やはり俺たちのオラリオ生活はまちがっている。   作:シェイド

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今回はリクとの絡み回です。




ダンジョン③

俺がLv.2になってからすでに三週間が経とうとしていた。

 

今日はダンジョンに行かず、武器の調整をするためにリクのところを訪れていた。

 

「しっかしハチとの付き合いも6ヶ月になるのかー。月日が流れるのも早いもんだな」

「確かにな。俺はもうLv.2になったし」

「あっという間に抜かされちまったな」

「いやいや、お前はダンジョンに潜るのが本業じゃないだろ?」

「そうだけどよ。俺の方が先にオラリオに来てたんだからさ、後輩に抜かれた気持ちでいっぱいだよ」

「じゃあランクアップしに行こうぜ」

「そんな簡単にできるもんじゃないだろ?」

「インファントドラゴン倒せばいいだろ」

「そんな簡単に言うなよな………」

 

リクの言うことはもっともである。

インファントドラゴンはLv.1の冒険者からしたらまさに壁というべき存在だ。

上層の階層主とも呼ばれているのはLv.1数人、さらにLv.2でも一人で挑めば苦戦するモンスターなのだ。

事実、インファントドラゴンに殺された冒険者も多い。

 

「それにあれだろ。インファントドラゴンって言ったら希少モンスターだろ。そうそう会えるもんじゃないだろうし………」

「そこについては大丈夫だ。俺はインファントドラゴンが多く出る、というかインファントドラゴンしかいない場所を知っている」

「……さすが闇王子(ダークプリンス)。なんでも知ってるな!」

「おいやめろ。それ言われると恥ずかしいんだぞ」

「知ってて言ってるから」

「なおさら悪意あるじゃねーか!」

 

闇王子(ダークプリンス)という二つ名を神々に付けられてからというもの、この一週間、多くの同業者や神々に話しかけられたりちょっかいかけられたりしたもんだ。

しかも夜に一人で路地を歩いていたら闇討ちされたし。

もちろん返り討ちにしたけどな。

 

「話を戻すが、前にヘファイストス様に聞いたところ、鍛冶師はLv.2になるときに手に入る発展アビリティ《鍛冶》があってようやく一人前扱いされるんだろ?」

「ああそうだ」

「ならランクアップしたいのが普通なんじゃないのか?」

「そりゃしたいけど………最近俺は他の鍛冶師にダンジョンに連れて行ってもらえてないんだ」

「………まさかボッチだったとはな、すまん。配慮が足りなかったな」

「ボッチじゃねーよ!………お前がLv.2に上がって有名になったからうとまれてんだよ」

「あ、そっか。俺とリクが直接契約を結んでるからか」

「そういうことだ」

 

まあつまりは、リクの周りの鍛冶師たちは直接契約を結んでいる奴がおらず、俺と直接契約を結んでいるリクが羨ましいんだろう。上級鍛冶師のほとんどは直接契約を結んだ冒険者がいるって言うし。

 

「でもなんで最近になってなんだ?もっと前から契約結んでたよな?」

「それはお前がLv.1だったからだ。Lv.2になると第三級冒険者ってカテゴリーに含まれるだろ。それにダンジョンでの行動範囲も広がるし、手に入る資源も増えるから羨ましがる連中が出てくるんだよ」

「なるほどなー」

「だからって一人でダンジョンは危険だろうし………」

「じゃあ俺と一緒に行くか」

「マジで?」

「うんマジ」

 

 

***

 

 

てなわけでやってきました11階層。

現在俺とリクは正規ルートより西の食糧庫を目指している。

 

「それにしてもお前の作った太刀は良い切れ味だよな」

「そう言ってくれるのは嬉しいんだが………俺はお前の戦闘を見て驚きを隠せねえよ」

「そうか?」

 

ハチマンは基本一人でダンジョンに潜る。さらには食糧庫を見つけてモンスターを倒したり、同業者がいない時間帯を狙って潜ったりするため、ほとんど戦闘の様子を知られてはいない。

リクは今日、初めてハチマンの戦闘シーンを見たが、絶句してしまったのだ。

 

「ああそうだ。まだビビってんだ。お前強すぎるだろ」

「いやいや、フィンとかリヴェリアとかガレスとかの方が強いっての」

「そりゃあお前んとこの第一級冒険者と比べたら劣るだろうけど、思わず見惚れちまうくらいには極められた剣さばきだぞ」

「………そりゃありがとな。けどまだ足りないんだ」

「足りない?」

「ああ。俺はまだアイツを使いこなせる技量に達していないしな」

「アイツって・・・お前がヘファイストス様に貰ったっていう人格の宿った剣か?」

「そうそう。アイツあんなに軽い性格してるのに持ってる力は強大だからな」

「そ、そうか」

 

そんな会話をしていると目的のインファントドラゴンが屯している食糧庫に辿り着いた。

 

「ここか・・・?」

「そうここ。ここの中インファントしかいねえからな」

「マジかよ」

「とりあえず中を見てみようぜ」

 

俺とリクは食糧庫のルームを覗いてみる。

 

インファントドラゴンが・・・・なんかたくさんいた。

 

「おいおいおいおい!多すぎるだろ。ざっと10体はいるだろこれ!」

「いつもより多いくらいだろ」

「なんでそんなに落ち着いてるんだよ!」

「いやまあ、見とけって。とにかく俺が1体まで数を減らすから、それを倒せ」

「………わかった。俺も腹括る」

「おう。頑張れ」

 

 

***

 

 

ハチマンが一人で食糧庫に入っていく。

もちろんのこと、インファントドラゴン達はハチマンに気付き、我先にと攻撃を仕掛けてきた。

5体くらいが炎のブレスを吐き、残りが走ってくるのが見える。

 

「ハチっ!・・・」

 

俺が思わず声を上げるのと、ハチが飛んだのは同じタイミングだった。

飛ぶことでインファントドラゴン達の攻撃をかわす。

さらにハチは全身に黒いもやを纏い、俺の作った太刀にもそれを纏わせていた。

それを目前にせまる炎のブレスに向け上から下に斬り裂く。

それだけで、炎のブレスが真っ二つに分かれた。

 

『ガァ!?』

 

インファントの方も驚きをあらわにしている。

その瞬間、ハチがインファントドラゴンに肉薄した。

 

わずか一撃で、インファントドラゴンが真っ二つになる。

 

 

「………すっげ」

 

俺の口から出た言葉はそれに尽きた。

ハチはその後もインファントドラゴン9体を相手に圧倒した。

圧倒的な速さに、圧倒的な剣捌き。それをさらに手助けする魔法。

 

まさにその姿は闇王子と呼ぶに相応しい。

 

「終わったぞ」

 

気付いたらハチが戻ってきていた。

 

「……お疲れ様」

「とりあえず1体だけピンピンした奴残してるから」

「お、おう。わかった。行ってくる」

「見守っててやるよ。流石に死にそうだったら助けるわ」

「……いや、いいよ」

「……わかった」

 

ハチに見送られながら俺はインファントドラゴンと対峙する。

 

改めてインファントドラゴンを見てみると、凄く大きかった。しかも全身黒いし。

そしてインファントと俺の眼があった時、俺は漠然とした恐怖を全身に感じた。

 

でも、やるしか道はない!

 

「うおおおお!!」

 

俺は自分で作り、持ってきた斧を振りかぶって、佇んでいるインファントドラゴンへと急襲する。

力を最大限振り絞り、斧を振るう。

インファントドラゴンは虚をつかれたのか、反応が遅れて片方の翼を斬ることに成功した。

俺は勢い余って地面に落ちる。

 

「ぐっ」

 

なんとか姿勢を整えて、無事に地上に降りることに成功した。

インファントの方は少し体を揺すっていたが、あまりダメージはないようだ。

すると今度はインファントドラゴンが攻撃を仕掛ける………!

 

『ゴアアッ!』

 

口から炎のブレスを吐いてきた。

 

「くっそ!」

 

俺は避けるので精いっぱい。反撃に近寄ることが出来ない。

なんとか近寄りたいところだが、炎のブレスを身に受けてしまう。

 

「(どうする!?)」

 

このままいけば平行線だ。ただひたすらにこちらの体力が削られていく。長期戦は不利だ。

 

そんなことを考えていたせいで、近くまで迫っていたインファントドラゴンに気付くのが遅れた。

 

「しまっ……!」

 

俺はインファントドラゴンに端の壁まで吹っ飛ばされた。

 

「ガハッ!」

 

身体の至る所から血が出ており、口から血を吐き出す。

 

「(強ぇ………)」

 

これが上層の階層主、インファントドラゴン。

圧倒的な攻撃力。炎のブレスによる遠距離攻撃に、突進による近距離攻撃。どちらも強力なものだ。食らえばひとたまりもない。

 

だが…………。

 

「俺は・・・負けるわけにはいかないんだ」

 

ここでハチに頼ればすぐにこの痛みからも解放される。

この恐怖からも解放されることだろう。

 

だが、それではダメなのだ。

 

「俺はハチとともに上を目指したいんだ!!」

 

気持ちだけで立ち上がる。

足はすでに感覚がない。視界もあまり定まらない。

それでも、気持ちだけは失わない。失ってはいけない。

 

「そのためにまず、お前を倒していく」

 

すでに斧はない。あるのは自身の肉体のみ。

インファントドラゴンは翼を一翼失っているためバランスをとることに集中している

ならば………。

 

「うおおおおおおおおおッッ!!」

 

拳で勝負!

リクは走った。インファントドラゴン目掛けて。ただ真っ直ぐに。

もちろんインファントドラゴンもなにもしないわけがない。

炎のブレスを放ってくる。

だが今のリクには関係ない。

 

「うおおおおおおおおッッ!!」

 

気合と気迫と根性で炎のブレスに自ら飛び込む。

 

「熱い。熱い!さすがだ。だけど俺の熱に比べたら低いもんだ!!」

 

リクは火傷を負うことも気にならないとばかりに炎のブレスを進んでいく。

インファントドラゴンに心があったならこう思っているはずだ。

 

―――――何故、何故そこまでに死力を振り絞れる!?アホか?アホなのか!?

 

しかし、今のリクにはどんな炎も生ぬるい。

なにせ、彼自身が一番熱き炎なのだから。

 

「うらあああああああああああああああああああああああああああッッ!!」

 

リクの拳が、インファントドラゴンに炸裂した。

 

後に残ったのは地に伏したリクと、魔石を落とし、灰になったインファントドラゴンだけだった。

 

 

***

 

 

「はあ、はあ。やって、やったぜ……」

「凄かったぞリク。俺まで心の芯が熱くなる戦闘だった」

「疲れたー!!」

「お疲れ。ほら、これ使え」

「サンキュー」

 

リクはハチマンの差し出したポーションを飲み干して続ける。

 

「これでLv.2になれたのか?」

「なれるだろ。あんだけの冒険をしたんだ。偉業に数えられるはずだぞ」

「………よし、じゃあ俺はヘファイストス様のところに行かなくちゃな。戻ろうぜ」

「おう」

 

 

***

 

 

さて、地上に戻ってきました。

空気がおいしい。新鮮だ。

 

「よし、早速ヘファイストス様のとこ行くぞ」

「俺もついてくよ」

 

 

ってことでバベルのヘファイストス様のお店にやって参りました。

 

「あら?ハチマン君どうしたの?え?今日はリクも一緒にダンジョンに行って・・・・わかったわ。ステイタス、更新しましょう」

 

ヘファイストス様を見つけて今日のことを話し、早速ステイタス更新を行う。

そして………

 

「おめでとうリク。あなたは今日からLv.2よ」

「いよっしゃぁ!!」

「良かったな」

 

この日、新たな上級鍛冶師が誕生したのだった。

 

 




次はコマチ回ですね。

追記:インファントドラゴンって空飛びませんね。短編集の方と同じく修正しました。

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