オリジナルです
その瞬間だった。
「やめろ」
冷たく、しかしそれは幼い子供の声。
青禄の動きがピタリと止まった。
「...もう少しだったのですよ?なぜあなたは邪魔をするのです」
何かを引きずる音が近づいてくる。その音と同時にまた子供の声がする。
「お前こそ、私の主を毎回毎回殺して...私が起きるのがもう少し遅かったらどうしてくれるんだ」
青禄が振り向くと、そこには白い髪をサイドテールにして、白いブラウスに紺のスカートをベルトで止めた中学生ほどの少女が立っていた。その右手には一間より少し長めの鎌を持っており、桜色の瞳には明らかな殺意が浮いていた。
「手加減はしたみたいだが、やり方がちぃと残酷すぎたな」
ゴキンと少女の首がなった。音に合わせて桜色の瞳が青禄と同じ紅赤に変わる。白髪も艶のある赤色へと変わる。
「随分長く寝ていたからな、力加減ができるか...」
吐き捨てるように言い、右手の鎌を軽々と振り回した。その度にバギ、ゴギ、と関節がなる。その様子を見て青禄が姿勢を低くする。
「まさか、私のことを殺そうなんて、考えていませんよね?」
少女はピタリと動きを止め、一度考えるような仕草を見せたが、顔を上げ、可愛らしい笑顔で答えた。
「...お前が悪い」
ぐん、と床が沈むと同時に少女の影が一瞬にして青禄の目の前に現れる。
「っ!」
火の明かりが返される鎌が青禄めがけて下ろされる。ガゴンと大きな音と相応しい衝撃に、奏の体が揺すられる。灰煙が辺りに舞い煙幕に包まれたようになる。
手応えのない鎌を抜き上げ、肩に担ぎ、少女はポツリと呟いた。
「...逃がしたか」
そこで影が動いた。
少女の背後の煙を切り裂いて現れたのは、頭蓋骨ほどの掌。青禄のそれだ。その鉤爪が喉笛を切りさこうとヒュンと風音を立てて振り下ろされる。しかし、煙幕の晴れた先には少女の姿も奏の姿すらなく、そこにあるのは血海のみ。
「どこに...」
言葉を遮ったのは肉切り包丁で骨を断つような音。
「!!」
「...甘いんだよ、若造」
その正体は青禄の背後に回り込んだ少女の鎌だった。
煙が晴れたそこには黒く焦げた本棚や床、壁の一部。火はいつの間にか消され、代わりに水浸しになっている。そこに佇む青禄のすぐ後ろには、切り落とされたトカゲのような尾が落ちていた。
「...な、なんてことをっ!」
青禄がバランスを崩し膝を折り座り込んだ。少女を睨めつけるが、その体は小刻みに震えて、額には脂汗が滲んでいた。少女はその小さくなった獣を嘲笑うように見下した。
「お前が反撃なんてしてくるのが悪い。少し手を滑らしただけだ。第一、最初に仕掛けたのは子の氏、お前だよ」
「だから、だからといって、尾を切るなんて、惨すぎる!」
「...惨い?」
いつの間にか白く滲み出した赤い髪を揺らし、少女はまだ魚のように動く尾を鎌で突き刺した。鎌を刺すたびにザクリという音が響き、その度に青禄の顔が青くなる。そして青禄も人の姿に戻り始めていた。
少女は何度も鎌を振り下ろし、そして軽く笑った。
「...こうしてお前の尾が刻まれることが惨いというのなら、主の肝を引っ張り出されるのは惨くないのか?」
青禄は、はっとして顔を上げる。
「血涙を流し、化け物が化け物を殺そうとすることは、無抵抗な人を殺すことより惨いというのか!?」
押し黙る青禄に白髪を翻し背を向け、図書室だった部屋の奥に進む。その先には、正反対の方向にあったはずの奏の体が横たわっていた。
「私がお前の尾をわざわざ切り落としたのは、お前を殺さないようにするためだ。...子の氏は、尾に神経が通っていないのだろう?確かに、体幹は失くすかもしれないが...それでも、内蔵を抉るより残酷か?」
「...」
奏の横に屈みこみ、少女の小さな手が彼女の腹部にそっと触れる。
「...可哀想に。遅れて、申し訳ありません、主...」
少女の手のひらから淡い光が溢れだしてきた。
ちゃんと、今日も投稿しました。
前回もっと生々しくしてもいいと思ったのですけど、あまりドロドロなのは厭らしいと思ったのでやめときました。
明日も頑張ります!
誤字脱字報告はご遠慮無く。