ちなみに今の四季は春です。
ガレスとダンジョン探索に行ったその少し後のこと。
俺はいつも通りに朝起き、いつも通りに外壁の上を走り、いつものように朝食を作って食べ終わった後、今日も今日でダンジョンへ行こうと自室に戻り、装備を取りに行こうとしたとき、ガレスに声をかけられた。
「ハチマン、ちょっといいか」
「ん?どしたガレス?」
「今日はどうする予定なんじゃ?」
「ダンジョンに潜ろうと思ってるけど………」
「・・・ここのところ毎日のようにダンジョンに行っておるようだが飽きはせんのか?」
「もちろん。倒した分だけ強くなれるし、新たな発見もあるし」
「・・・そうか」
ガレスは少し思いこむように顎に手を当てている。
ん?俺なんかおかしなこと言ったんだろうか。
まあ身に覚えがないがここ半年くらいのことを思い出してみるとしよう。
オラリオに到着
↓
ロキ・ファミリアに入る
↓
『レイ』と出会う
↓
コマチと俺が死にかける
↓
強くなると誓う
↓
リクと出会う
↓
コマチとデート
↓
ガレスとフィンに稽古をつけてもらい、リヴェリアに魔法の制御と勉強を教わり始める
↓
ミノタウロス(×5)を倒し、ランクアップ
↓
闇王子という二つ名を付けられる
↓
ガレスやフィンと下層へと行く
↓
さて今日もダンジョンに行こうかなー←今ココ。
………ふむ。こう思い返してみるとオラリオに来てから色々あったんだなぁと思う。歳も13になったし、Lvも一つ上がって2である。
この半年だけでも、中々に濃い生活を送ってきたのではないだろうか。
正直な話これだけ見ると、特に問題があるようには見受けられない。濃いオラリオ生活であることには違いないだろうが。
「儂が言っておるのはオーバーワーク過ぎないか?ということだ」
俺が思い浮かべたこのことをガレスに話すと、ガレスはこう返してきた。
’’オーバーワーク’’
すなわち無茶をしているということだろうか。
俺としては無理なことはしていないし、オーバーワークと言われる程長い時間ダンジョンには潜っていない。大抵が7~9時間ぐらいだから普通なはずだ。
「オーバーワークじゃねーよ。少なくとも俺としては無理はしてないし、休む時は休むって」
「それをいうのはもう十五回目だな」
「・・・・・・」
「さすがにそろそろ休息期間を作って生活に取り入れろ。ランクアップしてからダンジョンに潜らない日なんて無かったじゃろう?」
「……わかった。でも、今日までは行かせてくれ。もう少しで良い感じに「それは昨日も言ったな」・・・・はい」
そう、ガレスがここまで言う理由はこれである。
俺は毎日のようにダンジョンへと足を運び、下層付近でモンスターを狩りつくし、色々な鉱石や資源を採取してはリクのところへ持って行き使えるものをあげ、使わないものと魔石を売ってヴァリスを稼ぎ、最近知った西メインストリートの裏路地にある喫茶店で一杯の甘いコーヒーとやらを飲んで黄昏の館に帰ってきて飯食って就寝・・・・という生活リズムを送っていた。
この行動をフィンやガレス、リヴェリアに話すと休息を取れ。という命令が下ったのだ。
だが、俺は窓から抜け出したり、私服を着て黄昏の館を出てから剣一本で上層を無双するという行為を繰り返していたのだが、尽くそれが発覚。ついには顔を合わせるたびに口酸っぱく言われるようになってしまった。
今回もそれから逃れるために少し粘ったが・・・・。
するとガレスが口を開いた。
「それにこれ以上言うこと聞かんのならコマチとロキにお前を街に連れ出してもらうぞ」
「それだけは勘弁してください!」
俺は即効で遥遠くにある東国の島国に伝わるとされる必殺技、DOGEZAをした。
このDOGEZAという行為は人間の尊厳を地に堕とす行為でもあると本に書いてあったが、そんなこと知ったこっちゃあない。ないったらない。
正直コマチとロキにオラリオの街を連れまわされるorDOGEZAと言われたら間違いなく即効でドゲザだろう。
なにせ前に二人と出かけた時なんか酷かったからな。やれこれが欲しい、あれが欲しいだの言っては俺に払わせ、さらには俺を着せ替え人形の如くに服を試着させるという一日男にとっては苦痛のフルコースを味わったのだ。あれはもう勘弁してほしい。
「じゃあ今日から一週間はダンジョンに潜るでないぞ。鍛錬も禁止じゃ」
「鍛錬もか~!?なら朝の走り込みだけは許してくれ。それだけでいいから!」
「まぁ、朝ぐらいならよいじゃろう」
「おっし」
走り込みだけはなんとか認めてもらえたようだ。
その後ガレスと別れた俺は自室へと戻り、防具を脱いでベットに倒れ込んだ。
時刻はまだ9時頃。一日は始まったばかりであるが、今日は自室でゆっくり過ごそうと思う。
久しぶりのダンジョンに行かない日なのだから、羽を伸ばそう。
「おし、せっかくだからこの際に買いだめした本読むとするか!」
こうして俺は本の世界へと飛び立った。
***
さて、一週間のダンジョン探索、及び鍛錬禁止の期間の半分が立った頃。
俺は今、コマチと街を散策していた。
「そう言えばこうしてコマチと二人で居るのは久しぶりだねお兄ちゃん」
「確かにな。俺は毎日ダンジョン潜ってたし」
「コマチも最低二日に一回は潜ってた。もちろんパーティでだけどね。最高到達階層は11階層!」
「結構潜ったんだな。リヴェリアの話によればLv.1の5人パーティだと12階層までは行けるらしいぞ。あと少しで辿り着くな」
「だね。だけどお兄ちゃんはソロで下層でしょ?本当におかしいんだね。どっか壊れてるの?」
「酷い言い草だな。まあ俺もリヴェリアに話を聞けば聞くほど俺ってどこかおかしいのか?って思うから間違いじゃなんだろうが・・・・」
壊れてないよね?大丈夫だよね?
そう心の中で思わず呟いてしまったが、コマチが「大丈夫」と言い、
「もしも、お兄ちゃんがおかしくなっても、コマチはずっと傍にいてあげるからね」
「ありがとな」ナデナデ
「あ、い、いきなりはダメだよお兄ちゃん………///」
「おっと、すまん」
いかんいかん。ずっと傍にいてあげるからねって言ったときのコマチが可愛くてついつい撫でてしまった。無意識だった。
はっ!これが本で読んだ、天使という存在なのだろうか。
「そ、そういう不意打ちはズルいよ………///」ボソボソ
……………妹が可愛い。物凄く可愛い。
しかもぼそぼそとやたら小さい声で呟いているが俺には筒抜けである。
しかし、俺は聞こえないふりをするのだ。
「ん?なんか言ったか?」
「うんうん、なんでもない。あ!あそこの服屋さん入ろうよ!」
「あー待て待て引っ張るなって」
その後、服屋→料理店→家具屋に雑貨屋と色々な店をコマチと二人で回った。
冒険者稼業はひとまず休んで、休日を満喫したと思える日となった。
たまにはこんな日も悪くはないなぁと、俺は心から思ったのだった。
***
コマチSide
はーい。皆さんお久しぶりですコマチでーす。
今週はお兄ちゃんが珍しくダンジョンにも行かず、普段の稽古、自主鍛錬すらしない期間だったので、もちろんお兄ちゃんを誘ってオラリオの街を歩き回りました。
7日間の内3日間はお兄ちゃんと一緒に過ごしました。2日間は街を歩き、最後の1日はお兄ちゃんの部屋で一緒に読書をしたり、お昼寝をしたりしました。とても気持ち良かったです。
・・・・それ以外の日?それ以外の日はもちろんダンジョンに潜ってました。まだまだコマチは弱いから、今は少しでも多くモンスターを倒してステータスを上げていかなきゃいけないんです。どっかのとてつもない才能を持って、努力をして、前代未聞の期間でランクアップしたどっかがこわれてそうなお兄ちゃんなんて知りません。
知らないったら知らないんです。
とりあえずお兄ちゃんのナデナデは最高だって言いたかっただけなんです!
***
「ふふふ………」
暗闇の中に一人の女神はいた。
迷宮都市オラリオ内において、中心であり最も高い塔であるバベル最上階のVIPルーム。
そこは【フレイヤ・ファミリア】の本拠地でもある。
【フレイヤ・ファミリア】は【ロキ・ファミリア】と並び、現派閥最強のファミリアであり、第一級や第二級の冒険者が数々いる。
そんな【フレイヤ・ファミリア】の主神である美の女神フレイヤには現在、執着している
「近頃接触してみようかしら・・・・ハチマン・ヒキガヤに」
ふふふ………っと、銀髪の美しき女神は静かに微笑むのだった。
次回予告
フレイヤ様のターン!
そう言えばいつの間にかお気に入り登録数が1000近くなっていてびっくりしました。ありがとうございます。