2017/10/9 「占められた」→「閉められた」 訂正しました
アインズと、宇宙服らしきものに身を包んだ謎の2人組。
緊迫した空気が両者の間に立ち込める。
互いに一挙手一投足に神経をとがらせつつ、じっとアインズは相手の事を観察する。
8フィートはあるであろう全身を奇妙な衣服でくまなく覆った、その姿。
一見、宇宙服を着た人間――いわゆる地球の人類――かとも思うが、人間ならばそこにあるべき頭部がない。
よくよく見れば、その体型も微妙に人とは異なっている。手足はあるが、人間のように体の下から2本の足がのび、そしてその上にある細長い胴体の上部、左右から腕が生えているのではない。中央に丸い身体が存在し、そこから放射線状に4つの手足が生えている。いうなれば四本足のヒトデが直立したような姿だ。
だが、それはヒトデでない事は明確である。
その奇妙な隊形の身体から生えた腕の先には手と指があり――指のつき方も人と比べて異質ではあるが――さらに、その手にはしっかりと金属製の銃器らしきものが握られていた。
――あの銃がスケリトル・ドラゴンを撃ち落とした稲妻らしきものを発射したのは間違いあるまい。
アインズは警戒の色を強め、体勢を変えぬまま、いつでも動けるようにそれとなく身構える。
そして、警戒しているのは向こうも同じであるようであった。
ほのかな光を放つ銃口をアインズに向けたまま、近づくでもなく遠ざかるでもなく、距離を保っていた。
「あー、こちらの言うことは分かるかな?」
このままでは埒が明かぬと、とりあえずアインズは話しかけてみることにした。
先ほど、スケリトル・ドラゴンを撃墜したのは彼らである事は確かだろう。
だが、かと言って、彼らが敵対的な存在であるとまでは断定できない。最初の攻撃は、スケリトル・ドラゴンの異様なまでの外見に怯えたためであるとも考えられるからだ。
あんな姿の生物が――厳密には生物ではなくアンデッドだが――自分たちの方に近づいて来たとして、警戒するなと言う方がおかしな話だ。遠距離攻撃が出来うる手段がその手にあるのならば、誰であろうと攻撃するだろう。
そこで、アインズは一旦仕切り直して、交渉を試みることにした。
だが、それに対して、彼らはその
逆に彼らの宇宙服につけられた外部スピーカーらしきものから、耳障りな音――まるで発砲スチロールをこすり合わせたような――が聞こえてきた。
だが、当然ながらそんな音だか声だかをアインズが判別することなど出来はしない。
そうして、しばしの間、無益極まりない時間を過ごした後、アインズは両手をあげた。
言葉が通じず、にっちもさっちもいかない状況にお互い焦れ始めた中、敵意がない事を示すためだ。
だが、その姿を見た
躊躇なく、その手にある熱戦銃から、まばゆい光が放たれる。
アインズは知る由もなかったが、彼らの祖先はアルファ・ケンタウリの植民惑星に住む原住生物である。
人類で言えば胴体にあたる部分の正面及び背面は固い甲羅で覆われている、その種族本来の生活は、普段は四足歩行で地を歩き、同種の敵と相対した時は、後ろ脚となる二脚で立ち上がり、その手に生えている鋭い爪――道具を使うようになった今では、すでに退化してしまっているが――を振り下ろすようにして、立ち上がった時に甲羅の継ぎ目がある上部を狙うのが習慣であった。
今、アインズが行った両手をあげるという、地球においては敵意が無い事を示すポーズは、彼らにとっては殺してやるぞとファイティングポーズを取ったのと同様の仕草だったのである。
だが、その攻撃にさらされながらも、アインズは平然としていた。
デラメーターは使用前、およそ七秒は前にあらかじめスイッチを入れておくことで銃口0.43インチ、銃身長4.52インチの銃身内においてデミアルゴン粒子が励起状態となる。そして、トリガーが引かれた瞬間、銃身内に溜まっていた粒子が誘導放射され、一方向のみに直進するのだ。
その放たれた粒子の直撃は、照射された時間0.3秒ごとに地球で言うところのTNT火薬に換算して20kgの爆発にも匹敵するほどの威力を持つのだが、あいにくとアインズは〈上位物理無効化Ⅲ〉を持っている。そんな攻撃など彼にダメージを与えるには及ばない。
ちょっとした衝撃は感じたものの、アインズにとっては、スレイプニルに蹴られたのと同程度でしかなかった。
アインズは何とか相手をなだめようと、上げた両の掌をやや倒し気味にして数度上下させ、落ち着けという仕草をした。
しかし、先にも述べた様に、彼らにとっては上方向からの爪攻撃、それをまねる行為こそが攻撃の意思を示すものである。
アインズがやった指先を曲げ、何度も上下させる行為は明確なまでの挑発行為。
地球の人類で言えば、こぶしを横にし、立てた親指で首をかき切る仕草をするようなものであった。
レーザーの掃射が一段と激しくなる。
さすがにいくら浴びてもダメージを受けることは無いアインズといえど、こちらが友好的な態度を取っている――つもりである――というのに一方的に攻撃をしてくる、この奇妙な異星人らしき存在に、不快なものを覚えはじめていた。
その時、いくらデラメーターで攻撃しても
アインズにはそれが何なのかは判別できない。
だがそれでも、その形状から、それはなんらかの重火器であろうという事は想像がついた。
そして、いい加減、こちらの友好表現を無視し、効かぬまでもさんざん攻撃を続ける宇宙人たちにウンザリしてしまっていたアインズである。はっきりとは分からないまでも、いかにもそれまでの手持ちの銃器より、はるかに危険そうな代物の攻撃を、さすがに黙って受けてやる気もなくなっていた。
アインズはおもむろに片手を前へと伸ばすと、馴染みの魔法を唱える。
「〈
だが、その結果――。
「なにいっ?!」
「――――?!」
両者とも驚愕の声をあげた。
アインズは信じられなかった。
彼の唱えた魔法は第九位階魔法〈
その効果は、遠距離から対象の心臓を握り潰すことで、相手を即死させるというものである。
今、この魔法の対象となった、目の前の奇妙な宇宙人。
そいつは〈
その体が倒れることなく、ゆらゆらと前後左右にその身をふらつかせながらも、突っ立ったままであった。
当然であるが、即死魔法は抵抗されれば効果は発せず、対象が死ぬことは無い。だが〈
この魔法を受けたはずの宇宙人の様子から、どうやらそいつは今、〈
それがアインズには衝撃であった。
かつてナザリックが転移した世界において、アインズの魔法に抵抗できる者など誰一人としていなかった。その地において圧倒的強者であるはずのドラゴン、そのリーダー格の者ですら抵抗出来なかったのである。
すなわち、一瞬の下に命を奪われる結果となり、〈
だが、目の前の宇宙人は『即死』せずに『朦朧』状態になったのである。
それは、およそアインズにとって、ゲーム中のキャラクター『モモンガ』の姿が現実のものとなって以来、初めての経験であった。
――まさか、こいつは自分の魔法に抵抗できるほどの存在、強者なのか?
彼らの手にしている光線銃らしきものの攻撃では自分に傷一つ加えることは出来なかったとはいえ、アインズは想定していた彼らへの警戒レベルを引き上げた。
そして、驚愕に身を震わせていたのはアインズだけではない。
彼らもまた、突然の異常事態に混乱していた。
彼らが身に着けている船外活動の為の宇宙服。それには各々の体調を把握し、チームで共有する装置、生態モニターが組み込まれている。
それにより、肩を並べていた仲間に突然、異常が生じたのが感知されたのだ。
一切、攻撃などは受けていないはずだ。
物理的、光学的、そして磁気、電子的にも何かが射出された様子は観測できず、センサー類にも反応はなかった。
それなのに、目の前の奇怪な生物らしきものが前に出した手――おそらく――を虚空で握りしめるという奇妙な動作を行うと同時に、仲間が無力化されたのだ。
実際の所、アインズの〈
彼は腰に下げていたスタングレネードを投擲する。
一瞬の光と爆音、そして舞い上がる煙の中、いまだふらついている仲間を抱え上げると、光学的偽装により、すぐ後ろに隠していた小型スペースシップのコックピットに身を躍らせた。
微かな大気の振動と共に地表から浮き上がると、小型艇は一瞬で加速し、すぐさま現場から飛び去った。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「敵襲! 敵襲だ! 白兵戦用意!!」
艦内にスピーカーを通じて大声が響き渡る。
これまで幾多の星を制圧し、数え切れないほどの死闘を潜り抜けてきた蛮勇と残忍を誇りとする宇宙海賊の戦士たち。
そんな恐れを知らぬ彼らの声には今、憤怒だけではない、明確なまでの怯えの色が混じっていた。
警戒の電子音がけたたましく鳴り響く中、ザラヴァーン級航宙戦艦ダーステンの司令室において、この戦闘艦の艦長はがなりたてるような大声で防衛の指示を出しつつも、これは本当に現実の事なのかという思いにとらわれていた。
彼の種族でも特に秀でていると評価されたその理性は、そんな事はあるわけがない、これが現実であり、速やかに適切な対処を取らねばならないと訴えていたが、どうしてもすべては、ほんのわずかの間、執務室でウトウトしてしまっている間に見た悪夢でしかないのではないかという甘い願望を――現実逃避だと分かっていても――振り払えなかった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
事の発端となったのは、本隊であるこの航宙戦艦から先行して惑星表面を探査していた調査隊が、生命などいないと思われていたこの惑星において、実に奇妙な一体の生物と遭遇した事である。
白い棒状の物が複雑に幾重にも組み合わされた、まったく不可思議としか言いようがない、それこそ本当に生物なのか、自動機械の類ではないかと疑ってしまうような奇怪な姿。
残忍さと冷酷さを併せ持ちながら、対して寛容さなど持ち合わせていない彼らは、その嘲弄に躊躇することなく
だが、よっぽど堅牢かつ巨大な体躯の生物でもなければ、瞬く間に死に至るであろうその攻撃をその身に浴びながら、
そうしていると突然、仲間の1人に異変が生じた。
不意に
それは確かだ。
銃弾もビームも、果ては投石一つに至るまで
しかし、理解は出来ないが現実の出来事として仲間が一人、行動不能の状態にされたのだ。
何をされたのかは分からない。
だが、
謎の攻撃を行う未確認生物を前に、怯えた先遣隊のメンバーは撤退を決めた。
偏光スクリーンによって隠蔽していた高速艇に乗り込み、即座に母船へと逃げ帰ったのだ。
だが、そこで先遣隊の彼らは失態を演じた。
一直線に母船を目指すのではなく、監視や尾行の可能性を考え、欺瞞行動をすべきであった。
通常であれば敵と遭遇した後は、全く異なる方向を目指す、光学的及び電磁気的なチャフを使用する、どこかに艇を止め再び偏光スクリーンを張るなど、入念なまでの追尾対策を行う事が定められていた。
だが、相手は航宙船はおろか銃器の一つも持たない、惑星間移動を可能とするほどの文明とは切り離されたこの惑星の原住生物と思しき存在であったため、視認による確認および敵の戦闘艇とのドッグファイトの際に使用するよう15フィート以上の移動物体にのみ反応するよう設定されたレーダー――先に撃墜した巨大な翼のある生物が追ってくることを警戒してである――の使用以外、追尾に対する注意を払わなかったのである。
まさか、相手が光学的に姿を消したうえで、先ほどのような巨大飛行生物への乗騎も必要とせずに大気圏内をそのまま飛行できる。ましてや空間上を何の機械装置もなしに転移できるなどとは、考えも及ばなかったのだ。
彼らが自分たちの失態に気付いたのは、母船である航宙戦艦ダーステンが停泊している場所へと戻り、その中のハンガーデッキに艇が固定され、コックピットから身を乗り出した時である。
小型艇が艦内に滑る様に入り、アームによって船体が固定されると同時に、ハッチが閉められた。
すぐさま与圧が行われ、整備のクルーが駆け寄ってくる中、彼らに事情を説明しようとコックピットの風防を開け――そして、彼の目はそれを捉えた。
彼らはたった今、
それなのに、居並ぶ整備兵たちのすぐ後ろ、デッキの端に、あの白い棒状の物が組み合わされた姿の
その明らかに常軌を逸した異常な事態に、このダーステンに搭乗するクルーの中でも勇猛果敢にして大胆不敵で知られる航空部隊に所属していた彼すらも、思わずその身を慄かせた。
警戒の声を発するはずの口は、ただパクパクと開閉するばかりであった。
そんな彼に向かって、
次の瞬間、彼の意識は暗転し、永久に目を覚ますことはなかった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
突然の警告音により、格納デッキにおいて多数のクルーの命が奪われたと知らされた司令室の面々は、いったい何が起きたと、デッキに設置されていた監視カメラによって録画された映像をモニターに映し出した。
その一部始終に、それを見ていた一同は皆、声を失った。
そこに映し出されていたのは、実に奇怪な白い身体のおよそ生物とも思えぬような存在が、その手の指らしきものを向けるたびに、そこにいたクルーらがバタバタと倒れていくという異常ともいえる光景。
惨劇の記録映像と共に、各クルーの生体モニターの情報も同時に表示されているのだが、その白い生物が指さした瞬間、生命反応が消え、死亡していく様子がそこにはっきりと映し出されていた。
デッキ内での熱源やエネルギー反応の記録も調べたが、それには一切、異常な数値は見られない。
つまり、いったいどのような法則、因果によるものか彼らをして皆目、見当もつかないのであるが、ともかくあの
言葉もなく、誰もが呆然とモニターを眺める司令室。
誰かがごくりと息をのんだ音が響く。
そして、次の瞬間、彼らの目がさらに大きく見開かれた。
デッキ内のクルーをすべて殺戮し終えた
突如、虚空に現れる奇怪な黒い染み。
見つめる者達が、あれはいったいなんだと思う中、それは倒れ伏すクルーの死体の上へと滴り落ちた。
するとどうだろう。
外傷はないとはいえ、生態モニターで見る分によれば、先ほどまで明確に死亡し、身動き一つしなかったクルーの遺体がビクンとはねたのだ。
質量保存の法則を無視するかのように、その身体が作業用の薄汚れた宇宙服の中でぶくぶくと膨れ上がり、やがてその銀色の服が内側から弾け飛んだ。
その姿をモニター越しとはいえ目にした彼らは、その身に根付いた根源的な恐怖のままに悲鳴をあげた。
密閉された宇宙服を突き破って、中から現れたのは、まさに暴力という言葉を具現化したような存在。
鋭い棘を生やし、怪しく脈動する赤い光が表面を走る不気味な金属をその身に纏った、7.55フィートはある不気味な巨人。
それが乗員の死体を苗床にして瞬く間に成長し、生み出されたのだ。
更にそれはたった一体にとどまらない。
監視カメラの映像で見る分に、同様の現象が無惨に死体の転がるデッキのあちらこちらで起こっていた。
先と同様、原始的な白兵武器を持った巨人の他に、干からびたような人型や、見ただけで嫌悪さをもよおすような粘液を垂れ流す怪物など、この世の醜怪さを体現したかのごとき悍ましい軍団が瞬く間に出現した。
さらにはそれらより小型の、最初に現れた白い生物にも似た奇妙な姿の生物が大量に、どこからともなくこつ然と現れ、見る見るうちに増殖していく。
やがて、格納デッキにあふれかえったそいつらは、艦内へとなだれ込んだ。
船内のあちらこちらで戦闘が繰り広げられる。
このザラヴァーン級航宙戦艦はいささか旧式とはいえ、大型戦艦である。
およそ、辺境星系をパトロールする巡洋艦を中心とした独立艦隊程度なら一隻で蹴散らせるほどの各種兵装を有するが、それはあくまで艦隊戦での話だ。
艦内に侵入した相手に対しては、船体に装備された21型対艦ミサイルも、上甲板に設置された三連装粒子砲も、命中しさえすればあらゆる艦船を撃破できるQ砲も、そして安藤博士の勘違いの法則を応用した恐るべき威力を誇る超兵器アンドローキャノンでさえも、なんの役にも立たない。
乗り込んで来た敵兵には、白兵戦をもって対処するより他にない。
そこで役に立つのは、デラメーターやプラズマライフルなどの携行式の火機、そして純粋に圧倒的な質量を持つ戦斧などの原始的な武器だ。
そうして艦内で繰り広げられた血みどろの戦い。
実際、その軍団の大部分を構成する、最初に現れた
だが、そいつらはいくら倒しても次から次へと湧いてくる。仲間が倒されてもその屍を踏み越え、死すらも恐れず襲い掛かる。
やがてそのとどまるところを知らず押し寄せる圧力の前に、艦内のクルーたちは一人また一人と押しつぶされていった。
そんな中、司令室で艦内の被害状況を調べ、報告していたクルーは、とある事実に気がついた。
謎の生物の襲撃により大混乱に陥っている艦内。とにかくありとあらゆるところへ溢れ返り、圧倒的なる数の暴力によって、艦内の生きとし生けるものへの殺戮が繰り返されていく中、最初にデッキに現れた
彼らが目指しているその先。
それは、この航宙戦艦ダーステンの中枢。
すなわち、この司令室である。
その事実を報告され、皆に驚愕が走った。
いったいどうやって知りえたのかは分からないが、
戦闘員らに迎撃の指示を出しても、今の艦内は白い小型生物の襲撃によって混乱しており、人員を一カ所に集めて防衛線を構築することなど出来ない。進路上にいる者達をかき集めて反撃させるも、その原初の混沌から現れたような不気味な集団は、近代的な熱線銃やビーム砲などものともせずに襲い掛かり、次から次へと血祭りにあげていく。そして、彼らに殺されたものは再びその二本の足で立ち上がり、彼らの戦列に加わるのだ。
司令室に通じる通路の隔壁を閉じようとも、最初に現れた
突如、艦内に湧いた大波のごとく、進路上のあらゆるものを飲み込みながら、化け物の群れは進撃をつづけた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ふむ。順調だな」
アインズはそう独り言ちた。
彼の周囲では突進するアンデッドの足音がけたたましく響く。艦内は火星の表面とは異なり、ちゃんと与圧され大気があるため、普通に音は聞こえ、いささかうるさく感じられるほどだ。
〈アンデッド創造〉や召喚魔法、そしてアインズによって生み出されたアンデッドたちによるさらなる
地上での遭遇戦の後、小型艇に乗って逃げる宇宙人をアインズは追った。
警戒すべきと判断した相手をそのままにしておくアインズではない。
〈
そして、まんまと母船にたどり着き、誰にも気づかれぬまま、小型艇を収容するために開いた格納デッキへと忍び込んだという訳だ。
そこまでの道のりを魔法で飛びながらも、アインズは考えていた。
何故、先ほど自分が唱えた〈
――アレは、そんなにも強力な存在なのだろうか?
しかし、それにしては自分の〈上位物理無効化Ⅲ〉すら突破できないような攻撃しかしてこなかった。
もしかして、なんらかの特殊な要因で〈
その結論に至っていたアインズは、ひとまず『実験』を行ってみることにした。
先に使用した、遠隔から相手の心臓を握りつぶす〈
これで効けば、ただ単に彼らは〈
もし効かなければ、即死効果全般に対する耐性を持つ、もしくはアインズの魔法に抵抗するほどの効力な魔法抵抗力を保有する生物という事になる。
そして、結果として〈
たった一体だけではサンプルにならぬため、その場にいた他の者達にも〈
そうして、ごくわずかの間に、デッキにいた宇宙人たちは皆ことごとくに死に絶えた。
倒れ伏す死体の山を前にして、アインズは自分の魔法が十二分に効力を発した事に、満足そうに頷いた。
どうしてそうなのか原因は分からぬものの、やはり〈
そして、さらなる『実験』を行った。
この宇宙人たち――異星人と呼ぶべきかもしれない。少なくとも火星人ではなさそうだ――の死体を使って、自分の
これも通常と同様、効果を発揮した。
宇宙人の死体を元にしたアンデッドたちであるから、ちょっとだけ姿形や能力が変化した変わり種が生まれないかと期待したのだがそんなことはなく、生み出されたのはいつもと全く代わり映えのしない
その事にちょっとだけがっかりしたものの、アインズは行動を開始することにした。
ぐるり周囲を見回せば、そこにあるのはまばゆく銀色に輝く金属製の通路や壁、何の数値を表しているのかもしれぬメーターや制御盤、奇妙な文字らしきものが表示されているパネル、様々な機械式のクレーンやアーム、何台も駐機されている小型飛行艇、光り輝く不可思議な機械群。
まさに宇宙船。
まさにSF世界である。
アインズ――鈴木悟の生きたリアル22世紀では、宇宙開発の熱は収まっていた。国家という枠組みはほとんど形骸化しており、国同士の威信をかけた開発競争などすでにない。実際に民衆を支配している企業はと言うと、無駄に、しかも際限なく金のかかる宇宙計画にはどこも二の足を踏んだ。
だが、現実においてはほぼ停止した宇宙開発であるが、電脳空間であるDMMO-RPGの中においては、こういったSF世界での冒険というものは数多くあった。
古典SFを元にした未知なる世界を旅する開拓もの。宇宙戦艦などが登場する壮大なスペースオペラもの。古くはガンダムなどの系列を組むロボットバトルもの――多くは人型ロボットであったが、人型のロボットが気に入らない人のために逆関節などの非人間型ロボットものもあった――など様々な種類のものが取り揃えられており、それらはどれも根強い人気を
ギルメンたちの中にはそういったSFものの他ゲーに手を出している者達もいた。
アインズ自身はユグドラシル一筋であり、そういったものはプレイしたことは無かった。あまり手を広げ過ぎても仕方がないというのもあったが、せっかくユグドラシルでみんなと知り合えたのに、この関係をいったん清算する形で新しい世界に飛び出して、またユグドラシルの時と同じようなコミュニティを作れる自信がなかったからと言ってしまってもいい。
その為、アインズ――鈴木悟はいわゆる中世ファンタジーに関する知識ばかりを頭に収め、それ以外のもの――SFなど――に関しては門外漢のままであった。
そんなSFになど興味は無く、特段、そっち方面への知識も情熱もないアインズであったのであるが、やはりこうして実際に目の当たりしてみると、自分の目が――
たとえ知識がなくとも、こういった科学技術の塊の前に、文明人は心が躍ってしまうのが
アインズの胸の内に、ふつふつと湧いてきたものがある。
それは、この宇宙船の船内を探索したいという思いである。
かつてユグドラシル時代に幾度も挑戦してきた未知なる
この宇宙船の船内はあたかも一個のダンジョンであるかのようであり、また昔のようにダンジョン攻略をしてみたいという欲求が抑えきれなくなっていた。
アインズは一つ頷くと、〈アンデッド創造〉や各種召喚魔法を使用する。
もはや馴染みとなった、いつもの
さらに生み出されたアンデッドたちの中で、さらなる召喚等が出来る者にはその能力の発することの出来る限りの召喚などをさせることにより、ほんのわずかの間にアインズの周りにはアンデッドの軍勢が出現していた。
そして、更にアインズは仕上げとばかりに、とある魔法を唱えた。
第七位階魔法〈
その魔法の効果により、虚空からスケルトンなどの低レベルアンデッドたちがわらわらと、それこそ際限なく、次から次へと湧いて出てくる。
「ふふふ。では、始めようか。異星人の操る宇宙船攻略だ」