やはり俺たちのオラリオ生活はまちがっている。   作:シェイド

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前の話のフィン視点での話です。


評価と好機

ハチマンとコマチがダンジョンに潜っていたその頃。

 

【ロキファミリア】のホーム、黄昏の館内のフィンの執務室にはフィン、ガレス、リヴェリア、ロキが集まっていた。

主神と主要幹部で今後のファミリアの方針を話し合うのだ。

 

「まずはゼウスとヘラんとこの動向次第やな」

「そうだね。彼らが帰ってきてからじゃないと決められないこともあるしね」

「だがすでに三大冒険者依頼(クエスト)である内の二つ・・・陸の王者(ヘビーモス)海の覇王(リヴァイアサン)を討伐してしまっているからのう。これで隻眼の竜まで討伐してきたら完全に全世界の英雄となってしまうぞ」

「仕方がないだろう。かのファミリアは我々とはレベルが違う」

 

彼らが話していることは今後の情勢の話である。

 

すでに【ゼウスファミリア】と【ヘラファミリア】は三大冒険者依頼の内、陸の王者(ヘビーモス)海の覇王(リヴァイアサン)を討伐している。

残る一つ……隻眼の竜の討伐まで成し遂げてしまったら世界は完全に【ゼウスファミリア】と【ヘラファミリア】を英雄と称えるだろう。

当然、【ロキファミリア】や他の【ファミリア】からすれば面白くないことだ。

特に団長である【勇者(ブレイバー)】フィン・ディムナにとっては、小人族の再興のために英雄となる野望があるため、とても困ることだった。

 

「と言っても……僕たちは彼らが戻ってくるまで何もできないんだけどね」

 

そう、すべては彼らが帰ってきてからの話なのだ。

 

「話は変わるが……リヴェリア。お前が面倒みとるハチマンとコマチはどんな感じなんじゃ?」

「期待の新人に決まっている。コマチは覚えが早いし、すくすくと育っている……ハチマンは言うまでもないだろう?」

「そうじゃな。一回手合わせをしてみたが……そうとうやるぞ、あれは」

 

彼らの話は最近入団したハチマンとコマチの話題に移っていく。

 

「僕も手合わせしたんだけどね……」

「なんかあったんか?」

「いや。ただ途中から手加減出来なくなってしまっただけだよ」

「……ほう」

 

世界の中心と称されるオラリオの中でも第一級冒険者に該当するフィンがそこまで言ったことに周囲は少なからず驚いた。

彼がここまで言うことは少ないからだ。

 

「儂の時もそうだったな。やはり親から技術を受け継いでおった。立ち回り方も受け身の取り方、勘の働きも……とてもLv.1とは思えんかったわ」

「そうだね。攻撃も防御もかなり出来上がっていたよ」

「魔法に関して言っても文句なしだ。魔力も並のLv.3と同等だろう。あれは数年後には必ず化けるぞ」

「なーんか皆楽しそうやなぁ」

「ん?なんか言ったかい、ロキ」

「なんでもないで」

 

ロキが呟くが、三人には聞こえていないようだ。

 

「(ま、わかるんやけどな。ハチマンは神視点で考えても数年に一度の逸材レベルやしなぁ)」

 

ロキでさえもハチマンの今後を楽しみにしているようだ。

 

「(しっかし他の神に目ぇつけられそうで心配やな。特にアイツ……フレイヤがいつ手を出してくるか……)」

 

すでにフレイヤとハチマンが会っているとは露知らず、心配しているロキであった。

 

 

***

 

 

時刻はすでに夕刻。執務室ではフィンが一人で事務仕事をしていた。

 

「よし、これで今日は終わりかな」

 

今日の分の仕事を終え、一息つくフィンのもとに来訪者が訪れた。

 

「フィンさん!大変なんです!コマチが、コマチが!」

 

なんと来たのはハチマンである。

彼は腕にコマチを抱えており、そのコマチは全身血だらけで今にも息絶えそうだった。

 

「・・・わかった。ひとまず落ち着いてくれ、ハチマン」

 

そう言ってフィンは自身が所持していた回復薬をすべてコマチにぶっかけた。

 

「すまないが誰か団員を呼んできてくれ。僕は応急処置をしておく」

「わかった!」

 

そう言ってハチマンは執務室を飛び出していった。

 

「さて、まずは状態確認だね」

 

全身血だらけのコマチだが・・・半分くらいは返り血だった。

 

「・・・ぅ、あ・・・・・」

「僕がわかるかい?コマチ」

「え・・・・ぇっと、フィン、さん?」

「そうだよ。今君のためにハチマンが動いてくれているからもうちょっと頑張ってね」

「は、い・・・・・」

 

コマチは意識を失ったみたいだった。

フィンは執務室を出る。

廊下を見ればハチマンがある団員を連れてきていた。

 

「団長!どうなんですか!?」

「まだ間に合う。君は今から万能薬(エリクサー)を買ってきてくれ。早急にだ」

「はい!」

「ハチマンはコマチに付き添ってやって。僕より君の方がコマチのそばにいた方がいいだろう」

「はい!」

 

コマチ!っと声を上げながら執務室に入っていくハチマンと、大急ぎで万能薬を買いに行っている男性団員を見送った後、フィンはロキの部屋へと向かった。

 

コンコン

 

「どうしたんやフィン。さっきからなんか騒がしいんやけど……」

「さっきハチマンとコマチがダンジョンから帰ってきてね……ハチマンは無傷だったけどコマチが全身血だらけだった」

「コマチは大丈夫なんやろうな?」

「もちろん。と言っても今は意識を失っているけどね。万能薬さえ使えば回復すると思うよ」

「そっか。なら安心やな」

 

そう言ってロキはふぅ~と息を吐いた。それほど心配になったのだろう。

 

「で、フィンはこのことを報告しに来ただけか?」

「……ハチマンが少し心配なんだ」

「ハチマンが?」

「ああ。さっき僕の部屋に飛び込んできたハチマンの目が赤黒かったんだ」

「目がか?」

「そう。まるで僕が『ヘル・フィネガス』を使ったときに眼が赤く染まるのと同じような、ね」

「ハチマンのステイタス更新してみよか」

「頼むよ」

 

 

その後、男性団員が買ってきた万能薬によってコマチは一命を取り留め、コマチは二日間の絶対安静が言い渡された。

 

「良かった。コマチは無事だったのだな」

「ずいぶん心配してたんだねリヴェリア?」

「もちろんだ。コマチに死なれたら悲しいだろう?」

「そうだね」

 

ファミリア内で死亡者が出た時と言ったら・・・その雰囲気と言ったら最悪だ。

 

「だ、団長~!!」

「……今度はなんだろうね」

 

今日は色々ある日だと思いながらフィンは団員の報告を聞く。

 

「どうしたんだい?」

「た、たった今【ゼウスファミリア】と【ヘラファミリア】が……」

「隻眼の竜を討伐したのかい?」

 

思っていたより早かったと思うフィンだったが………。

 

「隻眼の竜に敗北!各ファミリアの主力が全滅したとのことです!!」

 

それは【ロキファミリア】、フィン自身にとってチャンスとなる報告だった。

 

「(チャンスが巡ってきたね)」

 

密かに決意を固めるフィンであった。

 


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