アイドルな彼女と声優の彼氏   作:飛簾

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カズくんとの休日。

 

 「カズくーーーん! おーきーてー!」

 「ん……あともうごふん……」

 

 そう言い、再びカズくんが毛布を被ろうとしていたところに、私はタイミングよく滑り込む。

 

 「もうっ! カズくん早く起きてよー!」

 「んん……まだねむい……」

 「眠いじゃないのっ! いい加減起きて!」

 「……わかったって……おきてますよ~……」

 「うぅ……顔が寝てるじゃん!」

 

 そんな私のツッコミも無視して、隣で幸せそうに寝ているカズくん。

 本当にカズくんは……こんなに朝に弱い人いるのかなぁ?

 

 もうカズくんと付き合って、一年半くらいになるんだけど、カズくんとの朝はいつもこうだ。

 私はいつも、休日でも割と早く起きちゃう。たぶん、アイドルでの生活での早寝早起きが体に

 浸み込んじゃったからなんだと思う。

 だけど、隣にいるこのねぼすけさんことカズくんは、本当に起こさないと起きない。

 例えばこの間の休日とかも、カズくんがその前日に八時に起こしてくれ、って言ってきたから

 私はその通りに起こしに行ったんだけど、当のカズくんは全然起きる気がなくて、

 結局私を抱き枕代わりにまでした挙句十時まで寝ていたかなりの強者なのだ!

 もうホントに、カズくんはこういうところで抜けてるんだから……

 

 と、私がカズくんの布団の上で考えていると、不意にカズくんが寝ぼけてなのかわざとなのか、

 私の方に寝転がって来てそのまま私の背中に腕を回してきた。

 

 ……これ、いつものパターン、かも……

 

 「カ、カズくん……い、いくら私でも、もうこの手には乗らないか……ら……あっ……」

 「……だって、朝起きるのだるくてさ……起きるよりこうやって希といたほうがいいし……さ」

 

 そうやってちょっとだけいじけて言うカズくんに、私の顔はどんどん赤くなっていく。

 

 「で、でも……今日カズくんはお仕事あるんでしょう?」

 「……………………うん」

 「だ、だったら! やっぱりちゃんと起きなさいっ」

 「……分かった、じゃあちゃんと起きるからさ……あと十分だけ」

 「え?……あっ……ひゃう!?」

 

 やっと起きる気になったか……と、私が油断した途端。

 急にカズくんが私の体を強引にカズくんの方へと抱き寄せてきた。

 

 「カ、カズくん?」

 「……はぁ……ついてないな……」

 「え? 何が?」

 「今日さ……久しぶりに希と、その……一緒にいれると思ったのにさ……」

 「う、うん……」

 「なのに……なんで今日仕事が入っちゃったかな……」

 「あ……」

 

 そう。今日カズくんは、本当だったら休みだったんだけど、昨日先輩の声優さんが体調を崩した

 らしく、その人が出演するはずだったイベントに、急遽代役としてカズくんが選ばれてしまったのだ。

 本当だったらこんなことはないんだけど、事務所側からはカズくんを推していきたいらしく、

 カズくんもマネージャーからどうしてもと頼まれ、今日も出勤しなきゃいけないらしい。

 私も、最初はそれを聞いてちょっと……いや、だいぶがっかりしたけど、カズくんがここまで

 がっかりしてるのは、ちょっと嬉しいかも。

 

 「あー……やっぱり断ればよかったかな……」

 「ダメでしょ? せっかくカズくんのために事務所がお仕事くれたんだから。

 私は大丈夫だから、行っておいで。ね?」

 「………でも、希もこれからあまり休みとれないんだよね?」

 「あー……うん、ちょっとこれから大きなイベントが多くなるから……」

 「……そっか……あぁ~先輩め……僕たちに体調管理しろってうるさいのに、

 自分が体調管理できてないじゃん……」

 「こらこら、先輩の悪口言わないのっ」

 

 でも、確かに私とカズくんみたいにいわゆる芸能人同士のカップルってこんなことばかりだよね。

 休みなんていつ取れるかわからないし、たとえ休みが取れたとしてもその日に二人一緒に

 休みが合う可能性は結構低いだろうし。だから、カズくんがああやっていじけちゃうのも

 何となく分かる。私もカズくんと同じ立場だったらああなってたと思うし……

 

 というか……さ。

 さっきからいじけてるカズくん、ちょっとかわいくない?

 だって要するにカズくんは私とイチャイチャできないからあんなにふてくされてるんでしょ?

 えへ、えへへ……カズくんってそういうところあるよね。

 いつも「希は甘えん坊さんだ」っていうけど、カズくんも実はけっこう甘えん坊さんだし。

 でもこれ言っちゃうとカズくんにいじられちゃうから言わないでおこ。

 カズくんSだし。超Sだし。

 

 ……でも……ちょっとだけ、ちょっとだけカズくんに悪戯しちゃおうかな?

 

 そう思い、私は未だ腑に落ちていないカズくんの様子を見ると、カズくんにバレないように

 そ~っとそ~っと忍び寄り、やがて目的のところまでたどり着くと、あむっとそれを甘噛みした。

 

 「うおっ!? の、希?」

 

 あはは、カズくんビックリしてるー! ミッション成功だぁ!

 私はカズくんの耳をはむはむと咥えていると、カズくんはあっという間に顔を赤くさせた。

 

 「なにって……カズくんのお耳をはむはむしてるの!」

 「は、はむはむって……心臓に悪いからやめてくれ!」

 「いーやーだぁ。もっとはむはむするー」

 「ちょ、ちょっと希!」

 「……あむっ……あむっ……あむっ!」

 「希……僕の耳は食べ物じゃないからね?」

 「む?……あむ、あむ……」

 

 ……美味しい。

 カズくんのお耳って、小さいけど形は男らしくはっきりしてて、耳たぶとか

 めっちゃ柔らかくて、さっきからちょっとだけ癖になってるかも……

 

 「くっ……このっ……よい……しょっ!」

 「はう?!」

 

 私が一生懸命カズくんのお耳をあむあむしていると、不意に景色がぐるっと変わった。

 今さっきまではカズくんの上にいた私は、今は仰向けになって、視界には天井が広がってる。

 あれ? そういえばカズくんは?

 

 「ここだよ、ほれっ」

 「いたっ!……ちょっとカズくんっ!」

 

 私がカズくんを探していると、不意にカズくんが私のおでこにでこぴんしてきた。

 もう! 一応私もアイドルなんだよ? 跡ついちゃったらどうするの!

 おでこを手で押さえながら、私は恨めしい目でカズくんのことを睨む。

 すると、カズくんは私の体の上に跨るような体勢になってじっとこっちを見つめてくる。

 そして、カズくんはいたずらをするときの顔になると、ふっと顔をこちらに寄せて

 ちょっとだけ復讐の色を混ぜながら私の耳元に囁いた。

 

 「……今さっきの仕返し……だから」

 

 そういうと、カズくんは私の方に顔を寄せると、わずかに首を傾げながら私の唇を奪ってきた。

 

 「んんっ……ぷはぁ……ん、んん……んちゅっ……んむっ、ぷはぁ……」

 

 普段するような、あんな軽いキスじゃなくて、恋人同士でしかしないような愛を確かめ合うキス。

 それは時間にしたらほんの数秒なんだろうけど、私にとっては何時間のようにも思えた。

 たぶん……それはカズくんも同じようで、唇を離した後もじっとこっちを見つめてきていた。

 ……カズくんのキス……ホント好き。

 私を、アイドルとしての私だけじゃなくて、アイドルとしても素のままの私としても本当に

 大切にしてくれてるんだなって思うような、優しいカズくんのキス。キスなんて、

 カズくんとしかしたことがないし、これからもカズくんとしかするつもりはないけど、

 それでも下手したら抜け出せないのではないかというほど深くて、

 私を優しく包み込んでくれるようなキス。

 

 ……もうちょっと、もうちょっとだけ……いいよね?

 

 だから私は、もうちょっとだけカズくんの暖かさが欲しくて、ついつい甘えん坊になっちゃう

 けど、これはカズくんが優しすぎるので私は何も悪くない。うん、そうだ!

 

 「カズくん……もっとぉ……チュー、して?」

 

 

 だから、私がこうやっておねだりするのも仕方がないのだぁ……えへ、えへへ……

 

 




じわじわとUA数が増えていっており、嬉しいです!

今回もお読みいただきありがとうございました!


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