メイクよし……髪型よし……衣装よし……
うん、大丈夫だっ!
私は今、今日のライブ会場であるこじんまりとしたホールの楽屋に来ています。
私が所属しているアイドルグループ・アイドルアフロール(略してアイアル)は、
去年やっとのことでメジャーデビューした、まだまだ駆け出し中のアイドルグルーブだ。
”夢と希望と可愛さを”をモットーに、私たちアイアルは積極的にライブ活動や
握手会を行っていて、巷ではなかなか評判の高いグループだと思う。……た、たぶんね?
そしてそのアイアルの中でも、A、B、Cの三つのグループに分かれていて、主に歌や
メディア出演とかアイアルの顔ともいえるのがAグループ。Aグループのバックダンスや
時々歌も歌ったりする、アイアルの影の立役者ともいえるのがBグループ。
そしてそのBグループの補佐を行なう縁の下の力持ちともいえるのがCグループだ。
各グループ六人ずつの計十八人のグループで、何よりグループ同士の仲がとっても良いのが
アイアルの魅力の一つでもある。
そんなアイアルだが、今日は満員でも百人入るかどうかという小さなステージで歌う。
「どうしてそんな小さなところで歌うの?」という人もいるかもしれないけど、
今の私たちでは、こんな小さいステージでも、とにかくファンを一人でも多く取り込む
のに精一杯なのです。基本アイドルというのは、CDを出してその売り上げや影響がものをいう
世界で、いくら私たちが良い曲だと思ってても、それが世間一般の人に共有できなければ
意味がないと同じなのです……アイドルって厳しいっ☆!
……カズくんが言ったら気持ち悪そうだな……まあもし言ったら全力で無視しよう!
まあ、ちょっと話がそれちゃったけど、そんな私たちアイアルは今楽屋でのんび~りしています!
私は現在Aグループに所属していて、グループごとに最初は楽屋が分けれているんだけど、
分かれているのは最初だけで、十分も経てばすぐに他のグループのみんなも同じ楽屋に
集まってわーわーきゃーきゃーって「これからライブなんだよ?」って思わず
つっこみたくなるくらいはしゃいでいる。……けどそこがアイアルのいいところなんだけどね!
そんな私は、みんなとわーわーきゃーきゃーもしてたけど、途中からはそのノリから外れて
今は私の携帯電話とにらめっこしている。……ひ、ひとりぼっちってわけじゃないんだからね?
そんな私は、携帯電話を見て思わずにやけてしまう。そこには、私とカズくんが何とはなしに
家で撮ったカップル風自撮りを眺めていた。カップル風だよ? ここ大事!
えへへぇ~
えへへ~うふふふっ……えへへ~
「どうしたの希? そんなにやけて?」
「わわわっ?!」
急に声を掛けられ私は思わず大きな反応を取ってしまう。あぁ~しまったぁ~……
そんな反応を見て声をかけたその子はとてもいじわるそうに笑う。
「え~? なんでそんなビックリするの~? 普段は人見知りでクールキャラののぞみん
がなんで今さっきまであんなににやけてたの~?」
「うぅ?! そ、そんな人見知りとか言わないでよ、りんりん!」
「あぁ~? にやけてたのは否定しないんだぁ~あはは、照れてるのぞみんかわいい~!」
今、私の前であはは~っと私の照れてる姿を笑ってる小悪魔ことりんりんは、私たちアイアルの
リーダーである
彼女は、私たちアイアルのリーダーだ。お互いのことをのぞみん、りんりんって呼びあったりして
アイアルの中でも一位、二位を争うほど仲がいいんだけど、今さっきの会話を聞いて分かる通り、
基本的にりんりんは少しSっ気があって、たまに私がカズくんとの写真見てたりすると
すぐああやって私のところによってきていじってきたりする。全く、りんりんにも困ったものだ!
「ね~のぞみん、今さっきまで何見てたの~?」
「え、えぇ?! え、え~っと……そ、そう! 猫! 猫の写真見てた!」
「え~? ホントに~?」
「う、うん……ほ、ホントだよー」
「……のぞみん、のぞみん本当にウソが下手。そのウソをつくときののぞみん、大好き」
「ちょ、ちょっとりんりん! 変なこと言わないでよ!」
「ほらぁ~その照れてる顔もホントかわいいな~もう! この顔でファンの人たちを虜にしてるのね」
「と、虜ってもう! そんなつもりでこんな顔しないし! ていうか照れてないし!」
「ま~たウソ言って~のぞみん、本当に照れ屋さんだからカメラの前でもピースサインぐらい
しかできないもんね~」
「う、うぅ……」
「そ・れ・に! メンバーの自己紹介の時も一人だけ声が小さいもんね?」
「……だ、だってぇ……自己紹介が終わった後のファンの人たちの掛け声が恥ずかしいんだもん……」
「あぁ~”のぞみひめ~!”ってやつ?」
「う、うん……」
そう、私はファン人たちの間では、のぞみひめという愛称で呼ばれている。
ち、違うよ? 別に私がそう呼ばせたように強制したわけじゃないよ?
ただ、ファンが増えていってアイアルもメジャーデビューしたころにはもうその愛称で定着してたな……
「けど、のぞみんもアイアルの中ではかなり人気な方なんだから、いい加減慣れたら?」
「に、人気って……でも、確かにそうだよね」
「うんうん、とりあえず自己紹介ぐらいは大きな声で言えるようにしないとね?」
「う、うん……」
でも……私、実のところは本当に人見知りで恥ずかしがり屋さんなんだよなぁ……
特に男の人には人見知りが顕著で、一対一だとろくに挨拶もできない。
こういうところを直したくてアイドルになったっていうのも理由の一つだ。
だけど、やっぱり必然的に一対一になる握手会だとどうしても緊張していつもの笑顔が
できなくなるし、話だって満足がいくようにできない。
ライブの前だって、みんな平気そうに立ち振る舞っているけど、私はどうしても失敗したら
どうしようとか、歌えなかったらどうしようとか、不安に駆られる時がある。
けど……でもね? 私がそう言う風にならないために、実は特効薬があるんです!
それは……ズバリ! カズくんとのメールですっ!
例えば……
「カズくん、今から握手会だー緊張するー(T_T)」
「まあまあ落ち着いて落ち着いて」
「でもでも、もし失敗したらどうしよう……(>_<)」
「大丈夫。希だったら絶対大丈夫。な?」
「うん……カズくんに言われたら、なんか大丈夫になってきたかも(≧▽≦)」
「……それにしても……握手会ってさ……その、どんくらいやるの?」
「えっとね~大体一時間ぐらいかな~( ̄▽ ̄)」
「…………そっか」
「うん? どったの?(^O^)」
「ううん、なんでもない」
「そっか~じゃあ私そろそろ行ってくるね?('◇')ゞ」
「おう、いってらっしゃい」
とまあ、こんな風にカズくんが文面越しに私を励ましてくれるんだけど、
なんでカズくんの言うことはこんなにも私に効果があるんだろう?
他の人が大丈夫~って言っても、絶対に落ち着けないのに……むしろ焦っちゃうかな。
それなのにカズくんの言葉はいとも簡単に私の不安をかき消してくれる。
ホント、カズくんは魔法使いなんじゃないかな? 私専用の。
カズくんだけだよ……男の人であんなに素の私が出せるのは。
あぁ……カズくんに早く会いたいな~会って抱きしめられてキスされたい。
えへへ……えへ、えへへへ~……
もう、我慢できない!
ちょっと早いけど……いいよね?
そう心の中で私は呟くと、すっと携帯を取り出し、カズくんのトーク画面へと飛ぶ。
いつもだったらライブの三十分前くらいなんだけど、今日はもう我慢ができなくなってしまった
ので、早速カズくんにトークを飛ばしてみる。
「カズくーん(''ω'')ノ」
すると、五分くらいしてからカズくんからトークが返ってくる。
「はーいー」
返事はとっても素っ気ないものだったけど、それだけ見れただけで心がポカポカする。
「これからライブだー(´・ω・)」
「おー頑張れー」
「でもちょっとだけ緊張するかも……(>_<)」
「希はいつになったら緊張しなくなるのかな?(笑)」
「もうー! 笑わないで! こっちは深刻なの!(;´Д`)」
「ごめんごめん、いつも通りメール来たからさ」
「だってさ~ライブもう少しで始まるからさぁ~(p_-)」
「こっちは今ちょうどアニメの吹替えが終わって休憩中だった」
「おぉ~おつかれ~(*'▽')」
「ありがとう、でも希はこれからだね」
「うん……失敗しちゃったらどうしよう……(;_;)」
「う~ん、別に失敗しちゃったっていいんじゃない?」
「え!? それはダメだよー(>_<)」
「うん、でもさ? 別にそこまで成功にこだわらなくていいと思うんだよね。
希がいまできることをみんなの前で魅せて、みんなを喜ばせればそれでいいんじゃない?」
「うん……そうかも!(≧◇≦)」
「それにさ……もし希が失敗してしんみりして帰って来ても、僕が慰めてあげるから
今から失敗とか考えないで思いっきり楽しんでおいで(^^♪」
あ……ヤバいこれ……絶対私、にやけちゃってる……
と、とにかく……早く返信しなくちゃ……
「ありがと、じゃあ行ってくるね(^_-)-☆」
「おう、僕もそろそろ仕事に戻るね、頑張れ希」
ちょ、ちょっと素っ気なかったな? で、でもカズくんそういうの気にしないよね?
それに最後の「頑張れ希」がもうかっこよすぎて軽くアイスクリーム三杯は行けちゃう。
でもアイスクリーム三杯も食べちゃったら体重増えちゃう……
「のぞみんー! そろそろライブ準備いくよー」
「あ、うん! 今行く!」
カズくんとメール上でおしゃべりしていると、あっという間に時間が過ぎていたようだ。
みんなももうりんりんの前に集合していて、ライブに向けての準備をしていた。
私は少し急ぎ目にその輪に入ってりんりんの前に立つと、そこにはもう今さっきのりんりんの
姿はなく、代わりにアイアルのリーダーとしての凛々しい姿が私たちを束ねていた。
「さぁ! 今日も来てくれているファンの人たちに精一杯の力を出そう!」
「「「おーう!」」」
そうして、私たちアイアルの出番がやってくる。
ドクンドクンとなっている心臓の音も、今は心地よささえ感じられる。
幕が引かれ、徐々に私たちの姿が見え隠れする。
さぁ! 今日もいっぱい楽しんで、いっぱい元気をあげて、いっぱい元気をもらって、
いっぱいカズくんに今日のことお話しよう!
それじゃあ行ってくるよ、カズくん!
今回は少し長くなってしまいましたね……
お気に入りありがとうございます!
今回もお読みいただきありがとうございます!
感想やアドバイス等、どんどんお寄せください!