「カズくん! もう少しでライブだ(''ω'')ノ」
「もうそんな時間か、希ガンバレ!」
「うん! 今日は初日だから特に頑張らなくっちゃ(´・ω・)」
「僕も行きたかっんだけどな……」
「カズくんは忙しいんだからお仕事しないといけないでしょ(>_<)」
「うん……ライブどんな感じだったか終わったら教えてね」
「うん! 今日は何時くらいにお仕事終わりそう?(・ω・)ノ」
「大体夜の十時くらいかな」
「じゃあその時間帯にカズくんに電話するね(≧◇≦)」
「あんまり夜遅くまで起きてていいのか? 体休めないと疲れ取れないぞ」
「大丈夫! カズくんと話してると疲れ吹っ飛んじゃうから( ̄▽ ̄)」
「分かった、じゃあ希からの電話待ってるね( ̄▽ ̄)」
「うん! そろそろ電源切るね?」
「おう。思いっきり楽しんでおいで」
はぁ~うぅ~! 早くカズくんの声聞きたいよ~!
……って、初日からこんなんだったら一週間じゃ持たないじゃん!……持ちそうにないけど。
それでも、電話も隠れてすれば問題ないし、結果的にカズくんとは話せるからそれだけでもいいかな!
「のーぞーみん? さっきから何見てニヤニヤしてんの?」
「うぅ!? 美衣ちゃん!?」
「さっきからなーに見てたの?」
「な、なにも見てないよ!」
「え~ホントに~?」
そう言って、いじわるそうに私を見ながら笑うこの子の名前は
私と同じAグループで、同じ時期にこのグループに入ったこともあってプライベートでも仲がいい。
ちなみにファンからはみーみーというあだ名で親しまれてて、私は美衣ちゃんって呼んでる。
「それよりのぞみん! もうすぐでライブが始まっちゃうよ!」
「あ、そっか……私まだちょっとだけ緊張してるかも……あはは」
「自己紹介ちゃんと言える? 大丈夫?」
「も、もう! ちゃんと言えるってば!」
「ちゃんと大きな声で言わないとダメだからね? のぞみん人気あるんだからしないと……」
「わ、わかってるから! だからそんなお母さんみたいなこと言わないでよ!」
「のぞみんの、お母さん……ありかも」
「もう! ふざけないで!」
本当に、美衣ちゃんはいつもお母さんみたいに私を扱うんだよね~。
まあそれは私が頼りないからなんだけど……けど、美衣ちゃんのおかげで少しは落ち着いたかな。
それに……
「えへへっ」
携帯の写真欄のお気に入りのところに保存してるある写真を見て、私は思わず頬を緩ます。
カズくんとのツーショット。
全然豪華なものじゃなくて、家のリビングでカズくんが私と自撮り風の写真を撮ったもの
だけど、私はこれを見るといつも安心するような気持ちになる。
なんというか、カズくんも隣で一緒にいるみたいな、そんな感じになれる。
だから……本当にカズくんの隣にいれるような彼女に……絶対になるんだ。
今回のライブを絶対成功させて、カズくんに一歩でも近づけるように頑張るんだ!
「みんな~一回集まって~!」
リーダーであるりんりんが大きな声で言うと、私たちは一斉にりんりんのもとに集まって、
慣れた動作で円陣を組む。これがアイアルのライブ前の気合の入れ方だ!
「今日からの一週間は、きっとスケジュール的にも辛いと思う」
りんりんがいつもの明るい声とは違う、アイアルを束ねるリーダーの声で淡々と話す。
「でも、こんな大きな舞台で歌って踊れるってまたとないチャンスだと思う」
静かに頷いて、私も二度とないかもしれないチャンスと思い、あの人の顔を思い浮かべる。
笑ってる顔、怒ってる顔、拗ねてる顔、泣いてる顔、いじわるするときの顔、真剣な顔。
全部の顔が愛しくて、本当に私はカズくんのことが大好きなんだなって思う。
だから、絶対にこのチャンスを掴みとりたい、アイアルのみんなで。
「じゃあみんな! 準備はいい?」
円陣の中心にいるりんりんはそう言うと、息を思いっきり吸って、人差し指を天井に向けて。
「今日は思いっきり楽しもうっ!」
「「「おう!」」」
そうして、私たちのアイアルのライブが始まった。
「おつかれ~」
「ありがとーカズくん!」
「ずっと希がヘマしてないか心配してたよ~」
「もう~私もやるときはやるよ~!」
「お~そりゃ頼もしいな~」
「ふふ~ん、そうでしょ!」
今私は、絶賛顔を緩ませながら、ホテルのロビーにあるトイレの中にいます。
え? 何でトイレの中で顔を緩ましてるのって?
そりゃもちろん! カズくんとの電話中だからです! あ~久しぶりだな~カズくんとの電話。
まだ同棲してなかった頃は毎日電話してたけど、さすがに同棲してからは電話してなかったし、
仕事場とかで変に電話すると私が大体何かやらかしそうだし。
だから、今日はカズくんとの久しぶりの電話に少々テンションが上がっています。
それに、テンションが上がっているのはもう一つ理由があって……
「でも、良かったな。ライブが大成功だったらしいじゃん! ネットに書いてあったよ」
「そうなの! ライブ会場が一万人くらい収容できるくらいの広さなんだけど、その一万人が
埋め尽くされて外でも聞いてる人もいて熱気がすごかったんだぁ~!」
「へぇ~すごいな、曲も盛り上がったのか?」
「うん! 新曲も盛り上がって本当に楽しかった!」
そう! なんと、今日のライブ……大・成・功しました~!
初日だったからライブ会場も収容人数は少ないと思ってたけど、まさかの超満員でもうビックリ!
歌もファンの人たちと一緒に盛り上がれて、アンコールもしてくれたり、今までのライブの
中でも 一位、二位を争うほどの盛り上がりを見せた。
「それにしても、希はちゃんと自己紹介できたのか?」
「あぁ! カズくんも美衣ちゃんみたいなこと言う! ちゃんとできたよ!」
「確かに美衣さんだったら言いそうだな」
「むぅー……カズくん美衣ちゃんとあまり話したことがないのにー……!」
「あの時に話したからな、なんというか希のお母さんみたいな人だったっけ」
「なんで私は娘なの!」
「僕も希のことを甘やかしすぎると希がお嫁にいけなくなっちゃうかもな」
「むむむ……大丈夫だもん。お嫁にいけなくなってもカズくんが迎えに来てくれるもんね」
「あっ、あっと、えっ、そ、そうだな……」
……カズくん多分今顔を手で覆いながら照れてるんだろうな~……まあ私もなんだけどね。
というか私今さっきすごい発言しちゃってた? あれって軽いプロポーズなんじゃ……
や、やっちゃったーーーーーーー! プロポーズはカズくんからして欲しかったのに!
撤回! 今さっきの発言撤回します!
「そ、それよりだな希! その……握手会とか大丈夫だったか?」
「え? 握手会?」
「ああ……ほら、希は人気だし、ちょっと過度なファンとかもいるだろ?」
「あ~それは大丈夫だよ、警備も一応はしっかりしてるし」
「そうか……じゃあ大丈夫か……」
「うんうん、それよりカズくんの方はどうだったの?」
「え?」
「お・仕・事!」
「あ~、特に困ったことはないかな、休憩中はいつものメールがなかったからちょっと暇だったけど」
「そっか~でもカズくんも忙しいんでしょ?」
「ううん、希よりは忙しくないかな?」
「……でも、今日はまだ家じゃないんでしょ?」
「うっ……まあ希のいない家に帰ってもやることないからな、仕事を多くしてもらっただけだよ」
「あんまり無理しちゃダメだよ?」
「分かってるって、希が頑張ってる間に僕がダウンしてたら彼氏の面が立たないもんな」
「うん……」
いつも通りのカズくんの元気な声も、今の私には少し不安になるような声に聞こえた。
でも、そんな不安も打ち消すように、カズくんは優しい声で私に言葉をかけてくれる。
「希の方もこの一週間はきついだろうけど、些細なことでも何かあったら僕を頼れよ?」
「うん……毎日電話するつもりでいるよ?」
「おう、僕もその気だから」
もう……カズくんのそう言うところ、どうにか直した方がいい。絶対。
他の女の子にもああいう返ししたら絶対カズくんのこと好きになっちゃうから……
ダメ! カズくんは私の彼氏さん! 他の女の子になんて絶対に負けられない……!
「……希? どうかしたのか?」
「あぁ!? な、なんでもないよ? あはは……」
危ない危ない。カズくんにこんな変なこと考えてたなんて知られたら絶対なんか言われちゃう。
「そ、そうか……あ、ごめん希。そろそろ仕事に戻らないと行けなくなった」
「あ、うんごめんねこんな電話しちゃって」
「ううん、希と電話して今日一日の疲れも吹っ飛んだよ」
「もう~まだ仕事あるんでしょ?」
「まあそうだけどな……希、今日はゆっくり休んで、明日も頑張れな」
「うん、カズくんもきちんと休まないとダメだよ?」
「僕は大丈夫だって、じゃあ、また明日な~」
「あ、うん、また明日!」
ガチャ。
はぁ~もう電話終わりか~。
まあ、カズくんは仕事があるから仕方がないけど、やっぱり電話じゃなくて実際に会いたいな。
いっぱいカズくんに抱きしめてもらって、いっぱいカズくんに甘えたい!
「早く会いたいな~カズくん」
今回もお読みいただきありがとうございました!