「「ごちそうさまでした!」」
僕が作った渾身の料理を食べ終わり、彼女は満足そうにお腹をぽんぽんと叩いて
はふ~っと目を細くしながら呟いた。
今日の晩御飯は彼女の好物である豆腐ハンバーグに、鰹節を出汁にしたお味噌汁、
それに簡単にドレッシングをかけたサラダにご飯という献立だ。
晩御飯が彼女と担当制になって以来、もともと料理をしたことがなかった僕は
暇なときは料理を勉強して、今はレシピさえあれば簡単に作れてしまうほど腕は上達した。
そんな彼女のために健気に料理を勉強する僕ことカズくんの名は、
……自分で言うとキモい上にめちゃ恥ずかしいな……
ま、まあそれはさておき、僕は声優という仕事をしている。
声優という職業は一般人にとっては結構特殊な職業になるんだろうけど、自分が吹替えした映画
や声を務めたアニメとかを見たりすると、心の底から達成感と幸福感がどっと湧き出てくる。
それに、その映画やアニメが不特定多数の人たちに届いて、元気や希望を与えていると思うと、
一般の仕事でも通じるものがあるんじゃないかと思ったりもする。
そんな僕の隣で、今幸せそうに口をはふはふ動かしている彼女は、僕の大切な彼女だ。
出会いについてはまた追々話すが、彼女もアイドルというかなり特殊な職業をしている。
普段の家での希は、今みたいにとても無防備で甘えん坊さんなのだが、アイドルでの希は
小柄の体型に色白の肌、黒色のポニーテールというプロポーションを生かし、
ファンの間では不思議な国のお嬢様と名高き評価を得ている。
……まあ、確かに希は肌が色白だし黒髪もしっかりと手入れされているから、
そう呼ばれるのも分からなくはないけど……家での希を見ると、とてもじゃないけど
不思議な国を統制できるようなお嬢様とは思えない。
反して俺はというと、至って普通な面、略してフツメンというわけであり、
めちゃくちゃかっこいいわけでも、めちゃくちゃかっこ悪いというわけでもない。
……まあ、ちょっとカッコよくなろうと思って、昔髪を茶髪にしたことがあったが、
その時に希にマジな顔で似合ってないと言われ、その日のうちに元の黒髪に戻したのは秘密だ。
まあ、そんな僕たちだが、当然僕たちが付き合ってるということは誰にも言っていない。
いや……言ったら社会的にも過激派ファン的にも殺されるんだよな……僕が。
希のやつ、ファンの間でもめちゃくちゃ人気だからな……そんな希が声優の僕なんかと
付き合ってると知ったファンは本当に僕を殺しかけない。いやマジで。
だから僕はいつも細心の注意を払って、職場では絶対にプライベートの話はしないと決めてる。
僕のプライベート=希との生活&イチャイチャだからな☆!
……やっぱ僕が言うとキモいな。
まあ、だから声優の仕事でラジオとかをやるときがあるんだが、あれは本当に心臓に悪い。
例えば、一緒にパーソナリティをやっている先輩声優さんに、「休日なにしてるの?」と
聞かれたならば、僕は普段冴えない脳を最大限に生かし、そうして必死に考えて
やっと生み出した答えが、「ひたすらペットを愛でています!」というものだった。
そのため、世間では僕にはペットがいるという認識になってしまい、挙句の果てには
ウィキペディアにペットと二人暮らしと書かれていた時は肝を冷やした。
……けど、希って何かと犬みたいに従順で尻尾を振ってそうで猫みたいに可愛いから、
ペットと言ってもあまり差し支えないような……?
そんなくだらないことを考えていると、隣で静かにしていた希が急に僕の手をにぎにぎしてきた。
にぎにぎ。
「どうした?」
「ふっふーんっ♪」
……なんでドヤ顔しながら得意げににぎにぎしてるの?
「いや、何でドヤ顔なの?」
「ふふーん♪ カズくん、今さっき私のこと考えてたでしょう~?」
ギクッ!
な、なんでバレてんのーーーーーーー!?
え、え? まさか今さっきのずっと声に出してた? え? え?!
カズくん大混乱である。
「だってぇ~カズくんのことずっと見てたら~急に顔ニヤつかせてたんだもーん!」
……死にたい。
マジかよ……僕希のこと考えてた時ずっとニヤついてたのかよ……
「カズくん分かりやすすぎー!」
「う、うるせ!」
あぁ……希にいじられるなんて……一生の不覚!
これは僕も希に一矢報いなければ……!
「なあ希」
「うん? なになn」
「かわいいよ」
「あ、え、え? カズくん? い、いきなりどうしたの? そ、そんな……」
「かわいい」
「あ、う、うぅ……カズくん……?」
「本当にかわいいよ……希」
「はうぅ……カズくんのバカぁ~……うぅ……」
と、こんなふうに希の耳元でちょっとクール風な声で囁くと希は僕の胸にぽすっと埋まり、
バカバカと僕の胸をぽすぽすと叩いてくる。
そこで僕が希の頭をなでなですると、次第にぽすぽすと叩いていた手を止め、
その手を僕の背中に回して「はうぅ……」っと小さい声で唸ってきた。
……ヤバいな……可愛すぎて絶対顔にやけてるって……!
僕は顔を片手で覆い隠し、もう一方の手で希の頭をなでなでし続ける。
なでなでなでなで。
今、希は僕の胸で埋まっているから顔がよく見えないんだけどどういう顔をしているのだろう?
そう思い、僕は背中に回されている希の腕を優しく解き希をそっと僕の胸から離すと……
「カズ……くん?」
ぽつりとそう呟き、小首をかしげている希の顔はすでにとろんととろけており、
そんな希の顔に思わず見惚れていると、不意に彼女が僕との距離を縮め、
あっという間に僕と希の唇は重なり合った。
「んっ……んちゅっ……んん……」
触れ合うだけの軽いキスだと思って僕は、どうやら筋違いの間違いをしていたようだ。
仮にもアイドルである彼女が、こんな煽情的な顔を浮かべてキスをしてよろしいものなのか?
しかも悩ましい声を漏らしながら、必死に僕の唇を甘噛みしている。
ダメだ……俺の彼女がかわいすぎて死ぬ。
「っぷはぁ……ふぅ……ふぅ……えへへ……」
希は満足したのか、僕の唇から自分の唇を離すとぱぁっと優しい笑顔を見せてきた。
この笑顔が、ファンたちを虜にしてるんだろうなぁ~……まあ、僕もその一人だけどね。
そうして僕はもう一度希の頭をなでなですると、希はまたにへら~と顔を緩まして
僕の胸に体を預けた。
ああ、俺も彼女に甘いな……厳しくするつもりなんてないんだけどね☆!
……もうやめよう、このキャラ。
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