座にやめ、机に置いてある携帯をおそるおそる見ると、そこにはさっきと

 同じ人からの送り主のメールが届いていた。

 

 「もう! 橘くん素っ気なさすぎ(; ・`д・´) もうちょっとなんかあるでしょ(>_<)

 今度はもうちょっと愛嬌のあるメールでお願い!」

 

 ……いやいやいや。

 なんで僕怒られてるの!? なんかいけないことした?

 というかこれもう一回返信しないといけないパターンなのか?

 ……仕方ない、ここで満足のいくメール送ってもうこのやりとりを終わらせるか。

 正直僕の身が持たない。

 

 「すみません。ところで今日は天気がとてもいい日ですね。

 この調子でイベントも成功するといいですよね。」

 

 

 「……カズくん」

 

 か、完璧だ……

 ご注文の通り愛嬌もよく、今日のイベントのことも触れて話を進めている。

 よし、これで希との猫ごっこにももどれ……

 

 ピコンピコン

 

 「もう、ちがーーーーーーう!( ;´Д`) こんなメールどこも愛嬌ないじゃん(p_-)

 ほら、もっと普通に会話するようにお願い!」

 

 あ、愛嬌……なかったの……

 ウソだ! 今さっきのメールは完璧だったはずなのに! 

 ……次は会話するようにだな、よし!

 

 「今日の天気は雲一つない快晴ですね。こんな日にイベントができて本当に

 よかった~なんて、m(__)m」

 

 「ねぇ、カズくん!」

 

 こ、これなんてもう非の打ち所がないようなメールじゃないか。

 も、もうこれでメールも来ないだろう……これで猫ごっこが……

 

 「ちーがーう(´Д`) ていうか言ってる内容前のとまんま同じだし!?

 あと最後の顔文字なんで謝ってるの?」

 

 ………そう言えば前のメールもあんなこと言ってたな……

 ど、どうする? 次はなんて送れば……

 

 「もう! カズくん!」

 「うわっ!?」

 

 若干のデジャヴを感じながら、僕は今まで忘れてしまっていた希の方をゆっくりと顔を向ける。

 そこには、もう不機嫌を通り越して拗ねてしまっている希がいた。

 

 「の、希……さん? あ、あのですね?」

 「……女の人」

 「え?」

 「女の人……でしょ、カズくんがメールしてた人」

 「あ、あー……ま、まあ確かに女の人だけど、同じ同期仲間みたいなもんで」

 「仲いいんだ」

 「いや、それは断じて違うぞ? 僕あの人にあんまよく思われてないと思うし」

 「……でも、メールしてたカズくん、一生懸命だった……」

 「あー……それはある意味そうだったけどさ……」

 

 そうして僕が答えあぐねていると、希はばぁっと僕の方に抱き着いてきた。

 

 「……カズくん、カズくんの彼女は誰ですか」

 「……えっと、の、希……です」

 「じゃあその彼女のことほっといて誰とメールしてたんですか」

 「……すみませんでした」

 「…………バカ」

 

 そう言うと、希はそのまま僕の胸に顔を埋めたままそのまま動かなくなってしまった。

 ……無神経なこと、しちゃったかもな。せっかく久しぶりの二人の休日だったのに。

 そりゃ希だって、少しは普段甘えられない分甘えたい……はずだよな。

 

 「ごめん、希」

 

 だから、せめてもの償いとして彼女のことをギュッと抱きしめる。

 

 「ごめん、帰ってきたら絶対希と一緒にいるから」

 「……メールは?」

 「しません! 絶対にしません!」

 「……待ってる」

 

 相当拗ねているんだろうか、彼女は言葉短にそうとしか言わなかったが、

 確かにそっと僕のことを抱き返すのをみて、思わず嬉しさがこみ上げる。

 

 ピコンピコン

 

 ……あ、メールだ。うわ、希めっちゃ僕のこと睨んでるよ……

 分かってるって、今はこのままにしてるから。

 

 ピコンピコン

 

 ……あれ? また鳴ってる? 

 ……分かってるって、分かってるからそんな睨まないで~!

 

 ピコンピコン

 

 「ごめん……希、ちょっとだけ見ていい?」

 「……うん」

 

 希の承諾を得て、僕はさっきからなっていたメールを見ると、それはマネージャーからだった。

 な、なんだ……紗季さんからだと思ってちょっとだけびくびくしてたぜ……

 でも、いったいマネージャーから何の連絡だ?

 僕はこの時、吞気にそう思っていたが、そのメールを見て僕は一瞬頭が真っ白になった。

 

 「橘さん、もう出発の時間ですがまだですか?  マネージャー」

 

 「わ、わすれてたーーーーー!」

 「か、カズくん?!」

 

 マネージャーのメールを見て、僕は思わず大声を出してしまう。

 今回イベント会場へは、一度事務所に行ってその事務所から出る車で行くんだけど、

 僕はその出発の時間をとうに忘れていて今現在ここにいる。

 

 ……こりゃマネージャーに怒られるな……

 

 そう思いながら、僕は急いで支度を済ませて玄関に向かおうと思ったが、

 僕はその途中、忘れてきたものがあったので急いでリビングへと戻る。

 

 「希、行ってきます!」

 「んっ……うん、遅れないようにね」

 「いや、もう十分遅れてるんだけどな」

 「え!? そうなの? じゃあ早く行かなくっちゃ!」

 「おう! というわけで行ってきます!」

 「うん、いってらっしゃい!」

 

 希とのいってきますのキスも済まして、僕は玄関を出ると全速力で走る。

 そして、携帯を取り出してマネージャーに電話をすると一コールしてすぐ出た。

 

 「すみません! あと五分で着きます!」

 

 マネージャーのやれやれという声を聞いて少し苦笑いしてしまう。本当にすみません。

 

 

 

 あぁ……希と猫ごっこしてたかったな……

 そう思いながら、僕は事務所へと走っていくのであった。

 休日出勤はつらい。

 

 




今回も長くなってしまいました。
一颯視点だとどうしても長くなってしまう……

今回もお読みいただきありがとうございました!

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