というかVS【闇派閥】ほとんど書いていませんね…………短編集でなんとかします。
その日は雨が降り注いでいた。
一昨日の黒雲が昨日に引き続き、今日もこのオラリオの地を濡らしていく。
だがこの日、地面を濡らしている原因は雨だけでは無かった。
このオラリオにある有力派閥の主要幹部はほとんどがこの地を自身の涙で濡らしていた。
そして、
「………どいて」
「どかん」
「………どいて」
「どかん」
「どいてって!!」
「どかんと言っている!」
「………どうして!?なんで!?」
「…………耐えろ、アイズ。ハチマンはそんなことを望んでいない」
「でもッ!だからって!」
「分かっているッ!!」
「リヴェリア………」
「私だって人間だぞ!アイズと同じように復讐に駆られている!本当は今すぐにだって闇派閥を根絶やしにしたいッ!」
「だったら……」
「だがそれをあの男が望むと思うのか?そんなわけがない。それにまだ、死んだと決まったわけじゃない。私は信じている。奴を………ハチマンを」
「……わかった。私も信じる」
「それでいい」
「そこをどいてくださいガレスさん。邪魔です」
「嫌じゃ」
「邪魔です」
「退くわけにはいかん」
「なら、実力行使です!!」
「やめろ。おぬしでは儂には敵わん」
「ああああああッッ!!」
「暫らく寝むっとれ」
「あぐッ!」
「……コマチはどうしたんだいガレス?」
「フィンか。今すぐにでも出て行こうとして儂にまで飛びかかって来たから、気絶させたったわ」
「そうか。助かったよ。今アイズはリヴェリアが押さえている。あの調子だと大丈夫だろう」
「……儂等のせいじゃな」
「……ああ。そうだ。僕等のせいだ」
「このことは一生夢に見るだろうな」
「……そうだね。一生背負うべき罪だろうね」
「…………フィン」
「……なんだい?」
「儂は誓うぞ。二度と
「…………僕も誓うよ。二度と過ちは繰り返さないと、ね」
彼らの中心人物は消え去ってしまった。
最期にアイズを、皆を守り切って、遠い所へといってしまったのだった。
***
時は約20時間前に遡る。
ハチマンがアスフィと食事をした、約一日と2時間が経った頃だ。
即座に緊急通告がなされ、ギルド側についた有力ファミリアが対応に当たった。
「ギャハハッ!!ざまぁねーな!!……あっが……ガフッ」
「それはお前だ。屑が」
ギルドに【フレイヤ・ファミリア】と【アストレア・ファミリア】など、魔石工房の方に【ロキ・ファミリア】と【ガネーシャ・ファミリア】などが出向き、出現した闇派閥を対処していった。
「ヴァレッタ!まずいぞ!このままでは壊滅する!」
「ちぃ!おい、テメエら!引き上げんぞ!!」
【ロキ・ファミリア】が対処に当たったところでは闇派閥は退却の姿勢を見せていた。
「追うんだ!一匹も逃すな!!」
「「「おう!!」」」
「総員、追撃開始!」
「「「はい!!」」」
【ガネーシャ・ファミリア】団長であるシャクティと【ロキ・ファミリア】団長であるフィンが指示を出し、追撃戦が始まる。
「ちっ!おいクソ勇者ぁ!!見逃してくれよぉ~私らがそんなに好きかぁ!?」
闇派閥の中でも幹部格である【
答えるのはもちろんフィンだ。
「君たちが今までにやってきた残虐行為さえしていなければ、追うことなんてなかったさ」
「ああ!?あれくらいのことを残虐行為とはいわねーよ!」
「そうか………ならば忠告だ。もし本気で逃げたければ、今すぐ前を向いて走ることをお勧めするよ」
「何言ってっ……………てめぇ!」
前に向き直ったヴァレッタが見たのは……瞬殺されていく部下の姿だった。
「……おとなしくしてろ」
「ッ!!全員その場から飛び去れ!」
そこにいたのはもちろんハチマンである。
今まで幾度となく応対してきたヴァレッタは頭で考えるよりも速く飛び去り、部下たちにも声をかけた。
それより一瞬遅く地面より黒い竜が出現するが、多くの【闇派閥】側の人間が飲み込まれていった。
「化物が!」
「そろそろ諦めろよヴァレッタ。てめぇらの負けは変わんねぇんだ。投降しろよ」
「はっ、やなこった。おい、生きてる奴ぁ!作戦失敗だ!一旦退くぞ!!」
「させると思うか?」
ヴァレッタのもとへハチマンが迫る。
しかし、煙幕がまかれ、視界をいきなり失うとなればさしものハチマンでも晴れるまでは下手に動けない。
自身の攻撃では、味方へと当たった場合致命傷になり得るからだ。
そして、晴れた頃には敵の姿はいなくなっていた。
「ちっ、逃がしたか。追うか?」
「いや、ここは一度集まってからこの先の対応を決めよう。闇雲に探しても無駄足を使うだけだからね」
「わかった」
現に追い詰めているのはハチマン達で、向こうもそれはわかっている。こちらから仕掛けて奇襲を食らうなどもっての外だ。
「では、我々は住民の安全と救出に回っていいか?先程家が壊されたりしたとの報告が入った」
シャクティがフィンへと尋ねる。
「ああ。闇派閥の本拠地がどこか分からない以上、どうしようもないからね。構えられていても困るし、何かあったらすぐに連絡するよ」
「そうしてくれ。よしお前ら、各自の任務を果たせ!」
「「「了解!」」」
シャクティ達【ガネーシャ・ファミリア】はそれぞれ街へと向かっていった。
残されたハチマン達は尋問を始める。
「じゃあハチマン。先程捕らえた彼らを出してくれないか?」
「わかった」
そう言った後、ハチマンは地面より先程捕らえた彼らを出した。
もちろん拘束してある。
「さて、君たちに聞きたいことがある。答えてくれるかい?」
「………」
「闇派閥の本拠地はどこにある?」
「………」
「おい、答える口すらねーのかよ」
「………」
「……おいフィン、死んでるぞ。今さっき自殺した感じだな」
「口の中に何かを含んでいたのかな?」
「ああ。これは毒物だな」
「……やはりそう簡単には分かんないか。まあいい。とりあえずギルドへ向かおう。オッタル達が何かを掴んでいるかもしれない」
「わかった」
現在リヴェリア、ガレス、コマチがいる別動隊はロキとともに闇派閥の本拠地候補を一つずつ虱潰しにしており、今ここにいる幹部以上の者はフィンとハチマンのみ。
そのためハチマンがある程度の補佐を行っている。
「総員!今からギルドへと向かう!何かあったらすぐに報告してくれ!」
「「「はい!!」」」
【ロキ・ファミリア】の本体はギルドへと向かった。
***
彼らがギルドに着いたのと、ギルドより慌てた様子の受付嬢が出てきたのはほぼ同時だった。
「あ!【ロキ・ファミリア】ですね!?【勇者】フィン・ディムナさんはおられますか!?」
「僕に何かあるのかい?」
もの凄く慌てた様子の受付嬢は叫ぶように報告してきた。
「現在!27階層にて闇派閥による階層主をも巻き込んだ大規模な
「……報告ありがとう。ラウル!」
「は、はいっす!」
「君は今すぐ【ガネーシャ・ファミリア】のシャクティに報告し、合流するように伝えるんだ」
「は、はいっす!!」
「ハチマン。君には【フレイヤ・ファミリア】を連れてきて欲しい。君以上の適人はいない」
ラウルは一目散に駆けて行ったが、ハチマンは動こうとせず、真っ直ぐにフィンを見つめていた。
「……切り捨てるつもりか?」
「……敵の狙いは僕達をダンジョンへと潜らせることにあると思う。さっきの報告があそこまで具体的だったのは敵が情報を流したからだろう」
「……それで?」
「相手側の守りが薄くなっていると考えるべきだ。それに、今から27階層へ行くには時間がかかり過ぎる。それなら無理にでも本拠地を探し出して神々を天界送りにする方が早い」
「……そうだな。わかったよ」
「なら【フレイヤ・ファミリア】のところへ行ってきてくれ。時間が惜しい」
「……一つだけ我儘いいか」
「……救援に行くのかい?」
「ああ。知っていると思うが、俺なら一瞬でショートカットは可能だ」
「……許可するよ。君に限って死ぬわけがないからね」
「当たり前だ。皆を残しては死ねないからな」
「……まかせた」
「ああ」
これが今のハチマンとは最後の会話になるとは知らずに、フィンは走って行くハチマンを見送るのだった。
***
「オッタル!」
「誰かと思えばお前か。何の用だ?」
「【フレイヤ・ファミリア】全勢力をギルドへと向けろ。今すぐにだ」
「何故だ」
「詳しいことはフィンに聞け!俺にはしなければならないことがある」
「………はぁ、わかった。フレイヤ様には俺から伝えておこう」
「助かる」
【フレイヤ・ファミリア】へと通達し、ハチマンは引き続きバベルへと急ぐ。
その途中で、別動隊と出会った。
「リヴェリア!ガレス!」
「ハチマン?」
「どうしたんじゃ?そんなに慌てて」
「今すぐギルドに向かってくれ!フィンが待っている。総攻撃をするらしい」
「では共に行くか」
「悪い、俺は今から救援に行かなきゃならねぇんだ」
「まさか先程の闇派閥の男が言っていた27階層の!?」
「ああ。適任が俺しかいないからな。ちょっくら救ってくる」
「お兄ちゃん!」
「コマチ………」
「私も連れてって!出来るでしょう?!」
「コマチを危険な目には会わせたくない」
「それをいうならお兄ちゃんが一番危険なんだよ!?」
コマチは何かを感じたのだ。目の前にいる兄が、消えてしまいそうな気がして。
「大丈夫だ」
「えっ?」
ハチマンはコマチに近づいていき、そして抱きしめた。
「俺は必ず、お前のもとに帰る。約束だ」
「………絶対だよ」
「ああ」
そうしたあとハチマンは別動隊と別れ、バベルへと急いだ。
この時、絶対的な信頼を寄せる彼がまさかの事態に陥るなど、さしもの【勇者】でもこの時は想像もできなかったのだった………。
続く。