ゼウスファミリアと別れてから、俺達は地図に従ってオラリオを目指していた。
「お兄ちゃん、あとどれくらいで着けるかな?」
「まぁあと一週間あれば着くな」
「ホントに!!楽しみだなぁ」
と、ここで皆おなじみのゴブリンさんが現れた。
俺は魔法を使うこともなく、即座にナイフを抜き、ゴブリンを一撃で倒した、が。
「ん?」
なんとニ体目がこちらに向かって走ってきた。
今日のゴブリンさんはやけに好戦的だと思いつつ、一体目と同じようにナイフで倒す。
そしたら三体目がこちらに向かって走ってきたが、その後ろからデカい牛みたいなモンスターが走ってきた。
それも、何十体の大世帯だ。
「いや、待て待て待て………」
「お兄ちゃん!!」
「わかってる!逃げるぞ!」
「うん!」
俺達はデカイ牛から逃走を開始した。
***
どうしようどうしようどうしよう………こいつら全然止まらないんですけど。
すでにゴブリンさんは牛の餌食と化していた。ドンマイ。
てかこいつらスタミナ切れしねえのかよ。バケモンかっ………モンスターだったわ。
「お、お兄ちゃん……ごめん。コマチ、もう、限界!」
やっべ。逃げるのに必死でコマチのこと考えてなかった。コマチは9歳だ。今までの旅についてきてるだけで凄いことを忘れてた。
「コマチ、すまん」
「キャッ!ちょ、ちょっとお兄ちゃん?」テレテレ
俺は今、いわゆるお姫様抱っこでコマチを抱き上げ、再び逃走を開始する。
だが、牛達は異常にしつこい。
俺達がでっかい草原を横断していたこともあり、撒けないのだ。
ならば、圧倒的な速さで振り切るしかない。
「【
俺はを唱え、自身の身体に闇の力を纏う。
これは後に本で知ったが、闇はどの属性よりも速いらしい。
「うおおおおおっっ!!」
俺は脚に力を込め、草原を突き抜けて牛を撒くことに全力を尽くした。
***
「はぁ、はぁ、疲れたー」
俺は牛を振り切るために全速力で草原を駆け抜け、見つけた洞窟の中で息を整えていた。
コマチ?ああ。今そこでぐったりしてる。
思ったより人外な速度で駆けてしまったので、背負っていたコマチには相当な圧力が加わっていたんだろうな。
俺達はその日、その洞窟で過ごした。
なにせ、貰った地図の通りに行っていたところをさっきの牛の群れに襲われたため、現在地がどこなのかわからないのだ。
俺達は簡易テント(商人から買った)を出して、交代で見張り(ほとんど俺)をしながら夜を明かした。
現時点での持ち物
ハチマン
ゴロウの日記、黒竜の一部、簡易テント、本×6、携帯食料、水、服(二着)。
***
一夜開けても、俺らは困っていた。
進路がわからないため、迂闊に移動できないのだ。
昨日の地点に帰れば分かるだろ?なんて言うやつもいるだろうが、生憎俺は牛モンスターの群れから逃げるのに必死でどこをどう進んだのか分からないんだ。
………詰んだな。
「コマチーどうするかー?」
「うーん…………やっぱり少し遠回りになっても村とか探して聞いた方が早い気がするよ。コマチはお兄ちゃんに着いて行くだけだけどねー」
まあ、このまま何もせずにいると食料も尽きるだろうし探すしかないな。
「じゃ、いっちょ探すかね」
「わかった」
と、旅立とうとしたときだった。
ドドドドドドドドドドドッ!!
聞き覚えのある音…………昨日逃げ切った牛モンスターの群れだった。
これはまだ隠れておくべき―――――と思った時だ。
俺は気付いてしまった。
牛達に追われている少女がいることに。
「ッ!コマチ!ちょっとここにいろ!」
「ちょ、お兄ちゃん!?どうしたの!?」
コマチの声に答えず、俺は走り出す。
少女はコマチより幼い。もう飲み込まれる直前だ。
「【
俺は魔法の効力をすべて足に限定し、最大速力で少女めがけて走る。
(ま、間に合えええええええええええええええええええッッ!!)
そして―――――――――
「!!!」
「ギッリギリ!危なかったな」
その少女を抱き上げ、その場を離脱した。
***
俺はその少女を抱え、コマチを置いてきた洞窟へと帰還した。
「えぇ!?お兄ちゃんその子どうしたの?」
「さっきのモンスターの群れに追われてたから助けた」
「なるほどねー」
そして俺は少女を下ろし、事情を聴くことにした。
もちろん聞くのはコマチである。
「大丈夫?」
「はい。助けてくれてありがとうございました」
おおっ、礼儀正しい子だな。
「名前はなんて言うの?」
「アスフィって言います。年は7歳です」
「ちょっと聞きたいんだけど、どうしてこんなところに一人で居たの?」
「えっとですね…………」
この子もうこんな受け答えできんのか。貴族の子とかなのか?
「私。外の世界に興味があって、ちょっと近くにある王国を抜け出してきたんです。そこの王女として生まれてからは毎日毎日作法や上に立つ者としての指導ばっかり…………あきちゃったんです」
「ほへー」
コマチが呆けた顔をしているが今は無視だ。
この子、本物の王女だったよ。ヤベェな。
「それで、こそっと王国を抜け出してきました。あなたたちは…………?」
「…………はっ!え、えっとね、迷宮都市オラリオってところに向かう途中なんだ。あ、私コマチっていうんだ。で、こっちの助けた男が私のお兄ちゃん」
「ハチマンだ」
「ハチマンさんですね。先程は本当にありがとうございました。それで、どうしてこんなところに?」
「それがね…………」
今思ったんだが、この子本当に7歳?
「ってことで道がわからなくて」
「迷ってしまったんですね。わかりました。私、オラリオへの行き方はわかるので教えます」
「マジか。ありがとな」
やったぜ。これでわざわざ村さがししたりする手間が省けた。ラッキーだな。
しかし、一筋縄ではいかなかった。
「そのかわりに………私と一緒にモンスター退治の冒険をしてくださいませんか?」
…………マジですか。
次の次の話でオラリオに着きます。
あと、魔石ドロップの話ですが、八幡の類稀ないセンスにより、親父の日記で知っていた心臓にあたる部分以外のところを魔法でブッ飛ばしているために魔石が落ちると言うことを、ここで補足しておきます。
(完璧に後付け設定です。すいません)