アイドルな彼女と声優の彼氏   作:飛簾

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夢の中の現実。

 

 目を覚ますと、そこはどこか色褪せたような世界が広がっていた。

 点滴をさしているため、体にあまり力が入らず私は天井を見つめたままさっき見た夢を思い出す。

 そう、今さっきまで、私はとっても幸せな夢を見ていた。

 カズくんが出てくる夢。

 今カズくんは東京でお仕事中だから、ここには来れないけど夢の中のカズくんは本当のカズくん

 みたいに優しくてかっこよくて暖かかった。

 

 「カズくんとの電話……今日はできないや……」

 

 昨日まで日課にしていたカズくんとの電話も、今日はできそうにない。

 そもそも、携帯がどこにあるのかも分からないからカズくんと連絡すらできない状態だ。

 でも……もし携帯が今あったとしても、今の私にはカズくんに連絡する資格があるのかな?

 今の私には……カズくんに会わせる顔が……ないもん。

 もちろんカズくんには会いたい。

 会って、できることならそのままカズくんの胸の中で泣いて泣いて泣きまくりたい。

 でも、私にはそんなことをすることはできない。

 カズくんの隣にいたい、カズくんの傍にいたい、カズくんと一緒に歩いていたい。

 ”私”を変えてくれたカズくんにそれに見合うような恩返しをしてあげたい。

 

 「……会いたい……っ……会い……たぃ……カズくんっ……」

 

 こんなみっともない自分が、私は嫌いだ。

 欲しいものを手に入れられずに、その場で泣いてしまう私が嫌いだ。

 好きな人の本当の隣の席に座れないカズくんの彼女である私が、大嫌いだ。

 

 「……すみません、失礼しま……って、どうしたんですか美波さん!?」

 「ふぇ……?」

 

 私が泣きながら自己嫌悪に陥っていると、ちょうど病室に入ってきた黒澤さんが慌ててこっちに

 やって来てハンカチを手渡された。

 

 「美波さん……何かあったんですか……?」

 「……少し、自分が嫌になっちゃって……それで、気づいたら泣いてて……えへへ、情けないですよね」

 

 努めて笑顔で言うと、黒澤さんは何故か歯を食いしばりながら拳をぐっと握った。

 

 「……そ、それはべ、別に情けないようなことじゃ……な、ないと思います」

 「は、はい……? ありがとうございます」

 

 少し様子が変な気もするが、まあ気のせいかな?

 そう思い、気を取り直すつもりで隣の机に置いてあったカットされた果物に手を伸ばそうとした

 その時に、ふと、懐かしくてとても落ち着く慣れ親しんだ匂いがどこらかとなく流れてきた。

 この匂い……カズくん……?

 

 

 ま、まさか……そんなことないよ。

 だってカズくんは今東京でお仕事頑張ってるし、第一私がこうやって病院で寝込んでいるのか

 さえもあやふやなのに、そんなカズくんが来てくれるわけ……ない……よ……

 でも、僅かな希望を持ってしまった私は考えるより先に口が動いていた。

 

 「黒澤さん、私が眠っている間、誰か来てませんでしたか?」

 

 私がそう質問すると、普段は冷静で物怖じしない黒澤さんが明らかに動揺した素振りで

 慌ててメガネをくいくいと上に直した。

 

 「と、ととととくにお見舞いに来た人は、いいいいいませんでした!」

 

 ……明らかに、不審だ。

 こんなせわしなく髪を直したりメガネをいじったりするような人じゃないのに、

 おまけにあそこまでキョどるなんて……絶対何かがある。

 

 「黒澤さん、さっきから何でそんなソワソワしてるんですか?」

 「い、いや! 別に私は隠し事なんてこれっぽちもしてませんしありませんし!」

 「隠し事……ですか?」

 「は、はい! 別に美波さんの兄がお見舞いに来て黙っておいてくれなんて絶対に隠してません!」

 

 ……よし、これで黒澤さんが何を隠しているのかは分かった。

 だけど……あれ?

 

 「あの……私、兄いないんですけど……一人っ子だし……」

 「だから私は何も隠し事を!……って、え?」

 

 黒澤さんの時間が止まった。

 本当にその表現しか当てはまらないかのように、黒澤さんはその場で静止した後。

 

 「あ、あ、あの野郎~~~~~~! や、やっぱりウソだったのか~~~~!」

 

 怒り狂ったように、黒澤さんは顔を真っ赤にして叫び出した。

 え? 今何が起こってるの?

 

 「く、黒澤さん?」

 「あ、あいつ……やっぱり兄を装ってアイドルに気安くベタベタ触ったドルオタ鬼畜不審者だ!」

 「誰ですかそれ!?」

 「いやぁ、美波さんが寝てる間、あなたの兄と言ってここに見舞いに来た輩がいたんですよ」

 

 私の……兄……ここに……来た……

 私には兄がいないし、そもそも兄弟というものがいない。

 だから、兄が来たというのは絶対おかしい。

 絶対おかしいのに……なぜか、私は一切の不安や恐怖が湧き上がらなかった。

 

 「ちなみに……その人の名前……は?」

 「あぁ? あぁっと確か……”美波かずと”……って言ったか? てかあいつは美波じゃない!」

 

 ……一瞬で、私の何かを押さえていたダムみたいなものが、決壊してくような音がした。

 

 「カズくん!!」

 「うぉ!?」

 「黒澤さん! その人、いつまでいましたか!?」

 「え、えっと……確か十分前に帰ったと思いますが……って、美波さん!?」

 

 もう、立ち止まれなかった。

 まだ、間に合うはず。

 点滴のやつを強引に抜いて、私は今までの人生で一番かじゃないかというほどの速さで、

 病室を抜け出す。

 

 「み、美波さん!? ちょっと待って!」

 

 黒澤さんの声も、廊下を走る私を訝しげに見る人たちの目も、もう眼中になかった。

 私の兄なんかウソついて、お見舞いに来て、しかも黒澤さんに黙らせて。

 こんな……こんな人……こんな優しい人、一人しか知らない!

 

 

 

 「カズくん!!」

 

 もう絶対、後悔したくない!

 

 

 




えー……また投稿間隔があいてしまい申し訳ありません。
この作品は絶対にエタらないって決めてます!
だから……僕のことは嫌いになってもこの作品は嫌いにならないでください!!
(テンションが変わってしまいすみません本当に。)


今回もお読みいただきありがとうございました!

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